阿部海太郎のコンサートにて

青真鶴日記 by 山崎真央(真っ青) 2011年3月3日

2月某日
クラブキングの運営するディクショナリー倶楽部へと足を運んだ。この日はそのディクショナリー倶楽部が主催する『暗闇快怪音屋敷』という阿部海太郎のコンサート。
僕は彼から、演奏の最中にSEを流す役を頼まれていた。

SE(Sound Effect)とはいわゆる効果音の事だが、阿部海太郎の音楽にはたびたびSEが登場する。1枚目のアルバム”6, Rue des Filles du Calvaire, Paris”では彼がパリ滞在中に録音されたフィールド・レコーディングの数々が全体に散らすように配置され、2枚目のアルバム”SOUNDTRACK FOR D-BROS”では、サウンド・デザイナーのエリック・ナジとのコラボレーション作品「ホテル・バタフライ」で、架空のホテルに滞在する男のワンシーンを音楽で再現している。いずれも素晴らしい作品だ。

会場へは初めて訪れたのだが、とても素敵な場所だった。渋谷から原宿に向かう途中、脇道へそれるとそれまでの喧騒ががらりと変わり、閑静な路地に入る。そのすぐ右側に広がる敷地がディクショナリー倶楽部だ。まるで郊外の別荘地に来たかのような爽やかな場所だった。

到着して間もなく阿部海太郎からSE音源と進行表が渡された。本番前の緊張感の中、僕は客席後方部に小さなDJブースを作り、渡されたそれらを入念にチェックする。今回は真っ暗闇の中でのコンサートという事で、機材のスイッチやディスプレイの明かりはすべてテープで覆うので、ヘッドフォンでのモニターと手探りと記憶だけが頼りになる。ライブの足枷にならないよう曲順やタイミングなどを頭の中で整理し記憶する。

彼の音楽の重要な要素であろうSEは、ライブにさまざまな効果をもたらす。音楽の領域を広げる、曲と曲の間のブリッジとなる、また演奏、音楽そのものを飾るためのスパイスにもなる。そして聴覚の奥行きと幅が広がり、そこに耳を傾けると、1つの抽象的な物語を生み出す。

阿部海太郎がこのすべてを創造している。それをライブに落とし込んでいくのはそれなりの準備やスキルや精神力が要るだろう。ただなんとなくSEを付けているのではない。また音楽知識が豊富だからといってできる事でもない。さまざまな分野に視点を向け、感覚を開き、想像力を働かせなければ、それらが有機的なものに変化し、輝きを持って働く事はないだろう。

照明が落とされ、ライブがスタートした。視覚が遮断されると感覚が研ぎすまされ、そしてさまざまな音が聞こえてきた。いつも聴いている彼の音楽がまったく新しい音楽として聴こえてくる。ピアノのタッチ、バンド間の呼吸、それらが手に取るようにわかる。僕が自分自身で投げ込んだSEにも、抽象的な物語が脳裏に浮かんでくる。暖炉の火の燃える音や時計の音をならすたびに、古びた洋館でのひとときが目の前に現れる。阿部海太郎が奏でるピアノとアコーディオンと鍵盤ハーモニカが、時代や場所を超えて現代に届けられた音色のように思えた。1つのコンサートが一遍の夢のように変わった夜だった。

阿部海太郎の音楽を聴いた事のない人は、ぜひ一度耳を傾けて頂きたい。沢山の音の数々が輝きを放ちながら、1つの映画を観たかのような気にさせてくれるだろう。

書:華雪
「青真鶴日記」「真っ青」の書は、書家 華雪さんによるものです。
http://www.kasetsu.info/

青真鶴日記 by 真っ青

青真鶴日記(あおまなづるにっき)は、真っ青(山崎真央/鶴谷聡平/青野賢一)の3人がそれぞれのスタイルで音楽を見つめ綴っていく、日記形式の連載です。青→真→鶴(=青真鶴!)の順にリレー形式でお送りします。

真っ青

クラブのみならず、ファッションショーやホテル、ショップ、カフェなど、およそ音楽と触れ合うことが出来る空間すべてに良質な選曲を提供してきた山崎真央(gm projects / AKICHI RECORDS)、鶴谷聡平(NEWPORT)、青野賢一(BEAMS RECORDS)の3人が結成したユニット「真っ青」。20年以上のDJキャリアに裏付けされたスキル、レコード・CDショップのバイヤー経験がもたらす豊潤な音楽的バックグラウンド、そしてアート、文学、映画などにも精通する卓越したセンスから生まれるそのサウンドは、過去、現在、未来に連なる様々な心情を呼び起こし、聴くものの目前に景色を描き出すものである。


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