Chester Beattyが使う Studio One 第2回

ミュージシャンが使うStudio One by Chester Beatty 2019年7月26日

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第2回 Impact XTとクオンタイズ機能で
“ゲットー・ハウス”のグルーブを作る

Chester Beattyです。今回はニーナ・クラヴィッツも敬愛する“ゲットー・ハウス”をPRESONUS Studio One(以下、S1)にて制作する方法をお伝えします。

リズム・マシンのシャッフル機能で
スイング感を出すのが肝

まずはゲットー・ハウスの紹介から。“ゲットー・ハウスとは、クラブで腰をブリンブリンに振って踊らせる音楽なんだ”とはDJ Slugoの言葉。あおりまくるFワード満載の“マイク・パフォーマンス”、それに絡み合うキレッキレでデチューンしまくりの“リード音”。そして、聴いているだけで腰がブリンブリンに動き始める“独特の揺れたリズム”が特徴と言えます。ですが、そもそも“揺れたリズム”って何?

DJ Funkが以前こんなことを言ってました。“Chesterいいか、ゲットー・ハウスを作るには4つの機材が必要だ。ROLANDのTRシリーズ、ENSONIQもしくはE-MUのサンプラー、AKAI PROFESSIONALのMPCシリーズ、それに……(これナイショ、キーボードです)”と。何と4つの機材の中、3つがリズム・マシン、もしくはそれと同等の働きをするものです。よくよく考えるとその3つには、ある共通の機能が搭載されています。そう、シャッフルです。ジャストなタイミングで作られたリズムが、このシャッフル機能をオンにすると、スウィングした揺れのあるリズムに早変わりします。音楽理論では“三連中抜きのリズム”、楽器メーカーは“マシンのリズムに人間のノリを”と説明しますが、ゲットー・ハウスでは“自然に腰が動く魔法のリズム”と覚えてください。ソウルフルでグルービーな横乗りのリズムを作ろうと思ったら、迷わずシャッフルです。

TRシリーズが多く使われたゲットー・ハウス初期のトラックでは、このシャッフル機能が多用されています。例えばTR-909にはシャッフルが全部で7パターンあり、4番以降のパターンを使ってハネたリズムを作り出しました。

▲初期のゲットー・ハウスで多用されていたROLANDのリズム・マシンTR-909。現在はTR-909スタイルのサンプルが数多く発売されているので、そういったものを使用してDAWでトラック・メイクするのが主流だ

▲初期のゲットー・ハウスで多用されていたROLANDのリズム・マシンTR-909。現在はTR-909スタイルのサンプルが数多く発売されているので、そういったものを使用してDAWでトラック・メイクするのが主流だ

 

その後に登場したMPCシリーズによって、TRシリーズとは違う独特のスウィング感を伴ったトラックが誕生します。こちらはパターンではなくパーセンテージで表示し、50%でスウィング無しのジャストなリズム。最高は75%となり、ここまで来るとほぼズレたリズムになります。もちろんJ・ディラのヒップホップのように、シ
ャッフル機能を使わず自身のグルーブによって作り出された楽曲もありますが、マシンによるスウィング感はトラック作りで大事な要素。昔はこのスウィング感を作るため、高価なTRシリーズやMPCシリーズを買いましたが、今はS1があればマシン以上の“揺れたリズム”が作れます。

▲AKAI PROFESSIONAL MPCシリーズの名機、MPC3000。ヒップホップなどでも使用された

▲AKAI PROFESSIONAL MPCシリーズの名機、MPC3000。ヒップホップなどでも使用された

 

好きな曲のグルーブを
MIDI情報として抽出する

使用するインストゥルメントは、S1のProfessional/Artistグレードに標準搭載されたサンプル・ベースのパッド搭載型リズム・マシンImpact XT。マニュアル要らずの操作性で、キックやスネアなどの単体のオーディオ・ファイル(ワンショット)を好きなパッドにドラッグ&ドロップすれば、アサインが完了します。あとは任意のMIDIキーボードやPRESONUS Atomなどのパッド搭載型コントローラーをつなぐと、フィジカルなリズム・マシンの出来上がりです。え? ワンショットを持っていない? 大丈夫です。身近にあるドラム・ループなどをshiftキー(Mac)/Shiftキー(Windows)を押しながら画面上部のウィンドウにドラック&ドロップすれば自動的にスライスされ、キックやハイハット、スネアなどが単体で各パッドに割り当てられます。こんなに素晴らしいインストゥルメントが、S1には標準搭載されているのですよ。まずはこのImpact XTでドラム・パターンを組んでみましょう。

▲Impact XTは、MPCシリーズをほうふつさせるパッド搭載型のソフトウェア・インストゥルメント。上部のウィンドウ(波形が映っている部分)にドラム・ループをshiftキー(Mac)/Shiftキー(Windows)を押しつつドラッグ&ドロップすると、アタックの位置で自動スライスされ、生成された断片=ドラムのワンショットがパッドにアサインされる

▲Impact XTは、MPCシリーズをほうふつさせるパッド搭載型のソフトウェア・インストゥルメント。上部のウィンドウ(波形が映っている部分)にドラム・ループをshiftキー(Mac)/Shiftキー(Windows)を押しつつドラッグ&ドロップすると、アタックの位置で自動スライスされ、生成された断片=ドラムのワンショットがパッドにアサインされる

 

次にシャッフルのやり方。これは2つあります。まずは他人のグルーブをジャック(拝借)する方法から。“これ、格好良く揺れているな〜”と思う楽曲をアレンジ画面に張り付け、ドラムだけの個所を切り取ってループを作ります。次にオーディオ・イベント(波形)をダブル・クリックして波形エディターを開き、トランジェントを検出。最後にこのトランジェント検出後の波形をImpact XTのインストゥルメント・トラックにドラッグ&ドロップすると、MIDIのタイミング情報とベロシティが書き出されます。このタイミング情報が独自の揺れ=シャッフルになります。

▲波形エディターでトランジェント=アタックを検出したところ。波形の右クリック・メニューもしくはS1画面上部の“オーディオ”メニューから“トランジェントを検出”を選択すると、この画面のように水色の縦線でその位置が示される

▲波形エディターでトランジェント=アタックを検出したところ。波形の右クリック・メニューもしくはS1画面上部の“オーディオ”メニューから“トランジェントを検出”を選択すると、この画面のように水色の縦線でその位置が示される

 

掲載しているスクリーン・ショットはEric Martin「Hit How U Want 2」のイントロをドラム・ループ化し、MIDIの情報を抽出したものです。見ても分かる通りグリッドから思い切りズレています。ジャストなリズムならC1からD#2までのタイミング情報が斜めに真っ直ぐ並ぶはずが、緩やかな弧を描いた並びになっています。このズレが、ゲットー・ハウスの“揺れ”を作り出しているのです。それに合わせて、先ほど作ったオリジナルのリズム・パターンを再構成します。自分が打ち込んだハイハットなりスネアなりのノート位置やベロシティを、検出されたMIDI情報に合わせていく形です。これで、あっと言う間に自然に腰が動く魔法のリズムの出来上がりです。

2番目のやり方はS1のグルーブをハックする方法。簡単に説明すると倍速でトラックを作るというやり方です。S1はいろいろなクオンタイズのテンプレートを持っており、それだけでも十分に揺れたリズムを作ることができますが、ゲットー・ハウスやヒップホップでは、倍速にすることでより細かいところにノートを配置できるようにしています。例えば136BPMの場合は、倍の272BPMにセット。シャッフルのテンプレートを“1/8 80%sw”や“1/16T” に設定しリアルタイムで打ち込んでいくと「HIT IT HOW U WANT 2」に近いズレが作れます。もともとこのやり方、E-MU SP-1200やMPCシリーズなどで日常的に使われた方法なのですが、S1とImpact XTでやってみると、非常に相性がいいのです。

▲トランジェント検出後のオーディオ・クリップをインストゥルメント・トラックにドラッグ&ドロップすると、各トランジェントの位置や強さがMIDI情報に変換され、MIDIクリップが生成される。そのMIDI情報を参照しつつ、自らのドラム・パターンを調整すればグルーブを反映することが可能

▲トランジェント検出後のオーディオ・クリップをインストゥルメント・トラックにドラッグ&ドロップすると、各トランジェントの位置や強さがMIDI情報に変換され、MIDIクリップが生成される。そのMIDI情報を参照しつつ、自らのドラム・パターンを調整すればグルーブを反映することが可能

 

さてさて今回のまとめです。
①リズム作りには“ズレ”=“シャッフル”が重要
②Impact XT+S1の機能でシャッフルの効いたリズムを作る場合、2つの方法がある

音楽を制作するためのツールの良し悪しは、いい音で鳴るか、気持ちの良いリズムを作れるかが決め手になります。S1は、実機が無いと作れないと思われていたゲットー・ハウスやヒップホップ、フットワークなどのダンス・ミュージックもいとも簡単に作り出すことができます。もちろんマシンのノリを再現できると言うことは、人間のノリも作れるということなのですが、これは別の機会にお話ししましょう。

 

*Studio Oneの詳細は→http://www.mi7.co.jp/products/presonus/studioone/

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