剽窃する歌声

青真鶴日記 by 青野賢一(真っ青) 2010年10月14日

9月某日
遅ればせながら、PHEW『FIVE FINGER DISCOUNT〜万引き』を聴いた。彼女の15年振りとなる新作だ。

オリジナル楽曲だけでまとめられた『秘密のナイフ』(1995年)に続く本作は、全曲カバーという意表をついたものだった。ザ・フォーク・クルセダーズ「オーブル街」に始まり、「天井桟敷」の最後の公演の主題歌であった「世界の涯まで連れてって」、カルメン・マキのデビュー曲「時には母のない子のように」、所縁の深い坂本龍一の「Thatness and Thereness」や、五木寛之作詞のザ・フォーク・クルセダーズのラストシングル「青年は荒野をめざす」、そしてラストの「夢で逢いましょう」まで、60年代から80年代の楽曲を、時にはフォーク的に、時にはアンビエント的に、はたまたパンクロック的に、アヴァン・ジャズ的にカバーしたのが『FIVE FINGER DISCOUNT〜万引き』である。「的に」と書いたのは、それ風だという意味ではなく、本当ならそんな説明すら無用なほど、オリジナルな内容に仕上がっていて、せいぜい「的に」としか表現しようがないからで、そういった視点で見るならば「お前のものはオレのもの」とでも言うべき見事な強奪行為であって、それを端的に表したアルバムタイトルもまた秀逸の極みだ。

ところで、カバーアルバムでありながらオリジナルなものに仕上がっている理由は、楽曲ごとのアレンジもさることながら、全編を貫くPHEWの歌声だということは一聴して明らかだ。不安と力強さとたおやかさと狂おしさ哀しさそして美しさ。人間のすべての感情を内包するようなその歌声が響いた瞬間、歌声は楽曲を凌駕する。昨今のオートチューンがかかった歌に慣れきった耳には、刺激が強過ぎるかもしれない。それほどまでに聴く者に消し去りがたい痕跡を残すものである。
一方、バックの演奏に耳を移すと、ジム・オルーク、石橋英子、山本精一らが奏でる音は、ドローンであったりノイズであったり、クラシカルなピアノ音だったりギターのアルペジオだったりと、様々な表情を見せてくれるが、どの曲も歌との距離感が絶妙で、そこがなんとも心憎い。内田直之による録音とミックスは、ホームメイド感を残したいい意味でざっくりした質感で、そうした歌と演奏のバランスを計りながらPHEWの歌に存在感を与える見事な共犯者となっている。

書:華雪
「青真鶴日記」「真っ青」の書は、書家 華雪さんによるものです。
http://www.kasetsu.info/

青真鶴日記 by 真っ青

青真鶴日記(あおまなづるにっき)は、真っ青(山崎真央/鶴谷聡平/青野賢一)の3人がそれぞれのスタイルで音楽を見つめ綴っていく、日記形式の連載です。青→真→鶴(=青真鶴!)の順にリレー形式でお送りします。

真っ青

クラブのみならず、ファッションショーやホテル、ショップ、カフェなど、およそ音楽と触れ合うことが出来る空間すべてに良質な選曲を提供してきた山崎真央(gm projects / AKICHI RECORDS)、鶴谷聡平(NEWPORT)、青野賢一(BEAMS RECORDS)の3人が結成したユニット「真っ青」。20年以上のDJキャリアに裏付けされたスキル、レコード・CDショップのバイヤー経験がもたらす豊潤な音楽的バックグラウンド、そしてアート、文学、映画などにも精通する卓越したセンスから生まれるそのサウンドは、過去、現在、未来に連なる様々な心情を呼び起こし、聴くものの目前に景色を描き出すものである。


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