【ビンテージ・キーボード】EDP Wasp

ビンテージ・キーボード by 編集部 2010年6月11日

チープな魅力に満ちた
モノフォニック・シンセサイザー

今回紹介するEDP Waspは、後にオックスフォード・シンセサイザー・カンパニーOSCarを設計することになる英国人のシンセ・デザイナー、クリス・ハゲットによって1978年に発売された小さなモノフォニック・シンセサイザーである。デジタル分野に精通し、1977年ころよりフリーランスのエンジニアとして活動していた彼は、シンセサイザー奏者のエイドリアン・ワーグナーと出会い、彼のアイディアの元で低価格かつ高性能なシンセサイザーの開発を始める。その後、2人はEDP(ELECTRONIC DREAM PLANT)社を設立し、この可愛らしいシンセサイザーを世に送り出す。

デジタル・コントロールの

オシレーターと独自の7ピンLINK端子の採用

黒と黄色のコントラストも鮮やかなWaspと名付けられたそれは、徹底したコスト・ダウンを象徴するかのような樹脂製の筐体を採用。2オクターブしか無い鍵盤にいたっては、音源回路と同じ基板上にエッチングされたタッチ式のものが使用されており、片手で軽々と小脇に抱えられる大きさだった。当時のシンセサイザーとしては破格とも言える価格設定がされ、瞬く間に大ヒットを記録する。しかし、パネル上をよく見てみると、このシンセサイザーが単なるロー・コストなオモチャではないことが分かるだろう。

2基のオシレーターにローパス/バンドパス/ハイパス切り替え式のフィルター、ノイズやランダム波形を含むLFO、リピート機能を備えた2基のエンベロープ。他社の上位機種に勝るとも劣らないこの仕様を、どうすればこの大きさ、この価格で実現できたのであろうか。

コスト・ダウンに成功した大きな要因としては、大胆なデジタル回路の導入が挙げられるだろう。当時、マイクロプロセッサーは高価だったため、TTL(Transistor-Transistor Logic)回路を使用してはいるものの、デジタル・コントロールのオシレーター(DCO)を採用している。部品点数や調整個所が多いVCOに比べて容易に安定したチューニングが得られるDCOはご存じの通り後の多くの低価格シンセに採用されているオシレーターだ。このため外部機器とのインターフェースには伝統的なCV/GATEではなく独自の7ピンのLINK端子が使用されている。このインターフェースは1本のケーブルで双方向でのデータのやり取りが可能で、デイジー・チェイン接続すれば複数のWaspをどのユニットからでも同時に演奏することができる。何と50台以上のリンク演奏に成功したこともあるというから驚きだ。後にはこのインターフェースを使用したデジタル・シーケンサーのSpider、複数のWaspを接続してポリフォニックで演奏できるマスター・キーボードCatarpillarなどのアクセサリーが発売されている。また、フィルターやVCAには当時低価格で普及し始めたCA3080などのICを使用しており、回路の小型化や生産性の向上に貢献している。

小さなスピーカーから

独特のダーティなサウンドをまき散らす

サウンドは、ライン出力で聴く限りではなかなかレンジも広く意外にちゃんとした印象だ。フィルターがローパス/ハイパスが12dB/Oct.(2ポール)、バンドパス時には6dB/Oct.(1ポール)とやや切れが悪いのが残念だが、このフィルタリングし切れずに若干残る成分がWaspのサウンド・キャラクターの形成に大きな役割を果たしているとも言える。ノイズ・モジュレーションや、第2のLFO的に使えるエンベロープのリピート機能、オシレーターのパルスワイズ・コントロールなど、生み出せるサウンドの幅もなかなか広く、かつ本格的だ。

そして何といってもWaspのサウンド・キャラクターの最も重要な要素がビルト・インされた小さなスピーカーだ。安物のラジオに使用されているような小さなスピーカーは、プアなヘッド・ルームとも相まって容易にクリップして歪んでしまう。さらにプラスチックのボディは容易に共振し、結果として独特のダーティなサウンドをまき散らす。まさにそのサウンドは蜂の羽音のようでもあり、この色遣いと蜂のイラストが単なるデザイン上のものだけではないのでは……と思えてくるほどのユニークさだ。多くのミュージシャンはライン出力のサウンドよりこのスピーカーのサウンドを好み、わざわざマイクを立ててレコーディングしているほどである。電池での駆動も可能なため、ケーブルや外部機器を一切必要とせずにどこでも演奏できる携帯性も大きな魅力だ。Waspは高級アナログ・シンセの持つサウンドの重厚さや瑞々しさとは全く対極の、チープな魅力に満ちた使い応えのある楽器と言えるだろう。

(Photo:Five G Music Technology)

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