第14回:ボーカロイドに歌わせたら自分の曲じゃなくなるの?~ボカロPのための音楽著作権&著作隣接権講座(初級編)

音楽著作権ベーシック講座 by カズワタベ/水野祐 イラスト:とくながあきこ 2014/01/23

最近大流行のボーカロイド(ボカロ)。打ち込みで歌声を作れるという画期的な製品によって、数々の名曲が生み出されはじめています。またボーカロイドを使う作曲家の人たちは「ボカロP」と呼ばれ、社会現象になりつつあります。今回はそんなボーカロイドを使用するときの権利についてのご相談です。

カズワタベ
今回、ご相談にいらっしゃったのはいわゆるボカロPと呼ばれるような、ボーカロイド(ボカロ)に歌わせた楽曲の制作を始めたばかりのUさんです。

Uさん
こんにちは。最近ボカロを始めたんですが、ボカロに歌わせた楽曲の権利ってどうなるのかなと思って相談に伺いました。「初音ミクに歌わせたら自分の曲じゃなくなる」っていうウワサも聞いたことがあったりして、不安なんです……。

カズワタベ
ボカロに歌わせた楽曲の権利についてのご相談ですね! 最近大流行のボカロですが、Uさんのように権利についての疑問を持ってらっしゃる方も少なくないようです。実際のところ、どのようになっているんでしょうか?

水野
まず、ボカロを利用して制作した楽曲の著作権は、通常の楽曲と同様に、その楽曲の制作者に生じます。ボーカロイドに関する権利については、ボーカロイド(またはボーカロイドに利用されている声優)に「実演家」としての権利を認めるべきだという声もゼロではありませんが、一般的には1つの「楽器」と捉え、特別な権利は生じないと考えられています。ボーカロイドはボーカル・シンセサイザーなので、シンセの音源と同じイメージでよいと思います。
したがって、各ボーカロイドを購入する際に定められている使用許諾契約に定められた範囲内で利用できることになり、一般的にはボーカロイドを利用したCD等の制作販売は許諾されています。

カズワタベ
基本的にボーカロイドは楽器だと思えば問題ないんですね。でしたら、楽曲の権利についても一般的な楽曲と同様に考えれば問題がなさそうです。ボーカロイドを使っても、作った本人が権利者であると。
一方でキャラクターのライセンスは少し複雑そうですね。ボーカロイドの楽曲は、初音ミクを中心としたキャラクターたちのイラストや映像と組み合わされることが多いように思います。

水野
たしかに、初音ミクなどのボーカロイドを利用した楽曲は、音声や楽曲以外にも、イラストや動画が同時再生されて初めて楽曲として完成するものが多いのも特徴です。
初音ミクで言えば、公式イラストの権利はピアプロ・キャラクター・ライセンス(PCL)にしたがって権利が規定されており、個人利用目的であれば自由に利用できる一 方で、市販するCDやDVD等の楽曲にイラストや動画を商用利用したい場合には、権利者であるクリプトン・フューチャー・メディア(以下「クリプトン」といいます)から許諾を得なければなりません

水野
また「VOCALOID」という技術を開発し、商標も取得しているヤマハでは、ボーカロイドのキャラクターを利用したい場合には、各キャラクターを管理している各社のポリシーに従ってくださいと案内しています。

水野
ボーカロイドを利用した楽曲に関しては、従来の「楽曲+歌詞」という音楽の構造に加え、「キャラクター」という新しい要素が密接不可分に加わっているのが興味深いところです。

カズワタベ
例えば、みんながやっているようにニコニコ動画やYouTubeにそういった作品をアップロードするのは問題ないんでしょうか?

水野
PCLでは、非営利かつ無償の場合のみキャラクターの自由な二次利用を認めており、ニコニコ動画やYouTubeで作品を公開する場合もこの条件にしたがっていればアップロードは可能です。
ここでいう「非営利」がどこまでの範囲を含むのかが問題ですが、PCLでは、「ブログ等に掲載されるコンテンツ連動文字広告はこれにあたらないものとします」と規定されています。つまり、通常の営利性の解釈よりも若干広げて解釈されており、ネットでコンテンツが波及していくのを阻害しないような工夫がされているように思います。

カズワタベ
あとボーカロイドを使って自分が作った楽曲を、他人が使用する場合はどうなんでしょうか? いわゆる「歌ってみた」とか「踊ってみた」というやつですね。

水野
その楽曲がJASRAC等の音楽著作権管理事業者に登録されているか否かによって変わってきます。
登録されている場合には、ニコニコ動画やYouTubeで発表する分には、そのプラットフォーム側とJASRAC等の音楽著作権管理団体との間の包括契約によって、楽曲の著作権は処理されているので、利用可能ということになります。ただし、海外の楽曲などでJASRAC等の音楽著作権管理団体が管理していない海外楽曲などの場合には、第9回の相談でも触れたシンクロ権も問題があるので、ダメな場合もあります。
一方で、音楽著作権管理団体に登録されていない楽曲の場合には、著作権は楽曲ごとに自己管理されているということになりますので、無断で利用してしまうと原則として著作権侵害になってしまいます。

カズワタベ
整理すると、音楽著作権管理団体に登録している楽曲はプラットフォーム自体が包括契約を結んでいる場合利用可能。そうでなければ自己管理なので、権利者に直接許諾を取る必要がある。ただし海外楽曲はシンクロ権に注意、といったところでしょうか。
Uさん、他になにか疑問点等ありますか?

Uさん
これからボカロPとして楽曲で収益を得たいと思っているんですが、そのときに何か気をつけるべきことってありますか?

水野
営利の場合は先ほどご説明したように、キャラクターに関し、各社にきちんと許諾を取るまたはキャラクターの利用を避けるということでしょうか。
JASRAC等の著作権管理事業者に登録するか否かで悩むボカロPは多いと聞いています。例えば、楽曲のすべての権利をJASRACに信託譲渡すれば、ニコ動やYouTube等からの著作権使用料も受け取ることができますが、「インタラクティブ配信」にかかるネットでの自由な楽曲の利用はしづらくなる面があります。一方で、売れてきて、音楽出版社と契約するようなボカロPだと、JASRACに信託譲渡する権利を「演奏」「貸与」「通信カラオケ」のみとして「インタラクティブ配信」などは外して部分信託するなどのことをやっている方もいるようです。こうすることにより、ネットではいままで通り自由に使えるのに対し、カラオケの著作権使用料は回収できることになります。
このように、ボカロPの形態も、それぞれの出自や楽曲の特徴により、多様化しているように思います。

カズワタベ
なるほど。ボカロPと一言で言ってもさまざまな形態があるんですね。

水野
また、最近だとニコニコやYouTubeはクリエイター奨励プログラムなど、閲覧数の多いボカロ楽曲を制作したボカロPにきちんとお金が落ちる仕組みを整えてきています。このような仕組みもうまく使えるといいですね。

水野
さらに楽曲配信代行サービス「TUNECORE JAPAN」が始めたサービスで、ボカロPがオリジナルのVOCALOID楽曲をiTunesなどの各ストアで簡単に販売できるサービスも注目されます。VOCALOIDメーカー各社と包括契約を結んだことによって、ボカロ楽曲を商用利用する際に必要な利用許諾申請の手間をなくしています。

カズワタベ
ボカロに関しては、従来の著作権管理団体への登録という道だけでなく、プラットフォーマーによる独自のお金を得る手段が整えられつつあるということですね。これは音楽の流通自体が変わってくる可能性を秘めていますね。
Fさん、ご相談には答えられたでしょうか?

Uさん
はい、ありがとうございます! 僕の周りにもボカロPとして音楽活動をしたいと思っている人は多いので、この話共有しようと思います。

カズワタベ
自分が活動に打ち込むためにも、こういった不安を解決することは重要ですよね。ぜひがんばってください!それでは今回はこのあたりで。また疑問等あったらぜひご相談にいらしてください。

水野
それでは、今日はこれにて失礼いたします。今日はボカロの話をしたので、昨年仕事で関わったこちらのオペラのサントラでも聴きながら、帰って仕事します!

カズワタベ
僕も聴きたい~!

ボカロは楽器ととらえてOK。ただしキャラクター利用は確認を!

音楽著作権ベーシック講座、第14回は最近話題のボーカロイドの利用についてのご相談でした。作曲に使う上では基本的に楽器の一種だと考えれば問題ないようですが、キャラクターの使用についてはライセンスに注意を払う必要があるようです。著作権トラブルが起きないように注意して、ボーカロイドを有効に活用しましょう!

 

カズワタベ

カズワタベ

大福が好きすぎる。1986年4月長野県松本市生まれ。洗足学園音楽大学在学中よりライブハウス店長、クラブジャズバンドのリーダー/ギタリスト、ウェブサービス運営会社の取締役を歴任し、現在はフリーランスとして「考える・つくる・広める」を事業領域に様々なプロジェクトで暗躍中。並行して、神戸ITフェスティバル、YOAKE、CCサロン等の著作権、コンテンツ・ビジネス関連のイベントで登壇するなど、クリエイターの権利保護、創作文化振興に関わる活動を積極的に行なっている。



水野祐(みずの たすく)

水野祐Photo by Kenshu Shintsubo

弁護士。シティライツ法律事務所代表。アーティスト・クリエイター等を支援する法律家によるNPO “Arts and Law”代表理事。"Creative Commons Japan"、"Fab Commons (FabLab Japan)"、"LiFTONES"などにも所属。NPO法人ドリフターズ・インターナショナル監事。一般社団法人マザー・アーキテクチャア監事。

主にクリエイティブ・IT ・建築不動産分野の法律・契約等のアドバイス・コンサルティング業務に従事しつつ、多様な課外活動を通して、カルチャーの新しいプラットフォームを模索する活動を行っている。



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