「SYM・PROCEED SP-MP2」製品レビュー:固定抵抗にてゲインを選択する日本製の2chマイク・プリアンプ

SYM・PROCEED SP-MP2

REVIEW by 伊藤圭一(Kim Studio) 2016年4月29日

sp-mp2_frontpanel

21世紀になって久しいというのに、レコーディングの世界では、前世紀なかばのビンテージ機材がいまだに使われている現実がある。その理由を愛用者に問うと、“音が良い”“音が太い”“存在感がある”“ミックスしやすい”などと答える。そうした傾向があることもある意味では事実だが、そろそろ懐古主義は止めていいんじゃないだろうか? SYM・PROCEEDの2chマイクプリSP-MP2のレビューは、“音が良い”という言葉の意味をあらためて考えさせられる機会となった。

正確なゲイン調整が可能
チャンネル間の誤差が少なく再現性も高い

まずSP-MP2は、人気の実店舗を持つ企業が開発した点が非常に興味深い。老舗メーカーがビンテージ呪縛(じゅばく)の中で自らレプリカを作るなどしている一方、ユーザーの声を反映した製品となっているからだ。また音質にこだわり、レコーダーにマイクの情報を入力するためのツールとして鮮度の高い状態で伝達することに専念したとのことで、無駄を省き、必要にして十分な機能を装備。ゲイン、ファンタム電源、位相反転、ローカットと、マイクプリの基本を押さえた構成となっている。機材自体の持つ音に委ねたり、EQやコンプで音作りしてから録音するという古くからのスタイルとは真逆の発想で、できるだけ素のまま録り、ミキシングで加工するという、DAWベースのレコーディング・スタイルにマッチした現代的な設計ポリシーと言えるだろう。

まず気に入ったのは、ゲイン・コントローラー。ノブの操作性と視認性は重要だ。単にクリック感があるだけのボリュームではなく、24ポジションのロータリー・スイッチによって固定抵抗を切り替えている。音の良さを追求して、可変抵抗ではなく固定抵抗を選んだのだろう。このロータリー・スイッチによって正確な3dBステップを実現し、高い再現性を実現している。

本機はチャンネルごとの誤差も非常に小さく、あらゆるゲインにおいて0.05dB以下というのは驚異的な値だ。2ch仕様ゆえステレオ・イメージを重視する録音にも有利で、再現性も高いことから、別日にパンチ・インしても完ぺきにゲインがそろうのは、エンジニアにとってたまらない魅力。さらに3dBステップの間のゲイン値も得られるように−1dB/−2dBのスイッチも用意。音へのこだわりはほかのパーツにも現れており、オーディオ界で珍重されている高価なVISHAY製の抵抗が要所に採用されている。

 

低く設定されたローカットの周波数
原音の鮮度/情報量を保持

ところで、ビンテージ・マイクプリは適度にピークが鈍ったりひずんだりすることで色付けがなされ、音が太くなることが魅力だが、逆に透明感のあるリアルな音や空気感/奥行きのある音は得がたく、その両方を実現することは難しい。仮にマイクプリ自体に色付けがあっても、そのサウンドが好きなら、それはその人にとって“良い音”だろうが、この辺りの案配が人によって異なるのが音楽の面白いところだ。クリエイターはレコーディングであえてひずみ感を付加したりコンプでつぶして音楽を作る一方で、リスナーはひずみのない世界を好むという、実に不可思議な現象がある。

ここであらためて考えたいのは、ピュアな音をひずませることは可能だが、その逆は不可能だということ。例えるなら、生の魚は刺身にも焼き魚にも調理できるが、煮魚から焼き魚や刺身には絶対になり得ず、そこからできる料理は限られてしまうのと同じなのだ。もちろんその煮魚が好みの味付けであるなら、そのままでいい。しかし、自由度やバリエーションを求めるなら、新鮮なものの方が絶対に有利だ。

昨今のビンテージ/チューブ系のシミュレーション・プラグインの発展は目覚ましいが、元ソースが十分な情報量を含んだ音でなければ、効果が無いことも分かっている。どうせ汚すのだから元音の質は問わないということではない。後で音作りするなら、なおさら鮮度の高い音で録る必要があるわけだ。SP-MP2においてそうした設計思想が顕著なのは、ローカットの周波数が22Hzと低く、可聴域外の直流成分のみをカットしている点。一般的には100Hz前後が多く、吹かれノイズを除去する際などは確かに便利なのだが、それではノイズ成分とともに声の存在感/空気感まで捨ててしまうことになる。そもそも、ノイズ対策はサスペンンションを使ったり、マイクが吹かれないようにするべきであり、万が一入ってしまった場合は、ミックス時にその部分だけを処理すればいいのだ。

 

マイクのグレードが上がったようなサウンド
情報量が多くエフェクトの乗りも良い

本機は、ピーク・インジケーターもシンプルに一点のみの仕様となっている。何点かのメーターが装備されていれば便利にも思えるが、実際には録音レベルはレコーダーのメーターで監視するため、マイクプリ側では回線が生きていることがつかめればいいわけで、点灯の仕方や明るさで表現するワンポイントで十分なのだ。

SP-MP2はこうした一連の設計思想がそのままサウンドに表れている。とにかく鮮度が高い音で、マイクのグレードが上がった感じがするから不思議だ。極端に言えばダイナミック・マイクからコンデンサー・マイク然とした倍音が聴こえ、コンデンサーでは空気感まで聴こえてくるような感じ。入力インピーダンスが4.4MΩと、ベースのラインを直で入れてもいいくらい極端に高いことも関係しているのかもしれない。

今回はさまざまなソースでテストを行った。あえてSHURE SM57で女性ボーカルを録った際、スタジオにいた一同が録り音に驚き、エンジニアの私が褒められたのだが、私は単にSP-MP2のゲインを上げただけだった。またアコースティック・ギターの録り音も素晴らしかった。トランジェントの高い音や美しい倍音を収録したいとき、大きなゲインを必要とする微細な音を拾いたい場合に、本機は特に有利だろう。音の情報量が多いので後処理のエフェクト乗りが良く、ビンテージ機材のシミュレート系プラグインが映えるから不思議。手持ちのマイクやプラグインの新たな魅力を発見し、何だか得をした気分だ。

ということは、前言を撤回して、太さと繊細さの両立も不可能ではないのかもしれない。録音時に初めからEQ&コンプで音作りしてから録るのではなく、可能な限り鮮度高く録音して、ミックス・ダウンでじっくり音作りしたい人に、SP-MP2はすこぶる向いた選択肢と言える。

最後になったが、本機はパネル・デザインも素晴らしい。斬新かつ大胆で、質感は写真で見る以上に品がある。これまでの概念を覆すような仕上げで、長く何度も触れることを考えると、ここも大事なポイントだろう。

 

▲リア・パネル。左より電源端子、入出力はUnbal.Out(フォーン)、Output(XLR)、Input(XLR)をCh.A/Bの2ch分備える

▲リア・パネル。左より電源端子、入出力はUnbal.Out(フォーン)、Output(XLR)、Input(XLR)をCh.A/Bの2ch分備える

製品サイト:http://www.symproceed.com/preamp/sp-mp2.php

サウンド&レコーディング・マガジン 2016年4月号より)

SYM・PROCEED

SP-MP2

277,778円
※表示している価格はニュース掲載時点のものです。また税込/税抜についてはメーカーの表示したものに準じて記載しています。

【SPECIFICATIONS】
▪周波数特性:5Hz〜40kHz(@21dB Gain +21dBu Balanced Out) ▪全高調波歪率:<0.001%(@21dB Gain +21dBu Balanced Out) ▪最大入出力:+24dBu(バランス) ▪入力インピーダンス:4.4MΩ ▪外形寸法:482.6(W)×44(H)×300(D)mm ▪重量:約4kg

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