あらゆる種類のEQ、コンプを複製するレプリケーター

SINTEFEX FX8000

REVIEW by 伊藤圭一(KIM Studio) 2000年7月1日

20000701-03-001

南青山にKIM Studioを設立してから、既に10数年が経った。その間にプロデュースしたアーティストは相当な数になる。本物のアーティストだけを厳選してきたつもりだ。一方で業界全体を見渡すと、他人のモノマネやコピーが基本で、独創的な発想のない、スキルのない凡人を無理矢理アーティストにでっち上げてはいないだろうか? そうして生まれた偽アーティストを目標にする予備軍もやがて偽物になり、イカサマが世の中に溢れる。それはアーティスト自身よりも、そうした作品を広めるレコード会社や音楽出版社などの制作者側のモラルが問題だ。

さてこの製品は、既存のエフェクターを完全コピーしようとするエフェクターだ。法に違反していない限り、これは非常に有り難い製品だ。何しろ今となっては入手困難なエフェクターを再現してくれるのだから……。エフェクターは音楽制作の道具に過ぎない。出来上がる音楽には独創性が欲しいけれども、手段や道具はそれにこだわらない。要は成果が肝心なのだ。

“レプリカを作る”という
新しい着想の機材

“SINTEFEX”……この耳慣れないメーカーは、プロ・オーディオ界ではなじみの薄いポルトガルのメーカーだ。それ故か、米英の機器に慣れたわれわれには、表示上の用語やオペレーションでも少々違和感を感じる部分もあるのだが、とにかく発想が新しい。違和感も慣れの問題だろう。まず”Replicator”と名付けられた考え方が新鮮だ。従来のエフェクターは、コンプやEQなどといったカテゴリーに分類できるか、もしくはその複合型であった。しかし本機は、何と他のエフェクターの音を調べて、それと同じ音を複製してしまおうという画期的なマシンなのだ。名前の由来は”レプリカを作るモノ”なのだろう。本機のI/Oを他のエフェクターのそれと互いにつなぎ(ループを作り)テストさせると、本機が学習し、同じエフェクトを実現してくれるのだ。レプリカを作れるのは現時点ではEQとコンプだけだが、今後のバージョン・アップによっては、ディレイやリバーブも可能かもしれないと思うと、非常に期待してしまう。これ1台で何台分ものエフェクター、しかも高価なビンテージ・エフェクターのサウンドが作れるとしたら、140万円は安いかもしれない!?

もっとも完全に真似てくれるわけではない。例えば自分でEQをコピーした場合、ある設定における音色を再現してくれるだけであって、パラメーターまでも再現することはない。すなわち、再現されたEQをさらに変更することはできないことになる。しかしながらメーカーが既に作ってくれているプログラムは、それも可能になっている。

一方コンプレッサーの場合は、レシオを変えてそれぞれテストさせることで、変化させることもできる。メーカーが供給してくれたプログラムに、UREI 1176のシミュレーション・プログラムが用意されていたのだが、本物と比較しても結構イイ線だと感じた。むしろ本物よりもロー・ノイズであることや、デジタルI/Oを持っていること、ピーク・メーターが備わっていること、ステレオ・リンクが容易であること、さらに設定をストアできること等を考えると、現代においては本物よりも使いやすいとさえ感じるのは、私だけではないはずだ。他にもDOLBYのコンプレッサーやPULTECのEQなど、入手が難しい古い機器や、高価な機器も再現されている。私がテストしたモデルはテスト・モデルなためかすべてを試すことはできなかったが、素性の良さが感じられ、期待ができた。

ノブが現れる液晶パネルや
真空管を繊細に再現するプロセス機能

メーカーによって再現されたプログラムは、液晶パネル上に本物のようなノブが現れ、カーソル・キーで選択してエンコーダーで回すことができる。アナログ機器や真空管のエフェクターをデジタル・コントロールする感覚が、新しくて面白い。しかもスペックも最先端の、24ビット/96kHz(44.1、48kHz等も可能)だから、その対比が著しい。自分で作ったレプリカのEQは可変できないとは言え、特定のボーカリストやアナウンサーの固有のEQを瞬時に呼び出せるとしたら、現場で非常に重宝するに違いない。

基本的な構成として、文字通りレプリカを作る、Replicatorプロセス以外に、イコライザー、コンプレッサー、アフター・エフェクトの4つのセクションで成り立っている。アフター・エフェクトとは、現時点ではディレイなどを指している。これらは順番を入れ替えることも可能だ。ただし、3つ以上を同時に使用すると内部処理ができないようで、3つ目をオンにしようとすると、何かを消すようにアラートが表示される。また、プログラムによっては、何にでもなれるわけで、オリジナルのEQとコンプレッサーから、マイクロフォンのサウンドをシミュレートしたものまで多彩だ。

興味深いのは、真空管を用いた機器を再現するために、プロセスというコントロール・セクションがあり、ドライブをコントロールするとノンリニア歪みを再現できるように設計されている点だ。従来のアナログ機器と最新のデジタル機器の違いは、こうした点が大きいと考えられてはいるものの、ここまで直接的に取り込んでくれた製品はなかった気がする。このような概略の製品が、ホワイト艶消しのパネルに収まっているのは、何にでも化けることを暗示するためになのか……と思うのは考え過ぎだろうか。メーカーとしてもまだまだ白紙の感が否めないが、今後が楽しみなメ−カーであることは確かだ。

8チャンネルまで拡張可能
応用範囲の広いデジタルI/O部

ここでリア・パネルに目を向けてみよう。AD/DAやデジタルI/Oは1枚のカード・スロットに2チャンネル分ずつ、最大4枚で8チャンネル分まで拡張することが可能になっている。コネクターはスペースの問題もあったのだろうか、専用コネクターから変換するようになっているが、使用上は何ら問題がない。S/P DIFやADATオプティカル入出力をはじめ、ワード・クロック入力やMIDI入出力、さらにインストゥルメント入力もあり、楽器を直接インプットすることも可能となっている完璧さだ。また、2チャンネルを超える拡張機の場合は、それぞれのカード間での信号のやりとりや、ミックスも可能なようだ(テスト機は2チャンネル仕様だったので詳細は不明)。

ほかにも際だった部分を上げてみよう。例えば、本体にハード・ディスクが内蔵されている点。コンピューターやサンプラーであれば当然だが、2U程度のエフェクターに内蔵された例はあまり見かけない。これにより、メモリーやソフトウェアの容量を気にせずに済み、設計がかなり自由になるはずで、今後の拡張性の期待がさらに高まる。なお、単なる用語の問題ではあるが、”プログラム”がメーカー・プリセットで、”プリセット”がユーザー・メモリーなので注意が必要だ。それらのメモリー・エリアの容量はハード・ディスクを積んでいるだけあって大きく、共に8バンク×128と十分だ。ただし、ハード・ディスクとファンの音が少々うるさいのはいただけない。

ピーク・メーターが少し見にくいが、I/Oを8チャンネルに拡張したとき、すべてのチャンネルを1度に監視できるメリットは大きい。また、EQやCompと表示されたスイッチは、それらを呼び出したりオン/オフしたりするためのものだが、短く押すとオン/オフ、長く押し続けると液晶パネルに表示が現れるというオペレーションなのには少々戸惑った。分かっていても間違えてしまう。

Web上からダウンロードした
WAVファイルでアップデートが可能

新しいソフトウェアは、インターネット経由でダウンロードすることが可能なので、今後のソフトに期待が持てる。今回使用したテスト機のソフトウェアのバージョンは1.0だったが、Web上では既にバージョン1.1がアップされていたし、新しいEQやコンプレッサーのデータもアップロードされており、無償でダウンロードが可能となっていた。

アップデート方法は、ダウンロードしたデータがWAVファイルになっており、オーディオ信号としてデジタル・インプットに入力し呼び込ませるという、これも近年珍しい方式だ。この方式だとメモリー・カードのスロットやディスク・ドライブを本体に備える必要がないため、コスト・ダウンや汎用性の点でも悪くないだろう。

考えてみれば、各メーカーは他社の製品の特性を本機のような装置でテストし、自社の製品開発に応用していた(コピーしていた)わけで、それをそのまま製品化したとも言えるだろう。この発想の転換が気に入った。リバーブにしてもインパルス応答をサンプリングし、それを再現させるプログラムを作るのだから、同じような考えた方だ(もっともリバーブは、EQ等に比べ、演算がかなり複雑だろうが……)。

まさに原石の輝きを思わせるエフェクターであり、これからファクトリー・プログラムが充実され、磨かれたときの輝きが楽しみだ。豊富なプログラムが用意されたとき、最強の道具になるに違いない。同時にソフトウェアにひたむきさを感じさせるメーカーだ。手慣れたメーカーにない新鮮さを保ち続けてほしい。また、こうした価格帯の製品を暖かく支援するユーザーも、必要なのではないだろうか? 廉価な機材で、安易な音楽ばかりを作らないで、本物を作ろうではありませんか。

▲真空管が浮かびあがるスタート・アップ画面

▲液晶パネル上に現れたノブはエンコーダーで回せる

SINTEFEX

FX8000

1,400,000円
※表示している価格はニュース掲載時点のものです。また税込/税抜についてはメーカーの表示したものに準じて記載しています。

【SPECIFICATIONS】

SPECIFICATIONS

■デジタル入力/S/P DIF(コアキシャル)、ADAT(オプティカル)
■アナログ入力/フォーン
■デジタル出力/S/P DIF(コアキシャル)、ADAT(オプティカル)
■アナログ出力/RCAピン
■サンプリング出力(アナログ・パルス信号)/XLR、フォーン
■2chペア入出力拡張ボード部/D-subバランスマルチコネクター(デジタル:AESバランス入出力、アナログ:バランス入出力)、アンバランス・アナログ入出力(RCAピン)
■そのほかの入出力/AES Reference IN(XLR)、MIDI(IN/OUT)、USB、WORD CLOCK IN(75Ω BNC)
■サンプリング周波数/44.1/48/96kHz
■信号処理/A/D:24ビット/30〜96kHz、D/A:24ビット/96kHz
■電源/AC115/230V
■外形寸法/482(W)×89(H)×380(D)mm
■重量/6.12Kg

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