Vol.2 最新作『TOTAL』の印象~リリースまでの流れ

特集 by 編集部 2012年5月16日

今の自分は最新のコレクションにある(KIYONAGA)

最新作『TOTAL』の印象

KIYONAGA(以下K) まだ聴き込めていないので、正直言えば途中なんですが……やっぱりどんどん入ってくる。僕にとっては3.11以降のTHA BLUE HERBのアルバム。
ILL-BOSSTINO(以下B) そうですね。
K あとはライブ感をすごく出しているなと。
B あります。ラップの入れ方もライブの延長のような感じでやっていますからね。
K 言っていることもすごく前に向いているし。僕は言葉のプロじゃないからうまく出てこないけど、ライブっぽい。終わり方もそうだし。
B 入り方もそうですね。
K 『LIFE STORY』も今作もそうですが、THA BLUE HERBはラップの美学……ラップが重要というのがあって、今回もラップが最高。というか、フォーメーションが完璧(笑)。特にラストの2曲の流れというか。ラップの中身以上にそこに耳がいきました。
B 本当にそうですね。12曲目があって、それがずっとアルバム的に最後に入れるつもりで作っていたんです。いかにそれをどう言っていることに説得力をもたせるかということで前半を作っていって、それで一度は12曲目が最後でアルバム制作が終わったんです。だけど、O.N.Oと2人でもうちょっと行ってみようよ、まだ行けるよねという話になった。それで最後に録ったのが13曲目。それではめ込んでみて、アルバム最後の曲だからアウトロの部分もO.N.Oに整えてもらって完成したと。これはライブでもアルバムでもいつもそうなんですが、プロデュースとして全体を見るときに重要なのが最後の局面にどうお客を導いて行くか。
K 個別の中身というよりもフォーメーション。
B サッカーではないけど、フォーメーションはすべての場所に役割がある。1つ1つで切り取ってみても強度があるけど、全体として。せっかくのアルバムですからね。トータルで聴いてほしいというのがあるから。それをやりたくて自主でとことんやっているというのもあるんですよね。細部まで誰にも指図されたくないし。
K やっぱり今回もガーッと最後までいけるんです。一本の映画を見るみたいに。1曲目があって2曲目に行ったらそこからは加速度的に最後まで早く行きたいみたいな。
B オレもそう思うし、O.N.Oも同じようなことを言っていましたね。作った後に聴いていても、最後までスッと行けるねと。
K 13曲目はそういう流れで作ったんだ……ライブで言うところのアンコール的な雰囲気も感じたというか、これで終わるよみたいな。締めにもっていく感じがありますよね。

SOPH.とTHA BLUE HERBの共通点

K THA BLUE HERBが1997年結成で、1998年に1stアルバムなので、SOPH.よりも1つ先輩なんですよ。だから、先輩の10年目の曲を聴いて、そうだSOPH.も来年で10年目だと(笑)。
B よくそういう話をしましたね。
K ほかにも、年齢的にそろそろ鍛えないとまずいかなとか。
B ジムの話もしていましたね(笑)。“ダンベル上げ、油断せず鍛える”(編注:1997年リリースのシングル「PHASE 3」の一節)で鍛えないとって思ったとか(笑)。結構、共有感はありますね。マーケットというか、地方での広がり方とか、店との信頼感だとか、つながりだとか。攻め方だったり。あとは清永さんだと特にノベルティで遊ぶところなどがオレたちと近い。仕事を真剣に楽しんでいる感がオレたちと同じ面白さがあるんです。
K 歌詞カードにアンダーラインを引いておけばよかったんだけど、THA BLUE HERBにはきっかけというか、励ましみたいな言葉をもらうことが多いですね。オレのやっていることは間違っていないんだと思える瞬間というか。
B うれしいですね。
K THA BLUE HERBを聴いて今の自分を確認していることが大きい。自分から言うのはおこがましいけど、近い感覚でやっている詩人、ラッパー。今をちゃんと言葉にしてくれる人ってなかなか居ない感じがするんですよね。THA BLUE HERBは絶対的に今なので。
B そうですね。
K 僕は今、新しいアルバムを聴かせてもらっていますが、これだけでいいんです。今はこれだけ。
B 同感です。今まで出してきたアルバムも聴き返してもすべてに気持ちが入っているし、そのときのリアリティがあって、全部がそれぞれ比べられないくらい好きだけど、今現在で言ったらこれまでの3枚のアルバムすらも『TOTAL』を作るためにあったというくらい絶対的にこのアルバム。“オレは何枚目のアルバムが一番好きだった”とかそれぞれの思い入れの中でお客にはいろいろ言われるんですが、常にオレらやっている方は送り手としてアップデートしていきたいというのが前提。そういう意味では『TOTAL』でも自分たちが更新できているということが味わえたから、このアルバムで現在はバッチリ。
K 比べるわけではないけど、今は前作『LIFE STORY』と今回の『TOTAL』についてしか語れないくらい。例えばSOPHNET.についても何年のコレクションが好きだったという話を聞くことがあるけど、今の自分は最新のコレクションなので、と言います。
B そうですよね。服の世界だと、オレたちのように4~5年とかに1枚のアルバムという回転のタームよりもっと早いわけですよね。だから、そこにとらわれるわけではなく、しかも連続性も大切で……そこは難しいでしょうね。だから面白いんでしょうけど。ただ、ずっとやり続けるというのは面白いですよ。そういうところでシンクロしている感じもあるんです。同時代性みたいなものがあり、さらに消費されてしまいがちだけど、消費させない……時の流れとの闘いみたいな部分はあるし。

常に送り手としてアップデートしていきたい(ILL-BOSSTINO)

4thアルバム『TOTAL』リリースまでの流れ

B (3rd『LIFE STORY』から5年空いているのは)計画的ではないです。一昨年の頭くらいの段階で“Phase3.9”という自分たちのライブを完璧なものにする時期に来たと考え出したときから、自動的に次はアルバムということになっていたので。だから、2010年頭くらいからリリックも書き始めていたし。O.N.Oに関しては2009年くらいから音について次に向かうための作業には入っていた。結構、長く作っていた感じですね。
K その間に3.11があって。やっぱり影響を受けているんですよね。結構、ワードが出てきますからね。
B はい。被災地から近いか遠いかの影響はあるにせよ、あれだけ日本人全員が同じ1つの経験をしたことは無かったし、僕もみんなと同じように深く傷付いて、考えさせられたのもあった。特にヒップホップというのは1つ1つの時代の中で起きた矛盾だとか間違いに対して思いっ切りえぐっていくというのがあるので、その印象は強烈でしたね。ただ、2011年に出た作品の中でそういうことを感じさせるものってほとんど無かった。それで、今年くらいからその思いみたいなものを整理できた人たちが自分のアートフォームにはめて出せるような時代なのかなと思うんですよね。早かった人もいたけど、反射神経でやる方と時間をかけてやる方に分かれるんだと思う。オレはどちらかと言えば後者というか。
K ただ言うだけであれば簡単ですからね。
B 昨年はなぜやらないんだろうってよく自分でも考えていたけど、オレはじっくりとよく考えてやっていく。蓄えてから出したかった。

……Vol.3 に続く

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