HDR界の革命児VSシリーズのラック・マウント・モデル

ROLAND VSR-880

REVIEW by 福間 創(P-MODEL) 2000年3月1日

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ROLANDのVSシリーズといえば、言わずと知れたハード・ディスク・レコーダーの革命児である。Vトラック概念の導入や、音のクオリティ、優れた可搬性、そして何と言っても操作性の良さがピカイチ。とにかくこのVSシリーズがレコーディング界にもたらした功績は大きいだろう。僕自身も録音やライブなどで愛用しており、今となっては欠かせない存在である。そんなVSシリーズに、新たにVSR-880が加わった。これは単純にVS-880EXのラック・マウント・バージョンと思われるかもしれないが、AD/DA部が24ビットに強化(VS-880EX/1680は20ビット)されたのをはじめ、ROLAND独自のR-BUS拡張端子の搭載など、本機ならではのアドバンテージも幾つか存在している。早速チェックしてみよう。

24ビット録音可能なVSRモードや
CD制作に便利なCDモードを追加

写真を見てお分かりの通り、本機はVSシリーズ初のラック・マウント・モデルとなっている。フロント・パネルには、液晶画面やロケーター、ジョグ・ダイアルなどの各種コントロール系や、ハード・ディスク内蔵ベイ、ヘッドフォン端子のほか、マイクからライン・レベルまで対応可能な2ch分のインプット端子を装備。リア・パネルには、RCAタイプのアナログ入出力各8、MIDI IN/OUT(THRU)端子、SCSI端子に加えて、ROLAND独自のインターフェースR-BUS端子が並んでいる。後にも詳しく述べるが、このR-BUS端子が装備されたことにより、同社のデジタル・ミキサーVMシリーズのほか、ALESIS ADATやTASCAM DAシリーズとの連携がついに可能となっている。さらに、オプティカルとコアキシャルのデジタル入出力端子も備えられている。

では、VSR-880の心臓部であるレコーダー部の機能を見ていこう。同時録音/再生トラックは8つ。本機に用意されたサンプリング・レートは32、44.1、48kHzの3種類。なお、48kHzを使用した場合のみ、同時録音数が6つに制限される。またレコーディング・モードは計6種類。このモードはVSシリーズ独自の音声コーディング技術である。ソングごとに設定することが可能で、用途に合わせてモードを選択することになる。

このサンプリング・レートとレコーディング・モードの組み合わせによって、レコーディングできるハード・ディスク容量が変化するわけだ(表①)。例えば、ライブでの使用に限るのであれば、若干音質を犠牲にしても、より多くの曲をハード・ディスクに仕込むことができたり、逆に、レコーディング、特に生楽器などの原音を忠実に録るならば、本機の売りである24ビット・レゾリューションを最大限に引き出すVSRモードを指定すればいいだろう。なおCDRモードは、最初からオーディオCDを作成する前提でソングを作成する場合に設定すると便利。CD-Rを焼く時に必要となる、2トラック分のステレオ・データをCDオーディオ・データに変換する時間が省けるのだ。

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表①:録音時間(HDP88-3200を使用し、1GBのパーティションを3つ使用した場合の1トラック換算。単位:分)

もちろん、おなじみVトラックも当然装備。各トラックはそれぞれ8つのVトラックを持ち、さらに本機では、この64トラック構成を1バンクとして、2バンクを使用することができるため、合計128Vトラックという強力な構成となっている。また、非破壊編集に基づくアンドゥ/リドゥ機能により、今までの録音や編集を999段階までさかのぼって元に戻すことも可能だ。

次にミキシング機能を紹介しよう。本機には、VSシリーズに搭載されているいわゆるミキサー部が見当たらないが、ミキシング機能がないわけではない。VS-880EX相当の16チャンネル・デジタル・ミキサー機能が内蔵されており、本機単体で各トラック個別にレベル、EQ、パンなどの設定をすることで、単体でVSシリーズと同じようにミックスまで行なうことが可能だ。ただし、レコーディング・モードをVSRにした場合、EQ機能がカットされてしまうので注意。さらに、おなじみEZルーティング機能のほか、別売りのエフェクト・エクスパンジョン・ボードVS8F-2(35,000円)を装着することで、エフェクト処理を行なうこともできる。このエフェクト・ボードの質の良さは、既に以前のVSシリーズで実証済みだろう。

VSシリーズ直系の優れた
ユーザー・インターフェース

これまでのVSシリーズでは、レベル・フェーダーやパンなどにフィジカル・コントローラーが装備されていたが、本機ではそれらの操作をフロント・パネルのボタンとVALUEダイアルを使って行なう。例えばSHIFTキーを押しながらEDITしたいトラック・ボタンを押すと、画面にはチャンネルEDITパラメーターが表示される。PARAMETERボタンでページをめくっていけば、パンやEQ、Vトラックの指定、AUX SENDなどのパラメーターなどが現れるので、あとはVALUEダイアルで値を変化させればよい。他のVSシリーズのように即座に複数トラックのレベルを変えるといったリアル・タイム・コントロールには不向きであるが、これはラック・マウント・モデルなのだから仕方ないところ。ただ、本機ならではのショート・カットが多数用意されているし、ハード・ディスク・ベイのフタにもチャンネルEDITの構造を表すマップがプリントされているため、決して扱いにくい印象はない。以前のVSシリーズに慣れている人も問題なく操作できるはずだ。

その他、トラックのカット/コピー/エクスチェンジなどのパラメーターもVS-880EXシリーズと同じ。違いは、これまでのVSシリーズでフィジカルつまみだった各チャンネルのゲイン・コントロールなどが、チャンネル・パラメーターとして追加されているくらい。液晶画面内コンテンツの並びも全く同じだ。ボタンの配列も2Uでありながらゴチャついた印象はないし、この辺りの操作性の良さはよく考え抜かれていると思う。

おっと、もう1つフロント・パネル上に本機独自のCD-RWボタンが用意されているのを忘れてはいけない。これは本機に同社のCDライターCDR-88RW-2(オープン・プライス)を接続した場合に使用でき、このボタンを押すことでCD-Rに関するさまざまな設定を行なうことができる。

さて、肝心の音質であるが、24ビットAD/DA部には、同社のデジタル・ミキサーVMシリーズと同じものが採用されているようだ。僕はVM-7200シリーズを使っているが、一般的に威力を発揮すると言われている生楽器モノはもちろん、シンセなどの電子楽器系でも音が良い。音が良いというのは曖昧な表現だが、要するに原音に忠実なところが気に入っている。実際にサンプリングCD、アナログ・シンセ、マイク入力による声を使って、本機の各レコーディング・モードによる音の違いを試してみたが、これまでのVSシリーズでの”それ”と同じ印象を持った。シンバルなど高音を含むきれいな減衰音などはモードが下がれば当然失われる結果となるが、シンセ系はMT2レベルくらいまでさほどの変化は感じられない。この辺りは実際に耳で確かめてみてほしいところだ。ちなみに僕の所属するバンドP-MODELでは、VS-1680のMT1モードですべてをレコーディングし、ライブはMT2モードを使用している。

他のVSシリーズとの
データの互換性を保持

本機と外部MIDI機器とをシンクさせる場合だが、MTCとMIDI CLOCKが送受信できるのに加えて、R-BUS経由でMTCの受信も可能となる。設定はこれまでのVSシリーズと同じく、SYSTEMパラメーター内に各設定項目が現れる。一般的に外部シーケンス・システムに組み込む場合は、シーケンサーからのMTCに本機を同期させればOK。MTCをスルーにすればカスケード接続した本機を理論上何台でもスレーブにすることができる。僕はかつてVS-880を6台カスケードしたことがあるが、不思議なくらい問題は何も起こらなかった。もちろん、本機をマスターにして外部MIDIシーケンサーをスレーブにすることも可能だ。

次に、これまでのVSシリーズとの互換性について。本機以外のVSシリーズは、旧VS-880、VS-880EX、VS-1680、旧VS-840、VS-840EXの5機種である。これらVSシリーズで作成したディスク/ソング・データを本機で読み込むことは可能だが、幾つかの工程と注意点がある。それも踏まえて実際の使用法を紹介したい。

まず、VS-880/EXで作成したソング内蔵ハード・ディスクあるいはZipディスクを本機で使用する場合、本機でメディアを読み込ませることが可能だが、ソングの編集を行なう場合は、VS-880/EX用のデータを本機用に変換する作業が必要だ。これは本機のソング・インポート機能を使う。またVS-840/EXのデータを再生/編集したい場合にも本機のソング・インポートが必要だ。

同じくVS-1680のデータを本機で読み込ませる場合、VS-1680が基本的に16トラック構成なので、VS-1680でソング・データを前もってVS-880用のデータに変換した後、本機に読み込ませソング・インポートする。また内蔵ハード・ディスクをそのまま使用する場合は、VS-1680のパーテーションを1GBにしないと認識されない。

逆に、本機で作成したデータを他のVSシリーズで使用する場合、上に述べた操作の逆を行なうことになる。つまり本機で作成したソング・データをVS-880用にエクスポートした後、各機種で使用するという流れだ。このソング・データにはEQやマーカー、エフェクトの設定など、ミキシング部分もすべて含まれるのは優秀なところだ。

なお、本機でレコーディング・モードがVSRに設定されたソングの場合は、VS-880/EX用にエクスポートはできないが、VS-1680に限り、1680のMTPモードとしてエクスポートされる。

このように、幾つかの変換作業などは必要になるが、初代VS-880とのデータ互換性が保たれているのはさすがと言えよう。

R-BUS端子の搭載により
外部との容易なリンクを実現

次に本機の拡張性だが、何と言ってもR-BUSの搭載が大きい。本機に別売りのインターフェースDIF-AT(38,000円)をR-BUSに接続すれば、ADATはもちろん、ADAT規格のインターフェースを持つデジタル・ミキサーや、PC用のサウンド・ボードと8ch同時にやり取りが可能になる(DIF-ATは24ビット対応)。02Rなどのデジタル・ミキサーとVSシリーズのシステム構築には頭を悩ませた人も多いハズだが、これで解決だ。

さらに同社のミキサーVM-7000シリーズやVM-3100/Proを使用した場合は、専用R-BUSケーブル1本で接続でデジタル・オーディオの入出力が可能となり、8イン8アウト24ビット・レゾリューションの信号をデジタルのまま記録できる。24ビットのデジタル・ミキサーやPC用サウンド・ボードを導入している人(僕も含めて)にとっては待ちに待ったという感じであろう。また、VM-7000シリーズと接続した場合、VM側から本機の再生/ロケートを行なうこともできる。しかもR-BUS端子を3系統まで拡張できるVM-7000シリーズとの連携では、VSR-880を3台接続すれば24トラックの同時録音/再生が可能になるのだ。

駆け足で紹介してみたが、本機はその拡張性の高さやラック・マウント・モデルである事実を考えるならば、やはりスタジオのレコーダー・システムに組み込むのがベストと言える。同期における信頼性や、波形編集の扱いやすさはこれまでのVSシリーズで実証済みだし、既に他のVSシリーズを導入している人も、本機を2台目のレコーダーとして導入しても面白い。カスケードさせてトラック数を増やす用途はもちろん、例えばスタジオ・ワークを本機で行ない、ライブにはフィジカル・コントロールに優れた他のVSシリーズで、といった使い方もできるだろう。それに、何と言っても24ビット・ハード・ディスク・レコーダーがこの価格で手に入るのは最大の魅力。本機の登場によって、ますますVSシリーズがスタジオに常設されることを祈るばかりだ。

ROLAND

VSR-880

118,000円
※表示している価格はニュース掲載時点のものです。また税込/税抜についてはメーカーの表示したものに準じて記載しています。

【SPECIFICATIONS】

SPECIFICATIONS

■トラック数/トラック:8、Vトラック:128(8トラック×8Vトラック×2バンク)
■最大同時録音トラック数/8
■最大同時再生トラック数/8(サンプリング周波数48kHzの場合は6)
■最大記憶容量:32GB
■記憶ソング数/200(各パーティション)
■イコライザー/HI/MID/LOW(8チャンネル)、HI/LOW(16チャンネル)
■レコーディング・モード:VSR、MAS、CDR、MT1、MT2、LIV
■AD変換:24ビット、64倍オーバー・サンプリング
■DA変換:24ビット、128倍オーバー・サンプリング
■サンプリング周波数/48kHz、44.1kHz、32kHz
■周波数特性/48kHz:20Hz〜22kHz(±0.2dB)、44.1kHz:20Hz〜20kHz(±0.2dB)、32kHz:20Hz〜14kHz(±0.2dB)
■デジタル入出力/S/P DIF(コアキシャル、オプティカル)、R-BUS(25ピンD-sub)、
■アナログ入出力/インプットA/B(TRSフォーン)、インプット1〜8(RCAピン)、マスター・アウトL/R(RCAピン)、AUXアウトA/B(RCAピン)、FX1アウトL/R(RCAピン)、FX2アウトL/R(RCAピン)、ヘッドフォン
■MIDI/IN、OUT/THRU
■SCSI/25ピンD-sub
■電源/AC100V(50/60Hz)
■別売内蔵ハード・ディスク/HDP88-3200(32GB/オープン・プライス)
■外形寸法/482(W)×88.9(H)×308(D)mm
■重量/4.75kg(ハード・ディスクおよびエフェクト・エキスパンション・ボードを除く)

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