心に届く音を創る ヤマハサウンドシステム Vol.5:高崎芸術劇場

心に届く音を創るヤマハサウンドシステム by サウンド&レコーディング・マガジン編集部 撮影:小原啓樹 2020年1月24日

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 コンサート・ホールや劇場、スタジアムやアリーナをはじめとした大規模施設の音響設備を手掛けるヤマハサウンドシステム(以下YSS)。この連載では、実際の施工例などを通し、YSSが重視しているポイントや、クライアントから高く評価されている理由など同社の真髄に迫ってきた。第5回は、YSSが音響設備を行っている高崎芸術劇場をピックアップ。さまざまなニーズに対応可能な3つのホールを擁する同劇場の音響設備について、施設担当者とYSSのスタッフに話を伺っていこう。

マルチユニットのスピーカーによるクリアな拡声

 JR高崎駅から徒歩5分ほどのところに位置する高崎芸術劇場。60年近くの歴史を持つ群馬音楽センターの精神を継承しながらも、現代の多様な公演に対応すべく2019年9月20日に開館したばかりの劇場だ。最大の特徴は、コンセプトの異なる3つのホールを有していること。2,027席を擁し幅広い演目が行える大劇場、7間舞台から平土間まで柔軟にレイアウト可能なスタジオシアター、生音の響きにこだわった音楽ホールの3つだ。今回は大劇場とスタジオシアターを中心に見ていこう。
 まずは高崎芸術劇場の顔とも言える大劇場。オペラや歌舞伎なども行えるが、群馬交響楽団の本拠地としてふさわしい響きを有することが大きな条件の一つだったと、高崎芸術劇場の和南城広幸氏は言う。
 「大劇場は響きを豊かにし、オーケストラの演奏をサポートするような音響にしたいということになりました。そのため、建築音響の段階からこだわったんです」
 理想とするサウンドを音響設備の面からも追求すべく、メイン・スピーカーにはD&B AUDIOTECHNIK製のものが採用された。プロセニアム中央にはV8が6基、V12が2基、サブウーファーのV-Subが1基ずつ、サイドにはそれぞれV8が8基、V12が2基、V-Subが2基ずつフライングされている。V-Seriesを採用した理由をYSSの神谷康平氏が語る。
 「マルチユニットのスピーカーを採用することで混変調ひずみを減らし、よりクリアな出音を目指しました。その考えにマッチしたのが3ウェイのV-Seriesだったんです。また、迫力のある音を届けるため高出力であることも欠かせません。そして、普段はスピーカーの性能を最大限に発揮するため露出させますが、持ち込みのスピーカーがある際には格納する必要があるので、フライングで設置することも重要な要素でした」
 V-Subに加え、サブウーファーのJ-Subを片側につき3基ずつステージ上に設置することもあるという。迫力のある低域が必要な公演の増加が、導入の理由だと神谷氏は説明する。
 「音楽であればロックであったり、演劇では雷のような効果音など、どのような低域であっても十分な迫力が演出できるようなシステムを組んでいます。低域不足とは言われない設備だと思いますね」
 さらに、メイン・スピーカーのほかに、効果音再生用として集中シーリング・スピーカーとウォール・スピーカーが客席側に埋め込まれている。集中シーリング・スピーカーは、D&B AUDIOTECHNIK E12が7基、BI6-Subが1基という構成で、こちらも低域に重きを置いた組み合わせだ。主に演劇での効果音再生を目的として、シーリング・スピーカーにもサブウーファーを組み込み低域を補強することが増えてきたとYSSの佐川清達氏は言う。
 「頭上からの豊かな低域の響きも非常に重要になってきています。飛行機が飛び去る効果音などの臨場感が増すため、シーリングのサブウーファーが活躍するんです」
 一方、コンソールはYAMAHA RIVAGE PM7が採用されている。システム全体のサンプリング周波数を96kHzで構築し、入出力をDanteで接続できる点が大きなポイントだったと神谷氏が説明してくれた。
 「ほかのシステムがDanteネットワークで構成されていたので、コンソールも含めてすべてをDante接続にした方が構築しやすいだろうということで採用しました。乗り込みのPAエンジニアの方がDante対応機材を持ち込んだ際にも、容易に接続できるという利点もありますね」
 こうして組み上げられた大劇場の音響設備から送り出されるサウンドは明りょう度が高く、来場者からも好評だと高崎芸術劇場の小見直樹氏は言う。
 「出音は非常にクリアですし、補助のスピーカーも多数設置されているため、どこの席に座っても遜色(そんしょく)無く聴こえます。演劇では2階席だと声が届きにくいというようなことも懸念されますが、客席各所にある補助スピーカーのおかげでセリフもはっきりと聴こえるんです。お客様からも大迫力なサウンドだと評価いただいていますよ」

 

▲大劇場のスピーカーはD&B AUDIOTECHNIK製で統一。ステージの左右には、サブウーファーのV-Subを2基、ハイボックスのV8を8基、V12を2基ずつフライング。ステージ上には、サブウーファーのJ-Subも片側につき3基ずつ設置されており、その上にはインフィル用のV10Pが見える。さらにプロセニアムのセンターにはV-Subが1基、V12が2基、V8が6基フライングされている

▲大劇場のスピーカーはD&B AUDIOTECHNIK製で統一。ステージの左右には、サブウーファーのV-Subを2基、ハイボックスのV8を8基、V12を2基ずつフライング。ステージ上には、サブウーファーのJ-Subも片側につき3基ずつ設置されており、その上にはインフィル用のV10Pが見える。さらにプロセニアムのセンターにはV-Subが1基、V12が2基、V8が6基フライングされている


 
▲︎2階席後部の赤いメッシュの内側には補助スピーカーのD&B AUDIOTECHNIK 8Sが7基、サブウーファーのBI6-Subが1基ずつ格納されている

▲︎2階席後部の赤いメッシュの内側には補助スピーカーのD&B AUDIOTECHNIK 8Sが7基、サブウーファーのBI6-Subが1基ずつ格納されている


 
▲大劇場のコンソールにはYAMAHA RIVAGE PM7が採用されている。その右隣には、マトリクス・コントローラーのHYFAX LDM1を設置。モニター・スピーカーはGENELEC 1032Bだ

▲大劇場のコンソールにはYAMAHA RIVAGE PM7が採用されている。その右隣には、マトリクス・コントローラーのHYFAX LDM1を設置。モニター・スピーカーはGENELEC 1032Bだ

 

V-Seriesによるライブ・ハウスに匹敵する音圧

 続いて、座席を格納することでスタンディングにも対応するスタジオシアターを見てみよう。客席だけでなくステージの規模も演目に合わせて調整でき、黒を基調とした内装などライブ・ハウスを思わせる雰囲気が漂う。そこには高崎ならではの理由があると和南城氏が解説する。
 「高崎市はBOØWYやBUCK-TICKを輩出した街ということもあり、公設のレコーディング・スタジオがあったりとバンド活動が盛んなんです。そこでスタジオシアターは小劇場的な利用に加え、スタンディングのライブにも対応するホールにしようということになりました」
 こちらもスピーカーはD&B AUDIOTECHNIKで統一。左右それぞれV8を5基、V12を3基ずつフライングしている。サブウーファーはステージ上に片側につきJ-Subを3基設置。さらにセンターには演劇のセリフやアナウンス用にE12-Dを1基、E8を2基設置している。大劇場よりも小規模な空間ながら、それとほぼ同等のスピーカー構成にしているわけを神谷氏が解説してくれた。
 「コンセプトの一つがライブ・ハウスだったため、常設設備でありながら、ライブで使用できる迫力でなければということで、V-Seriesを採用しました。ロックのライブなどでは低域も非常に重視されるので、サブウーファーも大劇場と同じJ-Subを導入しています。来場者の方々からも、ダイナミックな音像だという感想をいただいていると伺っていますよ」
 スタジオシアターではライブや演劇に加え、月に1回ほど映画の上映会も行っているという。高崎市は2019年で33回目を迎える高崎映画祭が開催されたりと映画にもゆかりのある街だ。映画館に匹敵するような鑑賞環境を整えるべく、7.1chでの再生に対応したと佐川氏は言う。
 「フロントのL/Rchはフライングのものを使っていますが、それ以外は仮設のスピーカーを使用しています。こちらもすべてD&B AUDIOTECHNIK製で、E8、E12、E12Dを上映会の規模に合わせて適切な場所に設置しているんです」
 このように、各ホールのコンセプトに合わせ最適な音響設備を構築したYSS。和南城氏も非常に満足しているという。
 「YSSにはタイトな工期の中で、最大限の設備を手掛けていただけたと思います。今後もお客様の要望を聞き改善していく予定なので、末長くお付き合いいただきたいです」
 小見氏もこれからの運用に期待を寄せている。
 「YSSに組んでいただいたシステムにより、ホールの可能性が広がったように感じます。まだ開催されたことのないさまざまな公演にも対応できるだろうと思うので、楽しみです」

 

▲スタジオシアターは移動式の座席を採用しており、座りで最大568人、スタンディングで約1,000人を収容する。ステージの奥行きを3間、5間、7間、そして完全にフラットな平土間まで調整できる点が特徴

▲スタジオシアターは移動式の座席を採用しており、座りで最大568人、スタンディングで約1,000人を収容する。ステージの奥行きを3間、5間、7間、そして完全にフラットな平土間まで調整できる点が特徴


 
▲スタジオシアターのメイン・スピーカーは、片側につきD&B AUDIOTECHNIK V8が5基、V12が3基フライングされており、サブウーファーは同社のJ-Subが3基ステージ上に設置されている。インフィル用のスピーカーはE12だ。低域がしっかりと再生されるため、ライブが非常に盛り上がると、高崎芸術劇場の小見氏は印象を語る

▲スタジオシアターのメイン・スピーカーは、片側につきD&B AUDIOTECHNIK V8が5基、V12が3基フライングされており、サブウーファーは同社のJ-Subが3基ステージ上に設置されている。インフィル用のスピーカーはE12だ。低域がしっかりと再生されるため、ライブが非常に盛り上がると、高崎芸術劇場の小見氏は印象を語る


 
▲︎スタジオシアターのセンターにはD&B AUDIOTECHNIK E12-Dが1基、E8が2基ずつフライングされている

▲︎スタジオシアターのセンターにはD&B AUDIOTECHNIK E12-Dが1基、E8が2基ずつフライングされている


 
▲︎スタジオシアターのコンソールはYAMAHA QL5。YAMAHAのコンソールは多くのライブ・ハウスで使われており、乗り込みのエンジニアでもすぐに対応できる点などが主な採用理由だとYSSの佐川氏は言う

▲︎スタジオシアターのコンソールはYAMAHA QL5。YAMAHAのコンソールは多くのライブ・ハウスで使われており、乗り込みのエンジニアでもすぐに対応できる点などが主な採用理由だとYSSの佐川氏は言う


 
▲壁面に設置された角材の反射によって、豊かな響きを実現する音楽ホール。建築音響に重きを置いた空間のため、スピーカー類は壁や天井、床へ埋め込み主張しないよう意匠の面も配慮されている

▲壁面に設置された角材の反射によって、豊かな響きを実現する音楽ホール。建築音響に重きを置いた空間のため、スピーカー類は壁や天井、床へ埋め込み主張しないよう意匠の面も配慮されている


 
▲1階席とは音の届き方が異なる2階バルコニー席は、補助スピーカーで対応。客席前の手すりには小型のYAMAHA VXS1MLが、客席の下にはサブウーファーのYAMAHA VXS3Sが設置されている

▲1階席とは音の届き方が異なる2階バルコニー席は、補助スピーカーで対応。客席前の手すりには小型のYAMAHA VXS1MLが、客席の下にはサブウーファーのYAMAHA VXS3Sが設置されている


 
▲左から、高崎芸術劇場の和南城広幸氏、小見直樹氏、YSSの神谷康平氏、佐川清達氏

▲左から、高崎芸術劇場の和南城広幸氏、小見直樹氏、YSSの神谷康平氏、佐川清達氏

 
■問合わせ:ヤマハサウンドシステム ☎︎03-5652-3600 www.yamaha-ss.co.jp

 


サウンド&レコーディング・マガジン2020年3月号より転載

 

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