岩佐俊秀(SYNC LIVE JAPAN)が使う「Pro Tools」第2回

クリエイターが使うPro Tools by 岩佐俊秀(SYNC LIVE JAPAN) 2019年9月25日

SR_PT_iwasa

Pro Toolsでライブ・オペレート
〜ライブ現場におけるさまざまなノウハウ

 SYNC LIVE JAPANの岩佐俊秀です。前回からライブ・マニピュレートにおけるAVID Pro Toolsの使い方と取り組みを書いています。前回は主に仕込みの話でしたが、今回は本番でのオペレートに直結する話題を中心にしたいと思います。

 

映像との同期用タイム・コードは
オーディオ・トラックに用意する

 セッションの時間管理は、映像が絡むか否かによって変わってきます。映像が絡む場合は、Pro Toolsからタイム・コードをジェネレートせずに、曲単位でタイム・コードをオーディオ・トラックに張って、映像チームに送るようにしています。こうすることで、例えばセット・リスト中で曲の入れ替えが発生した場合も容易に入れ替えが可能になります。

▲映像が絡むライブのマスター・セッション。最上段にタイム・コード信号を張ったオーディオ・トラックを用意する。Pro Toolsがジェネレートするタイム・コードを使うよりも、曲順の入れ替えとそれに伴う同期などに対して柔軟に対応できる

▲映像が絡むライブのマスター・セッション。最上段にタイム・コード信号を張ったオーディオ・トラックを用意する。Pro Toolsがジェネレートするタイム・コードを使うよりも、曲順の入れ替えとそれに伴う同期などに対して柔軟に対応できる

 
 また、弊社では初音ミク、キズナアイ、PSO2、洛天衣などの3Dライブのオペレートを多く依頼されます。その場合をより高精度に映像へ合わせた時間管理が必要になってくるので、サンプル単位で管理を行います。48,000分の1秒や96,000分の1秒といったサンプル精度で映像と音を合わせることによって、映像に“重力”のようなものが生まれ、よりオーディエンスに没入感を提供できます。これは実際に経験が無いと伝わりづらい部分ではありますね。映像が絡まないような通常のライブの場合は、ティックとBPMで管理を行っています。

 
 

ライブの心臓部となる
FOHでのマニピュレート

 弊社のマニピュレートは、出音の確認や、各演出セクションとの円滑なやり取りをする上で、FOHでオペレートするようにしています。舞台袖やステージ上でのオペレートの依頼は、基本的にお受けいたしません。どうしても舞台袖やステージ上でオペレートしなければならない場合は、FOH側からもリモートでPro Toolsに触れられるように準備します。

 演出セクションとのコミュニケーションの一例として、Xタイムの扱いが挙げられます。Xタイム、つまり何回繰り返すか決まっていないケースはライブではよくありますが、Pro Toolsには、ほかのDAWのようなループ再生機能がありません。そこはアイディアで解決しています。

 まず、リピートする部分(16小節など)はあらかじめある程度繰り返した状態を用意しておきます。そして、ステージでの進行を確認しながら、ここでループが終わるという瞬間では、それに続く部分(エンディング部など)をペーストします。万が一、終わらないのであれば、アンドゥ(command+Z)で元のループに戻すことも可能です。シンプルであるが故に、その場その場での瞬間的な対応もしやすいと思います。

▲黄色いクリップがいわゆるXタイム部分。その右にある赤いクリップがエンディング。十分な量のXタイムを用意した上で、エンディングのクリップをクリップボードにコピーしておく

▲黄色いクリップがいわゆるXタイム部分。その右にある赤いクリップがエンディング。十分な量のXタイムを用意した上で、エンディングのクリップをクリップボードにコピーしておく

 

▲Xタイムが終わると判断したら、エンディングをXタイム部分にペーストする。万が一さらに繰り返すのであれば、アンドゥ(command+Z)で元のXタイムに戻す

▲Xタイムが終わると判断したら、エンディングをXタイム部分にペーストする。万が一さらに繰り返すのであれば、アンドゥ(command+Z)で元のXタイムに戻す

 

 また、オケは、基本的に2ミックスでFOHのPAにお渡しします。PAエンジニアには、生音に集中してもらうためです。多人数のアイドル・グループは、マイクだけで20本越える場合があるので、そのケアもしつつ、トラックの細部までミックスするのは不可能だと思います。多忙なアーティストからいただく貴重なリハーサルやゲネプロの時間の中で、最大限の効率化と合理性を追求しています。ですので、事前にFOHエンジニアと一緒に、弊社スタジオでオケを調整する場合もあります。一方、モニターはイアモニの都合も考え、パラでお渡しする場合が多いです。

 また、前回は楽曲のセッション・ファイルを分析してステムにまとめ、マスター・セッションを作成するということを書きましたが、シグナル・プロセッシングをどの段階でするかも検討します。つまり、FOHコンソールでエフェクト処理をするのか、Pro Toolsのマスター・セッション内でプラグインを使うのか、ということです。ケースバイケースですが、ミックスの再現性という意味では、録音作品と同じエフェクトを使用すべきポイントもたくさんあります。AVID Venue|S6Lや、WAVES SoundGridやDIGIGRID製品のように、Pro Toolsセッションと同じプラグインが扱えるハードウェアは大変重宝します。生歌へのプラグイン処理も、ミックス・セッションを検証した内容を基に、FOHコンソール内のプラグイン設定を随時変更して、より再現度と完成度を高めています。

 
 

万全のバックアップ体制を確保
マニピュレーターもクリエイターである

 ライブ現場では、まず第一に、安全確実にオペレートすることが求められます。ですのでバックアップは重要で、必ず堅牢なシステムを構築します。A/Bの2システム体制が一般的ですが、弊社ではそれだけでなくA/B/C/Dといった多数での運用をしています。もちろん、バックアップへの切り替えを瞬時に行いたいので、そのためのインターフェースも用意します。アナログの場合はRADIAL SW8 MK2が一般的だと思いますが、弊社ではデジタルでPAへ出力することも多いので、DIRECTOUT TECHNOLOGIES Exbox.BLDSでMADIの冗長性を必ず構築し、問題発生時に対応できるようにします。

▲システムは公演に応じて構築する。写真はデジタル接続での一例で、ラック上右のDIRECTOUT TECHNOLOGIES Exbox.BLDSでMADIの冗長化を図る

▲システムは公演に応じて構築する。写真はデジタル接続での一例で、ラック上右のDIRECTOUT TECHNOLOGIES Exbox.BLDSでMADIの冗長化を図る

 また、人員のバックアップも重要で、オペレートは必ずチームで行います。会社組織であるのもそのためです。人員的な問題が発生した場合でも、すぐに対応でき、コンサートを滞りなく行うことを考えます。そのため、弊社ではシステムの統一もしていて、DAWは全員がPro Toolsで作業している、というわけです。
 僕は、アーティストが制作した作品の鮮度を落とさず、ライブで再現することに、ベストを尽くしています。そのために、ミックス・セッションの研究、コンテンツの理解、PAとマニピュレートの一元化などを行ってます。
 また、本稿ではあまり触れられませんでしたが、各楽曲によって、時代感やレコーディング/ミックスされた状況が違いますので、ライブに合わせた各曲の調整も行っています。数十曲のアルバム・マスタリングを行うようなイメージです。

 さらに、僕らはそのコンサートのテーマや演出に合わせて、楽曲のアレンジやSE制作などもし、より高次元のライブ・エンターテインメントを提供できるように作業を行います。弊社のオペレーター陣は、クリエイターであることも求められます。そうした仕事ができるのは、これまでのノウハウの蓄積と、Pro Toolsをはじめとするツールがあってのことです。この連載が、少しでも参考になっていれば幸いです。

▲ある公演のセッション・ファイル。提供された素材だけでなく、ストリングスやパッド、ループなどをMIDIで加えている

▲ある公演のセッション・ファイル。提供された素材だけでなく、ストリングスやパッド、ループなどをMIDIで加えている

 
 

サウンドハウスでAVID Pro Tools関連製品をチェックする

*AVID Pro Toolsの詳細は→http://www.avid.com/ja

 

岩佐俊秀

小室哲哉専属マニピュレーターとして1994年から2017年までの小室作品のレコーディング&ライブすべてに参加。2017年、SYNC LIVE JAPANに移籍。初音ミクや洛天依などの3Dキャラクターライブ、乃木坂46、AKB48、ラストアイドル、22/7、THE IDOLM@STER、IDOLiSH7、AAA、EXO、SHINeeなどのライブにおいて、マニピュレートはもとより、サウンド・メイキングから収録、配信まで、革新的なチームを組んで活躍している。

2019年10月号
サウンド&レコーディング・マガジン2019年10月号より転載

TUNECORE JAPAN