SAKANAQUARIUM 2012 “ZEPP ALIVE”

ライブレポート by 編集部 2012年7月11日

サカナクションのツアー”SAKANAQUARIUM 2012 “ZEPP ALIVE”"の6月19日、ZEPP TOKYOでのライブの模様をレポートします。

全国6都市のZEPPで計9公演を行ったサカナクションの全国ツアー『SAKANAQUARIUM 2012 “ZEPP ALIVE”』。昨年に続いて開催された”ZEPP ALIVE”は、いわゆるアルバムのリリース・ツアーではなく、新旧の楽曲を織り交ぜながら、ひとつの新しいサカナクション・ストーリーを作り上げるもの。それゆえ、サカナクションの”今”のモードが自ずと表れてくる貴重なステージであり、これからサカナクションが進むべく方向性を伺い知るうえでも、重要なライブと言える。

そこで筆者は、プレ・ツアー公演となった川崎クラブチッタでの『CHITTA’ALIVE』、ZEPP NAGOYA、そしてツアー・ファイナルのZEPP TOKYOと、3公演に足を運んだ。川崎では、”攻め”のセット・リストで斬り込んでくる衝撃と、初日特有のヒリヒリするような緊張感に圧倒され、ツアー中盤の名古屋では、成熟度を増したパフォーマンスで、会場全体を包み込むほどに、実に安定感のあるライブを展開してくれた。そしてこの日は、最高レベルに達したバンドの完成度に、本ツアーの最多動員となる2,700人のエネルギーが注ぎ込まれたことで、繊細さと爆発力を併せ持った快心のロック・エンターテイメントを魅せてくれた。

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これまで、開演前のBGMには水中をイメージさせる気泡の音が定番であった彼らだが、このツアーでは、トライバルなアフリカン・パーカッションのリズムが、途切れることなく、ずっとフロアにこだましていた。19時03分、そのリズムに合わせて自然発生的に数人がクラップを始めると、その小さなクラップは次第に音圧を増していき、それと呼応するかのように、照明もリズムに合わせて点灯/消灯を繰り返すようになる。サカナクションという、今の時代ならではの新しいロックを生み出し続けるバンドのオープニングが、最もプリミティブな音楽であるアフリカン・パーカッションで始まる。そして、そのグルーブに、若い世代のロック・ファンが”お約束”ではなく、クラップというフィジカルな行為で参加していく光景を見て、開演前にもかかわらず、すでに”音楽の本質”を見せつけられたような想いで、思わず鳥肌が立ってしまった。

そのエネルギーが最高潮に達した瞬間、トライバルなグルーブは、一気にエレクトロな4つ打ちビートへとシフト・チェンジ。それと同時に、ステージを覆う白幕に映し出されたのは、ラップトップ・スタイルで横一列に並ぶ5人のシルエットだ。驚いた。ロック・バンドのライブで、誰も楽器を手にせず、DJスタイルのパフォーマンスで観客を熱狂させているのだ。いきなり脳天を直撃する違和感の快感。そう、これがサカナクションなのだ。

山口一郎(vo、g)のリッケンバッカー360が、白幕を切り裂くようにかき鳴らされ「Klee」が始めると、文字どおりにツアー・ファイナルの幕が切って落とされた。たたみかけるように「アルクアラウンド」へと続き、そのエンディングで、岡崎英美(k)がNord Lead 2Xのサウンドをベンド・ダウンさせると、クロス・フェードするように、モーグLittle Phattyのシーケンス・フレーズが唸りを上げる。こうして「セントレイ」が始まり、序盤から”テッパン曲”の連続で、フロアは早くもクライマックスを思わせるかのようなテンションとなり、相乗効果で、メンバーのプレイも、アグレッシブさを増していった。

絶叫にも似たギターのフィードバックに江島啓一(d)のドラムが重なると、次は「モノクロトウキョー」だ。リバーブとディレイがたっぷりかけられた、ウェッティな山口のボーカル。それと対比を成すかのように、岩寺基晴(g)がエッジーなギターを鳴らし、ユニゾンで動く草刈愛美(b)のベースが重厚さを加えていく。そこにバブリーでゴージャスなシンセ・サウンドがきらびやかさを添えると、この楽曲が表現する、都会のモノトーン/フルカラーの二面性を見事に浮かび上がらせた。

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この時点で、サカナクション・サウンドの新たな変化に耳が惹きつけられた。まず、以前にも増して、ひとつひとつの音像がクリアになっているということと、そして、さらなるロー感の充実ぶりが感じられたのだ。誤解がないように補足すると、昨年のツアーの様子を収めたライブDVD『SAKANAQUARIUM 2011 DocumentaLy -LIVE at MAKUHARI MESSE-』を観れば分かるとおり、彼らのライブ・サウンド、そしてバンド・アンサンブルのバランス感覚は、そもそもがとても素晴らしい。しかしながら、現状に安住することなく、このツアーからはベースを変え、ギターのエフェクト・システムを変え、シンセのサブ・ミキサーを変えるなど、実に細かな部分でのマイナー・アップグレードが図られていた。ここからは、あくまでも筆者の推測だが、この細かなトライの積み重ねによって、今まで以上にサウンドが解像度を増し、それによって、緻密で繊細なサカナクション・サウンドの表現力が、ライブの現場で、より一層、観客にリアルに届くようになったように感じた。

表現の緻密さや繊細さという点では、山口がアコギを手に歌った「フクロウ」では、サビに入る直前の”フクロウ”という歌詞の部分だけボーカルのリバーブがバイパスされ、この歌詞をドライに聴かせることで、聴き手の耳と心をグッと惹きつけるなど、PAを含めた聴かせ方の工夫も随所に見受けられた。また、続く「壁」では、ステージ上のすべての照明が消された状態で演奏されるという、驚きの演出。目を開けているのに何も見えないという、完全に視覚が奪われた状態の中で、観客の全神経は本能的に聴覚へと向かい、ひとつひとつの言葉と音に、無限の想像力が広がっていく。この体験に、ハッとした観客は多かっただろう。常々、山口が「チーム・サカナクション」と表現するように、彼らのライブは、単にバンドがステージ上で演奏するだけではなく、音響や照明、レーザー、スモークなど、あらゆる分野のプロフェッショナル達の手によって創り出されている総合芸術であり、今、その中に自分は身を置いているんだということを強く意識させられた瞬間が何度も訪れた。

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「壁」のラストで、”僕が覚悟を決めたのは/庭の花が咲く頃”と歌われたとき、ここで初めて暗闇の中にひとつの光(NINJAR LIGHT)が灯り、天井からゆっくりと降りてくる。その光を山口が手の中に包み込むと、柔らかくも密度感のある”ドーン”というキックが、静まり返ったフロアに深い響きを残した。新曲「僕と花」のカップリング曲「ネプトゥーヌス」だ。まるで、ローランドTR-808のモディファイ・モデル(改造版)でキックの音色をロング・トーンで鳴らしたかのような、ベースのようにも聴こえる不思議な質感だ。そこに、デイヴ・スミス・インストゥルメンツProphet’08特有の、優しく、それでいて存在感のあるシンセ・ストリングスが重なり、ステージ後方に映し出されるオイル・アートと讃美歌的な合唱がリンクしながら、エモーショナルな荘厳さを生み出していた。

「フクロウ」「壁」「ネプトゥーヌス」の3曲が導いてくれた幻想的な空間から、「『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』」のアカペラ・コーラスが、緩やかにリアルな世界に連れ戻してくれ、そしてファンにはお馴染みの「ホーリーダンス」へと続いていく。しかし”お馴染み”と言いながらも、ここにも新しい試みが詰まっていた。「ホーリーダンス」のビートが途切れることなく「インナーワールド」が始まり、さらには同曲のギター・リフが、コードを緩やかに変えながら「サンプル」へと移り変わっていく。このように、今回のツアーでは、本編中では一度もMCを挟まずに、ほぼノン・ストップで演奏が続けられたのだ。

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以前から、彼らはライブ本編中にはほとんどMCを挟まず(MCは、あっても1度程度)、”喋るよりも、音楽を聴いてもらう”というスタイルをとってきた。しかし今回は、1度もMCを入れないだけでなく、ほとんどの曲で曲間を空けずに、曲と曲をつなげて演奏するという構成/アレンジとなっていたことは、注目に値する(特に本編終盤の「アイデンティティ」から「ルーキー」への音楽的なクロス・フェードは、感動的ですらあった)。しかもそれは、ありがちなメドレー的な”つなぎ”ではなく、各曲をきっちりとひとつの作品として聴かせながら、曲のつなぎ目ですら、ストーリーとして聴き手に提示しようという積極的な意思が感じられた。DJがクラブで曲をつなぐ手法を、ロック・バンドのライブというフォーマットの中で実践しているかのようでもあり、視線を変えれば、演劇中での場面展開のようでもあった。いずれにせよ、新なライブ・スタイルへの挑戦であったことは間違いないだろう。

そんな中で唯一、曲間をじっくりと空け、ひと呼吸おいてから始まったのが、新曲「僕と花」だった。今さら説明の必要もないだろうが、この曲は、サカナクションとして初となるテレビ・ドラマ『37歳で医者になった僕〜研修医純情物語〜』の主題歌として制作された作品。ツアー前日にシングルがリリースされており、いわばこの曲が、今回のライブでの一番の見せどころだと言える。少なくとも、普通のバンドであれば、間違いなくそうであろう。しかし彼らは驚くことに、「僕と花」を演奏し終えると、キックの4つ打ちとギターのディレイ音を残したまま、全員がMacBook Proの前に移動し、リリースされたばかりの新曲を、大胆にもクラブ・リミックスによって解体し始めたのだ。ここに、彼らがこの曲、このツアーを通して聴き手に何を伝えたいのか、そして広い意味での現代の音楽シーンにおいて「サカナクション」というバンドの存在意義は何であるのか、その主張が凝縮されていたのではないだろうか。

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これらの斬新なアイディアに満ち溢れているサカナクションの音楽は、その一方で、人間の根源的な感性に訴えかける力を持っているということを、今回のライブで改めて気付かされた。彼らの音楽に初めて接する人は、真っ先に刺激的なエレクトリック・サウンドや、ロック・バンドのマナーでクラブ・ミュージックを展開するといった表現手法やアイディア、そのために意欲的に取り入れられている多彩な音楽要素に、意識が向かうだろう。もちろん、そのカッコよさがサカナクションの大きな魅力であることは疑いようのない事実だが、この日のステージと観客の反応を目の当たりにすると、もっと深層部分で、人の耳、さらに言えば、喜びや悲しみの感情を揺さぶるメロディ/言葉/リズムが、いかにしっかりと構築されているか、そのすごさに驚嘆せざるを得ない。だからこそ、サカナクションは”ちょっと変わったことをやる、面白いバンド”といった一部のマニアックな評価に止まらずに、多彩な層を巻き込みながら、その裾野をさらに広げていく”新しいロック・エンターテイメントの担い手”と成り得ているのだ。アフリカン・パーカッションで高揚し、ロック・サウンドでテンションを上げ、ダンス・ビートで心身共に躍り、フォーキーなメロディに心打たれる。これだけの振り幅を持つ要素を、たったひとつのバンドだけで違和感なく140分間のストーリーとして紡ぎあげていく、最高の”違和感”。この壮大なチャレンジが、”ZEPP ALIVE”という旅だったのではないだろうか。

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アンコールでは、8/29にリリースが決定した新曲「夜の踊り子」を披露。キャッチーなシンセの音色&フレーズと、ディレイを駆使したギターの刻みが前面に押し出された”サカナ・ポップ”全開の楽曲で、昔からのファンも、「僕と花」で初めて彼らの音楽に興味を持ったリスナーも、リリースが待ち遠しくなるに違いないサウンドだ。

そしてダブル・アンコールで再びステージに姿を表した山口は、ライブ本編とは異なり、時にユーモアを交えながら、音楽に対する想いをじっくりと語った。その最後に、バンドを使ってもっと面白いことができる可能性を感じたと本ツアーを総括すると、”サカナクションは、どんどん外に挑戦していこうと思います。そうすることで、今は音楽にそんなに興味を持っていない健全な若者(笑)が、ここ(ライブ会場)に入ってきて、みんなのエネルギーで包んであげれば、その人は音楽を好きになると思うんです。だから、外に出ていくことで”変わった”と思われる時もあるかもしれないけど、その時は必ず意図があると思ってください。本当に、音楽を好きな人を増やそうと必死になって、音楽をやっています。まず、自分が音楽を好きだから”という言葉で、この日のライブ、そしてツアーを締めくくった。

バンドとして、とても大きな収穫があったであろうと思われる2012年の”ZEPP ALIVE”。ここで手に入れた種が、どのように育ち、どんな花を咲かせるのか。今後のサカナクションの進化から、目が離せない。

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『SAKANAQUARIUM 2012 “ZEPP ALIVE”』
2012年6月19日
ZEPP TOKYOセット・リスト
01:Klee
02:アルクアラウンド
03:セントレイ
04:モノクロトウキョー
05:フクロウ
06:壁
07:ネプトゥーヌス
08:『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』
09:ホーリーダンス
10:インナーワールド
11:サンプル
12:僕と花
13:boku to hana remix
14:ネイティブダンサー
15:アイデンティティ
16:ルーキー
17:エンドレス
EN1:Ame(B)
EN2:ライトダンス
『SAKANAQUARIUM 2012 “ZEPP ALIVE”』
2012年6月19日 ZEPP TOKYO
SET LIST
01:Klee
02:アルクアラウンド
03:セントレイ
04:モノクロトウキョー
05:フクロウ
06:壁
07:ネプトゥーヌス
08:『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』
09:ホーリーダンス
10:インナーワールド
11:サンプル
12:僕と花
13:boku to hana remix
14:ネイティブダンサー
15:アイデンティティ
16:ルーキー
17:エンドレス
EN1:Ame(B)
EN2:ライトダンス
EN3:夜の踊り子(新曲)
EN4:ナイトフィッシングイズグッド
EN4:三日月サンセット

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