“一人の奏者”としての考えを明確に打ち出した本を発刊したいと思いました/竹内正実(テルミン演奏/研究家)前編

インタビュー by 三好聡 2014年12月25日

theremin_cover-330x470

世界的に活躍するテルミン演奏家であり、指導者としても長年テルミンの普及に務めてきた竹内正実が実に12年ぶりとなる教則本『続 テルミンを弾く』を上梓した。そのタイトルから分かるとおり、演奏の基礎を解説した前作『テルミンを弾く』のステップアップ編と言える内容になっており、より音楽的なテルミン演奏を志す人にとって、まさに待望の教則となっている。20年以上にわたってテルミンと向き合い、のべ800人以上に奏法の指導を行ってきたという竹内氏。テルミン演奏の難しさ、奥深さ、そして他の楽器では得がたい魅力について試みたインタビューを、前・後編の2回にわたってお届けする。

カラオケ程度の音感があれば
テルミンは弾けます

ーーーー『続・テルミンを弾く』読ませていただきました。テルミン=不思議なスウィープ音を出す機械のように思っている人もいそうですが、楽曲を奏でてみたい!という気になる内容ですね。

竹内 テルミンは音律や音階から解放された自由なインターフェースで、適当に手を動かしても音は反応してくれます。ただ、楽曲を弾くとなると律と階に縛られ、その自由は“厳しさ”に意味が変わります。演奏者は“型”の中に身と精神を置かねばならず、それはとても不自由ですが、その先でしか触れられない恍惚が存在します。エフェクターやルーパーを使って可能性の広がりを求めるのも愉しいですが、楽曲を意味深く弾き、深化させるアプローチも相当面白いことを知ってほしいのです。

ーーーー前著「テルミンを弾く」から12年という、干支もひと回りするほどのタイミングですが、今このタイミングで続編を発売した意図は?

竹内 前作を発表した当時、拙書以外にテルミン教則本はありませんでした。その後弟子たちもテルミン奏者として活動を始め、教則本を発刊する者も現れました。10年を超えるキャリアの弟子も多くなり、中〜上級者向けの内容が求められてきたことや、私の演奏の取り組みが“幾つかある中のひとつのやり方”であるような多様性が育まれてきたんですね。ジェネラリストとしてでない、一人の奏者としての考えを明確に打ち出した本を発刊したくなったことも背景としてあると思います。

ーーーー“腕の良い大工を育てる編”、“詩人を育てる編”という2パート構成も、本格的に演奏表現を磨きたいと考えている人にとって実践的なものになっていますね。

竹内 私のような演奏をしたいと欲している人には参考になるでしょうし、異なる道を求める人にはそのきっかけになるかもしれません。もちろん前者の方が個人的には好ましいですが、テルミン文化全体の発展を望む立場としては、後者の多様性も必要ですからね。

ーーーーテルミンというとピッチを取るのが難しい楽器というイメージを持たれがちですが、きちんとした基礎を学べば、決してそうではないわけですね。実際、竹内さんがこれまで指導した800名を超える方のほとんどが、10分程度のレッスンで音程を取れるようになったそうですが?

竹内 カラオケで歌が唄える程度の音感と、よく動く手腕があればテルミンは基本的に弾けます。これまで演奏者人口においてあまりに分母が小さすぎたので、特別の才能がないと弾けないといった幻想が一人歩きしていたような気がします。私はテルミンを良い意味で一般化させたいと欲し、それを求め活動してきました。長年取り組み、相当なエキスパート奏者になった人も少なくありません。

ーーーーテルミンの演奏に向く人・向かない人がいるとか、特別に音感が必要といったことはない?

竹内 ええ、テルミンならではの適性といったものは今のところ見当たりませんね。強いて言えば洞察力と根気強さでしょうが、これはテルミンに限ったことではありませんよね。

 

ピッチ精度を保ちやすい
“テルミン式”演奏法

ーーーーさて、詳しくは本書を読んでいただくとして、レッスンの基礎部分を少し紹介させてください。まず音程のレッスンについてですが、右手をグーのような形にした“クローズドポジション”を基本にするわけですね。

c

▲クローズドポジション

竹内 テルミンの音の高さは、アンテナに対する演奏者の手との距離/面積に応じて変化します。最もシンプルに弾けるのは俗に”げんこつ式”と呼ばれている演奏法です。手の形を変えないので面積は一定で、距離だけを変えればよいので、動作と音程跳躍の関係をシンプルに捉えることができます。他方、手の形を変えて音程を変えるのは”テルミン式”と呼ばれている演奏法です。中指、薬指、小指と手首関節、全部で10箇所ある関節を連動させるので、げんこつ式に比べるとかなり複雑な動作です。

ーーーーテルミン式の優れている点は?

竹内 テルミン式の利点は、音程跳躍を動作の“量”でなく“形”で捉えられるので、音程跳躍が大きくなってもピッチ精度が保たれ、ポーズ奏法(一瞬左手を下げて無音のうちに次の音の準備をし、左手を上げる)のように音で探れないような場面においてもある程度のピッチ精度を保てることです。また、アンテナから最短距離にある指の面積が小さいので、スラーをかける際大きな動きが可能になり、10箇所の関節を連動させることで、ニュアンスに富んだスラーをかけることができます。

ーーーーこの本で紹介されているように、“クローズドポジションの状態で出る音程を、その曲の最低音にする”のが最もベーシックな音程の取り方だと考えればいいのでしょうか。

竹内 いわゆるテルミン式演奏では、クローズドポジションとオープンポジション、この両極のフォームで1オクターブの跳躍ができます。クローズドポジションをどの音の上に置くか決めることをポジショニングと言います。演奏する曲の音域が1オクターブである場合、最低音にクローズドポジションを置けば、クローズドポジションとオープンポジションの間で、すべての構成音を弾けることになります。

o

▲オープン・ポジション

ーーーー2つのポジションでちょうど1オクターブを取り、その間に音階を並べていくようなイメージなのですね。

竹内 ええ、演奏する人の手の大きさ、指の長さはそれぞれですが、クローズドポジションから1オクターブ跳躍した音をオープンポジションで取れるよう、ピッチ軌道(音程を刻む手などの動き)を探るとよいと思います。ただ、テルミン式演奏法の要となるのはフォームと音程跳躍のイメージングですから、演奏フォームと音を組み合わるバリエーションは少ない方が迷いなく弾けます。私の場合、クローズドポジションを置くのは(2)主音 (2)第3音 (3)第5音 (4)平行調の主音(長調の場合は第6音)という4音に限定しています。

ーーーー手の大きさや指の長さといった個人差も演奏に関係しそうですね。

竹内 手の大きな人はピッチ軌道をわずかにずらすなどしないと、手の小さな人の6度くらいのフォームでオクターブ跳躍できてしまいます。ですから、手の大きな人が標準的なピッチ軌道で弾けば、オープンポジションで1オクターブ超えの音程跳躍が可能です。ただ、一般的な楽曲を弾く限り、跳躍は1オクターブか、大きくてもせいぜい9度ですから、ワンアクションで大きな音程跳躍ができる利点よりも、同じ音程をより小さな動作で演奏しなければならないシビアさがデメリットになりがちです。

ーーーークローズドポジションで取る音=その曲の調性における主音(Cメジャーならドというふうに)にすることによって、さらにフォームをイメージしやすくなるということなのですね。

竹内 そうですね。さきほど言ったように、テルミン式演奏法で肝心なのはイメージングです。私はいわゆる”移動ド”で音を捉えていますが、いかなる調性であっても長調の主音は”ド”で、それをクローズドポジションで取れば最も迷わずイメージングできます。きっと最初に覚えたからだと思うのですが、頭の中でイメージの変換をしなくて済む感じです。

ーーーー掲載されている課題については、お手本になる動画が用意されているので非常に分かりやすいですね。冒頭の方にある、完全5度を取る音程跳躍のレッスンなど、フォームの変化を見ていると「なるほどこういうイメージで動かせばいいんだな」と思いました。

竹内 12年前に『テルミンを弾く』を上梓したころには、ネットで動画を観られる環境なんてありませんでした。多くの言葉を費やし直列的に説明するより、動画は同時に多くを伝えてくれます。まずは私の真似をし、私の型をまとってみてください。そのうえで型を破ってもらえればいいと思っています。

http://www.mandarinelectron.com/theremin/iat/carpenter/
▲腕の良い大工を育てる編

http://www.mandarinelectron.com/theremin/iat/poet/
▲詩人を育てる編

 

後編(2015年1月9日公開予定)に続く

 

PROFILE

竹内正実(Masami Takeuchi)
テルミン演奏、研究
1967年埼玉県生まれ。大阪芸術大学音楽学科音楽工学専攻卒業。1993年ロシアへ渡り、電子楽器テルミンの発明者レフ・テルミンの血縁で愛弟子のリディア・カヴィナにテルミンを師事。レフ・テルミン直系の演奏法を継承する、日本人初の本格的教育を受けたテルミン奏者となり、これまでに200回以上のコンサート出演、150回以上のテレビ、ラジオ番組出演経験がある。国内外での演奏活動のほか、テルミンに関する論文発表や演奏教室の指導などテルミンの普及に努めている。浜松市在住。

マンダリンエレクトロン
http://www.mandarinelectron.com/

マンダリンエレクトロンFacebookページ
https://www.facebook.com/mandarinelectron

 

商品URL

http://mandarinelectron-shop.com/shopdetail/000000000117/001/003/X/page1/brandname/

 

関連記事

人気の楽器「マトリョミン」が世界記録に挑む
https://rittor-music.jp/column/c/21746

「最大数のテルミン合奏」が世界記録達成! 準備期間約1年の大プロジェクトの裏側をインタビュー
https://rittor-music.jp/column/c/24817

 

TUNECORE JAPAN