基本設計に優れ汎用性のあるコンパクト・アナログ・ミキサー

ALLEN&HEATH WZ14:4:2+

REVIEW by 鎮西正憲 2000年6月1日

AH-WZ14:4:2+main

DSPの処理高速化により、サンプリング周波数、量子化ビット数の向上、そして何よりも製造コストの減少によって、今やデジタル機器は加速的にシェアを広げています。特にパーソナル・ユース向けのデジタル・ミキサーなどは、数年前に比べ非常にリーズナブルな価格で手に入れることができますし、スペックも驚異的です。これは音楽制作者にとって、制作コストや時間の節約にもなります。おまけにアンドゥー機能、編集機能が優れているため、創造の実現の可能性も大幅に向上しました。しかし、その分無駄に時間を費やしてしまい、それらのスペックが逆にデメリットに見えるセッションも少なからずあるようです。また、フル・デジタル・プロセッシングによる利点であるはずのセッションのフル・リコール機能や機器のコンパクト化が、逆に弊害になっているとも思われ、パラメーターの操作やディスプレイの呼び出しなど、オン・デマンド的なところはアナログのものに一歩譲ってしまう結果となっているようです。音質的にはアナログに肉迫してきたのだから、今後は人間工学的な部分の改良を望みたいところです。前置きが長くなりましたが、今回はフル・アナログ・ミキサー、ALLEN&HEATH WZ14:4:2+についてレポートします。

設備性や可搬性に優れ
プロ仕様としての機能も充実

このミキサーは、コンパクト、低コストながらもプロ仕様としてとても機能が充実しています。まず、外観上大きく目に付くのが19インチ・ラック・マウント・タイプであることです。フロント・パネルの裏側にあるコネクター・パネルは別体になっており、ネジを2本外すだけで本体に対して垂直に折れ曲がり、デスクトップ・タイプになるという、ユニークな構造です。重量は10kgと比較的軽量なので、設置性や可搬性にも優れています。

大まかな概要としては、10モノ・インプット、2ステレオ・インプットの計14チャンネル・インプット、4グループ+LRアウトになっています。LRアウトは、ステレオ・フェーダーではなく独立していますので、6グループ・アウトとしても使えます。また、モノ・アウトプットも備えているので、ソロ・モニター用の回線に使ったり、EQを経由してサブウーファーを接続することもできます。オペレーションでは、100mmのロング・ストローク・フェーダー、4バンドEQ、6AUXセンド、4ステレオAUXリターン、トークバック、カセットやDATレコーダーを接続するための外部2トラック・センド/リターン、サイン波のほか、ピンク・ノイズを発生するオシレーターを装備しています。

さて、ここまで見てくると、どうやらこのWZ14:4:2+は、レコーディングよりもPAでの使用に重点が置かれている製品のようです。MTRモニター機能も無いので、マルチトラック・レコーディング作業にはちょっと苦しいかもしれません。とは言え、スペックは完全にプロ仕様で基本性能は高いですし、最近はDTMのソフトウェア・ミキサーも充実していますので、パーソナル・レコーディングでは、ハイ・クオリティなアナログのヘッド・アンプ&EQモジュールとして、楽器の録音に威力を発揮すると思います。

A/B2系統の入力を持つ
2チャンネル・ステレオ・インプット

では、信号の入力部からブロック・ダイアグラムに沿ってそれぞれの機能を見て行きましょう。 10チャンネルのモノ・インプット・モジュールには、マイク入力用XLRバランス・タイプとライン入力用TRSフォーン・バランス・タイプを備え、TRSフォーンに接続すると、XLRからの信号が切断されライン入力優先となります。また、リア・パネルにはそれぞれに独立したファンタム電源スイッチも装備されています。

インサートもそれぞれに備えられ、TRSフォーンのTip=センド、Ring=リターンの0dBアンバランス・タイプ、プリEQとなっています。

ロー・カットは100Hz以下固定で、 EQは4バンドのパラメトリック・タイプ、HF/LFは周波数固定で、MHF/LMFはスウィープ・タイプです。

AUXセンドは6系統ありますので、エフェクターへの送りはもちろんのこと、外部機器への送りなどの応用性も十分あります。また1〜4、5〜6のグループでプリ/ポストフェーダーを選択することができます。

クリッピングの−5dBで点灯するピーク・インジケーターは、SOLOインジケーターを兼用しています。SOLO回路ですが、インプット・モジュールやAUXリターンなどの入力系はPFL、グループ・アウトやAUXセンドなど出力系はAFLになっているなど、細かい配慮が見られます。

フェーダーは100mmのロング・ストローク・タイプで、パンポットの後にはステレオLRと、1、2、3、4のグループ・ルーティング・スイッチがあります。また、各チャンネルごとにポストフェーダーのダイレクト・アウトを備えていますので、マルチトラック・レコーディングの際、グループでまとめて送る必要の無いものは、個々にMTRに送ることができるようになっています。

2チャンネルのステレオ・インプット・モジュールは、A/Bの2系統の入力を備えています。B入力はTRSフォーン・バランス・タイプで、ステレオ・アウトのシンセなどの接続に適しています。A入力はRCAピン・タイプでCDやカセットなど、外部機器との接続ができるようになっています。また、両方のスイッチを押すことによってA–Bミックスも可能です。さらに、A入力にはオプションの「RIAA PCB」を組み込むことにより、ターンテーブルの接続が可能になります。それぞれにモノ・スイッチ、4バンドEQ、6AUXセンド、100mmストローク・フェーダーを備えています。

グループ・セクションにも、100mmストローク・フェーダーがあります。ここでは、グループでまとめたものをLRへ送り、パンニングすることも可能です。出力は+4dB XLRバランス・タイプとなっており、インサートも備えていますので、例えばドラムにまとめてコンプレッサーをかけるなどの使い方ができます。また、4ポイントのLEDインジケーターが付いていて、出力レベルも監視することができます。

サイズの割に機能的な
4系統のステレオAUXリターン

AUXマスター・セクションには、オペレーティング・モード・スイッチというのが付いていて、これを押すことによって、グループ・ルーティング1〜4+LRがAUXアウトプットの1〜6へ、AUXセンドの1〜6がグループ・アウトの1〜4+LRアウトプットへと出力され、通常のルーティングとはリバースになります。これは、例えばステージ用モニターを+4dBバランス・ラインで送りたい場合や、モニターにエフェクターをインサートしたい場合などに使います。このスイッチはオペレーション中の誤操作を防ぐために、ボールペンなど先の細いものでなければ押せないような形になっていて、押すと深く入り込んで、オン/オフがはっきり確認できるような細かい配慮がされています。

マスター&モニター・セクションには、トークバック用マイク入力のXLR、ヘッドフォン出力、外部2トラック・ センド/リターン、オシレーター、モノ・アウトプット用ボリュームのほか、ステレオ・モニター用の12セグメントLEDバー・グラフ・メーターを装備しています。また、ステレオAUXリターンが4系統もあり、このサイズのコンソールとしては充実した設定です。さらにオプションのSYS-LINK機能を使えば、同社の他のコンソールとD-sub25ピン・ケーブルを介して、カスケード接続することも可能です。

さて、ここまで見てくるとこのコンパクトなWZ14:4:2+は、豊富なルーティング機能、さまざまな場面に適応した回路設計によりレコーディング、ライブや劇場、イベントでのPA、ステージ・モニター、キーボード・ミキサーなど、実にフレキシブルな使い方ができることが分かります。では、音質、使い勝手の方はどうでしょうか?

ヘッド・アンプは、−60dB〜−20dBの可変で、さらに−30dBのPADを備えているので、幅広いレベルに対応が可能です。音質は、上級機(SSLなど)に比較すると、わずかに高域の伸びに遜色を感じますが、このクラスのものでは群を抜いて優れていると言えます。音像はクッキリしていて力強く感じられ、またS/Nやダイナミック・レンジも現在のレベルでは十分だと思われます。

4バンドEQはHF:12kHz固定、HMF:500Hz〜15kHz、LMF:35Hz〜1kHz、LF:60Hz固定となっていますが、MFの周波数設定が広いので、音の作り込みにはストレスを感じませんでした。±15dB可変となっていますが、カーブ設定が穏やかで、過激に効くというよりも回すほどに効いてくるというタイプなので、微妙な調整にも向いていると思います。また、思いきって使えば太くガツンとした音作りも可能です。

ロー・カットは100Hzの設定で、割と強力に効きます。ただボーカルの吹きやシンバルの低域のコントロールには効果的ですが、レコーディングで使う場合には音のキャラクターにまで影響しますから、もう少し穏やかな方が好ましいです。フェーダーは操作も軽く、カーブの設定も特に問題は感じません。また、回路設計は音の入り口から出口までを極力短くしただけあり、シンプルでFETなどの使用もないためトータルの音質はストレートでヌケの良いものになっています。

総評として、WZ14:4:2+はプロ仕様としての基本をしっかり押さえつつも、用途のフレキシビリティに富んだコンパクト・アナログ・ミキサーだと言えます。ハード・ディスクやデジタル・エフェクターが装備されたオール・イン・ワン・タイプのミキサーもコストの面では有利ですが、使い勝手などを考えるとこのような基本設計の優れた汎用性のある機材を1台購入するのも良いのではないでしょうか。

ALLEN&HEATH

WZ14:4:2+

198,000円
※表示している価格はニュース掲載時点のものです。また税込/税抜についてはメーカーの表示したものに準じて記載しています。

【SPECIFICATIONS】

SPECIFICATIONS

■周波数特性/20Hz〜50kHz(+0、−1dB)
■THD+N(+14dBu、1kHz)/0.006%、ch→MIX OUT
■入力換算雑音/MIC IN:−128dB(150Ω)
■クロストーク(1kHz時)/−90dB(フェーダー・オフ)
■チャンネル・イコライザー/HF:シェルビング12kHz/±15dB、MHF:ピーキング500Hz〜15kHz/±15dB、LHF:ピーキング35Hz〜1kHz/±15dB、LF:シェルビング60Hz/±15dB
■ステレオ・インプットEQ/HF:シェルビング12kHz±15dB、MF1:ピーキング±15dB、MF2:ピーキング±15dB、LF:シェルビング60Hz/±15dB
■電源・消費電力/100〜240VAC切り替え50/60Hz、最大35W
■外形寸法/483(W)×195(H)×530(D)mm
■重量/10kg

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