星野誠氏が体感するSTAX「イヤースピーカー」の新境地

REVIEW by 星野誠 Photo:小原啓樹 2019年5月24日

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国内オーディオ機器ブランドの老舗として知られるSTAX。1938年に創業した前身企業、昭和光音工業を経て1963年にSTAXブランドを立ち上げて以降、あらゆるオーディオ機器を手掛けてきた。その中で最も得意としているのが静電型(コンデンサー型)の製品。特に“イヤースピーカー”を称するオープン・エアのヘッドフォンが出色だ。本誌は2019年1月号で、フラッグシップ機SR-009Sと長方形のボディが印象的なSR-L700の2モデルを取り上げた。それらの製品レビュワーだったエンジニア星野誠氏がSR-009Sのサウンドに衝撃を受け、自ら購入したというのだ。今回は、6月に発売される新たなイヤースピーカー=SR-L700 MK2とSR-L500 MK2を星野氏に試していただき、音楽制作の視点からインプレッションを語ってもらった。

原音の情報を脚色せずにきめ細かく再現してくれます
“空気を通した音”を扱う人にはぜひ試してみてほしい

高解像度ながら耳に痛くない上品な音

SR-009Sを購入して早2カ月。仕事にも使い始めていますし、周りのミュージシャンやエンジニアの方々に試してもらっても、やっぱり評価が高いんですよ。音源のクオリティそのものを実に正直に再現してくれる印象で、アル・シュミット氏が録音したポール・マッカートニーのアルバムを聴いたりすると、良いスタジオ、良いエンジニア、良いミュージシャンによる作品だということが手に取るように分かります。もう最高ですね。そのSR-009Sとともに専用アンプのSRM-T8000も導入したので、今回はこれにSR-L700 MK2とSR-L500 MK2を接続し、既存の楽曲や自身のAVID Pro Toolsセッションを用いてチェックを行いました。

まずは両機種に共通する音質の傾向として、耳当たりが非常に良いことが挙げられます。アタック成分が速く聴こえ過ぎたり、高い周波数帯域が強調されていたりという感じがせず、まさにスピーカーで聴いているよう。耳元で鳴っているにもかかわらず、痛いところが無いんです。それでいて“音の粒”のようなものまで細かく見え、空気感や距離感もあって上品な音質。また両機種共に装着感も抜群で、そこに関してはSR-009Sを超えている印象ですね。

周波数分布に関しては、どちらもボーカルの帯域にピントを合わせた感じ。歌のコンプ感やサチュレーションの具合を見るのに良いと思います。ギターや鍵盤との関係性もとらえやすく、のどの鳴りを聴かせるために鍵盤の400Hz辺りをEQでカットするような処理のあんばいがよく分かる。ボーカルとその付近にある音、もしくは歌を邪魔するような要素に至るまでつぶさに再現しますね。ハイレゾの時代と言っても、音楽にとって変わらず重要なのは中域だと思うので、そこの再現力の高さは特筆すべき点です

 

高域の再現力に分があるSR-L700 MK2

このように、どうしても中域に耳を奪われがちですが、“そこだけじゃない”というのも強調しておきましょう。まずは低域。どちらの機種もトラップのサブベースをしっかり聴かせるような特性ではないものの、Pro Toolsセッション上で30~40HzをEQブーストしてみると反応するため、超低域も再現されていることが分かります。また、その辺りが少しロールオフしているからか、“聴こえやすい低域”(80~100Hz辺り)の押し出し感が強い印象。キックの芯の部分やベースのむちっとした帯域が際立って聴こえます。総じて言えば、ニアフィールドのモニター・スピーカーで低域を聴くときの感覚に近い。エンハンスされたような感じは一切せず、やはり正直で上品な音をしています。

他方、高域については、両機種で最も違いを感じた部分です。どちらも超高域まで伸びていますが、SR-L700 MK2の方がより高解像度。プレゼンス感が強く、シンバルのキラっとした成分やアタック感の再現に優れていると思います。また、中高域(2~5kHz辺り)の解像度も一枚上手。ジャズ系の曲を聴き比べたときに、スティックがシンバルに当たる感じなどリアリティにまつわる部分がよく分かりました。両機種の違いは低域や中域よりも高域に顕著で、特にドラムを聴いていてそう感じましたね。

SR-L700 MK2とSR-L500 MK2はどちらも原音を脚色することなく、マイクの距離感や部屋の広さなどまで、音が持つ情報をきめ細かく再現します。個人的には生音、つまり空気を通った音を扱う人にぜひ試してほしい。最近は楽器店などにも置かれるようになったので、ダイナミック・マイクとコンデンサー・マイクの違いのようなこの耳当たり、“イヤースピーカー”なる感覚を体験しに行ってみてはいかがでしょう。

 

Review by
星野誠

ビクター・スタジオを経て、現在はフリーで活躍するエンジニア。クラムボンやくるりなどの作品に携わってきたほか、近年はsumika、FLYING KIDS、the chef cooks me、SAKANAMONなども手掛ける。生楽器を含むセッションが得意。

Product Overview

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SR-L700 MK2148,000円/写真左)はSR-L700の次世代版で、発音ユニットに長円型固定電極“MLER”(Multi Layer Electrodes)を採用。共振を大幅に抑えつつ、音波の高透過率を実現しているという。最上位機SR-009Sに採用の6N OFC+銀メッキ軟銅線ケーブルが付属するのも魅力だ。SR-L500のアップデート版SR-L500 MK275,000円/写真右)は、品質重視の極薄フィルム振動板と新開発のステンレス製電極を搭載。低共振性と高解像度な音を特徴とする。付属ケーブルは日立金属の高機能純銅HiFCを使ったものだ。いずれの機種も新設計のアルミ製ケース・ホルダーを備え、リケーブルに対応する。

SPECIFICATIONS

SR-L700 MK2
■イア・パッド:羊皮(肌に触れる部分)、人工皮革(取り付け部分)
■重量:508g(付属ケーブルを含む)
SR-L500 MK2
■イア・パッド: 人工皮革
■重量:479g(付属ケーブルを含む)
共通項目
■形式:オープン・エア・コンデンサー型
■周波数特性:7Hz~41kHz
■静電容量:110pF
■インピーダンス:145kΩ


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サウンド&レコーディング・マガジン 2019年7月号より)

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