第4回 ヴィヴィアン・ガールズ―アンビバレントな魅力を放つインディ・ロックの旗手

音楽家は服を着る by 青野賢一 2013年6月6日

結成からわずか数年でインディ・ポップ界の代表格となったガールズ・バンド、ヴィヴィアン・ガールズ。彼女たちの登場してきた時代の空気、そしてスタイルをひもとく。

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グランジが消費され、オルタナティヴなロックが多様化してゆく2000年代の中盤あたりから、俄然おもしろくなってきたインディ・ポップと呼ばれる音楽たち。中でもガールズ・バンドの活躍には目を見張るものがある。今回取り上げるヴィヴィアン・ガールズもそうしたガールズバンドのひとつである。

1990年代初頭のワシントンD.C.から沸き起こったムーブメント「ライオット・ガール(Riot Grrrl)」は、マッチョな男性中心社会への不満と、パンク・ロックとが結びついたフェミニズム運動であった。
男性排他的などと揶揄(やゆ)されることも多かったこのライオット・ガール・ムーブメントだが、彼女たちは、自分の好きな音楽や文化を、女の子たちが伸び伸びと楽しめる環境を作りたかったのであり(パンク・バンドが出演するアメリカのライブハウスでは、モッシュやダイブは当たり前、暴力、酷い場合だとレイプさえあったという)、そうした自由さを手に入れるための活動と言ってよいだろう。
そこには、音楽はもちろんのこと、好きなものへの思い入れや自分の思いの丈を表現するファンジン(自費出版、ハンドメイドの小冊子)も重要なポジションを占めていた。これらファンジンに代表されるD.I.Y精神(既成のものに頼らないというところは言うまでもなくパンク精神の現れだ)は、後の女性の活動をより解放されたものにしたのではないだろうか。
なお、このあたりは『ガール・ジン「フェミニズムする」少女たちの参加型メディア』(アリスン・ピープマイヤー著、野中モモ訳)に詳しいので、ご興味ある方は参照されたい。

このような時代背景の中にあって、ヴィヴィアン・ガールズがどの程度ライオット・ガール・ムーブメントの影響を受けたかは定かでない。とはいえ、ライオット・ガール・ムーブメントは時代に少なからず影響を与えていたので(『ローリング・ストーン』などのメジャー誌にも記事が載るほどだった)、無意識のうちにその空気を吸い込んでいても何ら不思議ではないだろう。

ヴィヴィアン・ガールズが結成されたのは2007年。現在もメンバーであるキャシー・ラモーン(ギター、ボーカル)とケイティ・グッドマン(ベース、ボーカル)に、フランキー・ローズ(ドラム、ボーカル)の3人でスタートしたヴィヴィアン・ガールズは、結成後デモ音源を録音し、またブルックリンやニュージャージーでライブ活動も開始。すぐに地元で人気を博し、2008年にシングル『Wild Eyes』をリリースするやカレッジラジオのチャートに入るなど、まだまだアンダーグラウンドな存在ながら、着実にファンを増やしていった。
その後、デビューLP『Vivian Girls』をリリースしたところ、即完売。ほどなくレーベル「In The Red Records」と契約して、完売してしまったアルバムをCD、LPで再発した。

途中、ドラマーが変わりながらも(現在のドラマーは三代目で元コースティングのフィオナ・キャンベル)、2009年にセカンド、2011年にサード・アルバムを発売し、またワールドツアーを行うなど、精力的に活動するヴィヴィアン・ガールズのサウンドは、勢いのあるガレージ・パンクとドリーミーな60年代のガールズ・ポップが混ざり合ったような、とでもいえばよいだろうか。毒っ気だけでも可愛らしさだけでもない、アンビバレントな良さがある。「Take It As It Comes」(2011)のオフィシャルビデオクリップでは、超ガーリィな部屋の電話にスカル&ボーンのシールが貼ってあったり、ラモーンズやプリンス(黒ビキニ一丁)のポスターがあったり、本格的なスピーカーやもちろん楽器(マーシャルのアンプまで!)があったりという、非常に音楽性をよく表したシーンを確認することができる。好きなものに囲まれるとはまさにこういう状態を指すのだろう。まるで小さな王国である。

ファッションについては、キム・ゴードン(ソニック・ユース)からの影響を語っているが、より女の子っぽいスタイリングであり、それが楽器を持って演奏しているときの格好よさを際立たせている。こうしたところも彼女たちの魅力ではないだろうか。

インディ・ポップの中のガールズバンドのひとつとして、今回はヴィヴィアン・ガールズを取り上げたが、インディというだけあって、すべてを追いかけるのはなかなか困難である。より詳しく知りたいという方には、渋谷の「Violet and Claire」をお勧めしたい。ウエア、小物、レコード、CD、ファンジンがギュッと詰まったこのお店のオーナーSumireさんは、ヴィヴィアン・ガールズの来日イベントのオーガナイズを行い、また「Twee Grrrls Club」という女の子DJチームも率いている方だ。

最後にヴィヴィアン・ガールズのバンド名についてひと言。ヘンリー・ダーガーが19歳の頃から約60年間に渡りひっそりと描き続けた『非現実の王国で』の主人公、7人の少女戦士ヴィヴィアン姉妹に由来しているものである。一見可愛らしい少女が戦士であるなんて、彼女たちの音楽にこれほど相応しい名前があるだろうか。

青野賢一

青野賢一

BEAMS クリエイティブディレクター
BEAMS RECORDS ディレクター
1968年東京生まれ。明治学院大学在学中にアルバイトとしてBEAMSに入社。卒業後社員となり、販売職を経てプレス職に。〈BEAMS RECORDS〉立ち上げや、ウェブ・スーパーバイザー兼務などの後、2010年より個人のソフト力を活かす、社長直轄部署「ビームス創造研究所」所属。執筆、編集、選曲、DJ、イベントや展示の企画運営、大学での講義など、BEAMSの外での活動を行う。著書に『迷宮行き』(天然文庫/BCCKS)がある。



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