ビンテージ・チップSID6581を利用したデジタル・シンセ

ELEKTRON SID Station

REVIEW by H2(Dowser) 2000年4月1日

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SID6581チップと聞いて、”!”と思われる読者は相当なパソコン・マニアでしょう。SID(Sound Interface Device)6581チップとは、1983年にボブ・ヤヌス氏(ENSONIQの設立者)がCOMMODORE 64の内蔵音源用に開発した3ボイスのシンセサイザー・チップです。当時COMMODORE 64のゲーム音などが他社製に比べてとてもユニークなものだった秘密は、SID6581によるものだったのです。そんなSID6581が、16年の歳月を経てスウェーデンのELEkTRON社の手により再び現役復帰したのが本機SID Station。ちょっとクセ者のようですよ、これは。

ウェーブ・テーブルを利用して
凝ったフレーズを作成可能

現役復帰とは言え、SID Stationは単にSID6581を小箱に納めただけというわけではないようです。COMMODORE 64時代はパソコンの中のたくさんのチップの中の1つに過ぎなかったわけで、6581の持つパワーをフルに発揮できていたとは言えなかったのですが、今回のSID Stationではそういった制約から解放され、今の音楽制作シーンにマッチするようなOS設計になっています。

まず本機の発音方法は、3ボイスのポリフォニック・モードと、Minimoogのような3オシレーターのモノフォニック・モードの2つ。3つのオシレーターには三角波、ノコギリ波、矩形波、ノイズ、そして三角波と矩形波を組み合わせてヘンテコな形にする”Mixed”という波形が用意されており、ノイズはデジタルっぽい音質ですが、他の4つは現在でも立派に通用する出来です。

また、オシレーター部ではパルス・ウィズ・モジュレーション、オシレーター・シンク、リング・モジュレーションが可能で、さらには32ステップのウェーブ・テーブル(自分で作る!)まであるのですからマニアも納得でしょう。私のお気に入りは、細かいスウィープ幅が多彩なスピードでコントロールできるパルス・ウィズ・モジュレーション、そしてウェーブ・テーブルです。

本機のウェーブ・テーブルは1から32の箱まで用意でき(3箱だけとかでもOK)、それぞれの箱に波形を入れてスキャニングする理屈なのですが、すごいのはその波形にオシレーター・シンクやリング・モジュレーション、そしてピッチを設定できること。例えば「ある箱から箱までが歪んだ波形で、それ以降はストレート」とか「1つの波形の一部に変な倍音構成の部分がある」という波形が作成できるわけです。こうしてフレーズを少しずつ作成していく(MIDIクロックでもスピードを制御可能)過程は、アナログ・シーケンサーのプログラミングのようでとても楽しい作業であります。本機ではこのテーブルを3つ同時に使えるのもウリで、細やかに自分で波形を作成したい超凝り性のマニアは要注目の部分でしょう。

そのほかにも機能は充実しています。ADSRポイントを持つエンベロープ・ジェネレーターは、アンプとフィルターに使うことが可能。マルチモードのフィルターは12dB/octですが、ローパス、ハイパス、バンドパス、ノッチ、それらの組み合わせから選択可能です。1983年当時のデジタル・シンセやサンプラーに搭載されていたフィルターをご存じの方なら、いかにSID6581のフィルターが先を行っていたかに驚くはずです。

また、4つのLFOは6波形を持ち、MIDIクロックにも同期可能なばかりか、今では当たり前のLFO自体のモジュレーション(波形自体に変調をかけたり、LFO同士の掛け合わせなど)も可能。さらに、アルペジエーターや外部オーディオ入力、ポルタメントも当然のように装備されています。なお、音色は100パッチまで記憶可能です。

デジタルとアナログの同居した
1983年当時の音を完璧に再現

さて、本機でこれらの機能を制御するのは、16文字2行のLCDと、任意のパラメーターが定義可能でリアル・タイムのコントロールも行なえる4つのつまみ、そしてテン・キーのみ。テン・キーでは1つのキーに複数の機能を持たせているので最初は煩雑に思うかもしれませんが、ショート・カットもあって、慣れればなかなか素早いオペレーションができます。

最後に音色に関して。本機はデジタルの硬質感とアナログのあいまいさがうまく同居できており、特に有機的な感じのメタリック音や、効果音などに威力を発揮してくれそうです。「どれだけ当時(1983年)のサウンドを再現できているか」という点では完璧だと言えるでしょう。ただし問題点もあって、音色によっては非常にS/Nの悪さが目立ちますし、DCオフセットとおぼしきブツブツ音や、パッチ・チェンジ時の切替音なども気になります。また、単体ハードウェアでありながらレイテンシーの問題も存在しています。

しかし、本機はその辺りも含めて、あえて当時の”オリジナル”にこだわっているわけです。これは「オリジナルの状態で提供しますので、後はみなさんの好きにしてください」と解釈するべきででしょう。なんせ、あのSID6581が復活するわけですから、購入する人は愛を持って接してあげたいところです。昔から言うじゃないですか、「出来の悪い子ほどかわいい」って。

ELEKTRON

SID Station

99,800円
※表示している価格はニュース掲載時点のものです。また税込/税抜についてはメーカーの表示したものに準じて記載しています。

【SPECIFICATIONS】

SPECIFICATIONS

■同時発音数/最大3
■マルチティンバー数/1
■パッチ数/100パッチ
■接続端子/AUDIO OUT、EXT IN、MIDI IN/OUT/THRU
■外形寸法/240(W)×70(H)×200(D)mm
■重量/1.2kg

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