MADI仕様の録音環境を作るAD/DAコンバーターとオーディオI/O

SSL Alpha-Link MX 16-4+MadiXtreme 64

REVIEW by 伊藤圭一(Kim Studio) 2012年10月31日

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SSLと言えば、レコーディング・スタジオで最も大きな成功を収めたメーカーの1つだろう。EシリーズやGシリーズ、そしてJシリーズ、近年ではDualityやAWSシリーズと、常に最先端のコンソールで我々を盛り立ててくれた。私がレコーディングの世界に足を踏み入れたころ、エンジニアにとって同社のコンソールを使いこなすことは1つの夢だったし、それを使えること自体がステータスだった。ここで紹介するAlpha-Link MX 16-4は、そんなSSLが新しくリリースしたMADI入出力を備えるAD/DAコンバーター。Mac/Windowsに対応したPCIeカード型MADIオーディオI/OのMadiXtreme 64とともにDAWと組み合わせることで、大規模な録音環境が構築できる。両機は、バンドル製品Alpha-Link MX 16-4+MadiXtreme 64として、実売価格170,000円前後で発売中。こんなに身近な価格帯でSSLサウンドが手に入るのなら、気にならないはずがない。

MADIイン/アウトを1系統装備
カスケード接続で最大64ch伝送可

1UラックのAD/DAコンバーターAlpha-Link MX 16-4(以下、MX 16-4)とハーフ・サイズのPCIeボード型オーディオI/O、MadiXtreme 64を組み合わせたAlpha-Link MX 16-4+MadiXtreme 64。MadiXtreme 64に関しては、PCIeが挿入できるコンピューターさえあればインストール方法は極めてシンプルで、付属CD-Rに収録された専用ドライバーの指示に従ってスムーズに進められる。同梱されている長さ3mのMADIオプティカル・ケーブル2本をMX 16-4の入出力に接続すると、それだけでシステムは完成だ。

MX 16-4は、同社のラージ・フォーマット・コンソールと組み合わせて納品されるAD/DAコンバーター=XLogic Alpha-Link Madi SXおよびAXを基に新しく設計されたそうで、その実力は折り紙付き。8chのアナログ入力が2系統と4chのアナログ出力が1系統装備されており(後述)、その名の通りアナログ16イン/4アウトという仕様だ。シリーズ製品として、アナログ4イン/16アウトのAlpha-Link MX 4-16(以下MX 4-16)もラインナップされており、必要に応じて使い分けたり、組み合わせて使用することができる。

Alpha-Link MXシリーズはアナログ入出力のほか、MADIイン/アウトを1系統備えており、モデルを問わず計4台までMADIのカスケード接続が可能。MX 16-4を4台カスケード接続した場合、最大64chの音声信号を伝送でき、合計16chの出力と合わせてモノラル換算で最大80系統のシステムを構築できる。MADIで扱える最大チャンネル数はサンプリング・レートによって決まる。例えば、44.1kHzではMX 16-4を4台まで接続することができ、最大64イン/16アウトが扱える。96Hzの場合は2台つなげられるので最大32イン/8アウト、192kHzでは1台となっており、16イン/4アウトだ。なお、192kHzへの対応は年内のファームウェアによるバージョン・アップを待つことになる。シリーズ2機種の選択と必要台数については、ハイサンプリング・レートを必要とするかが大きな鍵になるだろう。

レベルに応じ変色する入出力メーター
基準レベルはユーザー設定が可能

ここからはMX 16-4の詳細を見ていこう。まずはフロント・パネルから。曲線を描いた質感の高いアルミでデザインされており、左側には電源スイッチ、中央にはMADIモード(56/64ch)やサンプリング・レート(44.1/48/88.2/96/176.4/192kHz)、クロック・ソース(インターナル/外部ワード・クロック/MADI)の切り替えや基準レベル(+14〜24dBu)を設定するためのスイッチ群が並ぶ(写真①)。右側には、入出力レベルを表示するメーターを配置(写真②)。操作子やディスプレイ類はシンプルだが、最大限の効果を生み出す工夫が盛り込まれている。

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▲写真① Alpha-Link MX 16-4のフロントでは、スイッチで4つのパラメーターを調整できる。”MADI”では、MADIで扱える最大チャンネル数を56/64chから切り替え可能。”RATE”ではサンプリング周波数を44.1/48/88.2/96/176.4/192kHzから選択でき、”CLOCK”ではクロックをインターナル/外部ワード・クロック/MADIから選べる。そして”LEVEL”では基準レベルを設定可能だ

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▲写真② 写真①のスイッチ群の右側には、入出力レベルを表示できるインジケーターが装備されている。チャンネルを表す数字がLEDとなっており、レベルに応じて色が変化する。−75dBFSを超えるとグリーン、−3dBFS以上になるとオレンジ、−0.5dBFSを超えるとレッドになりクリップが近いことを知らせてくれる

例えばレベル・メーター。各チャンネルのメーターにはLEDが1つずつしか搭載されていないが、そのLEDがレベルに応じて3色に切り替わるのだ。レベルが−75dBFSを超えるとLEDはグリーンに点灯し、信号が来ていることを示す。レベルが−3dBFSを超すと、LEDがオレンジに変わりレベルが適正であることを表し、−0.5dBFS以上になるとレッドに切り替わってクリップが近いことを教えてくれる。実際にはDAWのメーターでレベルを監視するので、逆にこれ以上スペースやコストを要するメーターは無駄になるわけだが、MX 16-4だけでおおむねのレベルが分かるため、セットアップ時には非常に便利だ。

基準レベルは+18dBuと+24dBuをボタンでワンタッチ変更できるだけでなく、+14〜24dBuの間でユーザー設定も行えるため、あらゆる現場で重宝するだろう。そのほか、MX 16-4で設定したMADIのチャンネル・モードと受信したMADI信号のチャンネル・モードがミスマッチしているとMADIモードのインジケーターが赤く光る。こうした部分も使いやすく、ミス無く仕事ができた。

続いてリア・パネル。左から先述のアナログ・イン×2やアナログ・アウト(共にD-Sub 25ピン)、そしてユニットIDスイッチやMADIイン/アウト(オプティカル)、USB端子、ワード・クロック・イン/アウト(BNC)が並ぶ。アナログ・イン/アウトについては、1Uのリア・パネルに16イン/4アウト分のXLR端子がズラリと並ぶようなこともなく、D-Sub 25ピンの採用で省スペース化が図られている。また、D-Sub端子は互換性や信頼性が高い上、同じ端子を持つ8chのプリアンプとマルチで接続できるなど、思った以上に便利だ。

ユニットIDスイッチとは、Alpha-Link MXをカスケード接続する際に、1つのMADI信号経路につながれた数台を識別するための機能。2つの小さなスイッチで構成されており、それらのON/OFFの組み合わせで、MADI信号を何番目に送受信するユニットなのか指定できる。特殊パーツは使われておらず、手堅い設計のスイッチだ。

USB端子はファームウェアのアップデート時にのみ使用するもので、MX 16-4単体をオーディオI/Oとして機能させるためのものではない。ワード・クロック・インでは外部のワード・クロックを受けることができ、そのサンプリング・レートに合わせてMX 16-4のサンプリング・レートが±10%の範囲で追従するため、バリピッチも可能となる。

低域の充実感を備えたA/Dの音質
モニターしやすいD/Aのサウンド

さて、いよいよサウンドについてレビューしていく。テスト時に使ったDAWはPRESONUS Studio One Professionalだ。A/DやD/Aの音質は本来色付けがあってはならないので、取り立てて音の特徴を言葉で表すのもはばかられるが、MX 16-4のA/Dは色付けの無いクリーンなサウンドながら、アナログライクな低域の充実感も併せ持っている。ダイナミック・レンジは十分で、業務用機器としてのゆとりが感じられ、使用マイクはもちろん、マイクプリの音質の違いまで味わうことができた。一方、D/Aされた音はスッキリとしており、モニターしやすい。やはり、仕事で使う道具を作ってきたメーカーらしい潔さを感じさせるサウンドだ。レイテンシーはDAWの設定との関係もあるが、演奏中にモニターしていてもさほど気になることはなく、MX 4-16とカスケード接続しても遅延は全く感じられなかった。

ところで、先に述べた通り、MadiXtreme 64とMX 16-4の接続はMADIオプティカル・ケーブルによるもの。従って、MADIの規格上可能な距離までケーブルを引き延ばせることになる。私は兼ねてより”リモート・プリアンプ”あるいは”リモートA/D”を提言してきた。リモート・プリアンプとは、演奏者のマイクのなるべく近くにプリアンプを設置し、マイク・レベルの信号を早い段階でライン・レベルの信号に変換することで、安定した電気信号の引き回しを図るもの。リモートA/Dでは、プリアンプの近くにADコンバーターを設置し、信号をなるべくデジタルで引き回せるようにする。いずれも音質の劣化を食い止めることにつながり、ノイズ対策としても有利なのだ。

Alpha-Link MXに使うMADIオプティカル・ケーブルは電磁気からの干渉を受けないため、A/Dした後、DAWまでの距離を電源ケーブルなどと平行させるように配線しても、クロストークやハム、電位差の心配が無い。また、長距離伝送時にも音質は劣化せず、何と2kmという距離を隔ての伝送も可能だ。さらに、マルチケーブルを使わないことで経費節約にもなり、ケーブルによるトラブルに見舞われる可能性も格段に低くなる。なお、Alpha-Link MXにはクーリング・ファンが搭載されていないため、マイクのそばでA/Dした場合、ファンのノイズがかぶることもない。上記のようなリモート配置に向いた設計と言える。

PCIeスロットを持たないノート・パソコンでの使用にも興味があったので、PCIe拡張シャーシのMAGMA EB1をAPPLE MacBook Proに接続し、Alpha-Link MX 16-4+MadiXtreme 64を試してみた。動作は実に快適。高品位かつ多チャンネルのモバイルDAWシステムが構築できた。Thunderbolt対応のノート・パソコンで使用するのであれば、拡張シャーシとしてMAGM ExpressBox 3TやSONNET Echo-Exp1Hを使うと良さそうだ。さらにモバイル使用を突き詰めるなら、MadiXtreme 64ではなくRME HDSPe MADIfaceとの併用も個人的にお勧めだ。

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▲Alpha-Link MX 16-4のリア・パネルには、左からアナログ・イン×2やアナログ・アウト(共にD-Sub25ピン)、カスケード接続の際に複数台のAlpha-Link MXを識別するために使うUNIT IDスイッチ、MADIイン/アウト(オプティカル)、ファームウェアのアップデート時のみ使用するUSB端子、ワード・クロック・イン/アウト(BNC)、そしてAC電源が並ぶ

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先述の通り、今回はAlpha-Link 16-4+MadiXtreme 64をStudio One Professionalと組み合わせてテストした。MX 16-4のコンパクトさとクーリング・ファン非搭載による静音設計は、Studio One Professionalの軽快な操作性とマッチし、快適な動作を提供してくれた。また、使用するコンピューターがノート型であっても、大規模なDAWシステムを構築できることが実証された。モバイル環境でSSLサウンドを享受できるとは、何と幸せなことか! 今回、幾つかのパターンでテストしたが、モバイル使用は特にお勧めだ。

サウンド&レコーディング・マガジン 2012年10月号より)

SSL

Alpha-Link MX 16-4+MadiXtreme 64

オープン・プライス (市場予想価格/ 170,000円前後)
※表示している価格はニュース掲載時点のものです。また税込/税抜についてはメーカーの表示したものに準じて記載しています。

問い合わせ
エムアイセブンジャパン
TEL: 03-3568-8826 http://www.mi7.co.jp/

【SPECIFICATIONS】
⃝Alpha-Link MX 16-4 ▪入力数/アナログ16ch ▪出力数/アナログ4ch ▪アナログ入出力レベル/+14〜24dBu(基準レベルはユーザーが任意で設定可) ▪AD/DA変換/24ビット固定小数点 ▪サンプリング周波数/44.1/48/88.2/96/176.4/ 192kHz(192kHzには年内のファームウェア・アップデートで対応予定) ▪MADI設定/56/64chモードを切り替え可 ▪外形寸法/482(W)×45(H)×220(D)mm ▪重量/2.8kg ⃝MadiXtreme 64 ▪タイプ/ハーフ・サイズPCIeカード ▪入出力/MADIオプティカル端子×1(56/64chの両モードに対応) ▪最高ビット&レート/24ビット、192kHz ▪ローカット・フィルター/75Hz、−23dB ▪外形寸法/18.5(W)×99(H)×168(D)mm ▪重量/130g(実測値) ⃝MadiXtreme 64 ▪Mac/Mac OS X 10.5以降、INTEL製CPU、Co re Audio対応 ▪Windows/Windows XP(SP2)、Vista(32/64ビット)、7(32/64ビット)、INTELまたはAMD製のC PU、ASIO 2.0/WDM/MME/GSIF 2/D-Wave対応 ▪共通/512MB以上のRAM、PCIeの空きスロット

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