第3回:モテる曲を作りたい!~悩める青年は空を見上げる
前回、頭痛に悩まされた小島くん。あまりの気分の上下に周りの人々はだいぶ振り回されましたが、どうやらよくなったようです。早く曲を書いてくれるといいですね!
妖精:小島くん、その後、頭痛の調子はどうだい?
小島:ありがとう。おかげでよくなりました、心配かけたね!
妖精:今日はね、この前、君が頭痛の苦しみの中で書いた言葉をもとにメロディーを考えていこうと思うんだけど。
小島:そうだね、ええと……(ガサゴソとポケットの中のメモ紙を探す)、あった、これこれ。前回書いた言葉です。
メモ1
生きるのがこんなつらいなんて誰も言ってくれなかった
夜がこんなに長いとは誰も教えてくれなくて
脈打つ鼓動は何度も脳みその中えぐり出す
メモ2
ズキンズキン!
脈打つ鼓動、命を感じて
僕の中、流れる君の記憶思い出すよ
甘い痛みがズキズキン!
妖精:では、これをもとにメロディーを作ってみよう。シンキングタイム、スタート!
小島:よーし!!
そして、3日経過……
小島:う~ん……。
妖精:あれっ?
小島:……妖精さん、、僕にはやはりメロディーを書けないかもしれません……。
妖精:なんか、だいぶボロボロになってない?
小島:しばらく考えてみたんだけど、メロディーがいくつか思いついても、なんかどれも収まりが悪いというか、例えばメモ1とメモ2の言葉が、片方はとても暗い感じで、もう片方は反対に明るい感じで、一つの曲にしようとすると、なかなかまとまらないんです
妖精:ふむふむ。
小島:あと、これは根本的な問題なんだけど、そもそも今回経験した首の痛みとか頭の痛みって、ストレートネックでない人にはなかなかうまく伝わらないのではと……
妖精:なるほど、なるほど、確かに君の言うことは一理あるかもしれない。とりあえずその疑問を一つ一つ潰していこう。
まずは、そう、一度この言葉そのものにメロディーを付けることをやめてみようか?
小島:え!?
妖精:前回書いてもらったのは、あくまで思考のメモ。自分がそのときの感情を鮮明に思い出すためのタイムカプセルみたいなものだと思うんだ。だから言葉をそのまま歌詞に使わなくてもいいんだよ。
小島:ああ、そういうことか!
妖精:あとね、確かに君の首や頭が痛かったことは紛れもない事実だけど、首や頭にこだわらないで、もっとざっくり”痛み”に注目した曲にしたらどうかな?
小島:どういうこと?
妖精:つまり、”痛み”という広い意味のテーマにすることで、共感する人が広がると思うんだ。
確かに、君が体験した痛みはストレートネックの人じゃないとわかりづらい部分があるかもしれない。でも大きく”痛み”ととらえれば、人は大なり小なり何かしらの痛みは経験しているはずだと思うんだ。
小島:うーん、それは確かに……。
妖精:君のメモ2をもう一度、見てほしいんだけど、
ズキンズキン!
脈打つ鼓動、命を感じて
僕の中、流れる君の記憶思い出すよ
甘い痛みがズキズキン!
妖精:君は最初は頭痛のことを言ってたはずなのに、最後は恋愛の悩みっぽくなってるよね。つまり心の痛みと体の痛みが一つの”痛み”になる瞬間がある。何かの大きな痛みに対して君の存在すべてが悲鳴を上げているんだ。その瞬間が感動のポイントだと思うんだよ。
小島:なるほど。確かにそうかも。気づかないうちに頭痛に自分の心情を重ねていたのかな
妖精:そう、だから、”切ない恋をしている”という君の心情を”痛み”を通して描いてみればいいんだよ
小島:そうかっ!
妖精:それを一曲で伝えるために、例えば、こんな構成はどうかな。
構成
1)小島はどうやら痛いらしい ←【思考メモ1】を参考に
2)その痛みってもしかして恋?恋で胸が痛いんじゃないの?
3)やっぱり恋!切ない! ←【思考メモ2】を参考に
小島:なるほど!確かにわかりやすい!でも冷静に構成を考えすぎて、生々しい気持ちをうまく書けるかな
妖精:ふふ、忘れたのかい?第一回のときの君の気持ちを
小島:ええと、確か、、僕は八百屋のあの娘に何も言えなかった登場人物のケイタくんに自分を重ねて……
(第1回より引用)
アリサが寒さで震える中、タカシくんはどこで見つけたのかギターを持ってくると、毛布のようにぬくもりいっぱいの歌を歌い、嵐が過ぎ去るのを待ちました。
1時間……2時間……次第にアリサの心は落ち着きました。
長い夜でしたが、徐々に雨と風がやみ、ついには空に星が見えてきました。台風は去ったのです。 耳元でやさしく鳴り続くギターを聴きながら、娘はタカシくんと、恋に落ちたのでした。
問2:このときのケイタ君の気持ちを 10文字以内で表しなさい。
……
小島:思い出した!それで僕は発狂したんだった!
妖精:そう。あのとき君が言えなかったケイタくんの気持ちを今こそ歌うときなんだよ!このギターで!
小島:おおおお!I MUST CREATE!!
妖精:今の君ならきっと大丈夫さ!You CAN CREATE、モテ曲!!
【そして、3時間経過…】
小島:妖精さん!ついに歌詞ができました!
1)壊れてく、壊れてかない 心が何度もせめぎ合う
明日の朝には痛みはどれだけ和らぐの
2)眠れっこないから君の声、思い出す
3)こんな悲しい夜、もっと切ない鼓動
僕をぶたないで
いっそ消えたい夜、こんな悲しい空
星よ歌わないで
君が好きでした
妖精:いいじゃない! なんかこっちまで切ない気持ちになってきたよ。早く歌っておくれ、小島くん!
ようやく音楽コラムっぽくなってきた、「モテる曲を作りたい」。
次回はなんと最終回。完成した曲を実際に小島くんに歌ってもらいます。
いったいどんなメロディーがつくのか、そして彼なりの「モテ曲」は果たして生まれるのか……ご期待下さい!
小島ケイタニーラブ

ミュージシャン。2012年に初のソロ作品『小島敬太』(WEATHER/HEADZ)を発表。2009年にバンド「ANIMA」としてデビュー後、作詞・作曲・歌唱・音響デザインなどを通し、様々なアーティストとコラボレーションを開始。11年から始まった朗読劇『銀河鉄道の夜』(作家・古川日出男、詩人・管啓次郎、翻訳家・柴田元幸、小島ケイタニーラブ)は現在も全国で公演を重ね、今年7月にはその活動を追ったドキュメンタリー映画「ほんとうのうた」(河合宏樹監督)が公開される他、CDブック「ミグラード 朗読劇『銀河鉄道の夜』」(2013年・勁草書房)を刊行するなど、活動の幅を広げている。また、舞台芸術祭「フェスティバル/トーキョー13」では、東京芸術劇場にてアジア初披露となる〈リミ ニ・プロトコル(ドイツ)〉による作品をゴンドウトモヒコ(pupa)と共に担当した。 今年2014年1月からは西麻布のブックカフェ"Rainy Day Bookstore & Cafe"にて隔月イベント「ラブナイト」を開催。5月11日にイラストレーターの黒田征太郎を迎え、第3回を開催する。