西川進さんインタビュー後編では、ギターを始めたきっかけや、現在の制作環境などをじっくりお話しいただいています!
前編ではエポックになった楽曲を中心に、作曲家・西川進について掘り下げていきました。後編ではギタリストとしての側面にも触れつつ、人間・西川進が見えてくるようなお話を伺うことができました。お金の話、チームの話、恋の話……音楽にかかわる人は、必読の内容ですよ!
なおこのインタビューは、ミューズ音楽院で行なわれている無料セミナーシリーズ“作曲家リレートークvol.9”の模様を再構成したものです(イベント開催日:2014年7月19日)。
映画オタクだった中学生時代
山口 後編では、西川さんの個人史的なことも伺っていきたいと思います。まずは、音楽の道を志したきっかけから教えていただけますか?
西川 兄がアコースティックギターを持っておりまして、隣の部屋でポロポロ弾いていたんです。中1のころですが、当時自分は映画オタクだったんですよ。『タワーリング・インフェルノ』なんかのパニック映画が流行っていたころで、頭の中で映画の1シーンを思い浮かべていると、兄の弾くギターの音とすごくマッチして。それでギターを弾いてみたいと思って、兄のギターを横取りして弾いたのが始めです。
山口 最初に好きになったアーティストは?
西川 チューリップですね。あとは、兄がビートルズのシングルをいっぱい持っていまして、兄がいない間にそれをよく聴いていました。たぶん、兄より私の方が聴いていたと思うんです(笑)。でも、ブリティッシュロックとかそういう意識は特に無かったですね。ただ、バーンと明るい音楽よりは、ちょっとしっとりした音楽の方が好きだったというのはあります。
山口 そうしたことがきっかけで、音楽の道に入られたわけですね。事前に伺ったアンケートでは、“音楽家として仕事をしていく上で、影響を受けた言葉”として、“アシスタントをしているころに師匠に言われた言葉で、お金を追いかけるな。お金は付いてくるものだから”と答えてらっしゃって印象的でした。この言葉は、いまだに守っているそうですね。
西川 高校を卒業してすぐに上京して来たんですけど、全くツテが無い状態で。それで何とかツテを手繰り寄せて、テレビの音楽番組で演奏されているギタリストにアシスタントで付いたんです。ただ、1日2,000円というギャラでは絶対に食べていけないので、夜中にマクドナルドの清掃のバイトをして(笑)、そのまま寝ずにその人のアシスタントをしてっていう感じでした。その時によく言われていたのが、「お前、お金を追いかけちゃダメだぞ」ということなんです。でも、結局みんなお金は欲しいじゃないですか。必要だし。ただ、単にお金を追いかけていくと、結局は何をやりたいのかが分からなくなる。「自分の人生って何だったんだ?」という気持ちにもなるし……。
山口 お金だけが目的なら、作るものは音楽じゃなくてもよくなりますよね。
西川 もちろん、すごい頑張っていればお金も入ってくるし、それはそれで良いことだとは思うんです。逆に「お金を稼ぐぜ!」みたいな気持ちだと、ちょっと違う方向に行ってしまうのかなっていうことですね。「とりあえず良いものを作る、良いギターを弾くのが先だろう」って師匠に言われていて、それがいまだに残っています。

オリジナル曲「反物質」の生演奏も披露!
西川進のアニメ化?
山口 “良いギターを弾く”というところでは、西川さんのキャリア的には涼宮ハルヒの劇中歌「God knows…」(2006年)も面白いですよね。
西川 作曲とはちょっと違う話ですけど、MVでのギターの構え方からして僕ですからね(笑)。
山口 これは取材を受けたということですか?
西川 そもそもレコーディングで、「これはアニメの曲中歌で、超絶テクニックを持った女子高生が弾いている風に弾いてください」と言われていたんですね。それで考えてみて、超絶だけど、ちょっとスキがある、完璧じゃない感じが良いかなと思って弾きました。まあ、自分自身が完璧じゃないですから(笑)。で、レコーディングの後に「アナタが弾いているのをビデオに撮って、モーションキャプチャー的なことをして、それをアニメに活かします」と言われたんですけど、意味が分からなかったんですね。まあ、とりあえず弾いているところを撮影されて。それで1年か2年後に、ドラムの小田原豊さんから電話があって、「ずっと前に録った曲、すごい売れてるらしいよ!」って言われて驚いたんですけど。
山口 映像もすごく良くできていて、MVとしてのクオリティも異常に高いと思います。
西川 ちなみにギターも当時使っていたSGで、そこまで真似してくれていて、すごいなと思いました。あと『ギター・マガジン』の取材で、これを実際に弾いてみようみたいな取材があったんですけど、全然弾けなかった(笑)。「よくこんなことできたな」って、そのときは思いましたけど。
山口 そういうヒットコンテンツにギタリストとしてかかわられているのと同時に、現在のアイドルのリファレンス曲としてよく名前が挙がるBuono!「ロッタラ ロッタラ」(2008年)の編曲/サウンドプロデュースも手がけられている。これは、西川さんの音楽のすごさを表すエピソードなんじゃないかなって思います。
西川 最初の「なんで?」とかの掛け声は、自分で考えたんですよ。それをちゃんとやってくれたのですごく楽しくなってしまって、それ以来、ここで「ヘイ!」って言ったらかわいいだろうなとか、考えるようになってしまった(笑)。
山口 ブリティッシュロックへの目配せもあって、西川さんがやられたのがすごく分かる曲ですよね。とても素晴らしいと思います。
自宅作業はPro Tools HDX+Eleven Rackで
山口 ご自宅での作業環境は、どのようなものですか?
西川 最近はAVID Pro Tools HDXとEleven Rackを使っています。マッチングが良いので、基本的にはすべてデジタルですね。ギターを録るときはライン録りですけど、普通に太い音だし、シャープな面もあるんです。
山口 自宅でギターアンプを鳴らすのは、かなり防音を頑張らないといけないので大変ですしね。
西川 今のシミュレーターはすごく発達しているので、全く問題無くやっています。ギターソロなんかも、良い雰囲気で録れてしまったらそれを活かそうということで本チャンにしていることもありますし。アルペジオなんかも活かして、バッキングはスタジオでアンプを鳴らして録り直すとか、そういう感じでやっています。だから、レコーディングではアンプが多いんですけど、アンプばっかりだと微妙な場合もあるので、たまにはラインを混ぜてみたりもするんですけどね。
山口 ギターのトラックだけを納品するような場合は、どういう方法を採られています?
西川 ギタリストが作ったトラックのままだと、「もっと歪ませたい」「ちょっと歪み過ぎだな」ということがきっとあるので、何にもエフェクトがかかっていない生音にプラスして、自分なりにエフェクトした音の2つを納品しています。僕はディレイもかけ録りなので、きっと「ディレイは外したいな」とかってあるはずなので。だから、必ず2トラックを送るようにしています。普通のレコーディングでアンプ録りの場合でも、その前にDIをかませて分岐していますし。ももくろの「仮想ディストピア」(2013年)の録音でも、DIで別チャンに送っています。それがどう料理されたのかは、僕は分からないんですけど(笑)。
山口 素晴らしい気遣いだと思います。HDレコーディングが広がって、お互いに効率よく作業を進めたい時に、元音と自分になりに処理した音の両方を送るというのは正しい態度ですよね。僕も、“山口ゼミ”の受講生には、仮歌を頼まれてメールで送る時は、自分でエディットしたデータと元データを両方送るように指導しています。
弾き語りでは本選に上がれない時代
山口 では、これからの作曲家に求められるものは、どんなことだとお考えですか?
西川 チーム力が必要になると思います。実は最近、私はソロ活動ばっかりやっていて。作曲活動をサボっているわけではないんですけど、1年に1曲くらいしか作っていないのが現状なんです(笑)。でもその間に、時代がすごく変わっている。5年前はアコギ1本で歌って、ディレクターに出しても通っていたんですね。でもいまは、そんなんじゃ全く通りません。CMで流れているくらいのグレードでないと、使ってくれないですよね。
山口 確かに弾き語りのデモでは、予選で落ちてしまうのが現状です。
西川 そうなんです(笑)。弾き語りでは本選に上がれない。そんな時代になってしまった。レコード会社のディレクターに話を聞いても、「欧米にはチームで作曲をしている作家たちがいて、そのチームは、作詞・作曲・アレンジ・仮歌、全部を分担して、曲をくれるんだ」って言うんです。そのデモを聴かせてもらったら、確かに素晴らしい。実際、そのデモのままCDになったりもしているらしいんです。要は、最初から完成品をプレゼンしないとダメな時代になっている。ということは、僕の場合は自分ひとりだと、ギターは弾けますけど、ピアノは弾けないし、歌は歌えないじゃないですか? そうなるとやっぱりチームを組んで、完成度を高めたものを作らないといけない。そう思って、みんなで曲を作るチームを構築しようと考えているんです。
山口 いわゆるコーライティング(共作)ですね。手前味噌で恐縮なのですが、僕が主宰している作曲家養成講座“山口ゼミ”でも、コーライティングを推奨しているんです。また、2015年4月には『最先端の作曲法 コーライティングの教科書』という書籍を出版予定です。ヨーロッパのコーライティングチームは知られていますけど、日本ではあまりコーライティングがされてこなかったじゃないですか。たぶん日本のポップスでは、昔は作曲家の大先生がいて、フォーク/ニューミュージック以降はシンガーソングライターの手癖が重要視されてきたので、コーライティングが軽視されてきたという側面があるんだと思います。それで山口ゼミではコーライティングを奨励していて、20人くらいでの合宿、コーライティングキャンプなんかも行なっています。3人1組みでチームを作って、24時間で曲を作るんですけど、これが結構面白いんですよ。
西川 それは面白いですね。真似しても良いですか?(笑)。
山口 よろしかったら、ぜひ西川さんも参加してください。毎回、ゲスト作家の方もお呼びしていますので。
恋をしてください
山口 そろそろ最後の質問なのですが、プロ作曲家を目指す方へのアドバイスをお願いできますか?
西川 当たり前の答えになりますが、恋をしてください。
山口 素晴らしい。最高ですね!
西川 すごく楽器が上手い人の演奏を聴いても、全く心には響いてこないことってあるじゃないですか? だから音楽って、そういう問題じゃないんじゃないかと思うんです。「頑張って曲を作るぞ!」って言っていても、聴いてみると全然心に来ない。形から始めているというか……。
山口 どんなにテクノロジーが進んでも、音楽が空気の振動で、人が感動するのは心ですからね。技術が進んでいろんなことが便利にできるようになった分、感情をどう込めていくのが、大切な時代になっていると思います。
西川 自分が20歳くらいのころは、練習すれば上手くなると思っていたんです。でも、ある日壁にぶつかってしまった。練習してもダメなものはダメで……。当時の僕は、人と飲みに行ったりするのが大嫌いで(笑)。「そんなことをする暇があったら、ギターの練習をした方がいいじゃないか」と思っている節があったんですね。でもフリーのミュージシャンになって壁にぶつかって、「このままじゃダメだ」と思って、変な話ですけど、「遊ぼう!」って思ったんですよ。それでいろんな飲み会とかにも行ったりして、精神的に解放されたっていうか……。「うわー!」ってなって、初めて一歩前進した(笑)。そのちょっとずつの積み重ねが、今の自分かなっていう気がするんです。だから恋をしてほしいし、人とのコミュニケーションを大事にしてほしい。
山口 とても良いお話ですね。恋愛に限らず、きちんと他人とコミュニケーションをとることが、音楽に向き合う時の基本姿勢ですね。貴重なお話をありがとうございました!
(この項終了)
POSTSCRIPT by 山口哲一
長年、第一線で音楽活動をされているだけに、ためになる言葉のオンパレードでした。
実績のある西川さんでも、今の時代のコンペには“コーライティング”をしないと立ち向かえないというのも改めて勉強になりました。手前味噌になってしまいますが、日本におけるコーラティングムーブメントの創出に勇気をいただけました。
次回のコーライティングキャンプには、ぜひ、西川進さんもお誘いしたいと思っています。
西川進(にしかわ・すすむ)
『誕生日』 7月9日
『出身地』 滋賀県近江八幡市
「感情直結型ギタリスト」の名の元、 独創的かつ存在感のあるギタープレイで 「西川進」という独自のジャンルを築き上げている。 作曲・編曲・サウンドプロデュースにも高い評価があり、 レコーディングやライブともに 各方面から常に絶大なる支持を受けている。
バンドやソロ活動、さらには新人の才能育成にも精力的で 次世代からの注目度も高い。
山口哲一(やまぐち・のりかず)
1964 年東京生まれ。(株)バグ・コーポレーション代表取締役。『デジタルコンテンツ白書』(経産省監修)編集委員。プロ作曲家育成「山口ゼミ」主宰。 SION、村上“ポンタ”秀一など の実力派アーティストをマネージメント。東京エスムジカ、ピストルバルブ、Sweet Vacationなどの個性的なアーティストをプロデューサーとして企画し、デビューさせる。プロデュースのテーマに、ソーシャルメディア活用、グローバ ルな視点、異業種コラボレーションの3つを掲げている。音楽ビジネスの再構築を目指す「ニューミドルマン養成講座」や、エンタメ系スタートアップ向けアワード「Start Me Up Awards」をオーガナイズするなど、音楽とITの連携について積極的に活動している。
著書に、『ソーシャルネットワーク革命がみるみるわかる本』(ふくりゅうと共著/ダイヤモンド社)、『世界を変える80年代生まれの起業家』(スペースシャワーブックス)などがある。最新刊は、『DAWで曲を作る時にプロが実際に行なっていること』(小社刊)。
『プロ直伝! 職業作曲家への道』の詳細はこちら(リットーミュージック)