佐藤純之介が使う「Pro Tools」第1回

クリエイターが使うPro Tools by 佐藤純之介 2019年10月25日

PTJSHeader

ハードウェア・シンセを
Pro Toolsでの制作に取り入れる

 音楽プロデューサーの佐藤純之介と申します。高校生時代から読んでいるサンレコのこのコーナー(当時は「0-1 AVENUE」という名前でしたね)に寄稿できることを心より光栄に思います。まだDAWが普及し始めたばかりの2002年ごろからAVID Pro Toolsを徹底的にマスターし、ボーカル・エディットやミックスだけでなく、アレンジやリミックスにも柔軟に対応したことで、エンジニアにとどまらずプロデューサーとして指名いただけるようになり、今に至ります。今回の連載では楽曲の深みを増すためのハードウェア・シンセとの共存ノウハウについて説明いたします。

 

ソフト・シンセからの差し替えは
ピッチとタイミングに注意

 ソフト・シンセのブームも一段落した昨今、周波数特性をD/Aに制限されないアナログ・シンセサイザーやリズム・マシンが再び注目されており、続々と多彩な新製品が登場しています。ギター以外はソフト音源のみのアレンジであっても、ベースやキックをアナログ・シンセに差し替えるだけで、幅広いレンジ感や強いグルーブを演出できるようになります。プロの現場で言えば、競合との差別化に最適です。

 これまで多数の作品をこの手法で制作してきましたが、テレビCMで流れた瞬間であっても明確に分かるほど、他曲より音像がしっかりと感じ取られ、評判も非常に良かったです。今回は実際の楽曲制作で行ったシンセ・ベースの差し替え作業の流れを説明します。

 まず、Pro Tools側で必要なのはMIDIインターフェース、またはUSB-MIDI接続の設定となります。各種ドライバーのインストールを済ませ、コンピューターが認識しているかを確認してください。今回差し替え用に用意したシンセは、ROLAND SBX-1経由でMIDI接続したMOOG Minimoog Voyager XL。差し替えたいパートのMIDIトラックのアウトをSBX-1に、SBX-1のMIDI OUTに接続されたMinimoog Voyager XLの出力をオーディオ・インターフェースのライン入力に接続。そして録音用オーディオ・トラックを準備します。

ROLANDのシンク・ボックスSBX-1。MIDIに限らずCV/GateやDIN SYNCにも対応するので、多数のハードウェアを所有していると重宝する

ROLANDのシンク・ボックスSBX-1。MIDIに限らずCV/GateやDIN SYNCにも対応するので、多数のハードウェアを所有していると重宝する

▲MOOG Minimoog Voyager XL。モノフォニック・アナログ・シンセMinimoogの進化版

▲MOOG Minimoog Voyager XL。モノフォニック・アナログ・シンセMinimoogの進化版

 
この際、オーディオ・トラックにチューナーのプラグインを差して、チューニングがずれてないかをこまめに監視します。

Pro Toolsに付属するチューナー・プラグイン、InTuneを使用してピッチを確認する。InTuneはAAX Native/DSPのどちらにも対応。この画面ではストロボ・チューナー・モードで使用している

Pro Toolsに付属するチューナー・プラグイン、InTuneを使用してピッチを確認する。InTuneはAAX Native/DSPのどちらにも対応。この画面ではストロボ・チューナー・モードで使用している

 
 試しにオケに合わせて再生/録音してみると、差し替えるハードウェア・シンセ側が微妙に遅れて聴こえることが分かると思います。こちらを解消するには遅延補正がオフになっているかの確認をし、設定>プレイバックエンジンで“HWバッファサイズ”を下げることで多少改善されます。急いでいるときはこちらの方法で音を確認しながら録音し波形を目視してグリッドに合わせる方法でも修正対応可能ですが、これは根本的な解決にはなりません。これはそもそもMIDIインターフェースやシンセサイザー自体にも遅延があることによる問題ですので、完全にゼロにすることは不可能です。ですが、Pro ToolsのMIDIトラックでは再生時の遅延のオフセット機能を使用することで解決が可能です。

 オフセットの機能を使うためには、具体的にどの程度の遅延があるかを確認しなければいけません。冒頭1小節でも良いのでテスト録音をし、元のソフト・シンセやMIDIデータのグリッドを確認しつつ、録音したシンセの波形の頭がどの程度ずれているかを選択ツールで計測します。計測した分だけ、MIDIトラック・オフセットにマイナスの数値で入力すれば、遅延している分のタイミングが前にずれて再生されるので、結果的にジャストなタイミングでのMIDI再生→オーディオ録音ができるようになります。

同じMIDIデータで鳴らしたソフト・シンセ(上)とハードウェア・シンセ(下)。メイン・カウンターをサンプルにし、その範囲を選択すると、赤枠部のLength(日本語表示では“長さ”)に遅れ分がサンプル数で表示される

同じMIDIデータで鳴らしたソフト・シンセ(上)とハードウェア・シンセ(下)。メイン・カウンターをサンプルにし、その範囲を選択すると、赤枠部のLength(日本語表示では“長さ”)に遅れ分がサンプル数で表示される

イベント→MIDIトラックオフセットを開くと、サンプル数(またはms)単位でのMIDIトラックの遅延量を設定することができる。先ほど測った遅れの数値をマイナスの値で入れることで、その分前に出して再生が可能に(実際にはほかのトラックが遅れる)

イベント→MIDIトラックオフセットを開くと、サンプル数(またはms)単位でのMIDIトラックの遅延量を設定することができる。先ほど測った遅れの数値をマイナスの値で入れることで、その分前に出して再生が可能に(実際にはほかのトラックが遅れる)

 
 注意しなければいけないのは、ハードウェア・シンセの場合、機種によって音源エンジン部のチョイスやレイヤー、マルチかシングルかなどの音色ごとの要因で遅延の量が変化すること。面倒ですが毎回遅延を計測する必要があります。

 

シンセの音作りで後処理の負担減
ゲイン調整は音色のコントロールに

 設定ができたら、インプット・モニターの状態で再生し、実際のオケの中でシンセの音色をエディットします。歌やオケに対して、低域が出過ぎていないか?、キー・レンジは合っているのか?、フィルターの開き具合は?など、曲に合わせてつまみをいじりながら微調整することでより目的に近い音色を導き出すことが可能となるのです。そうしておくことで、ミックス時のプラグインを使った整音やEQが最小限で済むようになり、ハードのシンセが持つダイレクトな質感や太さを、完パケにまで残すことが可能になります。

 また、録音レベルについては、シンセ側のボリュームを最大にし、インターフェース側(プリアンプ)でひずまないようにゲイン調整するのが一般的な手順です。しかし、最近のインターフェースは優秀ですので、入力ゲインに余裕を持たせてクリアに録音してプラグインで積極的な音作りをするのもよいですが、ノイズの増加は覚悟でシンセ側のレベルを絞り、ライン入力のゲインを上げて倍音の付加を狙うのも有効だと思います。ひずむかひずまないかのギリギリのレベルを狙うことで、双方の機材のオーディオ的な個性が強調され、押し出しの強いサウンドにすることもできます。いろいろなレベル設定で複数のテイクを録音し、オケ中で確認することをお勧めします。

アナログ(ライン)でシンセを録音する際には、シンセの出力音量とプリアンプのゲインで音色をコントロールすることが可能。図は単体プリアンプを使用する例だが、オーディオ・インターフェース内蔵プリアンプでも同様の効果が期待できる

アナログ(ライン)でシンセを録音する際には、シンセの出力音量とプリアンプのゲインで音色をコントロールすることが可能。図は単体プリアンプを使用する例だが、オーディオ・インターフェース内蔵プリアンプでも同様の効果が期待できる

 
 このような設定や音作りを終えてようやく録音となります。ハードウェアの中でも特にアナログ・シンセサイザーは、電源を入れてからのアイドリング時間や、室温などの影響を受けることが多いので、チューニングに気を使いながら複数回録音しベストなコンディションのテイクを選びます。今回はモノフォニック・シンセでしたが、ポリフォニック・シンセだと和声の響きが濁らないようにチューニングを監視するのがさらに大変です。地味で時間かかりますが非常に重要な作業なので、気を抜かずモニター音とチューナーを常に確認をしながら録音をしてください。余談ですが、我が家の家宝MOOG IIICはチューニングが安定するまで2日ほど掛かります(汗)。

 いかがでしたでしょうか? ソフト・シンセだけで済ませれば特に必要の無い、マニアックで非常に面倒くさい作業なのですが、こういった音色の細部へのこだわりに情熱を注ぐことが制作する音楽の強度とクオリティを上げ、長く愛される作品へとつながっていくと信じております。皆様の音楽制作のお役に立てれば幸いです。

 
 

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*AVID Pro Toolsの詳細は→http://www.avid.com/ja

 

佐藤純之介

1975年生まれ、大阪出身。松浦雅也氏の雑誌連載をきっかけに音楽活動を開始、YMOやTM NETWORKにあこがれ1990年代後期より音楽制作の仕事を始める。2001年に上京し、レコーディング・エンジニアとして活動した後、2006年ランティスに入社。音楽プロデューサー・ディレクターとして、多数のアニメ主題歌やアーティストの音楽制作に携わる。1991年からのサンレコ読者。

2019年11月号
サウンド&レコーディング・マガジン2019年11月号より転載

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