往年の名機のサウンドをシミュレートするコンプ/リミッター

TMD CL-F670

REVIEW by 三好敏彦(HAL STUDIO) 2000年5月1日

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いろいろな製品がデジタル化している今日、それと逆行してアナログ・サウンドの要求が高まっているのも事実です。リミッター、プリアンプなど、何とも色気のある魅力的な音を出す機材にアナログ製品が多いからでしょう。実際、一部のビンテージ機材には、驚くほどの高値がついているほどです。そんな中、この度TMDからFAIRCHILD 670とUREI 1176LN(黒パネル)の音をシミュレーションしてプリセット搭載したリミッター、CL-F670が発売されました。さてどんな音を提供してくれるか、早速チェックしてみましょう。

UREIやFAIRCHILDなどの音を
プリセットから選択可能

CL-F670は、モノラル仕様のビンテージ・アナログ・シミュレーション・リミッターです。ゲイン・リダクションはフォトカプラー方式を採用。増幅素子にはビンテージ・ゲルマニウム・トランジスターを使用しています。

まずは外見から見ていくと、大きさは2Uのハーフ・ラックくらい。ラック・マウントではありませんが重量は1kgと大変軽く、持ち運びは全く苦になりません。リア・パネルには電源のオン/オフ・スイッチとACプラグ端子、ヒューズ・ホルダーのみがあり、その他ほとんどのものがフロント・パネルに装備されています。

ではそのフロント・パネルの機能を順に見てみましょう。一番右側が入出力端子です。形状はフォーン・タイプで、定格入出力は−10dB。その左横にリミッターのオン/バイパス切り替えスイッチが付いています。バイパス音は入力アンプなども通っていないので、忠実にリミッター音とバイパス音の比較ができ、大変良いです。その横にアウトプット・レベルつまみがあります。各モードごとにリミッターのかかりが違うので当然出力レベルも異なり、それをこのつまみで調整するわけです。

パネル中央にある一見メーターっぽいモノは、プリセット・スイッチとなっています。実際メーターより値段的に高く付くパーツが使用されており、洒落っけのあるデザインが私は大好きです。プリセットされている音は、左側から順に”U76B”にはUREI 1176LN(黒パネル)のレシオ・ボタン4つ押しの音、”F670″にはFAIRCHILD 670のプリセット5番の音、”TMD”にはTMD独自の音が搭載され、自由に選択可能です。また、プリセット・スイッチの左横に、プリセット/マニュアル切り替えスイッチがあり、このスイッチをマニュアル側にすることで、先ほどのプリセットに加えて本機をマニュアル操作することもできます。

パネル一番左には、その際リミッターのかかりの深さを調整するDEPTHつまみがあります。マニュアル操作時は、先ほど紹介したプリセット・スイッチの位置もアタック/リリース・タイムに影響し、F670の位置ではスロー・アタック/リリース・タイムに、その他の位置ではミディアム・アタック/リリース・タイムとなります。すなわち、本機1台でマニュアル2種類、プリセット3種類、計5種類の音を出すことができるわけです。

ビンテージ・サウンドの
太さや質感を忠実に再現

それでは音のチェックに入りましょう。始めにFAIRCHILD 670のプリセット5番の音をシミュレーションした”F670″から。その前に「なぜ5番の音?」と思う方もいると思います。私も本誌1998年8月号の特集「耳で学ぶコンプレッサー」で670の音を付録CDに収録する際に、改めて1〜6番のプリセットを聴き、”最もフェアチャ風”ということで5番を採用しました。確かに1〜2番も人気があり良いのですが、TELETRONICS LA-2AやTUBE-TECH CL1Bに似てきて差別化しづらかったという経緯があったので、本機のこの選択も正解でしょう。なお、本物の5番はユーザーが内部配線で自由に変えられるので、機種によってはアタック/リリース・タイムを変えてあるモノもあるかもしれませんが、本機ではオリジナル音をシミュレーションしてあります。

実際の音は何ともコッテリした音で、低音の朗々とした感じなどそっくり。逆に本機の方が音は太いくらいです。FAIRCHILDをコピーした製品はほかにもいろいろありますが、いまひとつクリアで、質感が違います。しかし本機は、レシオのあいまいな感じや質感などそっくりで驚きました。

次にUREI 1176のレシオ4つ押しの音。これも本当に似ています。まさにあの音、嵐のリミッター・サウンドです。かかりは大変深いのですが、変に音像が遠のくこともなく、音がぐいぐい前に出てきます。HALスタジオにも1176(黒パネル)は4台ありますが、1台ごとに微妙に音が違います。本機もその程度の違いで、一番初期のモデルに近い音です。ちなみに本物の1176の4つ押しは裏技であり、スレッショルドが安定しません。音は好きだが、かかりが不安定で使えないという人も、本機なら実際に使用できるでしょう。

プリセット3番目のTMD独自の音では、低域はFAIRCHILDのごとく太く、中高域は音が前に出てパンチがあるUREIの音。私は大変気に入りました。さらにマニュアル設定で使用してみましたが、これがLA-2Aの音に似ており、ナチュラルですが芯がしっかり出て、しかも質感はまさにビンテージのコッテリしたサウンドです。

というわけで、いろいろと聴いてみましたが、どの設定でも独特の質感と色気があり、ゲルマニウム・トランジスター1石の回路でよくこれだけの音を作れたなと感心します。なおTMDによれば、このパーツはビンテージもので70台分しか用意しておらず、結果的にこのバージョンは限定70台生産だそうです。ただしこのモデルは他に良いパーツがあれば、マイナー・チェンジして存続する可能性もあるとのこと。

実際の使用に当たり、本機は入出力はフォーンのみでゲイン・リダクション・メーターもありませんが、全く不便を感じませんでした。例えばコンパクト・エフェクターのコンプレッサーを使用するとき、メーターがなくても音を聴いてコンプレッサーの深さを設定するわけで、特に不便を感じないでしょう。それと全く同じ感触で使用できるのです。まさにカスタム・メイドの高級コンパクト・エフェクターという感じです。TMD製品にしては価格設定も安くされており、音も良く遊びごころ満載の本機は、「ビンテージ・サウンドが好きで、手軽にFAIRCHILDやUREIの音も楽しんでみたい!」という人にぴったりの製品です。

TMD

CL-F670

89,400円
※表示している価格はニュース掲載時点のものです。また税込/税抜についてはメーカーの表示したものに準じて記載しています。

【SPECIFICATIONS】

SPECIFICATIONS

■プログラム/プリセット×3+マニュアル
■入力端子/フォーン×1
■出力端子/フォーン×1
■電源/AC100V
■外形寸法/250(W)×80(H)×190(D)mm
■重量/1kg

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