『みじかい夜』について幾つか

青真鶴日記 by 青野賢一(真っ青) 2010年11月25日

11月某日
甲斐田祐輔監督の『みじかい夜』を観た。この映画を観るのは、これで2回目だ。

いわゆる典型的なドキュメンタリー作品を思い浮かべてほしい。様々な手段を用いて取材対象を掘り下げ、説明し、観る者に伝える。ドキュメンタリーであるから、演出という概念は少し遠くにあるものだが、監督が取材対象の「この部分」という、伝えるべき中心の輪郭を際立たせるための意識的な編集はもちろんあって然るべきだ。こうした前提(というか先入観)を持って『みじかい夜』という映画を観ると、どうもしっくりこないかもしれない。何しろ、ドキュメンタリーに付きもののナレーションすら入っていないのだから。

『みじかい夜』は、作編曲家でありピアニストの中島ノブユキ氏がこの10月にリリースしたアルバム『メランコリア』のレコーディング風景を中心に据えたものである。3日間という強行軍で録音された『メランコリア』は、その制作期間の短さとは逆に(いや、だからこそ、か!)、長く手元に置いておきたい豊かな作品なのだが、『みじかい夜』はというと、殊更そこを強調するわけでもない。音楽的な知識のさほどない人にとって、3日間という時間は長いのか短いのかさっぱりピンとこないだろう。それを「3日間というのは異例の強行軍なんです」などとは言わずに、目前にただポンと投げ出す。そうすることで、画面の中のアーティストたちへの興味がさらに湧き、彼らが生み出した音楽への興味もまた尽きない。ドキュメンタリーを観てしたり顔でいる、そんなところとは無縁の、分からないことを知りたいという欲求を掻き立ててくれる、そんな映画だといえる。いみじくも、甲斐田監督が「この映画はフィクションでもノンフィクションでもない」というようなことを言っていたのが、心に残る。そういった視線とは別のところに、この映画のおもしろさは存在するのではないだろうか。一方、音楽的な角度でこの『みじかい夜』を観るなら、レコーディングの様子はもちろん、曲が変化していく様、曲に魂が入る瞬間を垣間見れる、貴重な作品ともいえるので、そうした部分を知りたい人も楽しめるはずだ。

ところで、『メランコリア』をまだ聴いていない人にこそ、『みじかい夜』は観てもらいたい映画だ。なぜなら、アルバムに収録されている音は、最高にドライブ感があって、リリカルで、仄かに温かいのであって、そこに至る過程を、音楽家とともに体験できるからに他ならない。

【予告編】中島ノブユキ 『メランコリア』 / Nobuyuki Nakajima 『MELANCOLIA』

書:華雪
「青真鶴日記」「真っ青」の書は、書家 華雪さんによるものです。
http://www.kasetsu.info/

青真鶴日記 by 真っ青

青真鶴日記(あおまなづるにっき)は、真っ青(山崎真央/鶴谷聡平/青野賢一)の3人がそれぞれのスタイルで音楽を見つめ綴っていく、日記形式の連載です。青→真→鶴(=青真鶴!)の順にリレー形式でお送りします。

真っ青

クラブのみならず、ファッションショーやホテル、ショップ、カフェなど、およそ音楽と触れ合うことが出来る空間すべてに良質な選曲を提供してきた山崎真央(gm projects / AKICHI RECORDS)、鶴谷聡平(NEWPORT)、青野賢一(BEAMS RECORDS)の3人が結成したユニット「真っ青」。20年以上のDJキャリアに裏付けされたスキル、レコード・CDショップのバイヤー経験がもたらす豊潤な音楽的バックグラウンド、そしてアート、文学、映画などにも精通する卓越したセンスから生まれるそのサウンドは、過去、現在、未来に連なる様々な心情を呼び起こし、聴くものの目前に景色を描き出すものである。


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