往年の名コンソールを元に設計された2chチューブ・ヘッド・アンプ

UNIVERSAL AUDIO 2-610

REVIEW by 手塚貴博(I・DE・A SOUND) 2001年8月1日

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UREI 1176や TELETRONIX LA-2Aの復刻モデル、さらにはプラグイン・ツールなど話題性のある機材を発表しているUNIVERSAL AUDIOが2-610を発売した。2-610は2ch仕様の真空管式ヘッド・アンプで、同社のModel610というコンソール、その中でも1960年に現在のオーシャン・ウェイ・スタジオに導入されたバージョンが本機のモデルとなっているそうだ。UNIVERSAL AUDIOについては皆さんご存じのようにもはや説明などいらないくらい有名なレコーディング機材を数多く輩出しているメーカーであり、近年の1176LN等の復刻シリーズも好評ということで、今回の2-610ヘッド・アンプも非常に期待が高まる。

使いやすさを重視した
シンプル設計の2chヘッド・アンプ

まず本機の外観から、その機能を見ていきたいと思う。ヘッド・アンプというだけあって特に余計なものは付いていないシンプルな設計だが、必要な機能はきちんと押さえているという印象を受けた。具体的に見てみよう。本機は2Uサイズで、フロント・パネルには5dBステップの入力ゲイン・コントロールつまみ、マイク/ライン/Hi-Zインプットをセレクトするインプット・セレクト・セクション、イン・フェイズとアウト・フェイズ(インで2番ホット、アウトで3番ホット)を切り替えるフェイズ・セレクト、ハイ/ローのEQの周波数帯をセレクトするスイッチ(ハイは7.5/10/4.5kHz、ローは100/200/70Hz)と各ブースト/カットつまみ、そしてアウトプット・レベル、Hi-Z用フォーン・ジャックで成り立っており、以上の構成が2ch分横並びに用意されている。さらに中央には+48Vファンタム電源のオン/オフ・スイッチが2ch分と、電源スイッチを装備している。個人的にはアウトプット・レベルつまみが大きいのが使い勝手の面でもルックスの面でも非常に気に入った。リア・パネル側は、マイク/ラインの各インプット、そしてライン・アウトがXLR端子で2ch分あるのみというシンプルな構成。これだけの機能を備えていればヘッド・アンプとしては十分だし、使いやすさという意味でもよく考えられた設計だと思う。ただし、本機にはメーター類が付いていないので、アウトプットやピーク・レベルなどをヘッド・アンプ側で確認することが多いユーザーは多少不自由を感じるかもしれない。しかし本機の後段に接続する機材(コンプレッサーやレコーダー等)のメーターによってある程度リカバリーすることはできるだろう。

実際のレコーディングを通じて
パートごとに音質チェック

次はいよいよ本機の具体的な使い方を含め、肝心の音質部分をチェックしていきたい。ヘッド・アンプということで、チェック方法としては実際に楽器や歌をレコーディングするのが一番と考え、今回はミュージシャンをスタジオに呼び、なるべく実際のレコーディング現場と同じ状況でチェックできる環境を作った。そして通常のレコーディング進行のプロセスにのっとって2-610をヘッド・アンプとして曲をレコーディングしたので、楽器ごとにそのインプレッションを報告していこう。ちなみに今回チェックに使用したI・DE・Aスタジオにはビンテージものを含むコンディションの良い機材が豊富にそろっているので、その中から普段現場で使われているヘッド・アンプ(TELEFUNKEN V76、NEVE 1078、FOCUSRITE ISA-115HDなど)と比較しながら本機のチェックを進めることにした。もちろん比較の際には、ゲインの設定などはなるべく同一にして、セッティングによる差が出ないような環境作りに努めている。チェックに当たってのレコーディング作業は、ドラム(打ち込み)、ベース、エレキギター、アコースティック・ギター、ボーカルの順で行った。

初めにドラムの打ち込みものは2-610のライン・インに直接入力した。他のヘッド・アンプと比較すると2-610は倍音成分がよく伸び、立体感というか奥行感が出て、パワー感も増した印象を受けた。チューブ機材の良いところが出たという感じがして、いきなりの好印象だ。

次にベースはHi-Zインにダイレクト入力。2-610の大きな特徴の1つとして、Hi-Zとマイク入力では入力インピーダンスの切り替えができるという点が挙げられるが(これにより電気的なロスを最小限にとどめることができる)、今回使用したベースがアクティブ・ピックアップ型であったため入力インピーダンスは47KΩを選択した。なお、パッシブ・ピックアップのベースを使うなら2.2MΩを選ぶと良いだろう。肝心の音の方はと言うと、個人的にはこのHi-Zインプット・セクションが最も感動的と言えるほどの良い結果が得られたと感じる。好みや相性もあると思うが、感触としてはまるでアナログ・テレコに通したような音で、レンジ的にもとてもよくまとまっており、ベースのおいしいポイントがうまく引き出されていると思った。そして全体的にぐっと一歩前に音が押し出されるような感じも受けた。今回はベースでしかHi-Z入力を試せなかったが、ギターなど他のライン楽器でもきっと良い結果が得られると思う(そうであってほしい!)。

さらにギターのダビングに移る。いよいよここからはマイク入力での使用となる。マイクはエレキギターのアンプにSHURE SM57、アコギにはAKG C414EBをセレクトした。ギターに関してもまず印象に残るのは、ドラムやベース同様、音の距離感がすごく近いということだ。そして倍音成分もよく伸び、それでいて決してヒステリックではない。中域および低域についても豊かに表現されている。こちらも好印象だ。

最後にボーカルはNEUMANN M49bを使って録音したのだが、これもこれまでのチェックとほとんど同じ印象が得られた。M49bはチューブ・マイクということもあり、2-610との相性も抜群だと感じた。また個人的な見解としては、ギターもそうだったが、特にボーカルに関して、2-610は今回比較チェックに使用したTELEFUNKEN V76にキャラクターが似ているという印象を受けた。もちろん同じチューブ・ヘッド・アンプという特性上の共通点もあるのだろうが、V76は個人的に非常に気に入っているヘッド・アンプなので、この結果は喜ばしく思う。

入力側のゲイン設定と
アウトプット・ボリュームの関係

ここで本機のゲイン設定とアウトプット・ボリュームの関係について多少触れておきたい。本機の取扱説明書にはアウトプット・ボリュームを目盛の7〜10くらいに設定し、それに対してのゲイン設定を行うのがノーマルな使い方と書かれている。それはそれでもちろん正しいが、使用用途によってその設定を変えても良いだろう。私の感想を書いておくと、ゲインを上げめに設定しておいてその分アウトプット・ボリュームを絞ってセッティングすると、当然のことながら(特に本機は真空管機器なので)倍音成分を一段と得ることができ、音が一歩前に出てくる効果が得られる。言い方を換えると、とても生々しい音になるということだ。倍音成分が増えるということは、実際にはそれだけ歪んでいることにもなると思うが、本機の場合はその歪み具合が非常にナチュラルなので全く問題はない。もちろんゲインを上げ過ぎると、聴いていてすぐ分かるようなディストーションになってしまうので、そうなる一歩手前の段階のゲイン設定をぜひ一度試していただきたいと思う。その歪むギリギリのセッティングで得られる音こそ、チューブ・ヘッド・アンプである本機の醍醐味の1つだと私は思う。

また、Hi-Z端子のところで前述した入力インピーダンス切り替えがマイク入力にも装備されており、ここも設定に当たってのポイントの1つになるだろう。2-610のマイク入力のインピーダンス・セレクトは500Ωと2kΩの2種類が用意されている。説明書によるとマイクのアウトプット・インピーダンスが150〜200Ωなら本機側のインピーダンスを2kΩにセッティングすると良いと書いてある程度で、2種類のインピーダンス切り替えについて具体的な情報もないままにチェックに突入した。結果としては、使用するマイク種類やメーカーなどによっても異なる場合があるため一概に違いを言及するわけにはいかないが、厳密に聴き比べてみると音質については500Ωと2kΩとで若干の差が出ることは確認することができた。今回のチェックのために実際にレコーディングした曲でも、パートごとに一度それぞれの聴き比べを行い、自分が良いと感じたインピーダンスをセレクトするようにした。割とすぐに合う方合わない方が分かるので、実際に本機を使用する際は必ず一度それぞれを聴き比べることをお薦めする。その時々のマイクの種類や求めるサウンドによってセッティングは変化すると思う。その際、当然ながら500Ωと2kΩではレベル差が発生するので、そこは注意が必要だ。

ちなみに先日、I・DE・AスタジオにUNIVERSAL AUDIO本社よりポール・ライス氏が来訪された。これはチャンスだと思い、早速懸案のマイク入力のインピーダンス・セレクトについて質問したところ、熱心にいろいろ説明していただけた。氏の最終的な結論としても、やはり500Ω/2kΩのどちらをセレクトしても間違いではなく、双方のインピーダンスで聴き比べを行い、良いと思った方を選べば良いとのことだった。

ナチュラルに微調整が可能な
2バンドEQセクション

ヘッド・アンプとしての性能は以上だが、最後にEQについても触れておこう。2-610のEQセクションはハイとローの2バンド構成で、それぞれ3つの周波数ポイントから1つずつをセレクトでき、それをブースト/カットできる構成になっている。実際使ってみた印象としてはチューブEQらしいゆるやかなQカーブを持っていて、音色全体のニュアンスを微妙に明るくしたり膨らませたりといった方向性に向いていると感じた。EQしたことによる変なピーク成分が出にくいのも本機の良い点だ。逆を言えば、そういったEQの特性に加え2バンドということも考え合わせると、選んだ周波数ポイントを極端にブースト/カットして音色を細かく作り込むような作業には不向きであるとも言えるだろう。

またミックス・ダウンの際に、レコーディング済みの素材に対してもっと存在感を出したいときや音色を太くしたいときなどに、一度アッテネーター等でレベルを下げ、再びヘッド・アンプを通す手法は有効だとは思うが、そんなときも2-610は大活躍すると思う。私は今回、ボーカル素材で試したが、一段と音が生々しく艶やかになり、強いオケに対しても負けない存在感を得ることができた。その他にも例えばヒップホップ系などの曲で強いリズム・セクションが必要となってくる場合にも前述の手法を使うと有効だろう。

今回2-610をチェックしてみて、最近”真空管製品”という銘打った機材が増え続ける中、久々に腰の入った真空管機材が出現したという印象を受けた。本機を製作するに当たってモデルとなった610コンソールについては、残念ながら私は直接触れたことがないのでどの程度再現されているのかは予測がつかない。しかし、褒め過ぎかもしれないが、有名な機材には必ずその機材にしか出せない音というものが存在するもので、2-610には既にその独自性が備わっていると思えるほどの力量は感じられた。プロフェッショナル・オーディオ界では50〜60万円するヘッド・アンプも普通にリリースされている中、本機はそれらの価格帯の製品にも負けないほどの機能と音質を保っており、コスト・パフォーマンスの高さは十分なものだと思う。またHDRシステムを使用して自宅でボーカルやギターをダビングする際も本機のようなチューブ機材はうってつけだろう。どんなマイクでも相性良く機能すると思うので、コンシューマー向けマイクにも十分な威力を発揮するはずだ。さらに前述のHi-Zインプットも自宅で力強い武器になるに違いない。全体的に褒め過ぎのレポートになってしまったが、2-610はそれだけ自分の印象に残るヘッド・アンプだった。一度試してみる価値は大いにあると思う。

▲2-610の内部回路。真空管は各チャンネルごとに12AX7Aと6072Aが使用されている

UNIVERSAL AUDIO

2-610

298,000円
※表示している価格はニュース掲載時点のものです。また税込/税抜についてはメーカーの表示したものに準じて記載しています。

【SPECIFICATIONS】

SPECIFICATIONS

■入出力端子/マイク・イン(XLR)、バランス・ライン・イン(XLR)、アンバランス・ライン・イン(Hi-Z/フォーン)、バランス・ライン・アウト(XLR)
■マイク入力インピーダンス/500Ω/2kΩ
■ライン入力インピーダンス/13.8kΩ
■Hi-Z入力インピーダンス/2.2MΩ/47kΩ
■最大マイク入力レベル/+3.5dBu
■最大出力レベル/+20dBu
■内部出力インピーダンス/60Ω
■周波数特性/20Hz〜20kHz(±1dB)
■最大ゲイン/61dB
■SN比/82dB以上
■真空管/12AX7A×1、6072A×1(チャンネルごとに搭載)
■電源/115V/230V
■外形寸法/482(W)×340(D)×88(H)mm
■重量/5.3kg

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