Chester Beattyが使う Studio One 第3回

ミュージシャンが使うStudio One by Chester Beatty 2019年8月23日

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第3回 スピードが求められる広告音楽制作に
S1を活用している理由

Chester Beattyです。先月より日本レコーディングエンジニア協会(JAREC)の理事となりました。JARECではエンジニアの技術向上、著作隣接権獲得を目指し活動しています。レコーディング/ミックス・エンジニアに興味のある方はぜひ参加ください。さて今回は、広告音楽制作の中でどのようにPRESONUS Studio One(以下S1)を使っているかお伝えします。

オーディオ/映像を問わず
数多くのフォーマットに対応

広告音楽の世界に入り何より驚いたのは、すべての工程が“素早い”ことです。案件受注から打合せ、作家手配、スタジオ予約、演者要請、レコーディング、ミックス、MA(ナレーションや音の調整を行う作業)などが、案件によっては“明日までにお願いいたします”という場合も……。もちろん早いだけでよいわけではなく、質の高さが当たり前の世界。この工程のスピードに対応するため、音楽制作会社らは独自のノウハウを持っているのですが、筆者の所属するラダ・プロダクションはS1を使用することで、この流れをさらに加速させています。

ノウハウの前に、先日制作したABCマートさまのHAWKINSビジネス・シューズのCMを例に、広告音楽制作の工程を簡単に説明します。まずは初回の打合せで、映像ディレクターの富田兼次氏とともにブランドの背景や商品の特色、メイン・ターゲットを話し合います。通気性に優れたビジネス・シューズという特色を生かし、“梅雨でも晴れやかな初夏を感じさせる楽曲”というコンセプトを固め、さらにブランドがUK発ですから、軽快なホーンが入る1980年代風のUKジャズ・ロックに決定。ホーンや弦のアレンジが得意な弊社の作家、菊地晴夏がDAWにてプリプロを完了します。ここでABCマートさまにOKをいただき、FREEDOM STUDIOのエンジニア木村太郎氏にプリプロの音源を渡して、サックスなどの録音を依頼。これでようやく音の素材がそろい、余裕のあったスケジュールもミックスを残して最終MAまで残り2日となります。

ここからがS1で実践しているノウハウです。当該案件では楽曲完成までに都合3種類のDAWを使ったので、すべての工程において素材の受け渡しはパラのWAVファイルで行いました。しかし最近はスマートフォンにまつわる音楽制作やインタラクティブな案件も多く、WAV以外のさまざまなファイル形式で受け渡しすることもあります。S1は以前から多様なファイル・タイプのインポート/エクスポートに優れていましたが、先ごろローンチされたバージョン4.5でさらに拡張。例えば、インポートした映像ファイルのエクスポートなどにも対応しました(QuickTime、MPEG-4、MPEG-PS、M4V、ASF)。また、アドオンのAudio Batch Converter(5,000円)を入手すれば、任意のオーディオ・ファイルをさまざまなフォーマットに変換できるので安心感が違います(WAV、AIFF、FLAC、Ogg Vorbis、CAF、M4A、MP3)。これで、ファイル受け渡し時のトラブルに悩まされず作業が行えます。

▲Studio One 4.5から実装された映像エクスポート機能の画面。インポートした映像ファイルに音声を付け、新しい映像ファイルとして書き出すことができます。エクスポート可能なフォーマットは、MacではQuickTime、MPEG-4、M4V。WindowsにおいてはMPEG-PS、MPEG-4、M4V、ASF。映像フォーマットや映像/音声のコーデックは画面の左下からプルダウンで選択可能(赤枠)

▲Studio One 4.5から実装された映像エクスポート機能の画面。インポートした映像ファイルに音声を付け、新しい映像ファイルとして書き出すことができます。エクスポート可能なフォーマットは、MacではQuickTime、MPEG-4、M4V。WindowsにおいてはMPEG-PS、MPEG-4、M4V、ASF。映像フォーマットや映像/音声のコーデックは画面の左下からプルダウンで選択可能(赤枠)

 

手間のかかる作業を効率化し
ユーザー・プリセットも組めるマクロ

2つ目のノウハウは“アウト・オブ・ボックス”。S1を16trのレコーダーとして操作します。この場合、ミックス時に必要なEQやコンプ、その他のプロセッシングはS1の中(=イン・ザ・ボックス)では行わず、外部コンソールのEQなどを使用。S1標準装備のプラグインには素晴らしいものが多く、腰を添えてじっくりミックスするにはいいのですが、時間を短縮するためにコンソールのEQやコンプのノブを手で直接操作すれば、けた違いに素早くミックス・ダウンできます。

しかし、その反面アウト・オブ・ボックスなりの難点もあります。まずアンドゥができません。弊社は1970年代のMCI製アナログ卓を使っていますので、“2回前のボーカルのEQ、良かったな”などと思っても、簡単には戻れません。さらにオートメーションはおろか、ミックスのリコールもできません。CM音楽の現場ではリコールの要請が多く、これをコンソールで行えないのは大変痛手です。だからこそS1でカバーするのです。

例えばボーカルなど、アンドゥが予想されるトラックはアウトボードを再現したFat Channel XTのFET Compなどで作業し、OK時には実機のUREI 1176に差し替えたりします。

 

▲標準搭載のプラグイン・チャンネル・ストリップFat Channel XTの中に用意されたFET Comp。UREI 1176をシミュレートしたと思われるコンプで、かかり方も実機とほぼ同じの優秀なプラグインです。弊社では、このFET Compで音作りを行い、最終的に実機に差し替えます。Fat Channel XTには、このほかTELETRONIX LA-2Aを意識したコンプやPULTEC EQP-1AのようなEQが用意されており、それらを組み合わせて1つのプラグインとして使用することが可能です

▲標準搭載のプラグイン・チャンネル・ストリップFat Channel XTの中に用意されたFET Comp。UREI 1176をシミュレートしたと思われるコンプで、かかり方も実機とほぼ同じの優秀なプラグインです。弊社では、このFET Compで音作りを行い、最終的に実機に差し替えます。Fat Channel XTには、このほかTELETRONIX LA-2Aを意識したコンプやPULTEC EQP-1AのようなEQが用意されており、それらを組み合わせて1つのプラグインとして使用することが可能です

オートメーションに関しては、PRESONUS FaderPortでサクっと設定。リコールの要請に対しては、楽器の属性ごとにバスを組んでおくことで、素早く対応できるようにしています。バスはドラムやボーカル、ホーンといった分類で卓上にて組んでおり、それらを2ミックスとともにS1へ録音。書き出したオーディオ・ファイルをMAに納品する形です。

▲弊社で使用しているPRESONUSのUSBコントローラー、FaderPort Classic。1,024ステップのレゾリューションを持つタッチ・センス式の100mmフェーダーが備わっているので、DAWのフェーダーなどにオートメーションを描く際、細かいところまで設定することが可能

▲弊社で使用しているPRESONUSのUSBコントローラー、FaderPort Classic。1,024ステップのレゾリューションを持つタッチ・センス式の100mmフェーダーが備わっているので、DAWのフェーダーなどにオートメーションを描く際、細かいところまで設定することが可能

 

▲行品のFaderPort (22,963円)。シリーズ機種として、8本のフェーダーを備えたFaderPort 8(60,000円)と16本のフェーダーのFaderPort 16(115,741円)もラインナップされています

▲行品のFaderPort (22,963円)。シリーズ機種として、8本のフェーダーを備えたFaderPort 8(60,000円)と16本のフェーダーのFaderPort 16(115,741円)もラインナップされています

 

3つ目のノウハウはマクロです。S1にはマクロエディターがあり、これを覚えるとかなり作業が速まります。例えばジャストなリズムで、ベロシティもすべて同じ数値で打ち込まれたピアノのMIDIデータがあったとします。これを“ヒューマンなノリにしつつ、ベロシティは60〜100%の間でランダムにしてほしい”と言われたら、どうしますか? S1なら、何と数クリックで完了。こんなに手間な操作をまとめて自動化する機能がマクロです。S1にはたくさんのマクロが用意されており、自分で欲しいものを作ることもできます。

筆者がマクロの中で多用するのが“Decrease Volume −3dB”。これは、オーディオ・イベントをクリックすると3dB落としてくれるというだけの機能なのですが、とても助かります。弊社のようにアナログ卓でミックスを行う場合、音量の基準としてファイルの最大音量を決めるのですが(例えば−12dBなど)、外部の作家の方やスタジオから送られてくるファイルの音量はまちまちです。なので、毎回ミックス前に全ファイルの音量調整をするので、このマクロがあればかなりの効率化が図れます。

▲ツール・バーのマクロ・アイコン(赤枠)を押すと、マクロ用のツール・バー(黄色)を表示することができます。そのツール・バーには、よく使われるであろうマクロのプリセットがボタンとして並んでいます

▲ツール・バーのマクロ・アイコン(赤枠)を押すと、マクロ用のツール・バー(黄色)を表示することができます。そのツール・バーには、よく使われるであろうマクロのプリセットがボタンとして並んでいます

 

▲マクロのツール・バーにはEditというメニューもあり、そこのActionというプルダウンからさまざまなマクロを選んで実行することが可能

▲マクロのツール・バーにはEditというメニューもあり、そこのActionというプルダウンからさまざまなマクロを選んで実行することが可能

さてさて今回のまとめです。
①S1は、さまざまなフォーマットのファイルのインポート/エクスポートに優れている
②S1はデジタルとアナログの良さを保ちつつ作業ができる
③マクロを覚えると段違いに作業が速まる

レコーディングの現場で1176がもてはやされるのは、音質の良さとともに、思った音に素早くアプローチできるその操作性にあります。S1も同様、音質の良さに加えてマクロなど柔軟な操作性を備え、望みの音へスピーディに到達できるDAWソフトです。

 

 

*Studio Oneの詳細は→http://www.mi7.co.jp/products/presonus/studioone/

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