【ビンテージ・キーボード】オーバーハイム 2Voice, 4Voice

ビンテージ・キーボード by 編集部 2010年3月29日

拡張音源、ポリフォニック、プログラマブルといったコンセプトをいち早く提示した名機

オーバーハイムと言えば、今日でもシンセサイザー/キーボードのメーカーとして有名な由緒正しいブランドである。しかし、もともとオーバーハイム・エレクトロニクス(OBERHEIM ELECTRONICS)社は1970年代前半まではシンセサイザーではなく、マエストロ(MAESTRO)ブランドのフェイザーやリング・モジュレーターなど、エフェクターの設計/製造を手掛ける会社であった。

マエストロのエフェクターはギタリストだけでなくキーボーディストにも人気があったが、同社は一時的にアープ製品のディーラー業務も行っていたこともあり、トム・オーバーハイムの視線は徐々にシンセサイザー市場に向けられていったのである。

シンプルながらよく考えられた拡張モジュールのSEM

1970年代前半といえば歴史的名機、モーグMinimoogとアープOdysseyが覇権を争っていた時代。オーバーハイムはそれらを研究すると同時に、ミュージシャンからの要望に耳を傾ける。彼らの”音を分厚くしたい”"バリエーションを増やしたい”といった意見に答え、オーバーハイムが取った戦略は実に手堅いものだった。2大巨頭に真っ向勝負を挑む製品ではなく”拡張モジュール”という位置づけの製品を投入したのである。1974年に発表されたその製品名はそのものずばり、Synthesizer Expander Module、略してSEMと呼ばれるものだった。

拡張モジュールの形態を取るだけのことはあり、SEMは非常によく考えられたシンプルな構成のモノ・シンセである。アープもモーグも、音作りの要であるフィルターは4ポールのローパス・フィルターが基本。それぞれ個性はあるものの、やはりフィルタリングによる音作りバリエーションには限界があった。対するSEMのフィルターは2ポールのマルチモード。ノブを回すとローパス〜ノッチ〜ハイパスと特性が連続可変していき、ローパスの位置からさらに左へ回すとバンドパス・フィルターに切り替えることができたのだ。さらに2基のVCOもパルスワイズ・モジュレーションやオシレーター・シンクが可能、2基のエンベロープと1基のLFOという必要にして充分な構成で、マルチモード・フィルターの恩恵もありサウンドのバリエーションは幅広かった。回路的にも教科書から抜き出してきたようなオーソドックスなものであったが、出音には独特の個性が生まれていた。明るく張りのある、オーバーハイム・サウンドの誕生である。

もちろんこのSEMのサウンドを単体で演奏したい、という要望は多かったのだろう。オーバーハイム製品の販売を手掛けていたノーリン・ミュージック(NORLIN MUSIC)が多量の注文をキャンセルし、SEMの在庫を抱えてしまったのが開発の直接の原因と言われてはいるが、1975年にオーバーハイムはこのSEMモジュールとデジタル・スキャン方式のキーボードを組み合わせた2Voice、4Voice、8Voiceと名付けられた3種類のラインナップを自社ブランドで大々的に発表する。

デュオフォニックの2Voiceとポリシンセの4Voice/8Voice

2Voiceは、2基のSEMとそれをデュオフォニックでコントロールする3オクターブのキーボード、そして8ステップ×2トラックのアナログ・ステップ・シーケンサーを組み合わせた製品だ(写真①)。シーケンスをバックに演奏することも、2基のシンセで異なるシーケンス・フレーズを奏でることもできるこのミニマムな構成は、むしろ今見る方が魅力的だ。4Voice(写真②)/8Voiceはよりポリフォニック演奏に特化した製品であり、SEMがずらりと並ぶ物量作戦とも言える外観は圧巻である。

当時のポリシンセは分周方式によるものが主流で、サウンドの強さはモノ・シンセにかなうものではなかった。後に主流になるポリ・シンセはボイスの数だけアナログ・モノ・シンセを内蔵し、デジタル・キーボードの演奏を各ボイスに自動的に割り振って発音させる形式なのだが、4Voice/8Voiceはまさにそうした形式の最初期のポリ・シンセと言える。さらに1976年にはSEM用のプログラマー・モジュールも開発され、限られたパラメーターしか記憶できないもののプログラマブル・アナログ・シンセサイザーの先駆けとなった。SEMはその後も正常に進化を遂げていき、プログラマブルなモノフォニック・シンセOB-1(1977)、完全プログラマブルで4/6/8ボイス・ポリを実現したOB-X(1979)といった基本的にSEMの回路、音色の特性を踏襲しつつ、よりソフィスティケイトされた製品に続いていったのである。

SEMのサウンドは、もちろん多くのアーティストに愛された。1970年代のヤン・ハマーのシンセ・サウンドがMinimoogにSEMをブレンドしたものであることは有名であるし、ジョー・ザビヌルは名曲「バード・ランド」で当時買ったばかりの4Voiceで明快なサウンドを残している。YMOのステージで矢野顕子の弾く8Voiceも当時を知る人なら記憶に焼き付いていることだろう。

拡張音源、ポリフォニック、プログラマブル。後の時代のシンセサイザーにとって当たり前になったこれらの言葉は、実はどれもオーバーハイムによっていち早く基本コンセプトが提示、そして実現されていたものなのだ。オーバーハイムSEMはそのサウンドだけでなく、さまざな意味でエポック・メイキングな名機だったと言えるだろう。

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写真①
2基のSEMと、デュオフォニックでコントロールできる3オクターブのキーボード、そして8ステップ×2トラックのアナログ・ステップ・シーケンサーを組み合わせた2Voice。

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写真②
本格的なポリシンセサイザーである4Voice。

(Photo:Five G Technology)

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