Music Discoveryは新しいフェーズへ突入! Gracenote Rhythmの提供開始
去る2014年2月18日、代官山蔦屋書店T-SITEにて、Gracenote Rhythmの提供開始を記念したイベント“The State of Music Discovery @ 代官山T-SITE”が開催された。Gracenote Rhythmとは音楽レコメンデーション・パーソナライゼーションの導入を可能にする新プラットフォームだが、GRACENOTEという世界最大数を誇る楽曲メタデータと連動しているのが大きな特徴だ。
米国における音楽ビジネスの現状と展望
そもそもグレースノート社はCDDB(Compact Disc DataBase)社を前身とし、iTunes等でCDを再生する場合にアルバム名や楽曲名が正しく表示されるのは、同社のGracenote Media Databese機能による。
そんな同社の強みを活かしたGracenote Rhythmでは、国内のさまざまな音楽サービスに対して、インターネット・ラジオ(パーソナライズ可能なンターネット・ラジオAPI)、レコメンデーション(オンラインストアやサービス用音楽レコメンデーションAPI)、ローカル・プレイリスト(ユーザーの音楽ライブラリから自動プレイリスト作成)、データ・エクスポート(リッチな音楽属性データのバッチ提供)といった機能を提供可能となる。
さて、The State of Music Discoveryはまず、グレースノート社共同創業者・CEOのタイ・ロバーツ氏によるキーノート・スピーチで幕を開けた。米国における音楽ビジネスの現状と展望を解説した同氏によれば、2013年の音楽ストリーミングは103%の成長率となり、6%の減少を記録したダウンロードセールスとは対照的とのこと。このトレンドが続けば、2019年までに音楽ストリーミングは518%の成長が見込めることになる。「数多くの事業者が参入している音楽ストリーミングだが、それぞれが独自のマーケティングによって活動を続けることは、市場にとってもユーザーにとっても良いことだ」という氏の意見は、非常に説得力のあるものだった。また、UIのさらなるビジュアル化と情報の詳細化、音楽に対する嗜好性分析がディスカバリーを進化させる、といった展望も紹介された。

グレースノート社共同創業者・CEOのタイ・ロバーツ氏
音楽の未来を守るために
続いて“Music Discoveryから考える音楽マーケットとテクノロジーの未来”と題されたディスカッションが行なわれたが、これは山口哲一氏(バグ・コーポレーション)をモデレーターに迎え、礒崎誠二(Billboard Japan)、野本晶(Spotify Japan)、鈴木貴歩(Universal Music)、☆TAKU TAKAHASHI (m-flo, block.fm)、の各氏がパネラーとして登壇するという豪華なものであった。
ロバーツ氏による米国音楽事情を受け、日本はどういった状況にあるかという現状認識から始まり、サブスクリプション・サービスが一般化するであろうこれからの時代における、Music Discoveryの重要性をテーマとしてディスカッションは進行。各パネラーの活動とMusic Discoveryが直接関連するため、リアルかつ興味深い内容となっていた。
まずレーベルとしては、「新譜が中心となるダウンロード販売に比べ、旧譜が過半数となるサブスクリプション・サービスでは、ユーザーにいかにフラットに音楽を発見してもらうかが重要になる」(鈴木氏)ということで、Universal Musicが作成したSpotify専用アプリが紹介された。Universal Music中心のU DiscoverとBlue Note専用の2種類だったが、レーベルが積極的にキュレーターとして振る舞えるのは、サブスクリプション・サービスならではかもしれない。
その上で、なぜ数あるサブスクリプション・サービスの中でもSpotifyが注目を集めているのかという話題に移行。フリーミアムを前提としながらも、「アルゴリズム(ディスカバー)、ソーシャル(フォロー)、ヒューマン(ブラウズ)の3つの次元で音楽を発見する」(野本氏)という機能が、Spotifyの魅力だという説明がなされた。レコード会社の膨大な資産が有効活用されるためにも、1日も早いSpotifyの日本上陸が待たれるところだ(同社日本代表取締役ハネス・グレー氏のインタビューはこちら)。
また、“ユーザーの興味を喚起する新しいランキング”として、TweetやLook Up(CDのiTunesへの読み込み)等も指標として採用しているBillboard Japanの取り組みも紹介された。「マーケットがどんどん多様化している現状に対応していないのは、BillboardのDNAとしておかしいと思った」と礒崎氏は語り、今後はYouTubeの再生回数等もランキングに反映されるだろうという見通しを披露。また、2013年のヒット曲を例に取り、ダウンロード数、パッケージ販売数、Tweet数、Look Up数、エアプレイとThe Billboard HOT100の相関グラフが提示され、興味深い分析がなされた。
続いて紹介されたのが、☆TAKU TAKAHASHI氏が開設したインターネット・ラジオblock.fmの活動だ。日本のみならず世界中のトップDJがレギュラー番組を通してダンス・ミュージックを紹介しているblock.fmは、究極のヒューマン・レコメンドとも言えるだろう。「かつてはCDショップの店頭などがMusic Discovery機能を果たしていたが、今やすべてのレコメンドがアルゴリズム化しているのが寂しかった」という☆TAKU TAKAHASHI氏の思いで始まったblock.fmの、今後の展開に期待したい。ニュース機能の強化などが予定されているそうなので、block.fmはより強力なメディアに進化することだろう。

左から☆TAKU TAKAHASHI、鈴木貴歩、野本晶、礒崎誠二、山口哲一の各氏
「地球のエコシステムを守るために生物多様化会議があるように、音楽の未来を守るための音楽多様化会議として、こういう場がもっとあったら良い」という野本氏の発言に象徴されるように、“Music Discoveryから考える音楽マーケットとテクノロジーの未来”で交換されたさまざまな意見は、音楽のポジティブな未来を手にするための第一歩として機能するはずだ。「日本の強みは多様性にあるし、政府もようやく政策としてコンテンツ振興を掲げているので、皆さんのこれからの活躍に期待しています」という山口氏の言葉も、印象的であった。
Gracenote Rhythmの詳細
さて、本イベントの最後にはGracenote Rhythmのプレゼンテーションとデモンストレーションがスティーブ・マテウス氏(プロダクト、コンテンツ、技術担当 シニア・ディレクター)により行なわれた。先述のように音楽レコメンデーション・パーソナライゼーションの導入を可能にする新プラットフォームということで、具体的には以下のような機能を有する。
◯インターネット・ラジオ
楽曲やアーティストを指定して自動ステーション作成
ジャンル、ムード、年代の指定によるステーション作成
ユーザーのLike/Dislikeによるパーソナライズ
北米DMCA(デジタルミレニアム著作権法)に準拠したステーション作成
◯レコメンデーション
音楽ストア向けの標準的な楽曲レコメンデーション
アーティスト、曲、リスニングヒストリーを元にしたレコメンデーション
複数シード(入力値)に対応
◯ローカル・プレイリスト
音楽プレイヤーの保存楽曲を対象としたプレイリスト
アーティストや曲を元に類似したプレイリストを作成するMore Like This機能
リスニングヒストリーを元にプレイリストを作成
◯データ・エクスポート
APIを利用せずに、単体でメタデータと音楽属性データを提供
既存レコメンデーションソリューションと属性データの併用によって効果アップ
Spotify, iTunes Radio, Beats Musicが採用中

プロダクト、コンテンツ、技術担当 シニア・ディレクターのスティーブ・マテウス氏
こういった機能に加え、世界最大の構造化された属性データ・システムを持ち、グローバルに対応した唯一のミュージック・ディスカバリー・プラットフォームであるGracenote Rhythmは、ここ日本でもさまざまな音楽サービスに組み込まれていくことになりそうだ。その時にどんな音楽聴取環境が出現するのか、今から楽しみでならない。