24ビット録音を念頭に置いて開発された2ch真空管ヘッド・アンプ

M2ARINE ST-829

REVIEW by 伊藤圭一(KIMスタジオ) 2000年5月1日

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最近流行とも言えるチューブを採用したイクイプメントのニュー・ブランドが登場した。スタック・サウンド・サービスという、SRでは定評ある国内の会社が開発したこのM2ARINEは、受注生産による真空管ヘッド・アンプ(以下HA)だ。

必要最小限の機能に絞った
美しいデザイン

まず、デザインが非常に気に入った。ブラック・ヘアラインのパネルに大胆な窓があり、そこからはきれいなブルーのパネルが顔をのぞかせている。FOCUSRITE(Green Range)とTUBE-TECHの良い部分を足したような素晴らしいデザインで、高級感もある。ルックスは音には反映しないのだが、道具として使用し所有する喜びには確実に反映され、ひいては演奏やミックスの出来に影響を与えるから侮れない。

ファンクションとしては、リア・パネルにバランス入力とバランスとアンバランスの出力、フロント・パネルにアンバランス入力とその選択スイッチ、ファンタム電源のオン/オフ、HPF(75Hz)、10dBステップで最高60dBのゲイン調整つまみと可変幅10dBのトリムつまみがあるだけという必要最小限に絞った設計になっている。プッシュ・スイッチのオン/オフ状態は高輝度のLEDが表示してくれるので安心だ。一方、ゲインやトリムに備えられている鏡面仕上げされたメタル・ノブは高級感はあるものの、滑りやすくアローが見にくいので、スタジオでは思わぬゲイン設定になる可能性があるので注意が必要だ。

VUメーターが備わっているのは、信号ラインのチェックには重宝するが、ピークが読めないので、本機の直後にコネクトする機器でピークを監視することをお勧めする。HDRやMTRのA/Dに直接インプットするのであれば、そのピーク・メーターをチェックすれば問題ないだろう。

フロントのアンバランス入力は、ベースやギターなどを直接インプットし、ダイレクト・ボックス的に使用する際に便利だろう。ただし、入力インピーダンスがそれほど高くないので、パッシブ・ピックアップ・ギターのように出力インピーダンスが高いものを直接入力するのは避けた方が無難だ。エフェクターが間に入っていたり、プリアンプを内蔵した楽器ならば全く問題がない。

一方リア・パネルのアンバランス出力は、バランス回路をバイパスしている分、さらにストレートに信号を取り出せるので、長い引き回しがなければあえてこれを選択するのも良いだろう。

圧倒的なS/Nの良さと
ナチュラルな音質が魅力

さて肝心の音質だが、リファレンスとなるHAとの比較でチェックを行なった。それには音源や再生系は全く同じにして瞬時に切り替えて聴く必要がある。そこで、MIDIピアノをシーケンサーで演奏させ(データはトップ・プレイヤーの演奏)、HAを入れ替えてPro Toolsの同じ時間軸上の別トラックに24ビット録音し、両者を比較試聴するという方法を採った。2つのHAのゲインは正確に合わせたことは言うまでもない。生のピアノが全く同じ演奏をしてくれるので、同じ条件下で同じフレーズの録音を瞬時に切り替えて比較できることになる。その後、サウンド・キャラクターを聴く意味で、生ギターやエレキ・ギター、ベース、さらにボーカルなども試してみた。

全体的な印象としてはかなりナチュラルなサウンドで、古臭い真空管サウンドというテイストではなく、比較的素直なサウンドだった。ローエンドのふくよかさは若干抑えられ、ハイエンドはまろやかな感じだ。特筆すべきはそのS/Nの良さだろう。昨今のデジタル化の浸透に伴い、暖かみや太さを求め、真空管サウンドをレコーディング・プロセスの一部に採り入れるプロデューサーやエンジニアが増えている。一方で、デジタル機器が16ビットから24ビットになったことで、ダイナミック・レンジが広がったために、ノイズ・フロアの高い古い真空管モノは敬遠されつつあるのも確かだ。その意味で、本機のノイズ・レベルの低さは大変評価できる。部品点数を極力減らし、極めてシンプルな回路にしたという設計担当者の思想は見事に反映されているようだ。

レンジの広さやフラットさという点では、良質なソリッドステートHAに軍配が上がったが、2チャンネルで384,000円という価格を考慮すれば、十分に選択対象になると思う。使用するマイクとの相性も考慮しなければならない。チューブ・マイクとの組み合わせより、NEUMANN U87のように硬さが目立つコンデンサー系に向いていると思われる。NEUMANN U67やM49のような良質なチューブ・マイクが極めて高価な上に入手困難な状況を考えると、本機をU87とセットで購入してもそれよりはるかに安く入手できる。

少々辛口の評価になった点もあるが、比較したHAが100万円を越えるモノであったり、数千万のコンソールであったりした点を補足しておきたい。F1がいくら速い車であっても、公道を走れないのであればデートには使えないし、フェラーリに乗ればだれでもが速く走れるわけでもない。読者が与えられた環境でもっともふさわしいモノを選択してほしい。私はこうした新しいメーカーが活躍してくれることを心から応援している。大手メーカーでは実現できない製品を今後も生み出してくれることを願って止まない。

M2ARINE

ST-829

384,000円
※表示している価格はニュース掲載時点のものです。また税込/税抜についてはメーカーの表示したものに準じて記載しています。

【SPECIFICATIONS】

SPECIFICATIONS

■入出力/バランス入力(XLR)×2、アンバランス入力(フォーン)×2、バランス出力(XLR)×2、ンバランス出力(XLR)×2
■周波数特性/20Hz〜20kHz±1dB(max)
■入力レベル/0dBu〜−60dBu
■出力レベル/+4dB(typical)、+26dBu(max)
■ノイズ・レベル/−129dB以下
■ゲイン・スイッチ/10dB〜60dB(10dB×6ステップ)
■ゲイン・トリム/+0〜−10dB
■HPF(バランス出力)/75Hz at −3dB 12dB/oct
■外形寸法/482(W)×88(H)×243(D)mm
■重量/5.5kg

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