【音響設備ファイル Vol.51】ブレックスアリーナ宇都宮

音響設備ファイル by Text:iori matsumoto Photo:Takashi Yashima(except notified) 2019年9月2日

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プロバスケットボールリーグB.LEAGUEで活躍するチーム、宇都宮ブレックス。拠点とする“ブレックスアリーナ宇都宮”の天井には、2018-19シーズンからラインアレイ・スピーカーのJBL PROFESSIONAL VRX900 Seriesがフライングされることになった。バスケットと音響設備強化の接点をチーム関係者へ取材していこう。

音はエンターテインメントに不可欠な要素

 B.LEAGUEのB1に所属する強豪チーム宇都宮ブレックス。チーム運営会社である株式会社栃木ブレックスの藤本光正氏は、チームのビジョンとして“非日常のアリーナエンターテインメントを提供する”を謳っていると語る。

 「栃木県は、大都市に比べたらそれほどエンターテイメントがありふれているわけでありません。そんな日常の中で、宇都宮ブレックスの試合に行くと、いつもと違う空間に入れて、いつもと違う感情を表出できる……そういう体験をお客様に提供したいと考えています」

 プロ選手の優れたプレイに限らず、アリーナに着いてから帰るまでのすべての体験を、エンターテインメントとして提供したいと藤本氏は考えているそうだ。

 「試合の勝敗や選手の人気だけに依存することはリスクが多いです。筋書きが無いスポーツであるからこそ、試合の内容によって商品価値がアップ・ダウンしてしまう。ビジネスとしてその部分をヘッジする意味で、エンターテインメントの演出でいかにお客様に満足いただくかが重要になっていきます」

試合開催時のブレックスアリーナ宇都宮。スタンドが黄色とネイビーのチーム・カラーに染まる。コートを囲むように1階席が設けられる

試合開催時のブレックスアリーナ宇都宮。スタンドが黄色とネイビーのチーム・カラーに染まる。コートを囲むように1階席が設けられる

 

 藤本氏をはじめフロント・スタッフは国内外のさまざまなプロ・スポーツや他ジャンルのエンターテインメントを研究。エントランスやアリーナ全体の雰囲気作りに始まり、マスコット・キャラクターやチア・リーダー、ゲストによるパフォーマンスなどを取り入れている。その中でも重視している要素が、映像と光、そして音だという。

 「その一環としてつり下げ式の4面LEDビジョンと、2階の手すり前のリボン・ビジョンを設置しました。音と連動させた映像……拍手をあおりたいときに手拍子の画像を映しながら音を出すとか……そういうシンプルな演出でも、お客様の没入感が変わってくるんです」

選手紹介時の演出。光と映像と音が演出に欠かせないという

選手紹介時の演出。光と映像と音が演出に欠かせないという

 

 チームのホーム・アリーナである“ブレックスアリーナ宇都宮”は、1979年に市営の宇都宮市体育館として竣工。現在もB.LEAGUEの試合以外は、体育館として市民に開放されている。前述のスクリーンも、そして本稿の主役であるスピーカーも市と交渉してチームが設置したものだそうだ。

 

音質改善だけでなく諸問題も一挙に解決

 市営の体育館であるこのブレックスアリーナ宇都宮、常設スピーカーではチームが望むようなエンターテインメントの演出は難しかった。そこで以前からPAカンパニーにオファーし、スピーカーもチームで購入していたと藤本氏。

 「購入したスピーカーは当初、フロアに設置していました。ところがフロアのコーナーに置かざるを得ないので、席によって聴こえづらかったり、逆に音が大き過ぎたりといった問題が生じていたんです。そこで昨年の夏に、ヒビノさんにご相談して天井にフライングすることにしました。ただし、建物の構造上、荷重制限があります。その範囲内で最適解を探っていただきました」

 出された解は、1階席〜3階席をJBL PROFESSIONAL VRX932LA-1×3のアレイで垂直方向にカバー。サブウーファーのVRX918Sをアレイに組み込んで、低域強化も狙う。このアレイ×10本をアリーナ中央から外側へ向けて並べ、客席全体をカバーするという方法だ。アレイの数倍の耐荷重性能を持つスイベル(自在金具)を用いて、アレイの角度、すなわちカバー・エリアを調整したという。

メインのスピーカー・アレイはJBL PROFESSIONAL VRX932LA-1×3とサブウーファーのVRX918Sで構成。アレイの向く方向はアレイ上部のスイベル(自在金具)で調整している

メインのスピーカー・アレイはJBL PROFESSIONAL VRX932LA-1×3とサブウーファーのVRX918Sで構成。アレイの向く方向はアレイ上部のスイベル(自在金具)で調整している


 

コートにも音声を届けるために、JBL PROFESSIONAL AM5212/95が4基、下向きに設置されている

コートにも音声を届けるために、JBL PROFESSIONAL AM5212/95が4基、下向きに設置されている


 

スピーカー・レイアウトのイメージ。A〜Cの10組が客席用アレイで、すべてVRX932LA-1×3とVRX918Sで構成。各アレイで1階席から3階席までカバーする。Dの4つは下向きのAM5212/95

スピーカー・レイアウトのイメージ。A〜Cの10組が客席用アレイで、すべてVRX932LA-1×3とVRX918Sで構成。各アレイで1階席から3階席までカバーする。Dの4つは下向きのAM5212/95

 

 過去2シーズン、宇都宮ブレックスのホーム・ゲームでのPAを担当しているエンジニア、亀井敬太氏は、VRX900 Series導入の効果をこう語ってくれた。

 「以前は、MCの方の要望を聞くと客席に問題が生じたりと、すべてをカバーするのは難しい状態でした。現在のシステムは、そうした問題は解消されましたね」

VRX900 Seriesの4つのアレイを一度に見たところ。先の図ではA-4〜B-4〜B-3〜A-3に相当する

VRX900 Seriesの4つのアレイを一度に見たところ。先の図ではA-4〜B-4〜B-3〜A-3に相当する

 

 パワー・アンプにはAMCRON(現CROWN)DCI 4|1250、前段のプロセッサーにはBSS AUDIO BLU-160を採用。客席を想定したチューニングを含む最終的なシステムのブラッシュアップはヒビノプロオーディオセールス Div.の大森健市氏が担当した。亀井氏はオペレートについてこう語る。

 「4〜5千人のお客様が入ると歓声とのせめぎ合いになりますが、VRX932LA-1は高域が遠くまで届いてくれるので、うまくまとまってくれます。僕自身、こうしたスポーツとエンターテインメントが融合した現場の経験は無かったので、開場から試合終了までの流れの中で、MCをサポートしてどうイベント全体のピークを作るのか、毎回考えながらオペレートしています」

アンプはAMCRON(現CROWN)DCI 4|1250×6台を使用。その下にはプロセッサーのBSS AUDIO BLU-160×2台とFURMANの電源モジュール、パッチ盤を用意。試合時はコンソールのI/Oをパッチに接続する

アンプはAMCRON(現CROWN)DCI 4|1250×6台を使用。その下にはプロセッサーのBSS AUDIO BLU-160×2台とFURMANの電源モジュール、パッチ盤を用意。試合時はコンソールのI/Oをパッチに接続する

 

▲コンソールのMIDAS M32は試合のたびに亀井氏が持ち込む

▲コンソールのMIDAS M32は試合のたびに亀井氏が持ち込む

 実際に昨シーズンはこのシステムで運用し、観客からの評判も上々だったという。藤本氏自身も、VRX900 Seriesをフライングした効果は絶大だったと語る。

 「バスケットボールはストリート・カルチャーともつながりが深く、場合によってはクラブ並みの音量を出すこともあります。お客様にきちんと音を届けることはもちろんですが、既存の体育館の設備ではまずありえないようなサウンドを作るという点で、ブレイクスルーできました」」

 そして藤本氏は最後に、スピーカーをフライングしたことで、エンターテインメントにおける音質の向上以外にも大きなメリットがあったと教えてくれた。

 「一つは客席確保。B.LEAGUEのB1クラブライセンス認定に際して、アリーナ要件は5千席が必要です。実はブレックスアリーナ宇都宮は以前、わずかに席数が足りなかったのでそこが改善項目だったのですが、スピーカーをフライングすることで、席数を増やせ、この大きな課題も同時に解決できたのです。もう一つは仮設スピーカー搬入/搬出の時間的コスト。フライングで常設にしたことで、人件費はもちろんですが、体育館の予約時間の短縮もできました」

 B.LEAGUEの新シーズンは10月に開幕し、ブレックスアリーナ宇都宮での初戦は10月19日(土)。ぜひここで熱いプレイとともに“非日常のエンターテインメント”を体感してみたいところだ。

左から、株式会社栃木ブレックス副社長の藤本光正氏と、同社でアリーナ運営やプロモーションに携わる松延凜氏。右は宇都宮ブレックスのホーム・ゲームでPAを手掛けるLip's Soundの亀井敬太氏

左から、株式会社栃木ブレックス副社長の藤本光正氏と、同社でアリーナ運営やプロモーションに携わる松延凜氏。右は宇都宮ブレックスのホーム・ゲームでPAを手掛けるLip’s Soundの亀井敬太氏

 

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