【ビンテージ・キーボード】アープQuadra

ビンテージ・キーボード by 編集部 2010年4月12日

べース、ストリングス、ポリシンセ、リード・シンセの4セクションから構成される大型キーボード

アープQuadraは同社のOmni/Omni-2の上位機種として1978年に登場した製品である。その名前が示す通り、Quadraはベース・シンセ、ストリングス、ポリシンセ、リード・シンセの4セクションから構成されている大規模なキーボードだ。
まずは各セクションをざっと解説していこう。

柔らかく心地良いストリングス・サウンド

ベース・シンセは1VCOのモノフォニックで、専用のVCFやADタイプのエンベロープによってコントロールされるシンプルな構成だ。このベース・シンセのVCOは、ストリングス・セクションのベース音にも流用されている。

ストリングスとポリシンセは共通の音源を使用した分周タイプの全鍵発振式。これは電子オルガンやSolinaなどと同様の回路で、12音のオシレーターを分周によって異なるオクターブを生成、演奏された鍵盤の音をゲート回路で出力する、というものだ。この構造はマイクロプロセッサー制御のポリシンセが登場するまで数多く見られた手法である。Quadraのそれは同社のOmniを受け継いだ構造で、ストリングス・セクションは3相コーラス回路を通りARタイプのエンベロープでコントロールされるVCAを経て出力される。名機Solinaの血を受け継ぐ、この柔らかく心地良いサウンドは絶品だ。

ポリシンセ・セクションは専用のVCFとVCAをADSRエンベロープでコントロール。しかし、VCFとVCAは全ボイスに対して1組しかないため、演奏したニュアンスはいわゆる正式なポリシンセとはやや異なるニュアンスを持つ。

そしてリード・シンセ。ARPのリード・シンセといえば何と言ってもOdysseyであり、当然そのドギツいサウンドを期待してしまうところだが、それは少々ぜいたくというものだろう。事実限られたスペースに組み込まれたリード・シンセ部は2基のVCOを備えるものの最低限のパラメーターしかなく、どちらかというとAxxeに近い構成だ。

オシレーター・シンクやノイズなどが使用できないのは少々寂しいが、Odysseyと同じく2ボイス・モードが用意されており、2基のVCOを別々にコントロールすることで擬似的なデュオフォニック・シンセとして使用できる。複雑なモジュレーションを行わない素の音もARPらしいキャラクターがよく出た秀作だ。

プログラマー部などにマイクロ・プロセッサーを採用

そのほかにQuadraの大きな特徴としては、ARPで初めてマイクロプロセッサーを使用した点が挙げられる。これはリード・シンセやベース・シンセのピッチCVを生成するキー・アサイナーやアルペジエイター、そして簡易プログラマー部に使用されている。

プログラマー部はパラメーターのスライダー位置を記憶できない非常に不完全なものではあるが、各種ルーティングやボタンの設定を保存できたため、リード・シンセからストリングス+ベースに、といったセクションの切り替えや各種モジュレーションの一括オン/オフ・コントロールなどに便利な機能だ。各セクションのサウンドは個別に出力することも、ミキサー部でミックスしてステレオ出力することも可能。ここにはフェイザーも用意されており、セクション単位でフェイザーを通すか否かを選択することもできる。

外観はOdysseyのRev.3などの同時期のアープに共通するデザインで、黒とオレンジ/青/緑の鮮やかなコントラストとメンブレン・スイッチが非常に洗練された印象を与える。
この時期に限らずARPの経営は迷走を続けており、Quadraも当時のラインナップを寄せ集めて新製品とした苦肉の策と解釈してしまうのは少々意地が悪い見方だろうか。
とはいえ、さまざまなバリエーションのアープ・サウンドが1台で手に入り、しかもそれらを同時に演奏できる点では非常に魅力的な製品である。

 

QuadraF.jpg

Photo:Five G Technology

TUNECORE JAPAN