[もの] 表現が形態を選択する

青真鶴日記 by 青野賢一 2011年12月13日

記録するものとしてのメディアが技術の進歩により変化を遂げていることは、改めて言うまでもない。音楽においても然り。iTunes Storeを筆頭に、パッケージでなく「音」を販売するところが増え、それにともないCD販売が鈍化していった(ここ最近はどうもそうではないようだけれど)中で、音楽を販売していくということについて、さまざまな試みがなされている。

かつて、何かを録音するメディアといえば、磁気テープだった。私たちの世代だと、カセットテープ。FMでオンエアされた、好きなアーティストのライブ音源を「エアチェック」したり、お気に入りの曲を入れて、今で言うコンピレーションを作ったりしたものだ。
もう少し遡ると、オープンリールテープ。レコーディングの現場は、デジタルレコーディングが主流になる以前は、このオープンリールテープへの録音が中心であった。オープンリールテープは、デッキが高価だったり、扱いが面倒だったりしたこともあって、一般家庭にはあまり普及せず、もっぱらレコーディング、あるいはコンピューターのデータ記録装置として使われていたものなので、ご存じない方も多いのではないだろうか。このオープンリールテープを楽器のように使う演奏で、国内外で高い評価を得ているグループがある。Open Reel Ensembleだ。

massao-12-1.jpg
massao-12-2.jpg

彼らは、古いオープンリールテープレコーダーを改造し、それを複数台使って、コンピューターあるいは人力で操作し、それに生の演奏を加えたパフォーマンスを行っている。そんなOpen Reel Ensembleの最新作は、なんとオープンリールテープでリリースされている。5号オープンリールテープなんて、聴くことができる人はほとんどいないだろうが、200本限定、直筆シリアルナンバー入りというコレクタブルなもので、また収録曲のダウンロードコードも封入されているから、実際の音はたいていの人は聴くことが出来るようになっている。アーティストのアイデンティティと製品が相互補完しているという、おもしろい取り組みである。

オープンリールテープという古めかしいメディアが登場した一方、最新のメディアを使った取り組みで興味深いのは、やくしまるえつことd.v.dの新作『Gurugle Earth』(限定版)だ。JAXAの地球観測技術衛星「だいち」が撮影した地球の画像に、やくしまるえつこによるドローイングが描かれたカードが30枚。付属のUSBをPC(カメラが付いているもの)に接続し、ソフトウェアを立ち上げ、先のカードをかざすと、カードのサウンドとヴィジュアルを読み込んでいく。ユーザーがカードを任意の順番で読み込ませることで、その人だけのミュージック&ビデオを再生できるという、インタラクティヴなものである。
楽曲や映像の完成形がなく、使い手の感性に委ねられるこの手法は、メディアの目新しさよりも遥かに興味深い。1曲が何分であるとか、Aメロだ、サビだ、というこれまでのポピュラーミュージックの枠組み(と思われていたもの)を脱し、その先の音楽の楽しみ方を提示している取り組みだからこそ、このパッケージとツールを採用しなければならなかった。手段が目的になっていないことが、何よりこの試みを成功に導いているのではないだろうか。

massao-12-4.jpg
massao-12-5.jpg

その表現に相応しいメディアは何か?フォーマットにはめ込むのではなく、作品が形態を選びとるようなものにこそ強度があるし、またそれを補完するツールも、今や一昔前に比べたら驚くほど豊富なわけだから。

massao-12-3.jpg

Open Reel Ensemble「Tape To Tape」
オープンリールテープ盤

仕様:4曲収録 5号オープンリールテープ
※音源データをダウンロード可能
価格:5,000円(税込)

massao-12-6.jpg

やくしまるえつこ と d.v.d「Gurugle Earth」

【限定版】オリジナルデザインUSB(4GB/アプリケーション入り)、ビジュアルカード30枚セット、オリジナル特典Tシャツ付き
価格:8,940円(税込)

真っ青

クラブのみならず、ファッションショーやホテル、ショップ、カフェなど、およそ音楽と触れ合うことが出来る空間すべてに良質な選曲を提供してきた山崎真央(gm projects / AKICHI RECORDS)、鶴谷聡平(NEWPORT)、青野賢一(BEAMS RECORDS)の3人が結成したユニット「真っ青」。20年以上のDJキャリアに裏付けされたスキル、レコード・CDショップのバイヤー経験がもたらす豊潤な音楽的バックグラウンド、そしてアート、文学、映画などにも精通する卓越したセンスから生まれるそのサウンドは、過去、現在、未来に連なる様々な心情を呼び起こし、聴くものの目前に景色を描き出すものである。


TUNECORE JAPAN