ラインアレイの特性を生かしたポータブルPAシステム=YAMAHA Stagepas 1K

YAMAHA Stagepas 1K連載 by サウンド&レコーディング・マガジン編集部 撮影:Chika Suzuki 2019年12月26日

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第3回 Inter BEE 2019で証明された“現場力”

YAMAHAから2019年8月に発売されたStagepas 1K(オープン・プライス:市場予想価格120,000円前後/1セット)。12インチ径サブウーファーと中〜高域用のラインアレイ・スピーカーにミキサーを組み合わせたポータブルPAシステムで、スピーチから音楽ライブまでさまざまなシーンに対応する。このStagepas 1Kが、11月に幕張メッセで開催された音響/映像/放送機器の展示会“Inter BEE 2019”の企業ブースやイベント・スペースで活用されていたので、現場での使われ方を取材した。

会議室の内外をつなぐ連絡用システムや
最大100人ほどが集まるセミナーに使用

最初に訪れたのはAUDIO-TECHNICAのブース。通常の展示スペースとは別に、Web会議やテレビ会議のための会議室を再現した部屋があり、そこにStagepas 1Kが設置されていた。室内にはAUDIO-TECHNICAのバウンダリー・マイクなども見られたが、Stagepas 1Kはどのような用途に使われていたのだろう? 同社の土屋典之氏に尋ねてみると「やや特殊な使い方ですが」と前置きしつつ答えてくれた。

「この会議室の外にはヘッドフォンとマイクを設置していて、ヘッドフォンではバウンダリー・マイクの音をモニタリングでき、マイクからは室内に指示を出すことが可能です。その指示をStagepas 1Kから出力しています。実際の会議室には無いシステムですが、今回はこの部屋を展示物として組み立てていく際に必要でした。例えば、中のスタッフに対して外から“マイクのセッティングをもうちょっとこうしてほしい”などとリクエストするときです。中と外を行き来していては手間がかかるので、連絡のためのシステムを作ったのです。また、BGMや映像音声の出力にも使っています。Stagepas 1Kはマイク以外の音声ソースにも対応していますから」
土屋氏の言葉の通り、Stagepas 1Kは3つのマイク/ライン・インや1系統のライン・インL/R、Bluetoothの音声入力などを備え、さまざまなソースをサポートする。

▲AUDIO-TECHNICAブースに設置されたハドル・ルーム。Web会議やテレビ会議の場などを想定した小部屋で、外とのやり取りやBGM再生のためにStage pas 1Kが使用されていた(写真左奥)

▲AUDIO-TECHNICAブースに設置されたハドル・ルーム。Web会議やテレビ会議の場などを想定した小部屋で、外とのやり取りやBGM再生のためにStagepas 1Kが使用されていた(写真左奥)

「各チャンネルの“ワンノブEQ”も扱いやすいです。スピーチのときは左の方に回すだけですっきりとした音になりますし、音楽再生なら右に回せば迫力が出る。会議室と言えば貸し会議室の市場も成長していますが、ユーザーは必ずしも音響のプロではないので、このワンノブEQは重宝されると思います。また貸し会議室の運営側としても、音響設備にかけられるコストには限度があるでしょうし、必要な機能がまとまっているStagepas 1Kは非常に有用なはずです」

▲Stagepas 1Kの音声入出力。ch1にマイク/ライン・イン、ch2と3にはマイク/ライン/Hi-Zイン(XLR/フォーン・コンボ)があり、ステレオ・チャンネルにはライン・インL/R(フォーン)がスタンバイ。ステレオ・ペアで使用する際に必要なリンク・インとアウト、モニター・アウト(いずれもXLR)なども用意されている

▲Stagepas 1Kの音声入出力。ch1にマイク/ライン・イン、ch2と3にはマイク/ライン/Hi-Zイン(XLR/フォーン・コンボ)があり、ステレオ・チャンネルにはライン・インL/R(フォーン)がスタンバイ。ステレオ・ペアで使用する際に必要なリンク・インとアウト、モニター・アウト(いずれもXLR)なども用意

▲内蔵デジタル・ミキサーのパネル。ch1〜3の青いノブは内蔵リバーブへの送りで、その下の緑色のノブがワンノブEQ。写真右のマスターにある黄色いノブは、マスター出力の音質を用途に応じて変えられるMODE機能だ

▲内蔵デジタル・ミキサーのパネル。ch1〜3の青いノブは内蔵リバーブへの送りで、その下の緑色のノブがワンノブEQ。写真右のマスターにある黄色いノブは、マスター出力の音質を用途に応じて変えられるMODE機能だ

このほか「今回は実践できていないのですが、簡単なセミナーにも役立つと思います」と土屋氏。そのセミナーでの使用をINTER BEE IP PAVILIONで目の当たりにすることができた。「ここでは識者の方々によるIP伝送に関してのセミナーを行っていて、拡声のためにStagepas 1Kをステージの左右に1台ずつ設置しています」と語るのは、会場の機器選定に携わったヒビノメディアテクニカルの毛利元氏。INTER BEE IP PAVILIONのセミナー会場は、50余りの座席を並べた20畳ほどのオープン・スペース。座席だけで賄えない場合は立ち見客を含む最大100人ほどにアプローチしなければならず、その際はStagepas 1Kから7〜8mのところまで音を届ける必要がある。

「お客様に万遍なく聴いていただけるよう2台用意しました。周囲のブースにも配慮しなければならないので、音量はそこまで上げていないのですが、それでも前から後ろまで十分に聴こえるところにメリットを感じています。また、軽量なので近くにお客様が集中してしまった場合なども、簡単にスピーカーの振りを変えられる。そして筐体がスリムなため、場に溶け込んで見えるのも良いですね

▲INTER BEE IP PAVILIONのセミナー会場。登壇者の両脇にStagepas 1Kが1台ずつ置かれ、着席している50名ほどの観客はもちろん、立ち見客を含めると最大で合計100名前後をカバーした

▲INTER BEE IP PAVILIONのセミナー会場。登壇者の両脇にStagepas 1Kが1台ずつ置かれ、着席している50名ほどの観客はもちろん、立ち見客を含めると最大で合計100名前後をカバーした

 

高さの調整が簡単で安定性も高い
出音はまとまりがあって明りょう

Stagepas 1Kは中〜高域用のスピーカーがラインアレイとなっており、出音の距離減衰が小さく遠達性が高い。そのエンクロージャーの横幅はわずか7cm未満、奥行きは9cm足らずなので非常にスリムだ。このラインアレイという形式が功を奏し、次に訪れたキヤノン/キヤノンマーケティングジャパンのセミナーでも大活躍だった。「スピーカーは、モデルによっては見た目に圧迫感がありますし、倒れたらどうしようと思うこともあるんですが、Stagepas 1Kは足元がどっしりとしていて安心感が違います」とは、キヤノンマーケティングジャパン阿部芳久氏の弁。氏は、スペーサー(柱状のコンポーネント)の抜き差しだけで高さを調整できる点も高く評価している。

▲キヤノン/キヤノンマーケティングジャパンのブースで行われたセミナーにも、登壇者の左右にStagepas 1Kが1台ずつ置かれた。座席の数は20も無かったが、立ち見客を合わせて50〜60人の規模を想定。当初は1台での運用も考えたそうだが、周囲から常時音が聞こえてくる現場なので、大事を取って2台使いにしたという

▲キヤノン/キヤノンマーケティングジャパンのブースで行われたセミナーにも、登壇者の左右にStagepas 1Kが1台ずつ置かれた。座席の数は20も無かったが、立ち見客を合わせて50〜60人の規模を想定。当初は1台での運用も考えたそうだが、周囲から常時音が聞こえてくる現場なので、大事を取って2台使いにしたという

「調整が手軽なので、事前に全3段階の高さをすべて試すことができ、着座と立ち見の両方のお客様に聴こえやすいポジションを選べました。壁に取り付けるような機種だと高さの調整に手間がかかるため、こうはいかなかったでしょう」

セミナーでは、立ち見客も含めて最大50〜60人のカバーを狙っていたという。「展示会ということで周囲に音があふれているため、2台使用することにしました」と阿部氏は続ける。
「音がとても良いですね。聴きやすい帯域にまとまっているというか、雑味が感じられず、非常に明りょうなサウンドだと思います。展示会ではセミナー向けのステージを組むことが多いんですが、聴きやすい環境を作るのには結構苦労するんです。しかし今回は、ご来場の方々からも“すごく聴きやすかった”という声をいただくことが多く、シンプルなセッティングながら十分な効果を上げられました。不思議だったのは、スピーカーの正面からそれた位置でもきちんと聴こえていたところ。かなり広い範囲をカバーできるんですね」

 

水平指向角が170°とワイドなので
モニター・スピーカーが不要な場面も

阿部氏の印象はStagepas 1Kのスペックで裏付けることができる。中〜高域用のスピーカーが170°という水平指向角を備えているのだ。「思った以上に水平指向角が広く、セミナーの話者にモニター・スピーカーを用意する必要がありませんでした。彼らからも“今日は声がしっかりと出ている気がして気持ち良く話せた”というコメントをもらいましたよ」と語るのは、最後に訪れたINTER BEE SPORTで音響/映像のオペレートを行った清水恭平氏。INTER BEE SPORTはスポーツ・コンテンツに関する製品/サービスを集めた場だったが、セミナーやダブルダッチのパフォーマンスも行っていたため、音響設備を入れる必要があった。そこで採用されたのが2台のStagepas 1Kである。

▲INTER BEE SPORTの様子。セミナー用ステージの両脇にStagepas 1Kが1台ずつ設置されている。INTER BEE SPORTは100名ほどは入るであろう縦長の会場で、四隅にスピーカーをセット。Stagepas 1Kは前方、後方にはYAMAHA DXR10が用意されていた。Stagepas 1Kだけで賄わなかったのは、後方へ届くほど音量を上げたときに、向かいのブースにまで音が達してしまうことを懸念したからだそう

▲INTER BEE SPORTの様子。セミナー用ステージの両脇にStagepas 1Kが1台ずつ設置されている。INTER BEE SPORTは100名ほどは入るであろう縦長の会場で、四隅にスピーカーをセット。Stagepas 1Kは前方、後方にはYAMAHA DXR10が用意されていた。Stagepas 1Kだけで賄わなかったのは、後方へ届くほど音量を上げたときに、向かいのブースにまで音が達してしまうことを懸念したからだそう

「水平指向角がワイドながら、遠達性の高いサウンドです。音量を上げると向かいのブースまで音が飛んでいきそうだったので、かなり余裕を持たせて鳴らしました。今回は別途デジタル卓を用意し、マイクなどの音声を処理してからStagepas 1Kに出力したのですが、マスターにEQやコンプをかけたりStagepas 1K側で調整しなくても、素直な音が得られました。詰まった感じがせず、きらびやかな成分まで聴こえます。内蔵パワー・アンプの定格出力が1,000Wというところから考えて、小規模会場はもちろん、ある程度広い場所や野外でも使えそうですね。内蔵ミキサーを専用アプリで遠隔操作できるのも、現場によっては重宝される部分でしょう」
扱いやすい機能と音質で、さまざまなシチュエーションに対応したStagepas 1K。特に中小規模のセミナー/スピーチや音楽再生においては、強い味方になってくれるだろう。

▲外現場への持ち出し/運搬に便利なケース&専用台車も用意されている。ケースは付属品で、サブウーファー部にかぶせて使用し、手前のポケットにラインアレイ部とスペーサーを収納可。背面にはケーブルなどを収められる。台車は別売で、DL-SP1K(オープン・プライス:市場予想価格10,000円前後)として発売中だ

▲外現場への持ち出し/運搬に便利なケース&専用台車も用意されている。ケースは付属品で、サブウーファー部にかぶせて使用し、手前のポケットにラインアレイ部とスペーサーを収納可。背面にはケーブルなどを収められる。台車は別売で、DL-SP1K(オープン・プライス:市場予想価格10,000円前後)として発売中だ

 

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