第7回:インタビュー ヒロイズム(後編)〜セールスに一喜一憂している暇があったら、もう1曲良いものを作った方がいい

WEB版 職業作曲家への道 by 聞き手:山口哲一 2013/10/08

インタビューの後編では、ライティングキャンプ(作曲合宿)の詳細から、ポジティブに作曲を続けるコツまで、ディープな作曲話をヒロイズムさんにお聞きしています。

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前編に続いて、エポックとなった楽曲を紹介していただきつつ、ヒロイズムさんの創作の秘密に迫っていきたいと思います。また海外でのライティングキャンプのことなど、非常にアクチュアルな内容もお話いただきました。職業作曲家を目指す方には、必見の内容でしょう(このインタビューは、2013年8月4日に開催されたイベント、クレオフーガ主催“作曲家のためのトークイベント”を再録・編集したものです)。

いつも同じ作り方をしないようにする

山口 ヒロイズムさんの場合、曲作りはどのようにしています?

ヒロイズム 鍵盤でメロディを作ることが多いんですけど、心がけているのは、いつも同じ作り方をしないように、ということです。それで、シャワーを浴びているときに作るようにしたり、ドライブ中に作るようにしたり、必ずしも鍵盤に向かわないことを試しています。ギターはそんなにうまくないですけど、ギターで作るようにしたり、いつもは使っていない小さな旅行用の鍵盤で弾いてみたり……。

山口 ルーティンワーク化しないように、ということですね。

ヒロイズム 毎回曲を作ろうとすると、「曲ってどうやって作るんだっけ?」「あれ?」ってなるんですよね(笑)。でも、やっぱり自分が好きな方向には行ってしまうし、作った曲には何かしら共通項はあると思うんですけど、できるだけそれを固定しないようにって。それでいろいろな方法を試すんですけど、良いメロディって、どこで聴いても、何で鳴らしても、下手くそな歌でも良いメロディだと思うんです。それに近づけるために、あえて方法は定めないようにしている、というか。

山口 面白いですね。では続いて、ヒロイズムさんがセレクトしたエポックな曲を紹介していきます。4曲目は「チャンカバーナ」(NEWS)ということですね。

ヒロイズム NEWSの再出発となる曲だったので、すごく気合いを入れて作りました。コンペだったんですけど、聴いていただくと分かるように、かなりテイストが歌謡曲っぽくなっています。

山口 キャッチー感が、ちょっと懐かしい感じもありますね。

ヒロイズム そこが難しくて、昔の歌謡曲が欲しいのであれば、それはたぶん僕がやることではないんですよ。よっぽど大先生がいらっしゃいますから……。それを自分が真似するのは違うなっていう思いもあって、そのときにヒントになったのが海外での活動です。コーライティングキャンプでトラックを聴きながら一緒に曲を作っていても、やっぱり日本人にしか思いつかないメロディというものがあるんですね。そういうメロディって、あっちでは「あ、これは違うな」って思うんですけど、日本に帰ってきてみると、日本にしかないメロディの良さだということを痛感する。たぶんそれが歌謡の要素だし、自分にしか書けない歌謡曲があるんじゃないかなっていうことですね。そういう意味で、歌謡と自分の考えるかっこよさのバランスを上手くとれた一曲だと思っています。

山口 そういうバランスをとるのが難しかった?

ヒロイズム ええ。初めてうまくいったのが、この「チャンカバーナ」なんですよね。作曲家に求められていることは、お題をちゃんとクリアして、ヒットの匂いがするものを作ることだと思うんですけど、自分はそれだけだとモチベーションが上がらないんです。やっぱり一番テンションが上がるのは、世に出てヒットするのはもちろんですけど、狭いスタジオで「これ、来たな!」って思うときなんですよ。そのときに、ぱーって広がって、どれだけ絵が見えるかっていうのがすごく大きい。どれだけ新しいものを作れて、提案できるかということなんですけど、この曲は特に苦労しました。

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イベントでのヒロイズムさん(左)と、山口哲一さん(右)。会場は渋谷のタンジェリン

ポジティブに良い曲を作り続けるためのコツ

山口 ちょっと意地悪な質問かもしれませんが、スタジオで「これ、来たな!」と思っても、それが結果に結びつかない場合もありますよね?

ヒロイズム いっぱいあったとは思うんですけど、結構ポジティブなんで、覚えていないですね。

山口 忘れちゃう、忘れてしまえる、というのは強みですね。

ヒロイズム あと、作ってしまった曲に関しては期待をしないことに決めていて。自分の力では、メディアも人も動かせないじゃないですか?

山口 アーティストではなく、職業作曲家ですからね。

ヒロイズム だから、そこで一喜一憂している暇があったら、もう1曲良いものを作った方がいいのかなって。今までに結構つらい経験をしてきたので、そう思いますね(笑)。

山口 素晴らしい心構えだと思います。これはポジティブに良い曲を作り続けるための、コツかもしれないですね。

ヒロイズム 作るまでを大切にしてあげて、そこから先は手立てが無いのでどうすることもできない。それが、一番曲を愛せる形だと思います。だから、ありがたいことにヒットしてくれた曲でも、聴いていても、なんだか自分の曲という気がしないんですよ。でも、そこまでちゃんと育てたことだけは確か、という。

山口 それは曲がみんなのものになった、ということでしょうね。

ヒロイズム そうですね。それが幸せなことなのだと思います。

フィンランドで作ったギリシャNo.1ヒット

山口 では最後に、「Mesimeria (One life)」(Helena Paparizou)ですね。アーティスト名を発音できませんが(笑)、ギリシャでリリースされた楽曲ですね。

ヒロイズム 先週リリースされたばっかりの曲ですが、フィンランドでコーライティングキャンプがあって、そこに1人で乗り込んで作った曲です。海外で曲を出すには、コーライティングキャンプに行くしかないと思っていたので、ちょっと過酷なんですけど、無理して行きました。

山口 作業はどういう感じで行なったのですか?

ヒロイズム 1チーム3人で、毎日チーム替えをしながら3日間くらいひたすら曲を作り続けていました。ただ、日本人が来た場合は、日本の市場を持ってきたように見られがちなんですよ。それで、日本用の曲しか書けない場合が多いんです。

山口 日本の市場は大きいですからね。

ヒロイズム でも、僕自身はそのために行っているのではないので……。幸いアレックスのおかげで海外でのリリース実績があったので、意外とフラットに、ワールドワイドでやっているソングライターとして見てくれましたけどね。で、「Mesimeria (One life)」を一緒に作ったのはフィンランドの超大御所で、60歳くらいの作家だったんです。結構うるさくて、どんなメロディを歌っても、「いや、それはつまらないね」「予想できちゃうよ」って言う。それで、夜中の3時くらいまで大げんかしながら作った覚えがあります。僕自身は性格的には温厚な方なので、人と争うことって無いんですけど、なんかそのときは変なスイッチが入っちゃって(笑)。でも、出来上がったときの達成感はすごかったですね。コーライティングキャンプの最後の日のパーティでも、いろいろな出版社の人が「さっきの曲はめちゃくちゃ良かった」って言ってくれましたし。

山口 そのキャンプに行ったのはいつごろですか?

ヒロイズム 2年以上前だったと思います。それでリリースが先週だったんですけど、僕自身は全然リリースされたことも知らなかったんです。

山口 ではリリースの事実をどうやって知ったんですか?

ヒロイズム その大げんかした相手が、Facebookで「ギリシャで1位になったぜ!」って書いていて、僕がタグ付けされていたんですよ。その確認で見て、やっと知ったという(笑)。だから、気づいたときには世に出ていたパターンです。

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日本の良さとグローバルマーケット

山口 先ほどから“日本人らしさ”みたいな話がときどき出てきますが、「Mesimeria (One life)」も日本人っぽい曲調だなと思いました。

ヒロイズム 夜中の3時までやりあっただけの、日本人の良さが入っていますかね?(笑)。

山口 でも、“日本人っぽさ”っていったい何だと思います?

ヒロイズム うーん、なんでしょうね。

山口 4~5年前にインドネシアのCDショップに行ったら、“J-ROCK”っていうコーナーがあったんですよ。国によっては、“J-ROCK”ってビジュアル系のことなんですけど、インドネシアではビジュアル系は“ゴシック”の棚に置かれていて、ちょっと耽美的な欧米のものも含めてゴシックコーナーに入っている。じゃあ“J-ROCK”は何かというと、インドネシア人がインドネシア語で歌っているけれど、僕らの感覚で言うと下北沢系のバンドなんです。ギターが鳴っていて、ちゃんとサビがある。ギターロックです。これをインドネシア人が“J-ROCK”としているのかと、僕にとってはすごく面白かった。それ以来、「J-POPらしさってなんだろうな?」ってよく考えるんですけど……。これからグローバルなマーケットでヒットを出すことを考えると、グローバルな共通点と、J-POPの良さ、日本の強みのバランスをどうとるかっていうことになるんじゃないでしょうか?

ヒロイズム 確かに日本人自体がすごく優しいし、丁寧だし、説明もちゃんとするじゃないですか? 細かいところにも気を配るし。それが音楽にも出ているなとは思っていて、ちゃんとサビで説明しきって、もう1回大サビで言い直してあげて、ストーリーがすごくしっかりしていますよね。

山口 メロディだけでもそうですよね。

ヒロイズム メロディだけでもそうなのに、さらに歌詞がそれをフォローしている。ある意味では説明っぽいとも言えて、あっちでそれをやってしまうと、トゥーマッチなんですよ。

山口 くどいと思われてしまう。

ヒロイズム ええ。普通に繰り返すだけで良いし、そういう説明も求められていない。

山口 アメリカ人は思い切りが良いから、「これだけあれば良いんだよ、ドン!」みたいなところが、曲作りにも、アレンジにも、エンジニアリングにも感じられる。でも日本人はすごく丁寧だということですね。エンジニアリングの技術も、すごく優れていますし。じゃあ、そういう日本人の良さを海外で活かすには、どうしたら良いんでしょうね。まあ、海外っていう国は無いから、例えばアメリカで考えたら……。

ヒロイズム そこは、まさに挑戦中です。ただすごく具体的なことで言うと、この間LAで試したのは、日本人っぽいコード進行を用意していくことです。僕らからするとすごく簡単なことなんですけど、例えばサビ中で1つマイナーセブンスを入れるとかして、それをコーライティングの場で弾くと、「おー!」ってなるんですよ。そういう、自分がやりやすいステージを作るのは大事かもしれないですね。そうなると、今度はトップラインっていうメロディを作る人が、いつもとちょっと違う風に動くんです。なんかやっぱり切なく響くし、今までに無かったメロディがアドリブで出てきたりする。まだ向こうでちゃんとした結果を出せていないので、あんまり大きいことは言えないんですけど(笑)。

山口 本気で期待します。日本人作曲家が米国市場で成功する像が見えてきました。頑張ってください。

POSTSCRIPT by 山口哲一

1つ1つの作品ができるまでに、ヒロイズムさんの中に物語があります。本当に興味深いお話ばかりでした。音楽的な才能も豊かなだけではなくて、頭が切れる。性格は謙虚で、高い志をもって頑張っている。本当に素晴らしいと思います。

音楽への道筋を惑いながら、音楽関係の会社に就職した経験をプラスに変えています。楽な道を選ばずに、真摯に生きた人には、ヒットの神様も味方するんですね。

グローバルな活動においても、大切になのは、一対一の信頼関係です。自分だけ得をするという姿勢では、結局はうまくいきません。相手を思い遣る気持ちが大切だなと、改めてヒロイズムさんから教わった気がします。

一方で、作品ができあがってしまえば、もう気にしない。自分はヒットの可能性がある曲をつくる以外にできることが無いから、との発言も良かったです。こういう良い意味での割り切りは、職業作曲家に必須の感覚です。くよくよ悩む暇があったら、次の良い曲を創った方が良いという、前向き思考も、見習いたいですね。

ヒロイズム(her0ism)

作詞・作曲・編曲
1982年生まれ 東京出身 慶應大学卒
■BIOGRAPHY
幼少期をアメリカで過ごす。
心 の琴線に触れる抜群の音楽センスと一度聴いたら忘れられないメロディは世界中から高い評価を得ている。中島美嘉「LIFE」で作家デビュー。着うた200 万ダウンロードを記録。その後、Honey L Days「まなざし」、Ms.OOJA「Be…」を手掛け、共に新人ながら異例の100万ダウンロードを記録。「Be…」は2012年、上半期レ コチョクランキング4部門で1位を獲得。アメリカ、ヨーロッパでRihanna、Katy Perry、Backstreet Boys、Kelly Clarkson、Miley Cyrus等を手掛けるトッププロデューサー達と共作し海外の有名アーティストにも楽曲を提供。Helena Paparizouへの提供楽曲「Mesimeria (One life)」がギリシャで1位。チョー・ヨンピルへの提供楽曲「When I Am With You」が韓国で1位を獲得した他、ドイツのTVドラマ主題歌、ドイツのトップアーティストQueensberry、南アフリカのNo.1バンド Heuningへの楽曲提供など世界を舞台に活動中。2013年にはゲストスピーカーとして世界最大の国際音楽見本市MIDEMに招待される。 Billboard誌にHeroism(Japan)として取り上げられ話題になる。ヒロイズムという名前には、曲が誰かにとってのヒーローになれた ら・・・という想いが込められている。
■Awards
ミリオン・ディスク認定   1作品
ミリオン・ダウンロード認定 3作品
プラチナ・ディスク認定   28作品
ゴールド・ディスク認定   23作品

山口哲一(やまぐち・のりかず)

1964年東京生まれ。(株)バグ・コーポレーション代表取締役。『デジタルコンテンツ白書』 (経産省監修)編集委員。j-Pad Girlsプロデューサー。SION、村上“ポンタ”秀一など の実力派アーティストをマネージメント。東京エスムジカ、ピストルバルブ、Sweet Vacationなどの個性的なアーティストをプロデューサーとして企画し、デビューさせる。プロデュースのテーマに、ソーシャルメディア活用、グローバ ルな視点、異業種コラボレーションの3つを掲げている。2011年頃から著作活動も始める。2011年4月に『ソーシャルネットワーク革命がみるみるわか る本』(ふくりゅうと共著/ダイヤモンド社)刊行。2012年9月に『ソーシャル時代に音楽を“売る”7つの戦略』(共著/小社)刊行。最新著作は2013年9月刊行の『世界を変える80年代生まれの起業家』(スペースシャワーブックス)

『プロ直伝! 職業作曲家への道』の詳細はこちら(リットーミュージック)

『ソーシャル時代に音楽を“売る”7つの戦略』の詳細はこちら(リットーミュージック)

『エンジニアが教えるボーカル・エフェクト・テクニック99』の詳細はこちら(リットーミュージック)

 

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