【音響設備ファイル Vol.12】SPACE ODD/Sankeys TYO

音響設備ファイル by Text:iori matsumoto/Photo:Hiroki Obara 2016年11月25日

SankeysMain

昨年末、多くのクラブ・ミュージック・ラバーに惜しまれながらクローズした代官山AIRの跡地に、今年4月、新しいクラブSankeys TYOが誕生。日中〜夕方は同じスペースでライブ・ハウスSPACE ODDとしても営業をスタートした。こうした業態の転換と併せて、AIR名物とも言われた音響システムも一新されたとのこと。詳しく紹介していく。

▲コンソールはROLAND M-5000。24ビット/96kHzに対応する伝送規格REACを使うことで、ステージ側のI/OでAD変換した後フル・デジタルで伝送と処理が行え、スピーカー・システムにAES/EBUでデジタル出力できるのが採用理由とのこと。左側にあるコンピューターには、スピーカー・システムのネットワークを管理しているMARTIN AUDIO VU-Net Software(上)、APEXのプロセッサーIntelli-X48-2用のIntelli Ware(下)が起動している

▲コンソールはROLAND M-5000。24ビット/96kHzに対応する伝送規格REACを使うことで、ステージ側のI/OでAD変換した後フル・デジタルで伝送と処理が行え、スピーカー・システムにAES/EBUでデジタル出力できるのが採用理由とのこと。左側にあるコンピューターには、スピーカー・システムのネットワークを管理しているMARTIN AUDIO VU-Net Software(上)、APEXのプロセッサーIntelli-X48-2用のIntelli Ware(下)が起動している

 

ライブ・ハウス/クラブが両立できる音響

 AIRのクローズにあたり、このスペースの継承に手を挙げたのは、クリエイティブマンプロダクション代表の清水直樹氏。同社がSUMMER SONICの企画制作などを手掛けるコンサート・プロモーターであることは、もはや説明の必要がないだろう。氏は経緯をこう説明する。
 
 「もともとこの場所が気に入っていたんです。渋谷とも代官山とも恵比寿とも言い切れない場所の地下に、こんな異空間がある。もともと花市場だったそうで、その歴史も面白いですし。1階で営業していたカフェ・レストランNoMadも含めて、この場所にほれていたんですね。弊社はプロモーターとしていろいろなアーティストを招聘してきましたが、そこから次の新しいことをやっていこうと考えたときに、自分たちの小屋が欲しかった。ただ、クリエイティブマンがやるならライブもできないと意味が無いので、ライブ・ハウスとして営業するSPACE ODDと、深夜に同じ空間でガラッと表情が変わるクラブのSankeys TYO、1階のCafe HABANAという3つのコンセプトが一緒になった空間として、再スタートさせることになりました」
 

▲クリエイティブマンプロダクション代表の清水直樹氏(写真左)とオーディオブレインズ取締役の今岡隆氏(同右)

▲クリエイティブマンプロダクション代表の清水直樹氏(写真左)とオーディオブレインズ取締役の今岡隆氏(同右)

 代官山AIRと言えば、REY AUDIOのスピーカーが並ぶ姿が圧巻だった。清水氏らが引き継いだ当初も“裏にパワー・アンプが40台くらい並んでいた”という。しかし、SPACE ODDとしてのライブ・ハウス営業を考えると、スピーカー・システムの刷新は必須だったそう。そこで清水氏はコンサートを通じてつながりの深いMSI JAPANにコンタクト。同社のグループで機器の輸入販売を手掛けるオーディオブレインズの今岡隆氏が、全体のシステム・プランニングを担当することになった。氏はこう語る。
 
 「クリエイティブマンさんが手掛けるスペースですから、悪いものは作れないという意識はありましたね。僕は、いつかはそれが古くなるとしても、メーカーは新しい製品を大変な苦労をして生み出しているわけですから、現時点で最新のものを使うべきだと考えています。わざわざ遅れたところからスタートする必要はないですし、新しいものを使って以前の感じを出すのは意外とそう難しくはないとも思います」

▲M-5000のバックアップ電源ROLAND S-240Pやアウトボードなどを収めたFOH側のラック

▲M-5000のバックアップ電源ROLAND S-240Pやアウトボードなどを収めたFOH側のラック

 スピーカーは、試聴の上MARTIN AUDIO MLA Compactをメイン・スピーカーとして選定。一見したところコンパクトなラインアレイのようだが、フルサイズのMLAと同様、マルチセルラー・アレイという方式を採用している。MLA Compactの場合は1つのモジュールに3バンド/計8基のセル(ユニット)を搭載。専用ソフトで会場エリアを指定することで、帯域ごとの指向性や出力をモジュール単位で制御し、全体として指定エリアに均一な音場を提供できるというものだ。
 
 「特にSPACE ODDとSankeys TYOではステージの大きさも変わるので、スピーカーが移動できるようにしています。ですからスピーカー・システムのセッティングも2種類用意して、カバー・エリアが変更できるようにしてあります」と今岡氏はそのメリットを説明する。

▲メイン・スピーカーのMARTIN AUDIO MLA Compact。1モジュールにつき、250mm(LF)×2基、125mm(MF)×2基、19mm(HF)×4基を搭載する。アンプはクラスD×5の合計4,200W(ピーク)で、AES/EBUでの入力に対応。同社U-NETを通じたネットワークでの集中管理が可能となっている

▲メイン・スピーカーのMARTIN AUDIO MLA Compact。1モジュールにつき、250mm(LF)×2基、125mm(MF)×2基、19mm(HF)×4基を搭載する。アンプはクラスD×5の合計4,200W(ピーク)で、AES/EBUでの入力に対応。同社U-NETを通じたネットワークでの集中管理が可能となっている


▲MLA Compactの下に、サブウーファーのMLXを設置。本来はフルサイズのMLAとの組み合わせを想定したモデルで、460mmユニットを2基搭載し、アンプ出力は8,500W(ピーク)

▲MLA Compactの下に、サブウーファーのMLXを設置。本来はフルサイズのMLAとの組み合わせを想定したモデルで、460mmユニットを2基搭載し、アンプ出力は8,500W(ピーク)

 また、Sankeys TYOとしての営業時のためにリア・スピーカーも設置。サブウーファーは可動式でSPACE ODD営業時には会場外に出すこともできる。今岡氏は、このリア・スピーカーの効果をこう語る。
 「フロント側のサブウーファーは馬力のあるフロント・ローディングのローデット・ホーン、リア側は膨らみが感じられるフロント・バッフル・タイプなので、2つの特性をミックスするのが狙いですね。音に包まれるような感じが演出できると思います」
 

▲FOHブース前に設けられたリア・スピーカー。壁に取り付けられているのがフルレンジのXD15、サブウーファーにはWS18Xよりも大きなWS218Xを採用している

▲FOHブース前に設けられたリア・スピーカー。壁に取り付けられているのがフルレンジのXD15、サブウーファーにはステージで使用しているWS18Xよりも大きなWS218Xを採用している

 

96kHzのフル・デジタル接続を実現

 SPACE ODD/Sankeys TYOのスピーカー・システムが持つ最大の特徴は、デジタル・ドメインであること。今岡氏に説明していただいた。
 
 「機械の種類を少なくして、できるだけシンプルにするのが狙いです。出力系プロセッサーとして使っているAPEX Intelli-X2は内部で192kHz処理ができるので、コンソールのAES/EBU出力から24ビット/96kHzのまま入力して、アップ・サンプリングしています。基本的にはライブ使用とクラブ使用で設定を切り替えるためのものですが、イベントごとに調整をしていくことも可能です。ここからメイン・スピーカーのアンプへの入力もAES/EBUを使い24ビット/96kHzで送っています」
 
 このデジタル接続を基本としたコンセプトを貫徹するために選ばれたコンソールがROLAND M-5000。REACによるデジタル・スネーク・システムも含め、インプットからアウトプットまで96kHz運用に対応しているのが大きなポイントだ。今岡氏によれば、それ以外にもM-5000を選定した理由があるという。
 
 「M-5000は必要に応じてアウト系を増やしたり、AUXに変えたりとチャンネル構成の自由度が高いので、ライブではウェッジ・モニターが必要だったり、クラブ使用では先述したリア・スピーカーが増えたりといった状況に合わせて変更することができます。それとコンパクトなので、FOHブースの外に動かすなど、物理的なレイアウトの自由度の高さも魅力です。小型ではありますが馬力があるコンソールだなという印象を持っています」
 

▲ステージ後方に置かれた、プロセッサーやI/Oを収めたラック、上からAPEX Intelli-X2 48(プロセッサー)、MARTIN AUDIO ASF80001(デジタル・システム・コントローラー)、スピーカー・ネットワークU-N

▲ステージ後方に置かれた、プロセッサーやI/Oを収めたラック、上からAPEX Intelli-X2 48(プロセッサー)、MARTIN AUDIO ASF80001(デジタル・システム・コントローラー)、スピーカー・ネットワークU-N

 今岡氏は、M-5000と映像機器との連携にも注目しているとのこと。「デジタルはバージョン・アップができるのが利点。将来の技術発展にも対応できるようにしておきたい」と語る。清水氏もこうした今岡氏の考えに賛同を寄せ、こうコメントする。
 
 「クラブでは音と映像、ライティングが同期するのが一般的。200インチのLEDスクリーンを中心とした映像と照明システムを導入しているので、音響も先を見据えて機器の進化に対応できる用意しておきたかったんです」
 
 そんなSPACE ODD/Sankeys TYO、クリエイティブマンプロダクションのネットワークと、AIR時代から運営に携わるスタッフの尽力もあって、充実のラインナップが魅力。清水氏は今後の展望をこう語ってくれた。
 
 「KASKADEのようなフェスのヘッドライナーを務めるアーティストが数百人規模のスペースでライブをするというサプライズもありますし、フェスと連携したショウケースをやることもできます。それと同時にここも単独でビジネスとして成立させていくことも大事。このエリアの活性化も図っていきたいですね」
 

▲Sankeys TYO仕様のセットアップ。DJシステムはPIONEER CDJ-2000NXS2×6とDJM900NXS2。サイド・フィルはMARTIN AUDIO XD15+WS18X

▲Sankeys TYO仕様のセットアップ。DJシステムはPIONEER CDJ-2000NXS2×6とDJM900NXS2。サイド・フィルはMARTIN AUDIO XD15+WS18X

 
※サウンド&レコーディング・マガジン2016年12月号より転載

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