「SPL Passeq Model 1654」製品レビュー:120Vで動作するオペアンプ技術を搭載した2chマスタリングEQ

SPL Passeq Model 1654

REVIEW by 小泉由香(オレンジ) 2018年6月5日

赤

2005年、SPLはパッシブ式マスタリングEQのPasseq Model 2595をリリース。この優れた特性を引き継ぎつつもさらに改良を施したモデルが、2018年に新しく発売されたPasseq Model 1654(レッド)とModel 1650(ブラック)です。この2つの違いはカラーのみで、今回はModel 1654をレビューしていきたいと思います。

各chに72のブースト/カット・ノブ
10Hzの低域から35kHzの高域まで調整

Passeq Model 1654(以下、新Passeq)の主な特徴は従来のPasseq Model 2595(以下、旧Passeq)でも採用していた“120Vテクノロジー”。これはハイボルテージで動作するオペアンプ技術のことで、高い動作電圧であればあるほど扱うことのできる最大レベルは高くなります。音響的/音楽的なパラメーターはこの関係に依存し、高い電圧でのオペレーションは広いダイナミック・レンジを提供。SN比やひずみ率を抑えることにもつながるのです。また、新Passeqは各チャンネルに72のブースト/カット・ノブを搭載。さらに旧Passeqと比べて選択できる周波数帯域が、高域は35kHzから低域は10Hzまでに広がり、Q値の調整も施されています。

フロント・パネル中央の一番下にある2つのスイッチはチャンネル・スイッチと呼ばれ、EQのオン/オフを切り替えます。その上にある“Auto Byp.”スイッチは、チャンネル・スイッチをオンにした状態で動作させると処理前/処理後の音を自動で切り替えることができ、そのタイミングはさらにその上にあるインターバル・ノブで調整が可能。このノブを時計回りに傾けるほど切り替わる間隔が長くなります。もし新Passeqを離れた場所にセットしたとしても、この機能を使えばエンジニアは処理前/処理後の音をわざわざスイート・スポットから移動せず、交互に聴き比べすることができます! ちなみにこのインターバル・ノブ以外のすべてのノブはクリック式なので、記録しておけばリコール対応も簡単です。

次は両サイドにあるコントロール・セクション。左側がch1(L)、右側がch2(R)で、それぞれアウトプット・ノブを中心に各周波数帯域のゲイン・ノブやカット/ブースト・ノブなどが同心円状に配置されています。一般的なEQでは左から右の順で低域から高域のノブを配置することが多いのですが、新Passeqは上から下への順で高域/中域/低域と並んでいるのです。まるで縦置きモニターに向かい合ったときのようにノブが配置されており、直感的な操作が可能になります。

アウトプット・ノブではL/Rそれぞれのチャンネル出力を調整でき、ミックス・ダウン時のマスター・レベルの大小にかかわらずEQ処理後の音量を最適なレベルに調整して出力することができます。また旧Passeqではアウトプット・ノブは減衰方向のみでしたが、新Passeqでは昨今の音楽制作事情に合わせてか、±10dBの範囲でレベル調整ができるようになっていますね。興味深いのは、アウトプット・ノブの目盛り間隔がプラス方向とマイナス方向で若干異なるところ。例えばプラス方向では1つ目の値が1.0なのに対し、マイナス方向では−0.5になっているのです。これは“マスタリングあるある”で、実際にマスタリングを行っていると0〜−0.5dB間で調節したい場合が数多くあるのですが、新Passeqでは0dBから−0.5dBまで2ステップあるので細かく調節できてとても便利です!

最上段には高域をブーストするHF+ノブと高域をカットするHF−ノブがあり、その間にあるQノブではHF+ノブでブーストするピーク・フィルターのQ値(0.1〜1.0)を変更可能。HF+ノブの周波数レンジは5kHz〜35kHzまでで、HF−ノブの周波数レンジは580Hz〜22kHzまで。ちなみにHF−ノブはシェルフ特性になっています。アウトプット・ノブとHF+/HF−ノブの間にはそれぞれゲイン・ノブがあり、最大ブースト値は12.5dB、最大カット値は14.5dBです。これらのゲイン・ノブでは0〜1.7dBまでの間が特に細かく目盛りが設けられていますが、Q値を小さくして使う場合はQ値を大きくして使うときよりEQのかかり具合が鈍くなるため、Q値の可変により最適の効果が得られるように工夫がされています。

中段には中域をブーストするMF+ノブと中域をカットするMF−ノブがあり、いずれもピーク・フィルター特性を示します。MF+ノブの周波数レンジは220Hz〜4.8kHzで、MF−ノブの周波数レンジは200Hz〜6kHzまで。アウトプット・ノブとMF+/MF−ノブの間にもそれぞれゲイン・ノブがあり、最大ブースト値は10dB、最大カット値は11.5dBです。

最下段には低域をブーストするLF+ノブと低域をカットするLF−ノブがあり、いずれも6dBスロープを持つシェルフ特性を示します。LF+ノブの周波数レンジは10Hz〜550Hzまでで、LF−ノブの周波数レンジは30Hz〜600Hzまで。こちらも同様に、アウトプット・ノブとLF+/LF−ノブの間にはそれぞれゲイン・ノブがあり、最大ブースト値は17dB、最大カット値は22dBとなっています。

 

エンジニア目線での目盛り設定
アナログでオーガニックなサウンド

各周波数帯域のゲイン・ノブは次の値に行くまでに4ステップありますが、値が均一でないのが面白いところ。マスタリングではたとえ0.2dBの変化でも差が出るので、よく現場では“その間はないの?”と言われることがしょっちゅうありますが、新Passeqはレベル設定一つを取ってもエンジニア目線での設計がされていると思います。

実際に新PasseqでEQ処理をしてみて、音質は旧Passeqより温かい感じです。またMF−ノブのスタート周波数が200Hzに変更された点や、空気感の帯域として35kHzまで制御できるようになったりするところなど、よりアナログでオーガニックなサウンドになったのではないでしょうか。基本的にはジャンルを選ばないマスタリングEQなので、ギターがメインのロック・バンドであればMF+ノブでギターの手元感をちょい足ししたり、ヒップホップであればLF−ノブでもたついた低音を少しカットするなど、細かいところまで作り込むことができるでしょう。新Passeqは“カットしたらどの帯域が出て、ブーストしたらどの帯域がなくなったのか”と、ロジカルで直感的な音作りができるマスタリングEQだと思います。

▲SPL Passeq Model 1650(ブラック)のフロント・パネル

▲SPL Passeq Model 1650(ブラック)のフロント・パネル

▲SPL Passeq Model 1650とModel 1654のリア・パネル。左からGND LIFTボタン、各チャンネルのアウトプットとインプット(いずれもXLR)を装備している

▲SPL Passeq Model 1650とModel 1654のリア・パネル。左からGND LIFTボタン、各チャンネルのアウトプットとインプット(いずれもXLR)を装備している


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サウンド&レコーディング・マガジン 2018年6月号より)

SPL

Passeq Model 1654

590,000円
※表示している価格はニュース掲載時点のものです。また税込/税抜についてはメーカーの表示したものに準じて記載しています。

【SPECIFICATIONS】
▪最大入力レベル:+32.5dBu ▪入力インピーダンス:20kΩ(バランス) ▪最大出力レベル:+32.5dBu ▪出力インピーダンス:600Ω未満 ▪全高調波ひずみ率:0.076%@−30dBu、0.026%@−20dBu、0.026%@0dBu、0.0086%@+10dBu、0. 0012%@+30dBu ▪SN比:−95.2dBu(A-weighted)、−86.2dBu(CCIR) ▪周波数特性:30Hz〜35kHz ▪外形寸法:482(W)×177(H)×311.5(D)mm ▪重量:10.2kg

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