流しのCD屋

青真鶴日記 by 山崎真央(真っ青) 2010年9月17日

9月9日
瀬戸内国際芸術祭2010の一プロジェクトで、香川県の豊島(てしま)にあるレストラン「島キッチン」でライブ制作を行うため、新幹線で岡山に向かう。

東京駅から3時間あまりかけて岡山駅に着き、路面電車に乗車。岡山には初めて訪れる。旅費を安くする為にツアー・チケットをとったところ、自分の意図とは関係なく岡山に一泊という事になったのだが、車窓から臨む風景は路面電車の鉄車輪の音と重なり、どこか懐古的な雰囲気を醸し出している。城下(しろした)で下車し、すぐに目に入ったのは、大正ロマン風情そのままの登録文化財、禁酒会館。そのすぐ横にホテルがあり、チェックインを済ませて8Fの部屋に入る。カーテンと窓を開け、その横でPCを開いてメールをチェック。そしてとりあえず一息つきながら窓の外を眺めると、眼下に大きくSAUDADEHAUSと書かれたビルがあった。そうだ、岡山の城下は「サウダーヂな夜」がある町だ。

「サウダーヂな夜」とは夜な夜な音楽好きが集う事で有名なCAFE/ BARである。その下の1Fには「城下公会堂」というカフェも併設されており、さまざまなアーティストを招いてライブも行っている。僕の知人のミュージシャンもたくさんここに呼ばれてライブをしているので、昔からずっと訪れてみたい場所だった。お腹も空いていたので、ホテルを出て表から「城下公会堂」の中を覗いてみると、オーナーの森山さんの姿が見えた。
森山さんとは、ずいぶんと前から会えば挨拶をさせて頂く顔見知りだった。中に入り、偶然にも目の前のホテルに一泊する事を伝えると、とても親切に迎えてくれた。
テーブル席でしばらく雑談したのち、残念ながら森山さんはこれから外出しなければならないという事で、カウンター席にいた男性を紹介してくれた。その男性、岡本方和さんは、岡山で古くからレコード・CDの小売業を営んでいる、知る人ぞ知る人物で、現在はmoderado musicという屋号で「流しのCD屋」をしているという。「流しのCD屋」とはなんであろうか?

自分とは近しい職業の方という事もあり、食事をとりながらも音楽話が弾む。疑問であったその「流しのCD屋」について話を伺うと、岡本さんは、店舗を持たないがWebサイトなどを使った通信販売をしている訳でもなく、いつも鞄を小脇に抱えてその中に在庫を持ちながら、カフェなどに行き、そこに居合せたお客さんを相手にCDを売っているらしい。ときにはお宅訪問販売もするそうだ。

音楽のネット通信販売やダウンロード販売が主流になってきているこの時代に、こんな音楽愛に溢れる商売をされている岡本さんに僕はとても嬉しくなり、そのカウンター席の下に無造作に置かれていた在庫を見せてもらった。
音楽媒体がめっきり売れなくなった現在、その次のあり方を僕たちは常に問われている。その難題に対して、どうすればCDが沢山売れるかを考えてしまうのが常なのに、量をさばく事よりも音楽を丁寧に伝えていく事を重視しているその活動に僕はとても感動した。もちろん音楽に卓越した人でなければ、なかなか難しいことなのだが、それ以前に音楽に愛と情熱が無ければこんな事はできない。

取り出した小さめのダンボール箱の中にはアルゼンチン盤のCDが沢山詰め込まれ、もう1つの箱にはそれ以外のCDが詰まっていた。岡本さんはアルゼンチン盤の箱の中からCDを取り出し、テーブル席に広げて、僕が手に取るCDを横から1つ1つ丁寧に説明してくれた。その中から僕はCarlos Aguirre Grupo(カルロス・アギーレ・グルーポ)の”Violeta(ヴィオレータ)”とSantiago Vazquez(サンチャゴ・ヴァスケス)の”mbira y pampa(ムビラ・イ・パンパ)”というCDを購入した。前者は現在のアルゼンチンで活躍するピアニストによるグループで、後者は同じくアルゼンチンのパーカッショニスト。ホテルに戻り、早速そのCDを聴くと、どちらも最高に素晴らしい音楽だった。

こういう、人とのコミュニケーションの中で出会う音楽は、ネットで買うそれとは何故かあきらかに違う。僕はこの偶然の重なった出来事が記憶に残るだろうし、このCDへの愛着も深くなり、ずっと聴き続けることになるだろう。
岡本さんは、このCarlos Aguirreを招いて、10月8日にこの「城下公会堂」でライブイベントを開催するそうだ。もしこのときにお近くにいられる方は、ぜひ足を運んでみてほしい。

 

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『mbira y pampa(ムビラ・イ・パンパ)』
Santiago Vazquez(サンチャゴ・ヴァスケス)

レーベル:MUSICAL ANTIATLAS PRODUCCIONES (ARG)

2005年

 

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『Violeta(ヴィオレータ)』
Carlos Aguirre Grupo(カルロス・アギーレ・グルーポ)

レーベル:SHAGRADA MEDRA

2008年

 

書:華雪
「青真鶴日記」「真っ青」の書は、書家 華雪さんによるものです。
http://www.kasetsu.info/

青真鶴日記 by 真っ青

青真鶴日記(あおまなづるにっき)は、真っ青(山崎真央/鶴谷聡平/青野賢一)の3人がそれぞれのスタイルで音楽を見つめ綴っていく、日記形式の連載です。青→真→鶴(=青真鶴!)の順にリレー形式でお送りします。

真っ青

クラブのみならず、ファッションショーやホテル、ショップ、カフェなど、およそ音楽と触れ合うことが出来る空間すべてに良質な選曲を提供してきた山崎真央(gm projects / AKICHI RECORDS)、鶴谷聡平(NEWPORT)、青野賢一(BEAMS RECORDS)の3人が結成したユニット「真っ青」。20年以上のDJキャリアに裏付けされたスキル、レコード・CDショップのバイヤー経験がもたらす豊潤な音楽的バックグラウンド、そしてアート、文学、映画などにも精通する卓越したセンスから生まれるそのサウンドは、過去、現在、未来に連なる様々な心情を呼び起こし、聴くものの目前に景色を描き出すものである。


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