『Help Me Make It Through The Night』Hank Crawford

塚本謙のFunk裏Recommend Disc by 塚本謙 2012年4月19日

Kuduレーベルの極道ものたち:ハンク・クロフォード編

今回の”裏”Recommend Disc

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『Help Me Make It Through The Night』Hank Crawford

『ヘルプ・ミー・イット・スルー・ザ・ナイト』ハンク・クロフォード

Kudu (1972)

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触れるもの全てが黄金に変わってしまったミダス王のお話じゃないけれど、アルト・サックスから出てくる音全てがクロく染まってしまうように感じるプレイヤー、といったらハンク・クロフォードじゃないでしょうか。Kuduレーベルを代表する看板アーティストの一人で、デヴィッド・サンボーンに最も影響を与えた人物。クロスオーヴァー・ジャズとR&Bのはざまみたいな位置にいたせいか日本ではイマイチ人気無いように感じるんだけど、この一見ホームレス風のおっさんナメたらあかんでぇ、というお話です。

テネシー州メンフィス生まれで高校時代にはブッカー・リトル(tp)、ジョージ・コールマン(ts)、ハロルド・メイバーン(p)らがバンド仲間だったという彼は、ビーバップに夢中になる同胞のかたわらR&Bバンドを結成したり、ブルース系のアーティストのバンドで活動したり、と独自路線を選択。1958年にレイ・チャールズ・バンドに参加、やがて音楽監督の任に就くと1960年にはAtlanticから初リーダー作も発表。以後60年代はほぼ1年に1枚のペースでアルバムをリリースしたのち71年にKuduに移籍。このアルバムが移籍第一弾で、以降Kuduには8枚ものアルバムを残しています。Atlanticに10数枚でKuduに8枚、という量産の理由は何といってもそれだけアルバムが売れたからであって、KuduのLPも何枚かは10万枚を超えるセールスがあったらしい。「だってあんなのアタマ悪いアメリカの大衆に好まれそうなイージー・リスニングすれすれのポップ・ジャズじゃない」ってドヤ顔する人も多いと思うけど、じゃあ誰が吹いても売れるのかっていったらそうじゃないはず。クロフォードの音楽が持っている唯一無二の強烈な”ヴォイス”が共感を呼んだんだよ。

カントリー曲をグルーヴィにアレンジした1曲目「Help Me Make It Through The Night」からキテる。いつもの、あの聴き間違えようのないブルース臭たっぷりの絞り出すようなトーンと、超アトノリのぶらさがりスウィング感でテーマを吹ききったら、アドリブなんてほとんどルートの音しか吹いていないという極道っぷり。歌心、というか歌魂さえ伝わればそれでいい。それだけに全音楽人生を賭けてます、というようなクロフォードの潔さ、愚直さに痺れてみるのが正しい味わい方ではないでしょうか。夜をもっと黒く塗りつぶすようにネットリと攻める自作ブルース「Uncle Funky」、ピー・ウィー・エリスがアレンジを手がけたファンク「Ham」あたりもグレート。クロフォードはいつもの通りなんだけど、僕らは筋書きが分かってるメロドラマにさえ泣いてしまうのだ。

泥クサい演歌だとか商業主義音楽だとか言ってる人は、彼みたいに強烈な”ヴォイス”を持ってるプレイヤーが今も昔もメインストリーム・ジャズの世界で何人いるか考えてみるといい。そして彼の”ヴォイス”がなぜそんなに大衆に受け入れられたか、どんなところが共感を呼んだのか、考えてみるといいと思うのです。きっとそこには人を感動させたいって考えてるホーン奏者にとってはすごく大切なヒントが隠されていると思います。テクニック面ですごい人なんて山ほどいるし、そういう人に追いつこうなんてはっきり言ってもう無理じゃない? それよりも自分だけの”ヴォイス”を持つことの方がずっと大切だし、音楽だって楽しくなると思うのですが。

塚本謙

CDリイシュー企画「Return Of Jazz Funk」主宰。モダン・ジャズ〜ジャズ・ファンク〜レア・グルーヴまでこよなく愛するレコード・コレクター。学生時代はベイシー・マナーのフルバンでサックス担当。



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