第16回:「ニューミドルマン養成講座」トークショー〜デジタルファーストで行こう〜レポート

WEB版 職業作曲家への道 by テキスト:編集部 2014/09/17

『プロ直伝! 職業作曲家への道』監修者である山口哲一氏が、デジタル時代の音楽業界人を養成する新たな講座をミューズ音楽院でスタートすることになった。今回は、そのプレイベントとなったトークショーの模様をレポートしよう。

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会場となったミューズ音楽院には、多数の聴衆が詰めかけた

「ニューミドルマン養成講座」は、デジタル化への対応が遅れている日本の音楽業界の現状に危機感を覚えた山口哲一氏が、これからの音楽ビジネスを背負って立つ人材を育成するためにオーガナイズする講座だ。

鈴木貴歩氏(ユニバーサルミュージック合同会社 デジタル事業開発部本部長)、原田悦志氏((株)日本国際放送チーフ・プロデューサー)、野本晶氏(スポティファイジャパン(株) Licensing & Label Relations Director)、愛場大介氏(ジェットダイスケ/ビデオブロガー)、伊東宏晃氏(エイベックス・マネジメント代表取締役社長)、石川真一郎氏(アニメプロデューサー、(株)ゴンゾ代表取締役副社長)という豪華なゲスト陣を迎え、全8回のスケジュールで2014年10月からスタートする。

今回のトークショーはそのプレイベントとして企画されたもので、山口氏が野田威一郎氏(TUNECORE JAPAN K.K/Wano株式会社代表取締役社長)、高野修平氏(トライバルメディアハウス)と共に、デジタル時代の音楽の広め方を徹底討論した。

そもそもニューミドルマンとは田坂広志氏が提唱した概念で、従来の中間業者(ミドルマン)に代わって、企業と消費者をつなぐネット時代の新たな媒介者のこと。音楽で言えば、アーティストとリスナーを媒介する役割を、既存の音楽業界の仕組みにこだわらずに果たすことができるスタッフだと言えるだろう。

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三者三様の音楽とのかかわり方

トークショーはまず、登壇者3名の自己紹介からスタートした。

音楽プロデューサーとして活動する中で、ソーシャルメディアを使ったプロモーションを研究・実践し、『世界を変える80年代生まれの起業家』『ソーシャル時代に音楽を“売る”7つの戦略』といった著作があるほか、『デジタルコンテンツ白書』(経産省監修)の編集委員でもある山口氏が、「今も音楽業界で実際に実業を行なっている人間として、業界の現状についてお話をできたらと思います」と所信を表明。

続いて、誰もが楽曲を世界配信できるTUNECOREというプラットフォームを運営する野田氏は、「iTunes Storeを始めとした世界中のストアに多数の楽曲を納品している実績から、お話できることがあればと思います」と、挨拶。シングル:1,410円/年〜、アルバム:4,750円/年〜の登録料さえ払えば、各ストアからの収入は100%アーティストに還元され、しかもオンラインで登録は完結でき、最短2日で世界中に配信という革命的なサービスの現場から見えるのは、どのようなことなのか。また、TUNECOREは米国でスタートしたサービスだけに、海外事情についても話を聞くことができそうだ。

そして、デジタルマーケティング会社であるトライバルメディアハウスでコミュニケーションプランナーとして活動する一方、バンドTHE NOVEMBERSのマーケティングプロデューサーも務める高野氏は、「スポーツメーカー、EC企業、お菓子メーカー、一般社団法人との仕事をトライバルメディアハウスでやりつつ、音楽事務所、放送局、レーベル、メディア、音響メーカー、アーティスト、プロモーターとも仕事をしている。だから二足のわらじみたいな感じですけど、音楽業界をマーケティングする人間として、いろいろお話をできたら良いかなと思っています」と述べていた。『音楽の明日を鳴らす』『始まりを告げる《世界標準》音楽マーケティング』といった著作も話題の高野氏から、どんな発言が飛び出すのか楽しみだ。

というわけで、“デジタルファーストで行こう”というテーマにぴったりの人選だということが分かるが、「このお2人は、音楽業界の近くだけどちょっと外から見ている。そういう共通点があると思います。では、3人で超本音トークを展開していきましょう」という山口氏の言葉に、会場の期待は高まっていく。

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左から高野修平、野田威一郎、山口哲一の各氏

ハイブリッド型のビジネスモデル

さて、山口氏より最初に提示されたのが、“下落するCD、着うたの減を挽回できない音楽配信、伸長するライブエンタテインメント”というグラフ。これはCD、DVD/BD、インターネット配信、着うたの売上げと、コンサート入場料収入の推移を示したものだ。

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下落するCD、着うたの減を挽回できない音楽配信、伸長するライブエンタテインメント

「単純な足し算で比較することに意味があるかどうかは微妙ですが、2013年ではコンサート入場料収入とCDの売上げがだいぶ近くなっていて、2014年にはコンサート入場料収入がCDの売上げを抜く記念すべき年になるかもしれない。まあ今さらという話題ではありますが、前振りとして提示します。何かご意見はありますか?」と山口氏。

これに対しては野田氏が、「もっとデジタルの売上げを伸ばさないといけない」と応じていた。「なんだかんだ言って、欧米でもCDの比率はまだ高かったりするんですよ。でも、デジタルも伸びているということを実現できているので、両方やれば良いんじゃないかなって思います。デジタルに振ってもCDは残るというのは、ヨーロッパを見てもある程度データが出ているわけですから」とのことであった。

高野氏も、「デジタルに移行するのは間違いが無いけど、フィジカルとデジタルのどっちかが100でどっちかが0になるということではない」と発言。「音楽の話ではないですけど、思い出していただきたいのが、検索とソーシャルメディアの話。検索連動型広告が登場したら、広告が全部変わるみたいなことを煽る人がいっぱいいましたけど、フタを開けてみたらそんなことは無かった。ソーシャルメディアが出てきた時も、同じことが起こりました。だから全部がひっくり返るということではなくて、進め方とか、それを取り巻く人間とか、その辺に大いに問題があるという話ですよね、山口さん?」と山口氏に話を振る。

それを受けて山口氏も、「情報の流れがポータル型、検索型、ソーシャル型とハイブリッド化したように、音楽もそうなるということですよね。おそらくデジタルマーケティングの専門家である高野さんは、そのハイブリッドの組み合わせ方とか、そういうことを考えるわけでしょうね」とリターン。

CDだけで大きな売上げを上げた時代から、ストリーミングやフィジカル、着うたなど、それぞれの良さを組み合わせて最適化するハイブリッド型のビジネスモデルの構築が急務と言えそうだ。

この点に関しては、野田氏が「TUNECOREではストアを自由に選べるので、全部のストアに出したい人もいれば、ストリーミングは儲からないからイヤだという人もいる。でもこれは当たり前のことで、アーティストのステージはバラバラなんだから、スタンス、考え方がバラバラでも良いんです。無料でも良いから聴いてほしいという人もいれば、お金を取れないんじゃダメでしょうっていう人もいる。でも業界的には一律で、ストリーミングはNO、ダウンロードはYES、CDはYESっていうのはよく分からないですよね」と締めくくっていた。

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なぜデジタル化が進まないのか?

続いて議論されたのが、日本の音楽業界でデジタル化が進まない理由について。かなりデリケートな内容を含むので、ここでは詳細を報告できないが、“素直な成功例”としてはradikoの事例が検討された。“ラジオ番組をネットで聴けるようにした”“エリア外でも聴けるようにした”という技術的には低いハードルを超えるだけで、radikoが大きな反響を得たことは、いかに日本の音楽市場でデジタル技術の活用が遅れているかの証左ということであった。

その上で高野氏は、「北風と太陽の話によく例えるんですけど、今までの音楽業界がやってきたのはCCCDを含めて、基本的には北風ピューピューなんです。とにかくユーザーを縛っていった結果、ユーザーはどんどんコートを脱がなくなっているし、さらに言えば究極的には音楽に興味が無くなってしまう」と指摘。YouTubeでのMVフル公開などを始め、音楽を解放していくことの必要性を説いていた。

一方山口氏は、欧米では音楽系のスタートアップ企業が巨額の資金調達を果たしている現状に比べ、「この10年で国内の音楽系ベンチャーで成功したのはナタリーだけですから、すごく悔しいですね。日本からももっと出てきて良いじゃんっていうのが正直な気持ちです」と心情を吐露。

これに対しては野田氏が、「みんな少し真面目に考え過ぎていて、もっと適当で良いんじゃないかなって思います(笑)。海外のヤツって、「俺はできるから」くらいの感じで言ってくるけど、全然できていない人の方が多いんですよ。でも、言い続けることで実際にポジティブな感じになっていくし、周りも助けるようになる」と応じていた。

透明化とランキング

今回俎上に載せられたトピックとしては、“透明化とランキング”も興味深いものであった。「デジタル化が進めば進むほど、透明化は進むはずなんです。だからいろんな指標を統一したランキングも作れるのに、実際にはなかなか難しいみたいですね。TUNECOREだと100%アーティストに還元するので、比べてしまうと音楽業界の透明性がちょっと少ないんじゃないかというのを感じています」と野田氏が問題を提起した。

この問題に対しては山口氏が、「前例踏襲になってサボっているんじゃないかな。要するに、面白いランキングを作れば良いわけじゃないですか」と返答。YouTubeを含むストリーミンの再生回数をランキングに反映するなどすれば、ユーザー動向に則したランキングを集計できるし、興味も持たれるはずだと力説していた。

高野氏も、「信頼性が担保されていない現状では、新しいランキングを闇雲に作っても受け入れられる“空気”ができていない」と相槌を打つ。「音楽番組でもアワードでも同じですけど、すでにコンテンツパワーを持っている人、みんなが知っている人しか出てこない。これはやっぱり、日本では音楽が文化として根付いていないということです」とのこと。音楽が共通言語として機能しなくなってしまった今、“そもそもどうやって音楽に興味を持ってもらえるのか”を考えることから始める必要性も強調していた。「Spotifyにしても、もちろん素晴らしいサービスだと思うんですけど、これが音楽好きの中でだけ流行ってもしょうがないんですよ。いかに音楽好き以外の人たちを巻き込んでいけるかが大事で、これができないと難しいぞ、という状況だと思います。僕はよく幕末に例えるんですけど、徳川幕府みたいな感じですよね」と高野氏。このあと、しばらく幕末話が続いたことも付け加えておこう。

海外でJ-POPを売る方法

さて質疑応答を前にして、最後に話し合われたのはズバリ“海外でJ-POPを売る方法”。TUNECOREを使えばだれでも世界配信が可能な今だからこそ、アクチュアルな話題と言えるだろう。

野田氏によれば、「TUNECOREの売上げの上位は、YouTubeを使っている人たちが多い」とのことで、2012年で月次で数千万円の売上げを上げているアーティストもまた、YouTubeで番組を持っているそうだ。いわゆるYouTuber的なアーティストということになるのだろうが、「僕らが知っている収益は、あくまでiTunes Storeでの販売金額ですから、その数千万の外側にたぶんYouTubeからの広告収益とかそれ以外の広告収益が加わっています。それを元にツアーをしたりする。そういう形が、まず1つありますね。まずはそういうやり方でコンテンツもちゃんと届くんじゃないかと思っています」と野田氏。海外のトップYouTuberの話だとはいえ、「使えるツールはきっと日本も一緒で、あとはどうやるかとか、何を押し出すかでしょうね」ということになる。

一方で高野氏は、「例えばアジアで展開するとしても、さまざまな国がある。その中で、例えばシンガポールだったらこういう属性が必要で、こういうプラットフォームやルールが一般化しているから、こう使おう。そういう戦略を立てた上で、先述の落とし込むことが必要です」と語る。また、人がものごとを知るのはPRによって広められたニュースだとして、“海外におけるニュースをどう作っていくのか”も考えるべきだと主張していた。

これを受けて野田氏が、「それこそがニューミドルマンの役割ですよね」と綺麗に締めて本編は終了。質疑応答で会場との意見交換が積極的に行なわれた後、懇親会へと突入、参加者同士の交流も深められていた。「ニューミドルマン養成講座」本編では、さらに突っ込んだ濃厚なコミュニケーションが参加者同士や、参加者とオーガナイザー、ゲストの間で築き上げられることだろう。ぜひ「ニューミドルマン養成講座」に参加して、音楽の新しい届け方を見つけてほしい。

(この項終了)

山口哲一(やまぐち・のりかず)

1964 年東京生まれ。(株)バグ・コーポレーション代表取締役。『デジタルコンテンツ白書』(経産省監修)編集委員。プロ作曲家育成「山口ゼミ」主宰。j-Pad Girlsプロデューサー。SION、村上“ポンタ”秀一など の実力派アーティストをマネージメント。東京エスムジカ、ピストルバルブ、Sweet Vacationなどの個性的なアーティストをプロデューサーとして企画し、デビューさせる。プロデュースのテーマに、ソーシャルメディア活用、グローバ ルな視点、異業種コラボレーションの3つを掲げている。2011年頃から著作活動も始める。2011年4月に『ソーシャルネットワーク革命がみるみるわかる本』(ふくりゅうと共著/ダイヤモンド社)刊行。2012年9月に『ソーシャル時代に音楽を“売る”7つの戦略』(共著/小社)刊行。最新著作は2013年9月刊行の『世界を変える80年代生まれの起業家』(スペースシャワーブックス)

野田 威一郎(のだ・いいちろう)

東京出身。香港で中学・高校時代を過ごし、 慶應義塾大学卒業後、2004年に株式会社アドウェイズ入社。2006年にアドウェイズのディビジョン・マネージャーとして上場を経験し、2008年に独 立しWano株式会社を設立。2011年にはTUNECORE JAPANを立ち上げ、2012年10月にサービスを開始し、現在に至る。

TUNECORE JAPAN:http://www.tunecore.co.jp/

Wano:http://www.wano.co.jp/

高野 修平(たかの・しゅうへい)

デジタルマーケティング会社トライバルメディアハウスにてシニアプランナー/サブマネージャーとして所属。

音楽業界ではレーベル、事務所、放送局、音響メーカーなどを支援。音楽業界以外にも様々な業種業態のコミュニケーションプランニングを行っている。

日本で初のソーシャルメディアと音楽ビジネスを掛けあわせた著書『音楽の明日を鳴らす-ソーシャルメディアが灯す音楽ビジネス新時代-』、『ソーシャル時代に音楽を”売る”7つの戦略』を執筆。メディア出演、講演、寄稿など多数。

2014年4月18日に3冊目となる「始まりを告げる《世界標準》音楽マーケティング-戦略PRとソーシャルメディアでムーヴメントを生み出す新しい方法-」を出版。

また、THE NOVEMBERSのマーケティングコミュニケーション、クリエイティブディレクターも担当している。

最近ではTHE NOVEMBERSに限らずアーティストと直接マーケティングパートナーとしての関わりも多数。

『ソーシャル時代に音楽を“売る”7つの戦略』の詳細はこちら(リットーミュージック)

『プロ直伝! 職業作曲家への道』の詳細はこちら(リットーミュージック)

『エンジニアが教えるボーカル・エフェクト・テクニック99』の詳細はこちら(リットーミュージック)

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