【新人編集者I子の鍵盤名盤レビュー】vol.9 荒井由実『ひこうき雲』

新人編集者I子の鍵盤名盤レビュー by キーボード・マガジン編集部 2020年3月10日

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Album Profile

1973年に発売された、荒井由実のファースト・アルバム。作品の最初と最後を飾り、アルバム・タイトルともなっている「ひこうき雲」は、2013年に宮崎駿監督の映画『風立ちぬ』の主題歌に起用された際には改めて注目を集めた。演奏はキーボード松任谷正隆、ベース細野晴臣、ギター鈴木茂、ドラム林立夫と、今なお名曲を生み出し続けている音楽家が名を連ねる“キャラメル・ママ”が担当。

 

Disc Review

今でも多くの人に愛される国民的歌手のデビュー作は、1枚目とは考えもつかない完成度の高さである。本作が誕生したのは、荒井由実(以下、ユーミン)が19歳のころだ。このアルバムには空をテーマにした楽曲が多く含まれ、当時のユーミンのような年頃の少女が抱える不安定な心模様と、変わりゆく空模様が見事にリンクして表現されている。「ひこうき雲」のイントロから続く高音のピアノのフレーズや、「空と海の輝きに向けて」のストリングスとエレピのふくよかな響きからは、広大な空を見上げて何かに想いを馳せる様子が目に浮かぶ。一方で、「曇り空」、「雨の街を」ではしっとりとした演奏で陰りのある空模様を描き、沈んだ気分を想起させる。疾走感のあるエレピが印象的な「恋のスーパー・パラシューター」は恋する少女の勢いが止められない様子をテーマに歌われる。

その魅力的なサウンドは、現在も第一線で活躍する音楽家が集まったキャラメル・ママによるものである。中でも、松任谷正隆の奏でるローズは、繊細さも力強さも併せ持ち、心の不安定さをも包み込むような琴線に触れる音色だ。あどけなさの残るユーミンの歌声と松任谷正隆のローズの美しい揺らぎが混ざり合う、心に響く名盤である。

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