【音響設備ファイル Vol.52】Hi-NODE

音響設備ファイル by Text:iori matsumoto Photo:Hiroki Obara 2019年10月1日

HiNode_Mai

この8月、東京・日の出ふ頭にオープンしたHi-NODE(ハイノード)。“海辺と暮らしの新しい関係を築く新施設”というコンセプトの下、飲食店を併設した船客待合所だ。地域の憩いの場としても開放されており、727㎡の広場も設けられている。この広場を中心に、サウンド面での演出やシステム・デザインについて関係者に聞いた。

耐塩性も確保した同軸スピーカーAWC129

 JR浜松町駅から徒歩9分、ゆりかもめ日の出駅から徒歩4分に位置している日の出ふ頭は、水上バスや東京湾クルーズの出発点。特に外国人観光客が増えた昨今では、お台場・有明といった臨海新都心の人気エリアと都心とのハブとして機能している。

 そんな交通の要所に、この8月初頭、Hi-NODEというスペースが誕生した。船客待合所と2軒の飲食店、そして芝生広場を備え、単なる港湾施設ではなく、パブリック・スペースとしての位置付けもあるという。このプロジェクトに携わってきたNREG東芝不動産の内田賢吾氏はこう説明してくれた。

 「日の出ふ頭は東京都の所有で、弊社はこのエリアの近隣で“芝浦一丁目計画”という内閣府・国家戦略特区のプロジェクトを進めています。その一環で、地域への貢献としてこの水辺の空間の開発をしようとしたのが、Hi-NODEが生まれた経緯です。船に乗ったり、水辺を楽しんだりと、都会でありながら自然に触れられる空間にしたい。同時に、人が集まるにぎわいのある場にもしたいのですが、騒音で近隣にご迷惑をおかけするのは困ります。そう考えていました」

 そんな折、内田氏は企画アドバイザーの小橋賢児氏からstudio SpaceLab代表の瀬戸勝之氏を紹介される。瀬戸氏はサラウンドなどの“3Dサウンド”を得意とする作曲家/サウンド・デザイナーで、自身の作品発表やDJのほか、商業施設では池袋サンシャインシティや同水族館/展望台、NEW BALANCE SHOPなどのサウンド・デザインを手掛けている。

 「都会の中心からわずかに外れただけで自然が感じられる。そんなコンセプトを最初に話しましたね」

 そう語る瀬戸氏は、Hi-NODEのために延べ9日間にも及ぶフィールド・レコーディングを東北や長野、沖縄で敢行。これをマルチチャンネル素材として、その組み合わせでサウンドの演出をしている。

 「虫の声、鳥の声、風の音……季節ごとに、朝/昼/夜という3つの時間帯に合わせたソースをマルチチャンネルで用意しています。中心となるのは待合所の8chで、これは24ビット/96kHzのソースをADAM AUDIO A5X×8基で再生し、耳に聴こえない超音波も使ってリラックス効果を高めました。そのほか、館内に4ch、そして外の芝生広場に14chと、合計26chのマルチ素材を使い、チャンネルの相関も考慮したサウンド・デザインをしています」

 727㎡もある芝生広場に目を向けると、8つのポールに計14基のスピーカーがマウントされている。ここにチョイスされたのは、JBL PROFESSIONALの全天候型スピーカーAWC129。防塵・防滴をうたうスピーカーは多いが、AWC129はIP56準拠の防塵・防滴性能に加え米軍規格MIL-STD-810にも準拠し、塩水や紫外線への耐性も確保されている。海辺の現場には最適なモデルだ。先述のサンシャインシティで採用した例があるという瀬戸氏は、その印象をこう語る。

▲Hi-NODEの2階テラスから見た芝生広場。水色の高架はゆりかもめで、左(南南西)に進むと最寄りの日の出駅、右(北北東)が竹芝駅につながる

▲Hi-NODEの2階テラスから見た芝生広場。水色の高架はゆりかもめで、左(南南西)に進むと最寄りの日の出駅、右(北北東)が竹芝駅につながる

 

▲屋外用のスピーカーはJBL PROFESSIONAL AWC129で、写真は全14基のうちの2基。12インチ・ウーファーと1インチ・ツィーターの同軸ユニットを採用し、周波数特性は55Hz〜20kHz(−10dB)、最大音圧レベル128dB(ピーク)、許容入力400W。IP56の防塵・防滴性能に加え、米軍のMIL-STD-810に準拠し、塩水や紫外線への耐性も備えている。取材時は雨が降った直後で、グリルが濡れているのが見て取れる

▲屋外用のスピーカーはJBL PROFESSIONAL AWC129で、写真は全14基のうちの2基。12インチ・ウーファーと1インチ・ツィーターの同軸ユニットを採用し、周波数特性は55Hz〜20kHz(−10dB)、最大音圧レベル128dB(ピーク)、許容入力400W。IP56の防塵・防滴性能に加え、米軍のMIL-STD-810に準拠し、塩水や紫外線への耐性も備えている。取材時は雨が降った直後で、グリルが濡れているのが見て取れる

 「同軸2ウェイなので定位が明快で、位置調整もしやすいので、サラウンドに最適です。自然音の再生だけでなく、イベントでのライブやDJなどでもPAスピーカーとして使う想定なので、待合室のような超高域再生とは全く違う発想。しっかりとバランス良く鳴ってくれることを重視しました。また、これまでの現場で、安定していて、壊れにくいことも分かっています。弊社が監修する現場は、面白く新しいコンテンツは当然なので、重点を置いているのはセキュリティ。トラブルがあったときにすぐ代理店のヒビノさんが対応してくれるし、部品もちゃんとストックされている。音響スタッフが常駐しない商業施設では、シンプルかつ安全であることが大事なんです」

▲左がNREG東芝不動産で日の出ふ頭プロジェクトを担当する内田賢吾氏、右がサウンド・デザインを手掛けたstudio SpaceLab代表の瀬戸勝之氏

▲左がNREG東芝不動産で日の出ふ頭プロジェクトを担当する内田賢吾氏、右がサウンド・デザインを手掛けたstudio SpaceLab代表の瀬戸勝之氏

 
 

シンプルな操作で多用途に対応するUI24R

▲ラック内は上から、ミキサーのSOUNDCRAFT UI24R×2、オーディオ・インターフェースのANTELOPE AUDIO Orion 32+、APPLE MacBook Pro。MacBook ProにはOrion 32+のコントロール・パネルと自然音のループ・プレーヤーとして使っているABLETON Liveが立ち上がる。右のAPPLE iPadはUI24Rのコントロール用。ラック上のディスプレイやラック右のトラック・ボールは、UI24Rから有線で直結した、コントロール系統のバックアップとして用意されたもの。2台のUI24RはLANケーブルでカスケード接続され、1台のiPadで同時に操作できる。今後のアップデートにより、音声信号を共有し1台のミキサーとして動作させたり、照明の制御まで統合するプランもあるとのこと

▲ラック内は上から、ミキサーのSOUNDCRAFT UI24R×2、オーディオ・インターフェースのANTELOPE AUDIO Orion 32+、APPLE MacBook Pro。MacBook ProにはOrion 32+のコントロール・パネルと自然音のループ・プレーヤーとして使っているABLETON Liveが立ち上がる。右のAPPLE iPadはUI24Rのコントロール用。ラック上のディスプレイやラック右のトラック・ボールは、UI24Rから有線で直結した、コントロール系統のバックアップとして用意されたもの。2台のUI24RはLANケーブルでカスケード接続され、1台のiPadで同時に操作できる。今後のアップデートにより、音声信号を共有し1台のミキサーとして動作させたり、照明の制御まで統合するプランもあるとのこと

 
 自然音再生では14基のAWC129からそれぞれ別のサウンドが奏でられるが、PAとしての使用では1つのポールにマウントされた2基1組として使用することもあるそう。また、外部からPAカンパニーが入る際には、持ち込みのコンソールから常設スピーカーなどのアウト系システムに接続しなければならない。そうした信号の中枢として、SOUNDCRAFTのラック型デジタル・ミキサー、UI24Rを2台導入。屋内のサウンドはオーディオ・インターフェースからパワード・モニターA5Xに直結されているが、屋外への回線はすべてUI24Rを経由することになっている。瀬戸氏はこう説明してくれた。

 「自然音を再生するオーディオ・インターフェースにすべて一度入力する方法では、バッファーのレイテンシーが生じてしまいます。リアルタイムで、かつ誰でも使えるようにAPPLE iPadで操作するタイプのミキサーがいいと思っていたところ、ヒビノさんからUI24Rを勧められました。とにかく使いやすくて、音も素直。商業施設の機材室はあまり広さが取れないので、ラック内でスペースを取らない点もありがたいです」

▲UI24RはWi-Fi接続した端末のWebブラウザーから操作可能。管理者以外が設定変更を行わないように、操作画面をカスタマイズして必要最小限のフェーダーのみ表示させている

▲UI24RはWi-Fi接続した端末のWebブラウザーから操作可能。管理者以外が設定変更を行わないように、操作画面をカスタマイズして必要最小限のフェーダーのみ表示させている

 

▲パワー・アンプはCROWN CDI4|300×3基とCDI2|300×2基で、AWC129×14基分をまかなう

▲パワー・アンプはCROWN CDI4|300×3基とCDI2|300×2基で、AWC129×14基分をまかなう

 “iPadでの操作”と瀬戸氏が語るのは、日常のオペレーションを専門知識の無い施設一般スタッフが行うことを想定してのもの。操作画面もフェーダー数を絞るなど、ミスが起きないようにカスタマイズされている。自然音再生からPAへの設定変更もスナップショットの切り替えで簡単に行える。

 「14基のAWC129に分散したのは、3Dサウンドのこともありますが、L/Rスピーカーの大音量で鳴らすのではなく、たくさんのスピーカーでエリアごとにカバーする発想です。それに加えて、各出力に対するリミッターをUI24Rでかけて、近隣の迷惑になる音量には絶対上がらないようにしてあります。近隣のレストランにこのくらいの音量で問題ないかを確認しました」

▲芝生広場のウッド・デッキはステージとして使用されることもあるとのこと。白い円で囲んだのがAWC129(それぞれ2基ずつ)で、5.1chサラウンド映画の試写イベントなどの場合は、左の3ペアがL/C/Rになることを想定している。実は芝生は人工芝なのだが、「自然音を再生していたら、たった1カ月で本当に虫が集まってきました」と瀬戸氏

▲芝生広場のウッド・デッキはステージとして使用されることもあるとのこと。白い円で囲んだのがAWC129(それぞれ2基ずつ)で、5.1chサラウンド映画の試写イベントなどの場合は、左の3ペアがL/C/Rになることを想定している。実は芝生は人工芝なのだが、「自然音を再生していたら、たった1カ月で本当に虫が集まってきました」と瀬戸氏


 
▲芝生広場の反対側で、円で囲った部分がAWC129。5.1chサラウンドでは内側の2基もしくは外側の4基をリア側として使う。運河を挟んで中央右奥に見えるのがホテルインターコンチネンタル東京ベイ、左から2つ目のポールの背後にあるのがパーティ会場としてもしばしば用いられるレストランのツキ シュール ラメールで、こうした商業施設への音量を配慮したシステム・デザインを瀬戸氏が行っている

▲芝生広場の反対側で、円で囲った部分がAWC129。5.1chサラウンドでは内側の2基もしくは外側の4基をリア側として使う。運河を挟んで中央右奥に見えるのがホテルインターコンチネンタル東京ベイ、左から2つ目のポールの背後にあるのがパーティ会場としてもしばしば用いられるレストランのツキ シュール ラメールで、こうした商業施設への音量を配慮したシステム・デザインを瀬戸氏が行っている


 
 

 こうして開業を迎えたHi-NODE。8月初頭には2,000人もの来客を迎えたオープニング・パーティが盛大に開催され、DJやライブが屋内外で行われたが、近隣からの騒音の苦情は無く、無事イベントを終えられたそうだ。Hi-NODEという名前は、地名とNode(結び目)とのダブル・ミーニングだが、この場所がこれから“新たな結び目”を作っていくのだろう。

 

TUNECORE JAPAN