一聴したら自作自演のアルバムになっていますが、実は真逆で、いろいろな方の協力があって成り立っている作品なんです/吉澤はじめ

インタビュー by キーボード・マガジン編集部 2014年9月11日

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Mondo GrossoやCOSMIC VILLAGEなどで活躍し、birdやCHARA、MONDAY満ちるなどのプロデュースも行うキーボーディスト/プロデューサーの吉澤はじめが、最新ソロ・アルバム『Inner Illusions』を9月17日(水)に発売する。クラブ・ジャズからラテン・ミュージック、ヒップホップ、ボーカル・ナンバーなどさまざまなフォーマットの楽曲で、吉澤の卓越したキーボード・プレイを堪能できる充実の1枚となっている。吉澤にアルバムの制作について聞くとともに、後半ではすべての作業を行ったという所有スタジオの鍵盤機材についても話を聞いたので、お届けしよう。

カッコ良いと思った楽曲の記憶を
たどりながらアレンジを練っていく

————ニュー・アルバム『Inner Illusions』を作ることになった経緯を教えてください。

吉澤 本格的なアルバム制作は去年の暮れぐらいにスタートしたんですが、実はその2、3年前にも“アルバムを作りませんか?”と声かけてもらったんですよ。それをきっかけに新しくデモを作ったり、既存のデモのクオリティを上げる作業をしてアルバム用のデモを貯めていったんです。だから、収録されている曲で一番古いものは、2010年ごろのものもあったりしますね。

————コンセプトはどのようなものになっているんですか?

吉澤 サウンド的には、ジャズ・ピアノ・トリオとオーケストラを合体させる、ということがコンセプトにありました。実際のオーケストラではなく、ソフトウェアのオーケストラ音源を使った形で、全く違和感なくオーケストラとジャズを合体させる、ということにトライしてみようと。そういう展開ができる曲を、作り貯めていたデモから選んでいきましたね。

————曲作りはどのように行うのですか?

吉澤 基本的にアップルLogicで、まずソフトウェア音源やオーディオ・トラックを思いつきで4つほどトラックを作るんです。そしてまずテンポは気にせず適当にパラパラと弾き、気持ち良いサウンドだなと思ったら、テンポを入力してまた弾き直す。7割くらいはそういうパターンですね。それ以外のパターンは、ギターなどでいろいろ遊んでいたら、メロディが浮かんで……ということもあります。実際そういうふうにできたのが、「Many things to warry…」のギターから始まるイントロ。

————どういう曲を書くか決めて始めるのではないんですね。

吉澤 決めたりはしないですね。そのやり方だと自分は飽きてしまうと思うので。あとよくやるのは、作った曲を軽く寝かして、後で何曲か合体させる、というやり方。2、3曲を組み合わせて作るので、使わなかった部分もたくさんあるんですよ。そこで、今回のデモ音源をタワーレコードの特典ミニCDとして付けようと思っているんです。専門的に音楽を聴く人じゃなくても、もとがどんな曲だったか、どういう作り方をしているのか分かったらより楽しんで聴けると思うので。このアルバムを聴いた人に、さらに興味深く聴いてもらえたら良いと思いますね。

————オーケストラ・アレンジで意識したことは?

吉澤 作曲するときとは違って、自分の頭の中にある程度の音を鳴らしてから作るようにしていますね。イメージのない状態でやると、あっちにいったりこっちにいったり迷うようになってしまう。また、浮かばないときでも、例えば古今東西の曲からインスパイアを受けて考えていくことはありますね。自分の中のボキャブラリーというよりも、どこかで聴いたカッコ良い曲の記憶をたどっていくという。僕の場合すごく助かるのは、それがうろ覚えなので、そのまんまコピーすることにはならないんです(笑)。何百何千っていう曲を聴いているので、もう頭の中の整理ボックスから取り出せないものもあるんですが、潜在意識に残っているので、気持ち良いポイントを判断する感覚はできていると思うんです。音楽を聴いて、“なんで気持ち良いと感じたか?”という感覚を大事にしておくと、そのポイントをより簡単に取り出しやすくなるんだと思います。

————レコーディングはどのように行ったのですか?

吉澤 レコーディングはすべて僕のスタジオで行っていきました。弾いた鍵盤は、ローズMark Ⅱ Suitcaseとベヒシュタインのグランド・ピアノをメインにして、ところどころでホーナーD6、ウーリッツァー200、モーグMinimoogなどを使っています。そのほかのシンセ音源は、ひたすらLogicのプラグイン・シンセですね。オーケストラ音源は、イーストウェストQuantum Leap Symphonic Orchestra。

————ドラムやベース、サックスなど生楽器の録音については?

吉澤 せーので1発でとるのではなく、1つずつ楽器を差し替えていく方式をとりました。まずは自分の鍵盤ものを録音して、ほかの楽器がすべて打ち込みんである状態でドラムやベースを生に差し替える。ジャズ・ミュージシャンって、その場で起こっている演奏に反応して、スポンテイニアスな演奏をしたりするので、このやり方は難しいだろうなと思ったんですが、プレイヤーが僕の欲しいサウンドをすぐに理解してくれたので、思った以上にスムーズにできましたね。

生活のリズムと音楽のリズムというのは
みんな無意識にリンクしている

————アルバムではピアノ・トリオ×オーケストラ、という楽曲のほかに、ヒップホップの打ち込みや、吉澤さんがボーカルを録る楽曲も収録されていますね。

吉澤 そうですね。ただ、1つのパッケージであれこれ全部やってしまうと収集が付かなくなるので、各曲が連携しつつも、個性の映える曲を収録していきました。イメージとしては、ジャズのアルバムというよりも、アルバム全体がサウンドトラックのような、1つのストーリーになっているという感じ。その中にやっぱりストレートなジャズもあったり、「American Deka-cho」のような外国の刑事ドラマのような雰囲気の曲があったり、そういう起伏を作っていっていますね。

ーーーー確かに、ダンサブルなナンバーが多いアルバム前半と、切ないメロディの多い後半ではアルバムの印象が違いますね。

吉澤 そうですね、最後の方になると、郷愁を誘う音楽をもってくる、というのが僕のいつものパターンになっています(笑)。前々作『MUSIC FROM THE EDGE OF THE UNIVERSE』でもラスト・ナンバーにバラード「この道」を、その前の曲に「THE ROOM」という郷愁を誘う曲を用意していたりして。そういうパターンが自分はかなり好きなんですよね。

ーーーーそれでは、各曲について聞かせてください。インスト・ナンバーが並ぶ中、メロウな歌ものの「記憶の平行棒」が印象に残りました。

吉澤 この曲は実は大昔に半分くらい作っていた曲なんですよ。その当時はCosmic Villageでテクノをやっていたので、発表することはなかったんですが、どこかでこういう曲をやれる機会があったらいいなと思っていたんです。今回チャンスが回ってきたので作り直した、という感じですね。

ーーーーリズムの捻りが効いたピアノ・リフの「Dope Impact」は、どのように作っていったのですか?

吉澤 この曲は、チャールズ・トリヴァー(tp)が70年代に出したその名も『Impact』というちょっとアヴァンギャルドなアルバムに刺激を受けて作った曲です。さっき言ったように、うろ覚えで作っていくと全然違う曲になるんですが、同じ方向性を向いている曲を作ることができる。当時の実験的な近代音楽と今の時代の先進的な感じは雰囲気が全く違うというのこともあるし、彼の精神性を引き継いだ楽曲という感じですね。

ーーーーヒップホップ・ナンバーの「Awareness」にもリズム遊びが入っていますね。

吉澤 そうですね。いわゆるヒップホップという音楽の可能性を提示したかった、というのがあったんですよ。聴いているうちにどこがアタマ拍か分からなくなるリズムのトリックって、よくあるじゃないですか。この曲はそれのあまり難しくないバージョンで、楽しみながらいつの間にかひっかかってる、というようなリズムを作っていきました。4小節ごとにひっかけのリズムが続くループになっているんですが、これは例えば一週間の生活のリズムのイメージでもあるんです。人間って、無意識にリズムと生活がリンクしている部分があると思うんですよ。ドラムのフィルを4小節ごとに入れるのは、やっぱりそこでピリオドを打ちたいからで、それは週末でひと区切りを付けるのと同じ感覚なんです。この曲では4小節のループで1週間のリズムを出しつつ、サビでは16分音符5つ分の白玉フレーズを使って、ちょっと2週間くらい休みをもらって旅行している、というようなイメージで作っていきました(笑)。そういう意味で、実は日常的なことを描写している曲でもあるんですよ。

ーーーー1番印象深いのはどの曲でしょうか?

吉澤 1つ1つの曲にストーリーがあるので、すべて印象深いのですが、あえて言うとすれば、東北の子どもたちに歌ってもらった「あおぞら〜Aozora」ですね。経緯を話すと、このメロディ自体は震災の前に作ったものなんですが、今回それに詞をつけてみたら、子供たちに歌ってもらえたらいいな、というイメージがわいてきたんですよ。それでjazz for 東北という団体が企画している、被災地の保育園などで演奏するボランティアに参加したときに、“もし良かったらこの曲を園児たちに歌ってもらえませんか”、とお願いしたんです。保育園の先生にも快く承諾してもらい、何日か練習してもらった後に、子どもたちの歌を録音しに行きました。それを家に戻って聴いてみたら、これは全然使えるなと思い、アルバムに収録させてくださいとお願いしたんです。今回のアルバムは一聴したら僕の自作自演のアルバムになっていますが、実は真逆で、そういう関係者の協力があって成り立っているんですよね。そういう意味では、この曲が一番それが象徴的に表れているかな、と思います。参加してくれたアーティストや協力してくれた方々がいる、というのが非常に大きな要素になっていますね。

ーーーーアルバムが完成してみて、リスナーにどのように聴いてほしいと思いますか?

吉澤 カジュアルにも聴けるし、じっくりと聴けるというアルバムにもなっているので、聴き方を選ばず自由に聴いてほしいと思います。先ほど1つのストーリーのようになっていると言いましたが、どれか1曲を聴くきっかけさえあれば、入ってこれるアルバムなんじゃないかな、と。それに、面白い映画を観ようとするときって、そんなにジャンルは気にしないじゃないですか。それと同じように、ロックが好きな人でも聴けると思いますし、すごくジャズが大好きな人でも聴けると思います。ぜひいろんな人に聴いてほしいですね。

Studio Equipment

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▲スタジオの中央に鎮座しているのは、ベヒシュタインのグランド・ピアノ。

吉澤 これは2006年くらいに手に入れました。それまではディアパソンというメーカーのピアノを使っていたんですが、それが若干へたってきてしまったので、引退することになったんです。ベヒシュタインにした理由は、このピアノに近いグランド・ピアノのあるライブハウスがあって、そのピアノがすごく好きだったからですね。ベーゼンドルファーのようなゴツゴツした感じとはまた違って、飾らない感じで重たい音がする。アルバムのピアノの音は全部このピアノです。反響板自体は新しくなっているんですが、ピアノ本体に製造年月日が掘ってあって、1900年以前に作られたものらしいです。

 

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▲作業デスクの左側には、上段にホーナーD6を、下段にローズMarkⅡSuitcaseを設置。

吉澤 これは僕にとって2台目のローズなんですよ。下北沢のANDY’S STUDIOで、たしか97年あたりに購入しました。アルバムでは統一感を出そうと思ったので、このエレピとグランド・ピアノをメインのキーボードにしています。クラビの方は、手に入れたのは2008年くらいで、「記憶の平行棒」などで弾いていますね。

 

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▲デスクの右側のキーボードは、上段からモーグMinimoog、ウーリッツァー200。

吉澤 ウーリッツァーは、200Aではなく、その1つ前の200というモデル。200Aだときれい過ぎて、せっかくウーリッツァーなのに、音がローズのように感じてしまって。良い意味で古い音しているのは、200の方なんですよね。その代わり、ノイズ対策が大変ですけど(笑)。今作では、ウーリッツァーは調整中で、1曲だけしか使えなかったんですよ。それも「White March」で目立たないアルペジオを弾いているだけなので、あまりフィーチャーはしていないですね。Minimoogの方は、「Many things to worry…」のシンセ・リードで、Logicのプラグイン・シンセを重ねて使いました。Minimoog単体の音でも良かったんですが、もっと違う質感が欲しかったので。やっぱりアナログ・シンセを重ねてロー音程を出すと、ファットな感じが出ますね。

 

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▲作業用のマスター・キーボードにはコルグSV-1を使用。

吉澤 これは単純に音が好きだったので購入しました。マスター・キーボードというよりは、ピアノがどうしても使えないライブハウスで演奏するときに使っています。以前はそういうところでやりたくないとか、だだをこねてたんですが(笑)、せっかくやるチャンスがあるならやってみようと思うようになりまして。実際にはまだ2回くらい使ってないんですが(笑)。今回打ち込みするときに使ったキーボードは、ほぼこれ1台ですね。

 

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▲スタジオにはモーグSonic 6という珍しいキーボードも。

吉澤 今回のアルバム中では使用していないんですが、シンセサイザーで何か脅かし系の音楽をやろうと思ったとき、これが1台あると便利ですね。トリガーでループさせるリズムを作れるので、結構面白いです。見た目も、男の機械好きの心をくすぐられますよね(笑)。サウンド自体は基本的にモノフォニックで、ベース音色からリード音色まで作れますが、Minimoogのようなファットな感じではあまりありません。やっぱり飛び道具的な音作りが得意……というかそっち系の音色を作っているとハマってしまいます(笑)。ライブで何回か、実験音楽的なことをやるときに使いました。

 

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▲そのほか、スタジオの奥にはヤマハCS01、ホーナーPianetといったビンテージ・キーボードが。ほかにもコルグPolysixやヤマハDX7、CP70なども所有しているとのこと。

 

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