大容量のハード・ディスクを搭載したデジタル・パーソナル・スタジオ

AKAI DPS12i

REVIEW by 栗原 務 2000年3月1日

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進化、発展の一途をたどるハード・ディスク・レコーディングの世界。スタジオ・クラスのレコーディング環境を、持ち運びも可能な程度のコンパクトなパッケージに収められるのがウリであったはずだが、より高度なシステムを求めるがゆえに徐々に拡張し複雑化してしまっている。特に厄介なのは周辺機器だ。

こうした状況から改めて注目を集めるようになったのが今回紹介するAKAI DPS12iのようなオール・イン・ワン型ハード・ディスク・レコーダーである。ミキサーはもちろん、エフェクターまでも内蔵しているため、この個体さえあればどこでもレコーディング&プレイバックが行なえるメリットがある。1つのパッケージとして完成されている製品のため周辺機器との相性でトラブルを招くケースは皆無という、この点も大きなアドバンテージである。まずは、ご記憶の方も多い、このモデルの前身であるDPS12のバージョン・アップの歴史から見ていこう。

10GBのハード・ディスクを内蔵
バーチャル・トラックも250装備

もともとDPS12では記録メディアは内蔵Jazドライブのみであったが、Ver.2.0になるとJazドライブかハード・ディスクをオプションで選べるようになった。そしてさらにDPS12iになると、記録メディアはハード・ディスクのみに。昨今のハード・ディスクの激安ぶりとJazメディアの値下がり率が悪いことを比べれば、この選択は大正解であると言えよう。しかも内蔵されたハード・ディスクは10GBと大容量。44.1kHz、モノラル換算で30時間を越える素材を本体内部に録音可能という、驚異的なスペックだ。これなら、250装備されたバーチャル・トラックの威力も存分に味わうことができそうだ。また、Ver.2.0からはSCSI接続をした外部CD-R/RWライターにデータをバックアップできるようになっている。もちろんこの機能はDPS12iでも利用可能だ。

このほか、”i”バージョンへのモデル・チェンジに伴い注目したいのは、Windows/Macintosh両機種に対応したAKAIオリジナル・ソフトウェアM.E.S.A.(Modular Editing System by AKAI)のDPSシリーズ対応版、「M.E.S.A.DPS Editor」が付属しているということ(図①②③)。詳しくは後述するが、コンピューター上でもミックスのバランスを視覚的に全体表示し確認できるという点は、快適な作業を実現するには欠かせない要素と言えるだろう。

▲図① DPS Mixer画面

▲図② Event Editor画面

▲図③ DSP Setup画面

 

入出力系については、それほど充実しているというわけではないが、用途によっては必要十分な組み合わせだ。アナログ入力は、フォーン(バランス接続に対応)が6系統。デジタル入力はオプティカル端子(S/P DIF)が1系統設けられている。出力はアナログがRCAピン形式のマスター・アウトとモノラル2系統(フォーン)のAUX SEND A/Bのみ。デジタル出力はデジタル入力同様、オプティカル出力(S/P DIF)が設けられている。ライブでの使用を想定すると、アナログ出力数はやや物足りない感じは否めないが、レコーディング用途であればこれで十分だろう(ライブ使用時でも外部ミキサーを使用せず完全に本体内部だけのステレオ・ミックスで挑むなら問題ない)。この他、MIDI IN、MIDI THRU/OUT、SCSI端子、フット・スイッチ端子、ヘッドフォン端子がそれぞれ用意されている。

カテゴライズされた表示で
スピーディな作業が可能

さて、気になる操作性について見ていこう。本機を目の当たりにしてまず目に付くのは、非常に洗練されたパネル・デザイン。整然としていてボタンの数や種類も厳選されているといった印象だ。実際に操作してみた感じでは、最初はやや戸惑ったものの、サンプラーやシンセなどを使いこなせる人であれば、仕組みさえ把握してしまえば慣れるまでに時間は必要なさそうだ。ディスプレイに関しては、1度に得られる情報量が限られているのがやや残念(例えばEQ設定をする場合、FREQとLEVELが同時に表示されないなど)。これはこの春登場予定だという上位機種DPS16との差別化の意味合いもあるのだろうか?(参考資料で見るかぎりあちらは大型のディスプレイを装備している)。

ただ、1度に表示する情報量は限られているものの、「MAIN」「TRACK VIEW」「MIXER」という具合に必要な情報が巧みにカテゴライズされているため、上手く切り替えながら作業を進めればそれほどストレスは感じない。むしろ、1度にたくさんの情報を表示してくれるのはいいが、必要なパラメーターをエディットするのにカーソルを右往左往させる手間を考えると、逆にこのスタイルの方がスピーディな作業が行なえるのではないだろうか。もちろん、どのモードを選んでも各チャンネルならびにマスターのレベル・メーターは常に表示されている。ちなみに「MAIN」ではDISPLAYを、「TRACK VIEW」には時間軸に沿ってトラックごとのデータ散布状況を把握できるようにした帯状のグラフィックを、「MIXER」では各チャンネルのフェーダー値、パン設定、FXセンド量、EQ設定を表示する仕組みだ。

名前の書き込めるロケート機能で
一発で正確な位置へ移動可能

内蔵エフェクターの設定は、エフェクト・センド・レベルなどを設定するページを呼び出すと、ファンクション・キーに表示される”EFFECT”から階層に突入し操作していく。アサインするエフェクトの選択やパラメーター変更などはディスプレイ脇の大型ジョグ・ダイアルで行なう。このダイアルの滑らかな動き、そして、人間工学に基づいているかどうかは定かではないが、そう思わせるほどに自然なフィットを味合わせてくれるデザインには、とても好感を覚えた。

快適、かつ迅速な作業を実現するのに不可欠なロケートについてだが、ここにはかなり気の利いたアイディアが用意されている。それは、名前の書き込めるロケート機能だ。こうしたオール・イン・ワン型HDRを使って1人で作業しているケースでは、まず、ほとんどの人が譜面やキュー・シートなどは利用しないだろう。コンピューター・ベースでのシーケンサーに慣れている人なら、なおさらのはず。こうした場合、ロケート機能などを使ってリハーサル番号位置を記録しておいたところで、単にそれは「目印」でしかなく、そこが「サビ」なのか「間奏」なのかは再生してみなければ分からない場合がほとんど。

しかし本機では、ロケート位置に名前を書き込めるため、一発で正確な位置へロケートすることが可能なのだ(名前書き込みに対応しているため、ロケート位置の設定はひと手間多くかかってしまうが)。「ロケート位置を書き込む手間を考えたらキュー・シートを作る」と思うかもしれないが、本機では、最も管理の面倒な250のバーチャル・トラックにまでも名前を書き込むことができるため、少々面倒でもすべてに対処しておけば、データ・バック・アップ後、その曲に関する紙資料はほとんど不要になる。

ここまでくれば、コンピューター・ベースのシステムとほぼ同じ感覚で扱える。膨大なバーチャル・トラックを活用してリミックスを作ろうなんてときには助かりそうだ。ちなみにロケート・ポイントは100個までメモリー可能。チャンネル・セレクトなどのパネル上のキーに割り当てる”クイック・ロケート機能”も装備している。名前の通り、こちらの機能の方が素早くロケートできるため、任意の個所の差し替え(パンチ・イン/アウト)に繰り返し挑戦するときなどに重宝する。

外部環境にフレキシブルに対応
付属のソフトでミックスをサポート

本機は他のマシンとの併用するケースでも威力を発揮してくれる。すでにコンピューター・ベースのHDR環境をそろえている場合でも、CPUパワー不足などでトラック数が制限されてしまったり、または外部スタジオとの連携に当たり、データを移動させる手段を欲しているという方も多いはずだ。こうしたときにもDPS12iのような一体型HDRは重宝がられる。そうした要求にもこたえるだけのポテンシャルを備えているのか……答えは、YESである。MMC対応はもちろん、MTCマスター、そしてMTCスレーブとしても動作してくれるので、フレキシブルに外部環境との共存が実現できるだろう。特にまだ対応機種の限られるMTCスレーブに対応している点は注目される方も多いはずだ。

最後に、冒頭に紹介したM.E.S.A.DPS Editorの機能について紹介しておこう。Editorといっても波形レベルの編集のサポートをするものではない(本機に用意された編集コマンドは以下の通り。「COPY→PASTE」「COPY→INSERT」「CUT→PASTE」「CUT→INSERT」「INSERT SILENCE」「CUT→DISCARD」「CUT→MOVE」)。ミックス・パラメーターをコンピューター画面上で一括表示、コントロールしようというものである(図①)。フェーダーのレベル、パン、EQ設定、AUXセンドなどの調整ができるようプログラムされており(内蔵の2系統のデジタル・マルチエフェクターの選択、およびエディットは未サポート)、フェーダーのグルーピング(10系統まで)やプリ/ポストの選択もできるので、マウス操作のストレスさえ感じなければ、積極的に活用してみたい。

また、Event Editor(図②)を使えば、パラメーターのオートメーションをエディットすることも可能なので、綿密なオート・ミックスをプログラムしたいのであれば利用価値は高そうだ。

▲右より、マスター・アウトL&R、AUX SEND A&B、OPTICAL IN&OUT、MIDI IN&OUT/THRU、SCSI、FOOT SW

AKAI

DPS12i

オープン・プライス
※表示している価格はニュース掲載時点のものです。また税込/税抜についてはメーカーの表示したものに準じて記載しています。

【SPECIFICATIONS】

SPECIFICATIONS

■同時録音トラック/8
■記録媒体/内蔵ドライブ、または外付けハード・ディスク
■サンプリング周波数/48/44.1kHz/32kHz
■録音時間/1GBディスク使用時(トータル録音時間)&FS=44.1kHz時約3時間16分(12トラック×16.3分)
■周波数特性/10Hz〜22kHz±2.0dB(FS=44.1kHz時)
■量子化数/16ビット・リニア
■ADC/18ビット64倍オーバー・サンプリング5次デルタ・シグマ方式
■DAC/20ビット8倍オーバー・サンプリング1ビット・デルタ・シグマ方式
■ダイナミック・レンジ/85dB以上
■チャンネル・クロストーク/75dB以上
■入力レベル/−46dBu〜+4dBu(最大+19dBu、1kHz時)
■外形寸法/445(W)×98(H)×334(D)
■重量/4.8kg(内蔵ドライブ含む)

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