音質と機能がさらに充実したアナログ・ミキサーの真打ち登場

MACKIE. 1642-VLZ Pro

REVIEW by 高井康生(Ahh! Folly Jet) 2000年7月1日

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冒頭から私事で恐縮ですが、最近何年ぶりかで自宅システムのリニューアルを検討しておりまして、日を追うごとに増えていく本や機材に浸食されて今や劣悪とも言える住宅環境とともに、わが家のミキサーもそろそろ10年選手となりつつあり、フェーダーのグリス感と反比例して増えてきたガリや接触不良等の理由から、メイン・コンソールのダウン・サイジング、ついでに音質向上をテーマに本誌広告ページを物色していると、やっぱり気になっちゃうのがMACKIE.の製品。特にこの1642-VLZ Proは”欲しい物リスト”の首位独走状態だったのですが、システム・リニューアルの全体予算からすると少々アシの出るお値段なんですね、これが(泣)。マジで悩みまくっていたのですが、そこに飛び込んできたのが今回のレビュー依頼。決定的に欲しくなっちゃったらどうしよう?という軽い恐怖と、チェックして良くなかったらあきらめられる、という後ろ向きな期待が交錯する多分に私情を含んだレビューですが、筆者と同じような立場の読者もいらっしゃるだろうと勝手に決め込んで、失礼いたします。

入力セクションがフロントに移り
シールドの取り回しがすっきりと

まずは同社の先行同位機種である1604-VLZ Proとの相違点を中心にチェックしていくことにしましょう。筐体のサイズはほぼ同じですが、1604-VLZ Proがやや横長なシェイプだったのに対して1642-VLZ Proは縦長なデザインになっています。これは、以前はリア・パネルにあったインプットやインサート端子、テープ IN/OUT(この端子のみRCAピン・ジャック)から成る入力セクションがフロントへ移行したことによるもの。インプット関係はフロント、アウトプット関係はリアと、はっきりと分けられたことでシールドの取り回しがより理解しやすく、すっきりとなった印象を持ちました。このパネル・デザインの移行に伴う幾つかの変更点が挙げられます。まずはリア・パネルのアウトプット関係から見ていくと、主にMTRのインプットに信号を送ることなどに使用されるSub Outは4から8に増え、逆にエフェクターやモニター・アンプに信号を送るAux Sendは6から4に縮小されています。また、メイン・アウトにキャノン端子(XLR端子)が追加されたことで、メイン・アンプへのバランス・アウトが可能になり、外来ノイズの干渉をより受けにくくなりました。さらなるノイズ対策として、VLZ Proシリーズでは電波干渉防止機能を組み込んだDCパルス・トランスフォーマーを採用しているのも見逃せません。これにより空気中に飛び交っている携帯電話やトラック無線などの強力な電波から信号を守れるだけでなく、ケーブル等のグレードの差から起きるインピーダンス不良といった問題からもユーザーを解放してくれます。

続いてインプット関係ですが、1604-VLZ Proが16チャンネルすべてにXLRインプットとインサート端子が装備されていたのに対し、本機ではXLRインプットは10、インサート端子は8に縮小されています(フォーン・インプットはもちろん16チャンネル)。ただし、これはそもそも本機と1604-VLZ Proの最大の相違点に呼応したもので、決してスペック・ダウンではありません。1604-VLZ Proと1642-VLZ Proの最大の相違点、それは1604-VLZ Proが16本(メイン/バス・フェーダーを除く)のモノラル・フェーダーを持った16チャンネルMic/Lineの4バス・ミキサーだったのに対し、本機は12本のフェーダーを持った8チャンネルMic/Line+4Stereo Lineの4バス・ミキサーだというところなのです。

詳しく説明すると、チャンネル1〜8までがモノラル、9〜16までがそれぞれ隣接するステレオ・フェーダーになっていて、例えば9+10のステレオ・フェーダーは、フォーン端子のラインINが2系統あり、XLR端子のマイクINが1系統(11+12も同様)、13+14、15+16はフォーンのラインINが2系統、XLR INは省略、という構成になっています。このレイアウトからは、1〜12チャンネルまでは楽器等の入力を立ち上げておき、13+14と15+16にはそれぞれエフェクターからの返りの信号を立ち上げておくという使い方が真っ先に浮かびますが、まあその辺は使う人次第でしょう。この辺りの変更から、1604-VLZ Proが比較的ストレートな設計だったのに対して、1642-VLZ Proはステレオ・フェーダーの採用や不必要なXLR入力の省略、エフェクト用チャンネルの設置など、ライン関係の取り扱いを重視した感があり、自宅録音やプリプロ・スタジオなどの小規模なプロダクションに、より合理的に特化させたような印象を受けました。

新たに開発された超ロー・ノイズ
高品質マイク・プリアンプの威力

本機にはVLZ Proシリーズの最大のウリである新開発プレミアム・マイク・プリアンプXDR(Extended Dynamic Range)が8系統搭載されています。噂には聞いていたのですが、いやぁ歪みませんねぇ。ヘッドルームが広い(資料ではゲイン・レンジは0〜60dBで、+22dBuまでの入力を取り扱い可能)のは昔からMACKIE.の特徴でしたが、感覚的には入れても入れてもなかなかレッドがつかないという感じ。その代わりクリップが点灯した途端に歪み出す辺りは、今まで使ってきた卓とはやや感覚が違うのですが、慣れてしまえばMACKIE.の方がより正確で使いやすいであろうことは容易に想像できます。要するに、レッドがつかないようにするだけで、適正レベルが得られるというわけですね。

S/Nの良さも録音スタジオのサブミキサーとして十分使用に耐え得るレベルでしょう。頑張って買ったコンデンサー・マイクの真の力を引き出してくれるプリアンプとでも言いましょうか。またトリム・セクションにあるLow Cutスイッチは75Hz以下の低域を18dB/オクターブでカットしてくれる機能で、ちょっと前まではこの価格帯のミキサーには付いていなかった気がします。これを使えばマイク録音時の低域処理がビギナーでも容易に行えるだけでなく、本機をPAミキサーとして使用する際にもハウリング対策の強い味方になってくれそうです。

チャンネル別に用意された2種類の
イコライザーは効きもバッチリ!

次はAuxのセンドやEQ、アウトプット・セクションの使い勝手をチェックしてみましょう。各チャンネルにはそれぞれ4系統のAux Sendツマミと、Send1と2のツマミに立ち上がった信号の分岐点を変更するPreスイッチがあり、インプットからEQ手前までの信号の分配をコントロールできます。エフェクトのウェット/ドライを頻繁に切り替えて聴きたいときなどに重宝するこのスイッチは、アイディア次第でいろいろ面白い使い方ができそうな、作り手の自由度を広げてくれるスイッチだと思います。

EQセクションは、1〜8までのモノ・チャンネルには80HzでLowシェルビング、100Hz〜8kHzでMidピーキング、12kHzでHiシェルビングの”3Band Mid Sweep”タイプが、また9〜16のステレオ・チャンネルには80HzでLowシェルビング、800HzでLow Midピーキング、3kHzでHi Midピーキング、12kHzでHiシェルビングの”4Band Fixed-Frequency”タイプという2種類が用意されていて、それぞれ15dBのブースト/カットが可能です。効きもバッチリで過不足無しという感じ。この辺りのチョイスも非常に現実的で、いきなり4バンドのパラメトリックEQが装備されていても、本機の購買層であろうビギナー〜中級クラスのユーザーには、かえって混乱を招くことになりかねないし、定価も上がってしまう。かといって今どき3バンドの周波数固定タイプでは力不足……そんなユーザーの使い勝手とフトコロ具合のバランスをうまく取った良心的な設計と言えます。何たって、チャンネルが限定されているとはいえ、1台で2タイプのEQを楽しめる辺り、お買い得感すら漂ってきます。

タッチが固くトルク感も抜群
頼もしいフェーダーの操作性

フェーダーのストロークに関しては、長尺のフェーダーに慣れたプロのエンジニアの方は少々窮屈に感じるかもしれませんが、こちとら宅録歴が長いもんで全然問題ありませんね。トルク感もバッチリで、指定した場所に辛抱強くとどまっていてくれます。多少乱暴なミキシング作業で、誤って手が当たってもフェーダーの位置が簡単に変わってしまうことはなく、この辺りも好印象です。これはほかのすべてのフェーダーやツマミにも言えることですが、タッチが固くしっかりしているところは頼もしく感じるポイントです。ただ筆者のように手動で派手にパンニングしたい、なんて人にはPanツマミの大きさ、Low EQツマミとの距離、タッチがやや固過ぎる点などが気になりますが、その辺のワガママは訓練と使い込み次第で解消されるでしょう。全体的な操作性に関しても、従来の小型卓上ミキサーの設計をベースに細かいところまで非常によく考えられたインターフェース・デザインで、ちょっとでもこの手の卓をいじった経験のある人なら説明書を読まなくても、サクサク使えそうです。

全体的な音の印象としては、明るくて抜けが良く、芯のしっかりした”まさにMACKIE.”と言えるUSAサウンドを聴かせてくれます。好みにもよりますが、メリハリのある音楽、例えばダンス・ミュージックやロックなんかを鳴らすと気持ち良く作業できそうです。一方で超ワイド・レンジ&ロー・ノイズ設計のマイク・プリアンプにより、小音量で繊細な録音にも威力を発揮してくれるでしょう。細かいことですが、Phoneジャックが2系統用意されているのもポイント高いですね。使用範囲が相当広い1台なんじゃないでしょうか。ビギナーのメイン・コンソールからレコーディング・スタジオのサブミキサー、キーボーディストのライブ時のステージ・ミキサーとしてなどなど、非常に広範囲にわたって活躍してくれるでしょう。130dBものワイドなダイナミック・レンジは、Pro Toolsなど24ビットのデジタル環境にも十分対応しています。

ヤバイ。予想通りこれは相当欲しくなってしまいました。久しぶりに編集部に返送したくない1台。以上、本当は自分で読みたかったホメ殺しレポートでした。

MACKIE.

1642-VLZ Pro

148,000円
※表示している価格はニュース掲載時点のものです。また税込/税抜についてはメーカーの表示したものに準じて記載しています。

【SPECIFICATIONS】

SPECIFICATIONS

■周波数特性/20Hz〜60kHz(+0dB/−1dB)、20Hz〜100kHz(0dB/−3dB)
■全高調波歪率/0.0007%以下(1kHz@14dBu、20Hz〜20kHz)
■イコライザー/チャンネル1〜8:High(シェルビング・タイプ、±15dB@12kHz)、Mid(ピーキング・タイプ、±15dB、スウィープ100Hz〜8kHz)、Low(シェルビング・タイプ、±15dB@80Hz)、ローカット・フィルター(−3dB@75Hz、18dB/オクターブ)、チャンネル9〜16:High(シェルビング・タイプ、±15dB@12kHz)、Hi Mid(ピーキング・タイプ、±15dB@3kHz)、Low Mid(ピーキング・タイプ、±15dB@800Hz)、Low(ピーキング・タイプ、±15dB@80Hz)、ローカット・フィルター(チャンネル9〜12のみ、@75Hz、18dB/オクターブ)
■最大入力レベル/+22dBu
■最大出力レベル/+28dBu(メイン)、+22dBu(メイン以外)
■外形寸法:439(W)×138(H)×422(D)mm
■重量:8.3kg

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