【ビンテージ・キーボード】モーグSonic VI

ビンテージ・キーボード by 編集部 2010年6月7日

スーツ・ケースに音源と鍵盤を組み込んだ
ポータブル・タイプのシンセサイザー

モーグSonic VI(Sonic 6)は、Minimoogに代表される、いわゆる”モーグ・シンセサイザー”からは大きくキャラクターの異なる製品である。このシンセサイザーを知るには、まずはその前身となったSonic Vという製品の成り立ちを知っておかねばならないだろう。

Sonic Ⅵの前身となるSonic Ⅴの登場

モーグSonic Vはもともとミューソニック(muSonics)という会社の製品で、設計はジーン・ツムチャック(Gene Zumchak)という元R.A.モーグ社のエンジニアによるものである。彼はR.A.MOOGで日の目を見ることのなかった自身の設計コンセプトを、教育市場への参入を目論むミューソニックで実現させたのだ。

Sonic Vは2基のVCOを備え、ダイオード式のVCFを採用している。これは当時のR.A.モーグのパテントの関係でトランジスター・ラダー式が使用できなかったからだ。2基のLFOと1基のコントゥアー・ジェネレーター(エンベロープ)をモジュレーション・ソースとして用意、これらを大きな木製ケースに4オクターブのキーボードとともにマウントしたものだった。

しかし、結局ミューソニックは直後にモーグ/ミューソニックとしてR.A.モーグ社を買収(直後にモーグ・ミュージックに社名変更)してしまったため、ツムチャックは図らずも古巣に戻ってしまったのだ。やはりさまざまな確執があったのであろうか、彼は再びモーグ社を去ることになる。何とも気の毒な話だ。

明快なインターフェースと明るいサウンド

一方、晴れてモーグ・ブランドとなったSonicシリーズは1974年、後継機としてSonic VI(写真)を発売。VCFはもちろんモーグの伝家の宝刀、4ポールのトランジスター・ラダー式に変更された。トリガーもSトリガーが採用され、リボン・コントローラーなどの名物オプションが接続できるアクセサリー端子も装備。追加されたピッチベンド・ホイールは横方向を向いており、スプリングでセンターに戻る構造だった。

そして本機の最大の特徴は横長のスーツ・ケースに音源部と鍵盤を組み込んだポータブル・タイプの筐体だろう。アンプとスピーカーも内蔵されており、電源さえあればどこでも音が出せるのも教育市場向けならでは。キーボードの奥にはケーブル類を収納するスペースも用意されている。パネルはメンブレン・シートによる水色が何とも鮮やかな、いかにも1970年代的な雰囲気が漂う秀逸なデザインだ。これらの変更点以外は基本的にSonic Vの設計を踏襲している。信号経路はパネル上に矢印で示され、途中に設けられたスイッチでそれらの経路を分断/接続するという非常に明快なインターフェースはシンセサイザーを理解する上でまたとない教材であっただろう。

キーボードCVは、2系統出力可能なモーグらしからぬデュオフォニック設計となっており、2基のVCOを別々にコントロールすることもできた。4ポールのモーグ・フィルターを採用しながらもサウンドはMinimoogの重厚さとは異なり、明るめのサウンドという印象だ。

このようにシンセサイザーの構造を理解するにはSonic VIは非常に優れた製品ではあるが、ミュージシャンがステージで演奏しようとすると少々頭を抱えたくなる問題が発生した。大きく重い音源の入った蓋とキーボードとは分離させることができず、何かにもたれさせないと基本的に安定して自立させることは不可能なのだ。これでは客席を向いてステージで演奏することも、キーボード・スタンドにほかの鍵盤と組み合わせて設置することも非常に困難であると言わざるを得ない。またスタジオでじっくりと音作りに取り組もうとしても、LFOが2基も用意されているのにコントゥアー(エンベロープ)がAR(サスティンはON/OFFの切替式)タイプのシンプルなものが1基しかないのは非常に不満だ。

とはいえVCOのチューニングは楽器として十分実用に耐え得る安定度を持っているし、内蔵のリング・モジュレーターやLFOを駆使すれば非常に複雑なサウンドを生み出すことも不可能ではない。そして何より、このルックスの良さはこれらの欠点を補って余りあるものと言えるだろう。

(Photo:Five G Music Technology)

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