『Chapter Three: Viva Emiliano Zapata』Gato Barbieri

塚本謙のFunk裏Recommend Disc by 塚本謙 2012年10月25日

Funky Funky Impulse!:ガトー・バルビエリ編

今回の”裏”Recommend Disc

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『Chapter Three: Viva Emiliano Zapata』Gato Barbieri

『チャプター・スリー:ヴィヴァ・エミリアーノ・サパタ』ガトー・バルビエリ

Impulse! (1974)

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ジャズ界で猫といえば断然猫先輩ことキャット・アンダーソンなんですけど、もうひとり山猫みたいな南米産のゴツいのがいてこいつがえらい強力なのです。スペイン語で猫を意味する”Gato”をニックネームにしたこのアルゼンチン出身のテナー・サックス奏者もImpulse!にとんでもない音源を残しています。ワン・アンド・オンリーな音色といい剥き出しの哀愁コブシといいホントにとんでもない。というわけで今日はあんまりFunkじゃないけどこれをご紹介。

ブエノスアイレス時代はラロ・シフリンのバンドなどで吹いていたガトーは62年に嫁の実家であるイタリア、ローマに移住、そこでドン・チェリーと出会います。意気投合した彼は渡米後チェリーのブルーノート作(66年)でも共演。コルトレーンの強い影響も受けてすっかりアヴァンギャルド派になった彼はチャーリー・ヘイデンの重要作『Liberation Music Orchestra』(’70、これもImpulse!)にも参加します。このときプロデューサーのボブ・シールに気に入られたのか、シールの新レーベルFlying Dutchmanと契約、以降このレーベルでアルバムを量産するんだけど、この頃から自身のルーツである南米音楽を全面に押し出した芸風を確立させています。フリー・ジャズ仕込みのグロール・トーンはまさに山猫が低い声でフギーッて唸るみたいなインパクト。それが南米のリズムに揺られて哀愁たっぷりのフォークロア的な旋律を吹き上げる、というエキゾティシズムの極致みたいな独自の音楽性は当時のジャズ・シーンでも際立っていたに違いない。

一歩踏み外せばイロモノになりかねないこの芸風がやがて芸術に変わったのはImpulse!に移籍してから。映画『Last Tango In Paris』のサントラで作曲家としてもプレイヤーとしても格が上がったのもこの時期です。チャプター4部作と呼ばれるこの作品群ではラテン・アメリカの伝統音楽がジャズのイディオムを器に新たな魅力を付与された、というような大胆なフュージョンが試みられました。ブエノスアイレスとリオで現地録音されたチャプター1、2に続く本作は本場NYに戻っての録音。キューバ出身のアレンジャーである盟友チコ・オファレルにラージ・アンサンブルの編曲を任せ、ランディ・ブレッカー(tp)、ハワード・ジョンソン(tuba)、ロン・カーター(b)、グラディ・テイト(ds)ら腕利きのミュージシャンをバックに同様のコンセプトを追求した一枚。

美しいパラダイスをカーニヴァルの熱狂に染め上げるサンバ・ジャズ「Lluvia Azul」、ラテン歌謡の王道に灼熱のわだちを印すような「El Sublime」、豪奢なアフロ・キューバン・サウンドに悶絶する「La Padrida」、メキシコ革命の英雄エミリアーノ・サパタに捧げたタイトル・トラックなど、いずれにも男くさいダーティな音色と暴力的な音圧を持ったやさぐれテナーが中心に屹立し、ただただゴリ押しのようにメロディを吹き上げます。狂い咲くようなブラスのハイトーンと畳み掛けるようなリズムをバックに、エクスタシーの階段を登り詰めた情熱のテナーが断末魔の叫びをあげる、この麻薬的なリスニング体験はこの猫でしか味わえません。

塚本謙

CDリイシュー企画「Return Of Jazz Funk」主宰。モダン・ジャズ〜ジャズ・ファンク〜レア・グルーヴまでこよなく愛するレコード・コレクター。学生時代はベイシー・マナーのフルバンでサックス担当。



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