新たなサウンド・ステージを提示したStudio One 3の「進化」と「実力」③

新たなサウンド・ステージを提示したStudio One 3の「進化」と「実力」 by 加納洋一郎 2015年8月28日

今回の楽曲におけるミックス〜マスタリングは、本職のエンジニアである加納洋一郎氏が手掛けた。S1の印象と、各パートにおけるミックス方法を解説してもらったので、その実力をしっかりと確認していけたらと思う。

今回の楽曲におけるミックス〜マスタリングは、本職のエンジニアである加納洋一郎氏が手掛けた。S1の印象と、各パートにおけるミックス方法を解説してもらったので、その実力をしっかりと確認していけたらと思う。 

加納洋一郎1993年Mixer’s Labに入社し、1997年よりエンジニアとして活動を開始。バンド・サウンド、ボーカルものを得意とし、現在はフリーのエンジニアとして、歌ものから大編成の劇伴まで多くの作品を手掛けている

 

加納洋一郎
1993年Mixer’s Labに入社し、1997年よりエンジニアとして活動を開始。バンド・サウンド、ボーカルものを得意とし、現在はフリーのエンジニアとして、歌ものから大編成の劇伴まで多くの作品を手掛けている

 

スクリーンショット 2015-08-20 18.30.34

僕がS1を認識したのは、仕事をさせてもらっている作曲家さんの中で、持ってくるデータの音がすごい良い人がいたことがきっかけだったんです。それがS1で作られたと知り、音が良いDAWなんだなとずっと気になっていました。

僕がS1を導入したきっかけは、マスタリング・ツールとしてだったんです。とあるインディーズ・アーティストのセッションを手掛けたときに、マスタリングまでやることになったのですが、DDP書き出しができるソフトを探していたところ、S1ならそれができることを知り、候補に挙がりました。そこでまずはFree版(現Prime版)で試してみたらすごく音の印象が良くて、これなら大丈夫だと確信を持ちProfessional版にアップグレードしました。その後、幾つかマスタリングを含むセッションがあり、S1を使うようになったのですが、まず説明書を読まなくてもすぐに使えたのは好印象でしたね。DDP再生できないことに対して少し不安がありましたが、これまで問題が起きたことはありません。

スクリーンショット 2015-08-20 18.30.48

今回は32ビット/96kHzのセッションということもあり、レコーディングのときから生の音をしっかりとらえることができるよう心掛けました。僕は、録りからミックスまで携わるときは、ミックスをイメージして、それぞれのキャラクターに合った、自分的にまとめやすいマイクプリをセレクトします。今回は、キック、スネアにはCHANDLER LIMITED TG Channel、タム、ベースにはRUPERT NEVE DESIGN Portico 5024のほか、EMPIRICAL LABS EL8 Distressor、GRACE DESIGN M201を通しています。

今回、S1で録るということでチェックしたいことがありました。それはインプット・スルーと録った音が変わるのかということで、実際に比べて聴いてみたら変わったんですね。テープに録ったような印象だったんです。AVID Pro Toolsと比較するなら、上が収まる感じがPro Toolsで、S1は、上は開放感がありながら、下がちょっとファットな温かみを増す感じに。理由は分からないのですが、これには驚きました。

僕がミックスをする際によく行っていることは、デモをしっかり聴くことです。決してデモの打ち込みに近付けるわけではないのですが、デモには制作者の意図が入っているので、おいしいレンジ感はどこなのか? 一番聴かせたい歌詞はどこなのか?など、歌モノなら特にボーカルを意識して確認します。今回は女性ボーカルだったので、1〜4kHzを大事にしようと思い、まずはボーカルを調整した後、オケのミックスに取り掛かりました。それではそれぞれのパートごとのミックスについて解説していきましょう。なお、今回のプラグインはS1付属のものだけを使って作業をしました。

スクリーンショット 2015-08-20 18.31.12

EQにFat Channel、コンプにCompressorを使いました。EQは中高域を2〜4dBくらい持ち上げ、ハイパス・フィルターで、コンプの手前の65Hz辺りでカットしています。そして、歌のおいしい成分がコンプにあたるように設定しました。コンプはアベレージで薄くかかるようにして、レベルをそろえるイメージです。ダイナミクスをもう少し生かしたい場合は、“ミックス”のパラメーターを調整すれば良いと思いました。最初は100%にしておき、元の音にかぶせてあげれば、バス・コンプのようにレベルは変わらず出ていく、というイメージでしょうか。それができるのは便利ですね。さらにリバーブのOpne Air()とAnalog Delayを使用。Opne Airはキャラが違うリバーブのプリセットが多く入っているので、選択肢が広がります。操作性も良く好印象でした。ここではFatPlatを選んでいます。Analog Delayは付点16分音符で、ボーカルの存在感が出るように設定しました。

①コンボリュージョン・リバーブのOpne Air。実空間とクラシックなハードウェア・リバーブをベースとしており、IRディスプレイも搭載する

①コンボリュージョン・リバーブのOpne Air。実空間とクラシックなハードウェア・リバーブをベースとしており、IRディスプレイも搭載する

スクリーンショット 2015-08-20 18.31.21

自分がイメージした音に近付けるため、キックとスネアにはFat Channelをインサート(②)。キックは太い印象にするため、60Hz近辺をブースト、150Hzをカットしました。スネアに関してはFilter、Gate、Compressor、Equalizerの値を±2dB程度調整しましたが、このプラグイン、名前の通りミッドローが優しく出るので、ドラム関係には使いやすかったです。さらにシンバルにはPro EQでLowをカットしました。より高域の空気感を出すためです。Pro EQは色付けがないのが良いですね。

②StudioLive 32.4.2 AIミキサーのチャンネル・ストリップを、完全バーチャル化したFat Channel。Filter、Gate、Compressor、Equalizer、Limiterを備える

②StudioLive 32.4.2 AIミキサーのチャンネル・ストリップを、完全バーチャル化したFat Channel。Filter、Gate、Compressor、Equalizer、Limiterを備える

一点、Pro Toolsに慣れていると、パンをステレオ・ペアで操作している人もいると思います。S1はペアにはなっていないので、Dual Pan(③)をインサートしてデュアルにしました。というのは、僕はドラムを最大で開かずちょっと内側にパンさせるからです。これは海外のエンジニアがよくやることですね。

③ステレオ・パンナーDual Pan。入力バランス・コントロール、選択可能なパン・ロウ、左右独立のパンニングを搭載している

③ステレオ・パンナーDual Pan。入力バランス・コントロール、選択可能なパン・ロウ、左右独立のパンニングを搭載している

スクリーンショット 2015-08-20 18.31.34

ベースは録音時、ブースの関係もありラインだけでした。後にリアンプも試みましたが、ラインだけで十分だったので、結果的に使用したのはラインのみでした。こちらもプラグインはFat Channelを使用。Fat ChannelのCompressorで、アタック&リリースをAutoに設定したら、ナチュラルな質感が出て良かったです。

スクリーンショット 2015-08-20 18.40.10

素材のまま使用、何も手を加える必要はありませんでした。

スクリーンショット 2015-08-20 18.40.25

こちらはオケ中で少し暗く聴こえたので明るくする意味で色付けのないPro EQで中域を少しブーストし、Analog Delay()で余韻をつけました。Analog Delayはプリセットが幾つかあり、挿した時点でSyncボタンをクリックすればテンポにもアジェストされます。必要なものがそろっていて非常に使いやすいです。

④ワンヘッドのテープ・ディレイをエミュレートしたAnalog Delay。テンポ同期、LFO、フィルターを通したフィードバックなどの機能を備える

④ワンヘッドのテープ・ディレイをエミュレートしたAnalog Delay。テンポ同期、LFO、フィルターを通したフィードバックなどの機能を備える

スクリーンショット 2015-08-20 18.40.35

レンジの中で、もう少し上の方に位置させたかったのでPro EQで中高域が元気に聴こえるように、3kHzをブースト。その後、ダイナミクスを少しそろえたかったので、Compressor()でアタックを逃した形で強めにかけました。元のニュアンスは残しつつレベルをそろえるイメージですね。

⑤モノ/ステレオ・コンプレッサーのCompressor。内部と外部のサイド・チェイン機能も搭載している

⑤モノ/ステレオ・コンプレッサーのCompressor。内部と外部のサイド・チェイン機能も搭載している

スクリーンショット 2015-08-20 18.40.47

ざらつき感や存在感を出したかったので、Red Light Distortion()で“Fuzz”を選びひずませて、Analog Delay符点8分音符のディレイ、Chorus()でプリセットのAcousticを選び、にじませるよう処理しています。

⑥アナログ・ディストーション・エミュレーターRed Light Distortion。6つのエミュレーション・モデルを選択でき、さまざまなひずみを加えることが可能

⑥アナログ・ディストーション・エミュレーターRed Light Distortion。6つのエミュレーション・モデルを選択でき、さまざまなひずみを加えることが可能

⑦3ボイスのコーラス・プロセッサーChorus。LFOでディレイ時間を変化させることができる

⑦3ボイスのコーラス・プロセッサーChorus。LFOでディレイ時間を変化させることができる

スクリーンショット 2015-08-20 18.41.05

Limiterを挿し、ピークを最大でー6dB程度抑えました。印象としては、デジタルなかかり方ですが、音色はナチュラル。よくピークが止まってくれるのは良いですね。

スクリーンショット 2015-08-20 18.41.18

ミックスの段階でレベルもある程度入れているので、そんなにやることはありませんでした。Pro EQで余分な低域をカットし、Limiterの手前でかからないように調整。それにより、中高域が少し明るくなっています。Limiterはピークを抑える程度に使用しています。

S1でミックス/マスタリングする利点の一つに、ミックスから容易にマスタリングに移行することができることが挙げられます。マスタリングに移行するには、メニューから“ソング>プロジェクトに追加”を選択すると、新規プロジェクトが作られ、ファイルがインポートされて、プロジェクト画面が立ち上がります。プロジェクトでは曲タイトルやISRCなどのメタ情報を明記できるほか、必要なPQ信号や曲間、曲順の入れ替え、トリミング、フェードはもちろん、曲同士のクロスフェードも視覚的に可能です。各トラックのインサート、マスター・インサートでプラグインを挟み処理できるようになっていますが、アルバムをマスタリング中、“この曲だけ歌が小さかった!”というのはよくある話。そんな場合でも、S1ならすぐにソングに戻ってミックスすることができます。ボリュームを調整後保存して、プロジェクトの“マスタリングファイルを更新”を選択すれば、最新のものに入れ替わるのです。これは画期的な機能だと思います。

▲Professionalのみに搭載されているプロジェクトは、マスタリングのツールを搭載したページ。ここでは、Red BookオーディオCDの作成、MP3アルバムの作成、標準ディスク/DDPイメージの書き出しが行える。ソングとオーディオ・ファイルは、連続するトラックとしてタイムライン上に並べられる。また、スペクトラム、ピーク/RMS、位相メーターも表示可能

▲Professionalのみに搭載されているプロジェクトは、マスタリングのツールを搭載したページ。ここでは、Red BookオーディオCDの作成、MP3アルバムの作成、標準ディスク/DDPイメージの書き出しが行える。ソングとオーディオ・ファイルは、連続するトラックとしてタイムライン上に並べられる。また、スペクトラム、ピーク/RMS、位相メーターも表示可能

スクリーンショット 2015-08-20 18.41.29

今回S1で作業してみて思ったのは、とにかく、軽い動作が好印象で直感的だったこと。Pro ToolsやほかのDAWからの移行は抵抗感があるかもしれませんが、車と同じで乗り方が変わるだけで難しいことはありません。慣れが必要なだけだと思います。キーボード・ショートカットもプリセットでCubase、Logic、Pro Toolsが用意されているので、慣れ親しんだショートカットも選べるし、自分なりにアレンジすることも可能なのでストレスも少ないでしょう。スタジオで定番となっているPro Toolsと比較すると、VSTなども読み込めるので、インサートで使えるプラグイン・エフェクト選択肢も増えるのではないでしょうか。解像度や奥行き感は抜群で、描ける画角が広いだけでも作業しやすくなった気がします。

 

次ページへ

前ページへ

 

TUNECORE JAPAN