「EVENTIDE Elevate」製品レビュー:人工知能アルゴリズムによる制御が可能なマスタリング用プラグイン

EVENTIDE Elevate

REVIEW by 中村公輔(Kangaroo paw) 2018年3月9日

DMA-Elevate

ピッチ・シフターや空間系エフェクトの定番的存在として揺るぎない地位を確立しているEVENTIDE。近年ではトランジェントとリリースに別のエフェクトがかけられるFissionをリリースするなど、その領域をさらに拡大しています。Fissionは、期待する結果は同じでもそれに至るアプローチにオリジナリティがあり、他社製のプラグインとは一線を画する出来栄えでした。そんな同社がリリースするマスタリング用プラグインのElevateはどんな仕上がりなんでしょうか!?

最大26バンドのフィルターを搭載
バンド数が多いほど自然なリミッティングに

Elevateは人間の聴覚からモデル化された26のフィルター・バンドを利用することで、効果的かつ自然に感じるエフェクト処理が可能なマスタリング・プラグインです。搭載されているエフェクトはLIMITER、TRANSIENT EMPHASIS、SPECTRAL CLIPPER、そしてグラフィックEQ。Mac/Windows対応で、AAX/AU/VSTに準拠しています。

特色は、人工知能アルゴリズムを使ったADAPTIVE機能。エフェクト効果が自然に聴こえるようにリミッターの音量や速度、トランジェントなどを制御してくれるシステムで、これによって従来のマルチバンド・マキシマイザーよりも簡単に良い結果を出せる仕組みになっています。一例を挙げると、26バンドのリミッターのアタックやリリースの速度を、先読みしたオーディオ信号に合わせてポンピングが出ないように自動的に変化させるなど、人間が手動でやるには少し困難なコントロールが可能です。

それではどのようなことができるのか、パラメーターをチェックしていきましょう。まずはメイン・パラメーター画面。ここではLIMITER、TRANSIENT EMPHASIS、SPECTRAL CLIPPERが大まかに設定できます。LIMITERのパラメーターはGAIN、SPEED、CEILINGまでは通常のリミッターと同じですが、バンド数が選択でき、GAINとSPEEDにADAPTIVE機能が搭載されています。バンド数は最大26から最小1まで任意の数を設定でき、1バンドの状態では一般的なリミッターと同じような挙動になります。このバンド数の設定はバンドごとにスレッショルドなどを設定する一般的なマルチバンド・リミッターとは違い、Elevateが自動的にリミッティングするバンド数をどれだけ細かく分けるか(分解能の調整)というパラメーターになります。バンド数が多いほど自然な効き、少ないほどリミッターの癖が出る印象。減らすとCPUの使用量が軽減するので、パワーがそれほど無いコンピューター環境でも問題なく使えそうです。

SPEEDはアタック/リリースを同時に変化させるタイプで、前述したADAPTIVE機能で自動調整も可能です。個人的な印象ですが、LIMITERのかかり方はすごくナチュラルで、あまり音のイメージが変わりませんでした。最近のマキシマイザーをかけるとツルツルし過ぎるし、少し古めのものはザラつきは残って良い感じだけど高域の抜けが悪いと感じている方には、ちょうど良いと思います。

 

SPECTRAL CLIPPERのひずみ方は
音楽的でバランスが崩れない

次にTRANSIENT EMPHASIS。こちらはトランジェントをどれだけ強調するか設定します。強調したい量やADAPTIVE機能のオン/オフだけの簡単な操作で使えますが、細密に音作りをしたいときにはサブ画面を開くとバンドごとに設定可能。ほかのトランジェント感を変えずに、キックやスネアだけアタックを強調したいときなどに便利な機能です。かなり効きが良いので、ペタペタにコンプレッサーがかかっている2ミックスの一部を強調して、フレッシュさを復活させるような使い方ができそうです。

▲メイン画面でも各エフェクトの操作ができるが、ELEVATE SUB-MODULESというセクションからそれぞれのエフェクトをより詳細に設定できる。バンド幅や各バンドへのエフェクト反映量などを調整可能だ

▲メイン画面でも各エフェクトの操作ができるが、ELEVATE SUB-MODULESというセクションからそれぞれのエフェクトをより詳細に設定できる。バンド幅や各バンドへのエフェクト反映量などを調整可能だ

最後にSPECTRAL CLIPPERですが、こちらは全体の倍音が持ち上がるディストーションといった雰囲気です。DRIVEとCLIPPER SHAPEというパラメーターを設定するだけですが、効果は絶大。僕は普段、ミックスの全体をパリッとさせたいときにNEVE 33609などを素通ししてひずみを付加しています。SPECTRAL CLIPPERはその感じに近い音楽的でバランスが崩れないひずみ方で、非常に使いやすいと思いました。プラグインのディストーションをマスターにかけると、音が鈍ったり、つぶれたり、特定周波数が強調されたり……と使えないことが多いですが、こちらはごく自然な仕上がり。特に0.5~1dB程度の混ぜ方だと、元からこうだったかのように自然にかかり、非常に好印象でした。

元からバランスが仕上がっているミックスであれば、メイン・パラメーター画面でほぼ対応できそうですが、サブ画面にはグラフィックEQが搭載されており、Elevateだけでもマスタリングを完結できそうです。なお、EQは初期状態では26バンド、周波数はメル尺度(音高の知覚的尺度)に基き人間の耳に適した割り当てになっていますが、カスタムで好みのバンド数、周波数に作り変えることもできました。

また、最終段のOUTPUTのAUTOをクリックすると、LIMITERとSPECTRAL CLIPPERでプッシュした音量の分だけレベルが下がる仕様になっていました。これは音質変化の比較のために絶対に必要な機能と思いますが、不思議と実装されていないものが多いので、うれしいポイントです。

トランジェント操作やひずみを加えるSPECTRAL CLIPPERなど、Elevateは現代的な音色を作るツボを押さえたプラグインです。僕もこのレビューのお話が来る前から購入して、既に仕事で使っています!


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サウンド&レコーディング・マガジン 2018年3月号より)

EVENTIDE

Elevate

オープン・プライス(市場予想価格:20,000円前後)
※表示している価格はニュース掲載時点のものです。また税込/税抜についてはメーカーの表示したものに準じて記載しています。

【SPECIFICATIONS】
【REQUIREMENTS】 ▪Mac:Mac OS X 10.7以降 ▪Windows:Windows 7以降 ▪対応フォーマット:AAX/AU/VST

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