サウンドの幅を広げるV3回路を搭載した真空管マイクプリ・シリーズ新作

ART Tube MP Studio V3

REVIEW by 原口宏(スパーブ) 2002年11月1日

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初代Tube MPはコンパクトで低価格ながらも十分にワイド・レンジで、その真空管ならではのマイルドな音の立ち上がりは特にデジタルMTRとの組み合わせで良い結果が得られた。今回このTube MPシリーズに新たにTube MP OPL、Tube MP Studio V3の2機種が登場。これで従来のTube MP、Tube MP Studioと合わせて計4タイプの豪華なラインナップとなった。ここでは最上位のTube MP Studio V3をチェックしてみよう。

従来の便利な機能はそのままに
TPSで好評のV3回路を搭載

まずは本機の主な特徴を押さえておこう。
●12AX7A真空管を使用
●最大70dBのゲイン
●16種類のプリセットを用意したV3回路搭載
●OPL出力保護リミッターを搭載
●VUメーター搭載
●入出力ともにXLRとフォーン端子を装備
●コンデンサー・マイクも使える+48V電源装備
●位相反転スイッチ装備
●ハイインピーダンス入力でDIとしても使用可
といったところ。今回本機に搭載されセールス・ポイントとなるV3回路は同社の2chラック・タイプのTPSに既に採用されていた機能。フロント・パネルに設けられたロータリー・スイッチで16種類の音色の違うプリセット(ボイシングと呼ぶ)を切り替えられる。このボイシングは大きく4つに分類でき、原音に忠実なニュートラル、真空管色を出したウォーム、さらにそれぞれにOPL(リミッター)を追加したタイプがある。例えばボーカル用だけでもNEUTRAL、WARM、WARM+OPLの3つのモードが選択でき、プリアンプでありながらこれだけの豊富なプリセットが用意されているのは驚きだ。プリセット自体のエディットはできないが、対象楽器が明記してあるのでハード、ソフトの両面でプロのノウハウが丸ごと手に入ることとなる。これは特にアマチュアにとって大歓迎の仕様だろう。

その他ベースやギターのDIとしても使えるハイインピーダンス入力、接続対象を選ばない便利な入出力端子といった機能は従来のMPシリーズと同じ。よって本機はTube MP StudioにV3回路を足したものと思ってもらっていいだろう(シリーズ各機種による機能の違いはwww.electroharmonix.co.jp/を参照)。

ボイシングでかなり変わる音色
EQ無しで多様な楽器に対応可能

さて実際に幾つかの楽器をソースにしてみると、本機のボイシングを切り替えたときの音色変化は筆者の予想以上にかなり大きいものだった。“VALVE”という位置が最もオリジナルTube MPに近い音色で、ハイは少し落ちるが中低域がファットで前に出る音像。これを基準にしてスイッチを切り替えていくとどんどん音色が変わる。特にアコギにピッタリの“A-GTR(NEUTRAL+OPL)”の位置ではカッティング時の高域のシャリーンとした部分が気持ちよく出てきて、しかも無駄な低域もしっかりカットされた。楽器とのマッチングによっては、このボイシング次第で別のプリアンプに感じるほどの変化も得られるだろう。

筆者は取りあえず1つのソースに対してすべてのボイシングを試してみたのだが、アコギのほかにもボーカルには“VOCAL(WARM)”が、ドラムには“FLAT”が好印象という、ほぼプリセット表示通りの結果となった。このように楽器ごとに最適なボイシングが明確に決まってくるのは、プリセットがどれも良くできている証明であろう。Tube MP使用時には“この楽器はいまいち合わないかな”とか“これは後のミックス時にローカットする必要があるな”というケースも多かったのだが、本機では大抵の楽器においてEQなどによる補正の必要性をほとんど感じないレベルにまで音色を追い込めるのがすごい。プリアンプやマイクを別の製品に換えるような作業に匹敵するほどの効果が、ツマミをガチャッとひねるだけで試せるというのは実に楽しいことだ。加えて従来のようにインプット・ゲインを大きめにして真空管ならではのオーバー・ロードを得ることもできるので、音作りの幅はかなり広くなっている。

とはいえ、例えばボーカルの場合では“コンプによるパワー感”といった+αの色付けは本機のOPLでは得られないので、手持ちの機材が必要なくなるというわけにはいかないだろう。また本機の各ボイシングのほとんどが特定の楽器だけに合わせてプリアンプを大幅にカスタマイズしているのと同じことなので、選択を間違って相性の悪いプリセットを使ってしまうと逆に失敗が大きいことには注意しておきたい。

さて豊富にそろったTube MPシリーズのラインナップからどのモデルを選択するかは難しい問題だ。VUメーターとOPLは無くても何とかなる機能だが、V3回路はやはり大きな魅力。よってTube MPシリーズで選ぶなら迷わずV3付きの本機だろう。しかしそうなるともう少し予算を足せばラック・タイプのTPS、DPS(こちらはデジタル・アウト付き)も視野に入ってくる。ちなみに筆者はオリジナルのTube MPを所有しており、これまで予想外の大活躍をしてくれた。ほかにラック・タイプの高価なプリアンプがあるにもかかわらず何かにつけTube MPも使ってしまう理由は、やはりこの小ささなのだ。もちろん接続先を選ばずどんな機種にも柔軟に対応できる入出力系のデザインも大きなファクターだろう。特に自宅録音時など、ちょっと思い付きで録音を始めるときにはこの仕様がホントに便利である。

ART

Tube MP Studio V3

33,000円
※表示している価格はニュース掲載時点のものです。また税込/税抜についてはメーカーの表示したものに準じて記載しています。

【SPECIFICATIONS】

SPECIFICATIONS

■最大入力レベル/+14dBu(XLR)、+22dBu(TRSフォーン)
■最大出力レベル/+28dBu(XLR)、+22dBu(TRSフォーン)
■周波数特性/10Hz〜30kHz(±5dB)
■ダイナミック・レンジ/100dB以上(20Hz〜20kHz)
■全高調波歪率/0.1%以下
■外形寸法/127(H)×140(W)×51(D)mm
■重量/681g

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