吉田ヨウヘイが使う「Pro Tools」第2回

クリエイターが使うPro Tools by 吉田ヨウヘイ 2018年8月28日

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メンバーと共有するデモをどこまで作り込むか

 こんにちは、吉田ヨウヘイです。この連載では僕ら吉田ヨウヘイgroupがAVID Pro Toolsをどのように使っているかを、昨年11月にリリースしたアルバム『ar』の製作を例に紹介しています。前回は“メンバーに聴かせるデモ作り”をテーマに、デモ製作の手順を書きましたが、今回はそのデモの作り込みについて書きたいと思います。

 

生に置き換える前提で
デモの完成度は5〜6割に

 僕はここ数年、デモの完成度の目標を、リリースしたときのクオリティ(完成形)から逆算して5〜6割くらいに設定するといいのかなと感じています。またメンバーにも、それくらいの完成度であると意識してデモを聴いてもらうことが大切なのではないかと思っています。

▲アルバム『ar』収録の「サースティ」のデモ。上からギター、ドラム、ベースと並ぶ。その下はイントロ部のクラップと女性コーラス。黄色いクリップはメイン・ボーカル

▲アルバム『ar』収録の「サースティ」のデモ。上からギター、ドラム、ベースと並ぶ。その下はイントロ部のクラップと女性コーラス。黄色いクリップはメイン・ボーカル


 

 理由は大きく2つあります。一つは、本番の録音の際にマイキングしてドラム(場合によってはピアノやギターも)を録音し、ソフト音源やライン録音と差し替えると、全体の印象がだいぶ良くなるからです。

 前回触れたドラム音源のXLN AUDIO Addictive Drums 2は、単体で聴くと“本番もこれでいいかも”と思うくらい音色はいいと感じますし、人が演奏したようなニュアンスも出しやすいです。それにもかかわらず、レコーディングした生ドラムのトラックに差し替えると、ミックス上での処理を一切しなくても、印象が良くなります。プロのエンジニアに録ってもらう場合はもちろん、ノウハウなどを調べながら自分で3〜4本のマイクを使って録音した場合でもそう感じます。ぜひ、マルチマイクで録音できるオーディオ・インターフェースを用意して、実際に自分で録音して聴き比べてみてください。

 この違いは、恐らく空気感によるものです。打ち込みやリバーブの扱いにたけた人が時間をかければ、ソフト音源でも同様のことができるのかもしれませんが、かなり専門的なスキルが求められる上、将来的に生ドラムに差し替えることを考えるとそこに時間をかけるのは効率が悪いです。なのでデモの段階で“どうしても狙い通りの質感にならない!”と焦るよりも、デモを作る自分もそれを聴くメンバーも“レコーディングで生ドラムに差し替わったらこれくらい良くなるだろうな”と想像できるように経験値を積んでいくのがよいように思います。

 ただし、同じ生ドラムであっても、“トラック”と呼べるような、フィル・インやハイハットの開け閉めがあまりないミニマルな演奏を志向しているようであれば、空気感はあまり影響がありませんし、打ち込みでも生と遜色(そんしょく)無いものが作りやすいと思います。

 

演奏者に“汲み取ってもらう”ために
デモの“厚さ”を調整する

 デモの完成度を5〜6割ほどに設定するもう一つの理由は、アレンジにメンバーの協力を得る余地を残すためです。特に各楽器のオブリや、ドラムのフィル・インなどは、それぞれの奏者に任せたいと思っています。例えばルート弾き中心のベースであればフレーズの最後だけ自然なオブリを、8ビート中心のドラムであれば4小節目の最後だけは毎回違うフィル・インが欲しい、といった具合です。

▲デモの8ビート部分。上がドラム、下がベース。フィル・インは入れず、本番でのプレイヤーによるバリエーションを期待する

▲デモの8ビート部分。上がドラム、下がベース。フィル・インは入れず、本番でのプレイヤーによるバリエーションを期待する


 

 デモの段階で頑張ってすべてを打ち込んでもいいとは思うのですが、細かいオブリやフィル・インは毎回変わるのが自然なので、その楽器の奏者のほうが楽器の特性を生かした優れたラインを作ってくれるように思います。奏者に任せる場合に大事なのは、どのタイミング、拍でオブリやフィル・インを入れてほしいかが分かるようにデモを作ることです。

 ar収録の「サースティ」を例に説明します。1:14〜から始まるギター・ソロと続く歌メロは、ドラムが1拍目の16分音符で2&4個目にバスドラを、ベースも同じタイミングでフレーズを弾いています。ここは必ずこう演奏してほしいのできっちりと作りました。一方で2〜4拍目はアクセントもそろっていない簡単なオブリ、フィルの繰り返しにとどめ、やや物足りない印象のままにしています。ここは必要に応じてオブリ、フィルを考えてほしいという意図を込めました。

▲「サースティ」のギター・ソロ部。バッキング・ギター(上段)とドラム(中段)のキック、ベース(下段)が、裏拍でユニゾンとなっている部分(赤枠)はデモの段階から指定している。その直後の部分は、演奏者の解釈に任せるよう、すき間を多く設けている

▲「サースティ」のギター・ソロ部。バッキング・ギター(上段)とドラム(中段)のキック、ベース(下段)が、裏拍でユニゾンとなっている部分(赤枠)はデモの段階から指定している。その直後の部分は、演奏者の解釈に任せるよう、すき間を多く設けている


 

 両演奏者ともそれを汲んでくれ、完成した音源ではギター・ソロ裏ではベースが積極的にオブリを、歌メロ裏ではドラムが細かなフィルを、といった具合になっています。

 デモの段階では楽器3つくらいでシンプルにするか、全員で演奏して音を埋めるべきか迷っていたため、ベース&ドラムに加えてLchの僕のギターのみ作り、それ以外のパートはリハーサルでメンバーの協力を仰ぐことにしました。結果、“楽器は多めだけど少人数で演奏してるくらいスカスカにしよう”という方針になり、Rchのリード・ギター、単音で入るシンセサイザー、女性コーラスのアレンジはメンバーが作ってくれ、アルバムに収録している形が出来上がりました。

 一方で、デモの形がそのまま実際の演奏に反映されるケースもあります。『ar』収録の「フォーチュン」の場合は、完成形でも多くの部分がデモのままになっています。冒頭Aメロのドラムは、フィルも含めてほぼデモのままたたいてもらいました。8ビートを崩したような、あまり聴きなれないパターンにしようと思って打ち込みをしています。1:05〜のサビは、歌とドラム、ベースのフレーズが絡み合うようにしたかったため、きっちり打ち込みました。“タイミングなどを参考にしてもらえればフレーズは変えてもいい”と伝えていたのですが、結果的にデモ通りの演奏になっています。

▲クロのボーカル曲「フォーチュン」のデモでのサビ部分(1:05〜)。上からドラム、メロディ、ベースで、この3パートがほぼユニゾンで動いているのがMIDIノートから見て取れる。赤枠部分はハイハットのノートだが、同じ音形のメロディに対して、2度目ではハイハットが裏拍に追加されて3連符に近い形で揺れを作っている。本番のレコーディングもこれに従ってドラム&ベースが演奏された

▲クロのボーカル曲「フォーチュン」のデモでのサビ部分(1:05〜)。上からドラム、メロディ、ベースで、この3パートがほぼユニゾンで動いているのがMIDIノートから見て取れる。赤枠部分はハイハットのノートだが、同じ音形のメロディに対して、2度目ではハイハットが裏拍に追加されて3連符に近い形で揺れを作っている。本番のレコーディングもこれに従ってドラム&ベースが演奏された


 

 今回はここで終わりです。最近のソフト音源は音が良いので、“本番に使える”と感じるくらい素晴らしい音が出る一方で、それが“本番に使えるくらい使いこなせなくてはいけないのではないか”とプレッシャーになってしまうこともあるように思います。ですが、生演奏主体のロック・バンドをやっている方であれば、デモはデモとして割り切り、音がいい音源も時間短縮のための便利なものと考えると気楽に使えるのではないかと思います。次回はエンジニアに録音/ミックスをお願いしたときに、自分たちができるとよいと思うことについてお話ししたいと思います。
 

 
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*AVID Pro Toolsの詳細は→http://www.avid.com/ja

 

吉田ヨウヘイ

2012年4月に、西田修大(g)らと吉田ヨウヘイgroupを結成。ボーカル、ギター、サックスを担当する。現在のメンバーは吉田、西田に加え、TAMTAMでもボーカルを務めるクロ(vo、tp、syn)と、元OK?NO!!のreddam(vo、k)。この編成で2017年11月に4thアルバム『ar』をリリースし、ライブ活動も精力的に展開している。
http://yoshidayoheigroup.tumblr.com/

2018年8月号
サウンド&レコーディング・マガジン2018年9月号より転載

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