24ビットに対応したDAシリーズの最新型デジタルMTR

TASCAM DA-78HR

REVIEW by 南雲和晴(HYPER SONIC) 2000年2月1日

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プロの現場で鍛え上げられたTASCAM DTRSレコーダー・シリーズ最新作のDA-78HR。今度は”DTRS-HR”として24ビット・フォーマットを採用して登場した。カタログを参照すると、非常に多機能でかつリーズナブルな価格設定。本当にこれで良いのだろうかと考えてしまうくらいである。DTRS自体基本性能が高く、また信頼性も高いシステムなだけに、この新機種への期待度は半端じゃない。それに最近デジタル・オーディオの世界では何かとハイ・ビットだのハイ・サンプリングだとか言われているが、それに呼応するように登場しているわけだ。さて一体どんな仕掛けがしてあるのかが非常に楽しみである。

デジタル/アナログ/同期系など
豊富な入出力端子を装備

パッと見た目はDA-38Bと同じかな?と思わせるようなフロント・フェイス。違うのはパネルの色とボタンの数だけである。実際、サイズに関してはDA-38と同じ3Uのコンパクトな作りになっており、DA-38をベースにしてコスト削減を行ない、価格に反映させているのだろう。

また型番に”HR”が付くということで、テープ走行系も従来機からの変更があると思っていたが、メーカーによればHRフォーマットはテープに書き込む信号の変調方式を変えることによって対応しているため、テープ走行系のメカニズムは変えずに済んだそうである。ということは、収録時間も従来通りだ。TASCAMのレコーダーは、昔からテープ速度を倍速にして高音質を実現させていたパターンが多かったので、これは結構意外であった。実際、DA-45HRはHRモード時、テープ速度が倍になっているし、同社で発売されていた過去のカセット8trMTR等も同様である。いずれにしても、最大108分(8tr/24ビット/48kHz)収録可能というのは相変わらずうれしいところだ。

入出力系は、基本的にDA-88Ver.4+SY-88相当と考えて間違いない。まずアナログ・セクションが+4dBuのバランス(D-Sub25ピン)と−10dBVのアンバランス(RCAピン)の2系統あり、AD/DAは24ビット、128倍オーバー・サンプリングΔΣ方式のコンバーターを使用している。またデジタル・セクションは、おなじみのTDIF-1(D-Sub25ピン)とS/P DIF(RCAピン)の2系統を装備。これらの入出力で、プライベート・スタジオからプロの現場まで多種多様にわたりフォローできるのはうれしいことである。

その他の入出力を列挙すると、デジタル・ドメインのシステムを組む場合に不可欠なワード・シンク端子(BNC入出力+スルー)、同期に欠かせないタイム・コード端子(RCAピン入出力)&MMC用のMIDI端子(5ピンDIN入出力+スルー、当然ながらMTCの出力もサポート)、パンチ・イン/アウト用のフォーン端子、複数のDTRSを同期させたり専用ロケーターを接続するSYNC端子(DB15入出力)、簡易リモコン接続用端子と、これ以上あと何が必要?ってくらい充実した各入出力系である。

なお、デジタルの入出力は、TDIF-1/S/P DIF共に24ビットで入出力が可能。もともとTDIF-1は24ビット信号を送受信できる規格なので、YAMAHA 02R(インターフェースCD8-TD2を付け、さらに設定が必要)や、TASCAM TM-Dシリーズも24ビットで使用することが可能、つまり24ビット・デジタル信号のままコンソールに立ち上げることができるのだ。

ただし、S/P DIFの方は若干気を付けなければいけないこともある。基本的にS/P DIFはコンシューマー規格なので、DATやその他のデジタル・レコーダーに接続する場合、ビットの丸め込みがDA-78HR本体ではできず、24ビットのデジタル・データがそのまま送信されてしまう。すなわち、受信する側のデジタル・レコーダーがデジタル入力に対してビット操作が不可能なタイプだと、8ビットが切り捨てられた信号で記録されてしまうということである。これはソースにも依存するが、レベルが低いソースが連続して入力された場合に、聴感上荒っぽく聴こえる可能性が大きいということを付け加えておきたい。その場合には、せっかく24ビットDAコンバーターも装備されているので、アナログ経由でオペレーションをすることも頭に入れておくといいだろう。

本体のみでステレオ・ミックスできる
セルフ・ミックス・ダウン機能

操作系は他のDTRSシリーズと同様、非常に”テープ・レコーダー”している。まず録音する前に、1度テープのフォーマット作業をしなければならないのは他のDTRSレコーダーと同じであるが、フォーマット作業自体は簡単な操作なので、あまり難しく考えることはない。それが終われば、通常のMTRの感覚で操作できるので安心して作業が進められる。

パンチ・イン/アウトも非常に簡単で、録りたいトラックの[REC FUNCTION]をONにし、再生中録りたいところで[REC]ボタンを、録音が終わったら[PLAY]ボタンを押す。これだけでOKである。当然オート・パンチ・インやリハーサル機能など従来機の機能も継承されている。

ちなみに、パンチ・イン/アウト時のクロスフェード・タイムは、10msecから200msecまで変えることが可能。デフォルトでは10msecに設定されているが、そのままだと結構シビアなパンチ・イン・アウトのタイミングが要求されるので、20〜30msecくらいの設定が適当だ。後はいろいろとチャレンジして、自分にとってどれくらいのクロスフェード・タイムが良いか実際に耳で確かめるのがいいだろう。

搭載されている機能の中で、特に便利と思ったのがセルフ・ミックス・ダウン機能である。本体のみで8トラックからラフ・ミックスが作れるという誠に便利な機能だ。レコーディング・スタジオなど機材のそろった場所ではあまり意味がないかもしれないが、リハーサル・スタジオやモバイル・レコーディング時に威力を発揮するだろう。

この機能を使って、例えばリハーサル・スタジオに持ち込んで(本体の重量も思ったより軽いのだ)レコーディングし、終わったらすぐに本体だけでラフ・ミックスを作って、アナログ出力からカセットやMDに落とせるし、同時にS/P DIFからもミックスされた信号が出力されるので、DAT等のデジタル系にも落とすことができる。そのほかにも、打ち込み系のライブなどではあらかじめDA-78HRで2ミックスを作っておき、MTCをシーケンサーに送ることで、現場でクリックを出しながら再生することなども可能だ。

簡単に信号ルーティングが可能な
デジタル・パッチ・ベイ機能

また、筆者が使っているDA-88 Ver.4には装備されていないデジタル・パッチ・ベイ機能も便利。これは入力部の各チャンネルとトラック出力を、好きなトラックの入力ソースとしてアサインできる機能である。この機能を用いることで、複数のテイクの良い個所のみを抜き出して、1つのトラックにまとめるといった作業が簡単にできるわけだ。プロのスタジオでは日常よくある作業であり、一般的にアナログのボーカル・セレクター等を使うのがポピュラーであるが、それがデジタル・レベルで可能になるという点では便利だ。

さらにこの機能は、結線を変えずにやり取りするトラックのアサインを入れ替えることができる。これが入出力共に可能というのは、便利な世の中になったもんだと思わずにいられない限りだ。ただし素材をまとめるときは、パンチ・イン/アウトをしまくらなくてはならないのは仕方がないことだが……。まあこれで鍛えると、神業パンチ・イン/アウト職人になれるかもしれない。その際にはぜひ、パンチ・イン/アウト用にオプションのペダル(RC-30P/3,000円)か簡易リモコン(RC-808/35,000円)の購入をお薦めする。

ほかには、あまり表には出てきにくい機能だが、オシレーターを内蔵しているので、リファレンス・レベルを出すことも可能である。通常オシレーターと言えば1kHzが多いと思われるが、DA-78HRは1kHz以外にも440Hzの信号も出すことができるので、いろいろと便利に使えるだろう。

DTRSならではの素早い動作で
外部機器との同期を実現

さて、実際の現場で最も必要とされる機能、それは同期ではないだろうか。もともと他社のデジタルMTRに比べて、DTRSレコーダーはロケート速度や複数台で動作させた場合、タイム・コードに追従させる場合のロック・アップが速く、機敏に動くというイメージが強い。だからこそスタジオに広く採用されているわけである。

もちろん、DA-78HRにもレコーディングの現場で必要とされる同期関連の機能が網羅されている。まずタイム・コードは通常の音声系、MTC系いずれも大丈夫。同期マスターが他のMTRであろうとシーケンサーであろうと、何ら問題ないわけだ。実際にタイム・コードを入力して追従性のチェックもしたが、非常に素早い動作で確実にロックしていくし、DA-88 Ver.4と専用のシンク・ケーブル(PW-88S/12,000円)接続でABS同期をかけても問題なく動作した。非常に安心して使えるという印象が強いレコーダーである。

また本機の特徴として、必要な分だけ台数を増やす場合、非常に簡単に実現できることが挙げられる。これはDTRSシリーズに共通して言えることだが、単にシンク・ケーブルで数珠つなぎすればいいのだ。最大接続数は16台まで可能で、トラック数は最大128トラックという途方もないシステムを構築することができる。実際にそこまでのシステムを組むというのはまずないと思うが、DTRSはそういう意味ではトラック・オン・デマンドであると考えられる。

なおその際、本機を従来のDA-38、DA-88、DA-98と混在させても使用できることを付け加えておこう。当然のことながらその場合サンプリング周波数は同じでなければならないし、HRモードで作成されたテープは在来機種に入れても録音/再生できないので注意してほしい。

周辺機器に関しては、従来の周辺機器がそのまま使用できるので投資が無駄にならずに済む。しかし、DTRS用のフル・ファンクション・ロケーター(RC-898/350,000円)を使用する場合、DA-78HR固有の機能コントロールに関しては一部できないところもある(24ビット機能に関するところや、ミックス・ダウン機能)。ただ、実際に問題になることはほとんどないだろう。

機能・価格・操作性のバランスが良く
プライベート・スタジオに最適

最後に、本機を実際に使ってみた感想を述べてみよう。まずDA-88を使い慣れている私としては、いろいろと機能の設定に戸惑うことが多かった。基本動作以外、DA-88とはほとんど操作が異なる(メニュー階層などが違う)からだ。特にメニュー表示が、7セグメントのLEDによってアルファベットが表記されるシステムなので、慣れないと何だか分からないということが十分あり得る。しかしこれは取扱説明書を片手にしばらく操作していれば、体が自然にメニュー階層を覚えてくるだろう。ただし機能設定すべてがメニューを呼び出していく方式を採用しているため、しばらく根性据えてがんばっていただきたい。

逆に、使ってみて便利だと思った機能の1つが、DA-78HR内部の設定データをテープに保存できること。各テープによって、いろいろセッティングを変えたいときなどに威力を発揮するだろう。

なお、サウンドの傾向についても触れたかったのだが、実は今回レポートを書くに当たってお借りしたマシンが、製品版前のバージョンであったため各所で最終調整がなされておらず、残念ながらサウンド・チェックができなかったことをお知らせしなければならない。現在までTASCAMから発売されてきたDTRSシリーズの血統を受けついでいるこのDA-78HR、本当の力を早く聴いてみたいというのが私の本音である。

DA-78HRは、従来機の良い点をしっかり継承しつつ、機能、価格、使いやすさのバランスが優れている製品である。つまり、アマチュアからプロまでが使えるデジタルMTRであり、これから幅広く普及していくことは間違いないだろう。特にプライベート・スタジオ・クラスには十分お釣りが来るほど価値がある製品だと思う。ビデオ関連との同期に関しては、外部にAardSyncII等のビデオ対応のシンク・ジェネレーターを用意しなければならないが、音楽制作中心に考えればプライス・パフォーマンスは抜群だ。今後デジタルMTRを購入する際には検討するに値する製品である。当然私も悩んでいるわけである(笑)。

TASCAM

DA-78HR

368,000円
※表示している価格はニュース掲載時点のものです。また税込/税抜についてはメーカーの表示したものに準じて記載しています。

【SPECIFICATIONS】

SPECIFICATIONS

■記録フォーマット/DTRS、DTRS-HR
■使用テープ/Hi-8 ME、Hi-8 MP
■チャンネル数/8(オーディオ)+ 1(サブコード)
■周波数特性/20Hz〜20kHz± 0.5dB
■ダイナミック・レンジ/105dB以上(1kHz、入力レベル:Full scale-60dB )
■SN比/105dB以上
■全高調波歪率/0.004%以下(1kHz、Full scale)
■量子化ビット数/24ビット、16ビット
■サンプリング周波数/48kHz、44.1kHz
■AD/DA/24ビット・128倍オーバー・サンプリングΔΣ方式
■サブコード/ABSタイム、SMPTEタイム・コード記録
■テープ速度/15.955mm/sec
■記録相対速度/4.2m/sec
■録音時間/108分(NTSC120分テープ使用時)
■SYNC CLOCK/INTERNAL、WORD IN、COAXIAL
■調相精度/1サンプル未満
■調相時ロック時間/8sec以内(DA-78HR2台におけるロケート後の立上り時)
■トラック・ディレイ/−200〜7,200サンプル (1サンプル単位)および−4〜+150msec(1msec単位)、サンプル/msec単位の切替可
■ピッチ・コントロール/±6% (0.1%単位)
■デジタルI/O/D-Sub25ピン(8ch、TDIF-1)、コアキシャル(2ch、S/P DIF)
■アナログI/O/D-Sub25ピン(8ch、バランス)、RCAピン(8ch、アンバランス)
■その他接続端子/タイム・コードIN/OUT(RCAピン)、ワード・シンクIN/OUT/THRU(BNC、75Ω)、リモートIN(RC-808)、リモート/シンクIN(D-Sub15ピン、RC-828・RC-898・PW-88S)、シンクOUT(D-Sub15ピン、PW-88S)、リモート・パンチIN/OUT(6φmmフォーン)、MIDI IN/OUT/THRU(DIN)
■外形寸法/482(W)×132(H)×350(D)mm
■重量/7.5kg

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